【ロングインタビュー】祝・サブスク解禁&ニューシングルリリース! 畑 亜貴が世界の終わりの先に描いた、「蜿蜒 on and on and」の世界に迫る――。

アーティスト・作詞家の畑 亜貴が、自身の誕生日である2021年8月13日に突如として、ランティスでリリースされた楽曲のサブスクリプションサービスを開始するとともに、ニューシングル「蜿蜒 on and on and」を配信リリースした。ここ数年、自身のマテリアルを再構築する活動を経て、満を辞してのサブスク解禁である一方で、「蜿蜒 on and on and」「砂海パラソル」という2曲は、その過去にはいない、今の自分自身を素直に映し出した楽曲となっている。そこに至るまでの葛藤、そして自分自身を見つめ直すという苦悩を経て生まれた楽曲は、この壊れた世界で何を突きつけたのか。アーティスト・畑 亜貴の生き様に迫るロングインタビュー。

畑 亜貴がやり残したこと

――畑さんが誕生日を迎える8月13日に、ニューシングル「蜿蜒 on and on and」を配信リリースするとともに、ランティスで過去にリリースした楽曲がサブスクリプションサービスにてストリーミング配信されました。

畑 亜貴 やっと時勢に乗れました(笑)。ずっと言いたかったの!「サブスク解禁!」って(笑)。

――(笑)今回はそのお話の前に、ここ最近の畑さんの動向についてお伺いします。近年は過去楽曲の再録を含むシリーズ『懐古庭園』のリリースや、その楽曲のMVを発表するなど、デジタル方面での活動も活発化しています。こういった活動についてご自身ではどう捉えていますか?

 自分の中で、色々やり残しはないかな……と考えていて。やり残しというか、「これ気にかかっていたよな」みたいな。今って過去の作品、特にゲームに提供した作品というのはなかなか入手しづらい状況にあるじゃないですか。改めてCDでリリースされるわけでもなく、もはやCDで聴く人も多くない。かといって、「あの懐かしい曲あったよな」って探して聴くのがYouTubeで違法アップロードされたものというのも、それはそれでどうなんだろうというのがあって。

――なるほど。

 きちんと正規のサービスとして聴けるものがないとなったときに、自分でやるべきなんじゃないかなと思い立って。それが私のやり残したことというか、やっておいたほうがいいことなのかもと思ったんです。私が動いたことによって、もしかすると「そっか、そうやって公開していけばいいのか!」と、ほかにも過去のゲーム楽曲が表に出てくるかもしれない。そうすればサービス自体も広がっていくんじゃないかなと。小さなことかもしれないけれど、自分にできることをやってみようと思ったんですよね。

――『懐古庭園』に収録されている1990~2000年代初期の音源は特に入手しづらいですからね。

 私も音楽ファンとして昔の音源でどうしても手に入らないものがあったりするので。

――そういった動きを進める一方、新規でMVを作るというのもコンスタントに続けていますよね。

 やっぱり昔の曲を出すからには、楽しいこと、意外なことを盛り込みたいなと思っていて。それでいうと、今はどうしても音楽と映像って切り離せないじゃないですか。ただ、当時の映像を借りるのは権利的に難しくて、となると「自分でやっちゃう?」って。「自らが出演するのは映像としてどうなのか」という問いは自分の中にはありつつ、でも、こういうことを考えて、自分の力で頑張ってやっていくんだ、という姿勢を見せるのも悪くはないのかもしれないなと思ったんですよね。

――映像のクオリティも含めて、畑さんがそうした活動にアクティブなんだなと感じました。

 老骨に鞭打って(笑)。当時のリスナーの方も歳を重ねているから、「あ、畑 亜貴まだ頑張っていたんだ」と励みになればいいかなって。

――そうした過去のマテリアルを多角的に再構築していくことが、畑さんの歴史を改めて伺うこととなり、またそれが今回のサブスク解禁にも繋がっているように感じますね。

 需要は少ないのかもしれないけど、一人でも「心から聴きたかった」と喜んでくれる人がいるのであれば、それはこういったアクションをした意味があったなと思えますよね。あとは曲に対してやり残したというのもあって。当時の予算や色々な意味で制限があったなかで、そのときはそのときのベストを尽くしたつもりだけど、当時の録音でやり残したことあったよなとか、もっとこういうことができたのになっていうアイデアを、今なら実現できるなと。それでリアレンジもしようと思ったんです。

――畑さんのアーリーイヤーズといった歴史を知るいい機会にもなったと思います。

 「こんなものがあったのか」っていう驚きをもってもらえるといいですね。やっぱり曲ってその時代の空気感や当時のトレンドなど色々な要素をもっているので、聴いてみて「そうだよね、これは2000年台だよね!これは1990年代だよね!」って、自分でも思ったりするので。

――たしかに当時のトレンド感や、ゲーム性としてもこういうものだったと伺い知ることができますよね。

 当時のゲームの主題歌という流れが蘇るというか。「あった!こういうのあったよね!」っていう。

「毀レ世カイ終ワレ」のあとに見出した、“蜿蜒と”続く世界

――そこからこの度のサブスク解禁へと繋がっていくわけですが……。

 嬉しい!(笑)。皆さんが次々と「サブスク解禁です!」って発表するのを見て、「いいないいな」って。「私も早く解禁されたい!」って(笑)。

――解禁されたい(笑)。改めて畑さんの歴史を知るいい機会になりますね。

 そうですね。

――そしてアーティスト・畑 亜貴のニューシングル「蜿蜒 on and on and」もサブスク解禁と同時に配信リリースされます。このタイミングで新曲を発表しようと思った意図とは?

 過去の自分に合わせて「今の私」を聴いてもらおうかなと。「蜿蜒 on and on and」はまさに私が今一番聴きたい曲であり、皆さんに一番聴いてほしい曲でもあります。今の私が詰まっている曲ですね。

――この曲、今の時代にこの世界で生きていくことの意味を痛烈に突きつけた歌詞世界が広がっていました。今回のテーマにはどのように辿り着いたのですか?

 TVアニメ『ビッグオーダー』のED主題歌「毀レ世カイ終ワレ」を作ったときに、“世界の終わり”という自分のテーマを出しきった気になってしまったんですね。“世界の終わり”“世界よ終われ”というテーマで最高の楽曲が作れたと思ったので、そのあと同じテーマで書いたとしても、それはただの自己模倣になってしまうと思って。

――同じテーマで新たな曲は作りたくないと。

 そうですね、それは全然創造的じゃないなって。なので新しいテーマで描こうと思ったときに、「新しいテーマってなんだろう……?」となってしまって。今まであれだけ世界の終わりと死について追いかけ続けたので、それを手放したときに自分がリセットされたというか、「あれ?今の私っていったいなんなんだろう?」って。自分の中に答えがあるはずなのにわからなくなってしまって。そしてしばらくそれを探す旅に出かけたんです、自分の心を探る旅というか。

――新たなテーマが見つからない時期が続いたんですね。

 そのときはもう、虚無でしたね。「あ……なくなっちゃった。やりきちゃった。あれ?次はどうしたらいいの?」って。一瞬、「もしかして、ピリオド?」って思っちゃって、「あ、まずいまずい」って。

――それくらいの虚無感を抱えていたんですね。

 作家の仕事をしているときは脳が切り替わっているので虚無を感じることはないんですけど、仕事に没頭して納品し終えたら、ふと「私って……?」「私がこの先表現していく音楽って……?」みたいになってしまって。

――「毀レ世カイ終ワレ」が2016年の作品と考えると、かなり長い間そういう状態にあったんですね。

 そうなんです、長かったですね。

――僕もその間に畑さんへのインタビューやイベントの司会などさせていただきましたが、そのときも……。

 考えていましたね。だから過去の曲のセルフカバーをしていたときも、そこで確認できたというか。「あ、過去の中に今の自分はないな」って。「ああ、この世界は自分が作った世界だけど、もう戻れないな」というのがはっきりわかったので、それを確認する旅でもあったと思うんですよね。

――『懐古庭園』を作るのは、それを再確認することでもあった。

 そこに自分の居場所はないというか、「自分はいない、じゃあどこなんだろうな、自分は」と、掴んだのがこの2曲です。

――タイトルにある通り“蜿蜒(延々)と”と“on and on and(何度でも)”と繰り返すというテーマに至ったと。

 延々とやるしかないんだなって。自分で作って歌うことは自分の生き様なんだなって。「それなんだ、それなんだよ私は!」と思って、自分の魂を包み隠さず曲にしました。

――さらけ出すという意味では、“時間は買えない そうさ夢も買えない”という切実なメッセージが突きつけられます。

 歌詞の冒頭で“安心はないんだね”というフレーズがあるのですが、これをやったから満足だというのはないじゃないですか。同じことをやっていれば安心なわけではないし、精神的にも経済的にもこれをやっていれば安心という時代でもない。何も考えないでボーッと生きているっていうのは、もはやそれは自分のなかでは生きていないということだなって。

――その果てにある終わりであり、死というものを同時に描いているというか。

 最後のゴールは誰しも一緒じゃないですか。灰になる。だからそれまで抗いたいというか。

――“死”もある意味ドライに描写していますよね。死んでも星になんてならないという。

 そうそう、星になんてならない。死んで輝こうって思うなよ、今なんだよ!って。だいたいね、今抗わないで死んで輝こうなんて図々しいじゃないですか、ずいぶんと(笑)。

――死後評価されるなんて図々しい(笑)。

 ムシのいい話だなーって(笑)。自力でピカッと生きたいものだなって思うんですよ。

――死して輝くことはない、だから今を延々と生きていくしかないんだ、と……今の我々には痛烈に迫るものがあります。

 ピリオドなんて打たせてもらえないなって。生きなきゃいけない、とにかく生きなきゃいけない。

――延々と生きていくことを繰り返すしかないという、ある種非常に現実的でもあるこのメッセージは、今の時代だからこそより響くものがありますね。

 そうですね、世界が壊れてしまいましたから……。今ってもう、“世界の終わり”というフィクションの中で遊ぶことができないんですよね。「毀レ世カイ終ワレ」で、自分で描ききったというのもあるんですけど、今このリアルな世界を見ていたら、想像して世界の終わりを遊べないというか。

――今はその終わった世界で抗うしかないという。

 それしかないのかなって。

――そうした世界観のなかで、加藤達也さんのアレンジも実に冴えわたっていますね。

 かっこいいんですよね。「こういう感じで」っていう希望を伝えたら、その希望をさらに広げたアレンジで応えてくださるので。やっぱり加藤さんも色んな経験を積んで、常に進化し続けているというか、「今回はこういう世界を描いてくれたんだ!」という喜びがありましたね。

――畑さんのボーカルとともにサウンドも生の躍動を感じられます。

 そう、アグレッシブな感じがしますよね。加藤さんの素敵に輝く劇伴のメロディとはまた違った魅力の、心に迫ってくる感じのサウンドがかっこいいなって。

――このアレンジだからこそ畑さんのテーマもより活きていく感じがします。

 そうなんですよ。録音の前に自分のオケで練習していたときはもう少しリズムが後ろで聞こえていたんですけど、編曲でドラムとベースが出てきたので、歌い方を修正しなきゃダメだってなって。なのでボーカルもリズムに合わせて攻めるような方向に変えていきました。

――畑さんにとっての新たな宣言であり、それがまた誕生日に聴かれるというのも面白いですね。「おめでとう」というテイストではないですが(笑)。

 たしかに(笑)。でもある種の決意表明というか、「やらなきゃ!」というメッセージを込めています。「安心とかないから!」って。だって、過去の自分はあくまで過去なので、今の自分が何をしているかしかないじゃないですか。

――とにかくこの世の中では今とこの先を見据えていくしかないというか。

 「あれができなくなった」って考えても仕方がないかなって。過去は過去、今は今。できることをしようっていう。

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