――そしてもう1曲、「砂海パラソル」は、同様のテーマを西岡正通さんの空間的なサウンドとともにたっぷり間を使って歌われていますね。
畑 「蜿蜒」が昼なら「砂海パラソル」は夜かなと。「蜿蜒」で「いくぜー!」となったあと、夜に膝を抱えて「……なんで生きているんだろうね」って(笑)。「はあ……心痛いわー」って。
――それが冒頭の“痛み”というフレーズに至るんですね。生きていくことは痛みを伴う。
畑 この2曲は対になっていると思います。「安心はない」ということは「心が痛む」ということで、「心が痛む」ということは「生きている」ということ。これは、自分が自分として生きている限りはなくならない、灰になるまでなくならないことだと思います。
――“なぜ生きるのか”という大きな疑問を持ちながらも生きなくてはならないというのは「蜿蜒」に通じるテーマでもありますね。
畑 わからなくても生きていかなきゃいけないし、最後は灰になるんだから、それは物理的なゴールなんだからさって。それに志半ばで倒れることも大いにあるぞと。
――だからこそ、痛みを抱えながらも生きていくんだと。
畑 誰もパラソルなんかかけてくれないから。
――改めて畑さんが描きたいものがしっかりと描けた2曲ということですね。
畑 はい、とにかく今自分が聴きたい、自分が作りたい曲です。「もし気に入ってくれなくてもそれはそれだよね、だって私だし」と思える2曲ですね。
――自分に正直な言葉を引き出す作業というのは、決して楽な作業ではなかったのでは?
畑 それが苦しかったですね。作家としての歌詞だったら美しいところに落としたいなとか、最後には希望を持たせたいなというところにいくんだけど、今回は書きながら「それを本当に思っている?心から思っている?」と自分に聞きながら、「あ、ごめん。これちょっとかっこつけた、無し無し!」って……その繰り返しでした。だから歌詞は10回くらい書き直して、「かっこつけるのはやめなよって、美しくまとめようとするのは」って自分に怒られながら作りました。
――自分自身に正直でいるのも大変な作業ですが、それをするしかなかった。
畑 もはや純度の高さを誇ることしかないのでは?って。
――いやいやいや(笑)。でも純度を求めることは1つの課題であったわけですね。
畑 そこを追求しないと、私は心から生きている気がしないんです。今自分がやりたいことって純度の高いものを出す、嘘偽りないものを出すということであって、それができないなら生きていてもしかたないって思ってしまったんです。
――なるほど……。
畑 それは作家の喜びとは別で。作家の喜びって、作品の世界を広げる、アーティストの世界を広げるという喜びであって、そこで自分で表現しようとはしていないんですよね。世界を想像するスタッフの一人として参加するということでの喜びであって、自分の人生と向き合うのはまったく別じゃないですか。
――たしかに。
畑 それこそ仕事が何もかもなくなったときに、何を拠りどころにして生きていくのか?という問題でもあって。すべての仕事を手放したとき、「じゃああなたは何者なの?仕事がすべてなくなったから音楽を作らない人なの?」って。そうじゃない、仕事がなくても音楽を作りたい……「じゃあどんな音楽を作るの?」って。
――自分との対話。
畑 はい、そうなったときにできることって、自分が本当に思ったことを出すしかない、そこでかっこつけてどうするの?って。そのかっこつけた歌詞を書いて自分を表現するつもりなの?って。「自分のツッコミ厳しい!」みたいな(笑)。自分だけあって、自分に厳しいんですよね。「この先あなたどうやっては生きていくつもりなの?自分の言葉がないのに」って言われて「痛い!」って。その自己問答をやったときに、私は本当に生きているなと思えたし、今も生きていると感じられたんですよね。
――そうした対話の末に、今回のシングルの自分自身に辿り着いたわけですね。
畑 自分を取り戻した感がありますね。「私はこれを本当に望んでいるんだな、そしてこういうことをやりたくて生きているんだな」って。それはずっともっていたはずなのに、色んなことがあって埋もれていたんだなって。根本にある精神は変わっていないんだけど、時代時代を一生懸命泳いでいて、そっちに気を取られていたというか。テーマが1つ終わったとしても、次のテーマを描きたいと思うのが自分なんだなって。
――改めて今回のシングルでそれを実感できた。しかし生まれたテーマが”延々と続く”という……。
畑 そうですね、「安心はないんだね」って。見つけたと思ったんだけど、でも今はもうすでに「それは過去の自分が見つけたものであって、今の自分が見つけたわけじゃないからな!」って(笑)。安心するなよと。
――これもまたすでに過去である。でも、そうした即時性があり今の時代に聴かれるべきテーマが、配信というデジタルの時代の手法でリリースされ多くのリスナーに聴かれるというのも面白いですね。
畑 本当になんでもありでリスナーと直結の時代がきたんですよね。音楽って無限にあるし、色んなものをみんなが自由に作っているから、「こんなのもあるんだよ、こういうことを考えて生きている人間もいるんだよ」っていうのが伝わるんだろうなという気がしています。
――それこそサブスクなどは能動的なだけではなく、不意に聴かれる瞬間もあるという楽しみ方もありますし。
畑 アニメの楽曲を掘ったあとにこの2曲がきて、「どういう繋がり……?」っていうのでびっくりしてもらうのもありなのかなと(笑)。
――それこそLiella!のあとにこの曲がきたりするかもしれないですものね(笑)。ちなみに、このシングルではMVも撮られたんですよね?
畑 撮りました、「断崖の己惚れ屋」のMVと同じロケ地で。10年前はカメラを吊るして撮っていたけど、今はドローンですよ(笑)。「飛んでるわ~、すごいわ~、時代変わったわ~」って。
――そうした映像でも畑さんの生きる姿を目撃してもらいたいですね。
畑 気力体力かき集めて頑張ってます。延々と、延々と頑張りますよ。
――リスアニ!本誌での長期連載となりました「骸になるまで音を出せ」も引き続きよろしくお願いします。
畑 そうですね。いやあ、連載のときはみんなの質問にどう答えたらいいんだろうって悩んでますが楽しいですね。あとは……ほかの連載陣の字が小さい。特にミトさん(笑)。
――「画声人音」はとりわけ文字が小さいですからね(笑)。
畑 中身は濃いけど字が小さい(笑)。iPadでキュッと広げたい!そろそろ電子書籍もお願いします!(笑)。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
●リリース情報
「蜿蜒 on and on and」
配信中
LZC-1688
01. 蜿蜒 on and on and
02. 砂海パラソル
配信リンクはこちら
https://lnk.to/LZC-1688
各ストリーミングサイトで過去音源配信スタート!
各種ストリーミングサービスはこちら
https://lnk.to/000149
畑 亜貴 公式サイト
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https://twitter.com/akihata_jp
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https://www.youtube.com/c/AKIHATAjp
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