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INTERVIEW

2021.08.10

【スペシャル対談】負けイベがあるということは、反撃の機会がある――大森靖子×ANCHOR、TVアニメ『出会って5秒でバトル』EDテーマ「負けイベ実況プレイ」リリースインタビュー

【スペシャル対談】負けイベがあるということは、反撃の機会がある――大森靖子×ANCHOR、TVアニメ『出会って5秒でバトル』EDテーマ「負けイベ実況プレイ」リリースインタビュー

TVアニメ『出会って5秒でバトル』のエンディングで、すさまじいナンバーが疾走している。“15才と大森靖子”による「負けイベ実況プレイ」がそれだ。自らの肩書を“超歌手”と掲げる大森靖子は、激しいエモーションと生々しい歌で破格の存在感を放ってきたシンガーソングライター。ここでは、そんな彼女に素性が謎に包まれた15才の少女が加わり、圧巻のダブルボーカルを聴かせているのである。そしてこのコラボのキーマンとなるのが、同曲の作詞・作曲・編曲を手がけたANCHOR。彼はかねてから大森のサウンド面での優れた補佐役を務めているクリエイターで、今回の『出会って5秒でバトル』ではオープニングもエンディングもプロデュースしている。

ここでは大森とANCHORの二人に対談してもらいながら、「負けイベ実況プレイ」に接近。このとんでもない曲はどうやって出来上がったのか? そして謎の15才とはどんな女の子なのか? 二人の和やか&テンションやや高めのトークを楽しんでほしい!

「負けイベ実況プレイ」は大森さん以外には誰も歌えなさそうな曲

――「負けイベ実況プレイ」、すごいスピードとテンションと情報量の曲でとにかく圧倒されました。

ANCHOR ありがとうございます!

――早速ですが、この歌を「15才さん」という女の子と大森さんの二人が歌うことになった経緯からお話しいただけますか?

ANCHOR はい。まずこの曲は、最初に僕のところにポニーキャニオンさんからお話がきて。そこで将来有望な15才の子を……ちょっと事情があって名前が出せないので、15才ちゃんになってるんですけど、その方に楽曲を、というお話だったんです。それでこの曲のメロディを作っているときに、僕の中でずーっと声が再生される人がいて。それが大森靖子さんだったんですね。

大森靖子 私はまず最初に音源をすぐいただけたので、聴いてみたら、「ああ、たしかに私が歌えるやつだな」と(笑)。

ANCHOR 逆に、大森さん以外歌えるのかな?っていう(笑)。

大森 あははは。高音域出せるのと、早口がすごく得意なので。

ANCHOR うん。音域の広さや息継ぎ知らずの肺活量を現場で体感してその正確さから僕はまるでVOCALOIDなど機械に近いシンガーさんだと思っているくらいです。

大森 私、そう言った面ではボカロを超えたライブアーティストを目指しているので!(笑)

ANCHOR あははははは!

――人間には歌えなさそうなVOCALOIDの歌を、さらに超えるところまで行こうということですか?

大森 VOCALOIDと歌い手さんというカルチャーに、ずっと興味があるんです。自分はライブで育ってきたライブアーティストなので、歌い方のアプローチの仕方が全然違っていて……(歌ってみたは)自分で録音されることが多いのでレコーディングに最適な音量なんですよね、皆さんマイクにノリの良い歌い方をされていて。

ANCHOR ネットカルチャーの中から出てきたものですもんね。

大森 うん、そのネットカルチャーの中で作曲してきた人の曲に自分の歌を当てたときの面白さって、絶対にあるだろうなと思って。だから以前アニメのタイアップが決まったときは、そういうカルチャーを意識して作詞作曲してたんです。だからANCHORさんと一緒にやった「JUSTadICE」のときに……。

ANCHOR 『ブラッククローバー』ですね。

大森 うん、『ブラッククローバー』のテーマのときに、そういうのをやらせていただいて、すごく面白いなと思っていたので。今回はついにそういう曲を歌える! しかも自分で作らずに歌うだけ!みたいな(笑)。そうなるとボーカルの当て方とかに専念できるので、とても楽しいんです。だから手書きの自分用の楽譜みたいなものを歌詞カードとして作って、ウキウキしながらレコーディングに行きました(笑)。

ANCHOR そもそも靖子さん、他人の楽曲を歌うことってあんまりないですよね? フィーチャリングとかコラボはあるかもしれないですけど、「これを歌ってください」みたいなのは、なかなかない気がします。

大森 ないですね。私に歌うまの印象はないと思うので(笑)。

――話を戻させてもらいますと、ANCHORさんはこの曲を作っているなかで、先ほどの15才さんと大森さんの二人のボーカルにすることが頭に浮かんだんですか?

ANCHOR そうですね。作品から受けた印象とEDのプロデューサーさんとディスカッションをするなかで、「ただのエンディングっぽくしたくはないな」という思いが出てきたんです。雰囲気を掴んで作っていくうちに「これは相当なパワーの曲になりそうだな」と言いますか。で、15才さんは今回がほとんど初めてレコーディングする子なので、そんな子が一人で歌うには負担が大きい曲調だとというところもあったたので、でしたら大森さんに一緒に歌ってもらおうと思ったんですよね。僕、今まで大森さんの編曲をさせてもらっていたのですが、僕の曲を歌ってもらったことはなくて。そこで自分の好奇心というか、「歌ってほしいな」という機会をずっと窺っていたので思いきってオファーをさせていただきました。

大森 この曲を聴いて、“出会って5秒で”みたいな言葉は、自分も歌詞によく入れるというか、入れたことのあるスラングだったのでそこは共感しましたね。

ANCHOR (笑)。スラング!

――ありますよね、そういう言い方。広末さんの歌のタイトルとも感じが似ていますし。(注:広末涼子の1997年のデビュー曲「MAJIでKoiする5秒前」)

負けイベがあるということは、反撃の機会があるということ

――では、そうして曲のイメージが固まってきて、だんだん見えてきたんですね。

ANCHOR そうですね! ほんと、自由にさせてもらいました。そもそもアニメのエンディングってアッパーな曲は少ないイメージがあると思うんですけど、今回はオープニングも僕が作らせていただいていて(オープニング:鬼頭明里「No Continue」)。そことは毛色が違うオープニング曲をもう1つ作ろう、っていうくらいの気持ちでいこうと。

――オープニングの「No Continue」はスラッシュメタルというか、ハードロック的な曲ですね。

ANCHOR そうですね。あれは「ラウドロックで」というオファーをいただいたので。実は自分自身では得意だとは思ってこなかったジャンルなのですがアニメの楽曲でそういった曲調をやらせてもらう事が多かった影響なのかも、と思うととてもありがたいです!

――いえ、あちらもすごくハマっていると思います。で、「負けイベ実況プレイ」はそれに対して作った曲なんですね。

ANCHOR そうです。あっちはすべて生で、スタジオでレコーディングしているんですけど。このエンディングのほうは、ボーカル以外はギターもドラムもエンジニアさんも同じメンバーで全部リモートで、全員が宅録でやっているんですよね。そこはちょっとネットに寄せているというか、あえてそういう作り方をしています。

大森 で、それを私は受け取って「ああ、歌いやすそうだな」と。「私だけが歌いやすいと思うだろうな」って(笑)。

ANCHOR そうそうそう!(笑)極端な言い方をすると、今風の曲ですよね。僕、このオファーをいただく前から作品(原作コミック)が好きでずっと読んでいたので「壮大なエンディングはイメージつかないな」と、「だったらアニメの最後は切れ味良く終わらせたいね」という感じですね。

大森 私もこの曲は、自分の声で再生されるイメージがすごくあって、だから嬉しいなと思いました。あと、知らない単語がちょこちょこ出てきたので、色々解説してもらいました。レベデザとかリセマラとか、ネットのゲーム用語を私があんまり知らなくて。普通のゲームの用語は知ってるんですけど。

ANCHOR ソーシャルゲームというかね。実は僕、今もなんですけど、ソーシャルゲームを会社員として作っているんですよ。元々すごくゲームが好きなので。

――ストーリーがゲームの世界になっているから、歌詞もそうしたものを書いたわけですね。

ANCHOR そうですね。ゲームがテーマ、というのがすごくあって。OP曲はもしもゲームの世界がリアルで起きたら・・・という話でもあるんですけど。このED曲では、現実がゲームの世界に行ったら、みたいな。その対比の表現をしている感じです。

――「負けイベ」というタイトルからしてゲームですもんね。この言葉はストーリーの中でも出てきますね。

ANCHOR そうです、第1話のところで。それがとても印象的で、オープニング、エンディング、両方とも「負けイベ」という言葉を使ってるんです。大森さん、負けイベって知ってます?

大森 負けイベ知らなかったですね……。サ終とか詫び石とかも知らない言葉だったので、ANCHORさんに解説してもらった時に知りました。

ANCHOR そう、そこ、完全に用語ですもんね。ソーシャルゲームの用語。

大森 はい。詫び石、面白かったです!(詫び石:ネットゲーム内でバグや運営側の不手際が起きた際に、陳謝の意味でゲーム参加者全員に配布されるポイントなどの特典のこと) なんか「昔ながらだなぁ」って思って(笑)。

ANCHOR そうそう(笑)。粗品みたいなもんですよね。

大森 かわいいなぁって。おばあちゃんが粗品でタオルとか配ってる様子が浮かんで。「かわいい、運営」と思って(笑)。

――で、この曲の“人類大凡 負けイベ実況プレイ”という歌詞はインパクトありますね。ゲームが人生観、さらに人間観にまで広がるところが。

ANCHOR はい、そこを大胆に言いたいのもあったんです。作中で主人公も「負けイベント」って言ってるんですけど、それが負けイベだということは、次がある。続きがあるというか、反撃できるタイミングがあるということなので、ここでは「人生、<これは負けだ>と思えたら反撃の機会があるよね」的なポジティブなことを言いたかったんです。しかし前後文を見ると、めちゃめちゃ絶望的な歌詞になってるので、踏んだり蹴ったりですね、これ(笑)。

大森 かわいそう(笑)。でも生きててゲームをしていると、それを人生に重ねることも、逆に人生やっていてゲームに重ねることも、全然あるから。そこは「わかるなあ」って思いました。みんな、小さい頃から「ドラクエ」(ドラゴンクエスト)とかやってたじゃないですか? 「ドラクエ」も、最初のほうはスライムとかでも倒すの大変だったのに、レベル上がってからはそういうザコキャラを倒しても全然やり甲斐ないじゃないですか。そういうのは「人生だなぁ」って思いながらやっていました(笑)。ステージ上がったらザコいんだよな~って。

ANCHOR あはははは!

――自分の成長を認識するとそう感じる、ということですね。そしてさっきの話で、負けと言いながら攻撃的だったり前を向いている感じは、曲調にも出ていますね。

ANCHOR そうですね、トガっているというか。歌詞としては「多分こういうことを思ってる人、いるだろうな」というのが気持ちとしてあるので、そういう方に共感してもらいたいです。あと曲調で言うと、コード進行はずっと気持ち悪いので、「自分でもよくこんなの作ったな」というか。間違いなく「もう1回は作れないな」という曲ではありますね。

大森 あとね、ANCHORさんにはいつもアレンジだけしてもらっているんですけど、そのときでも(音の)重ねがすごいんですよ(笑)。

ANCHOR 今回はジェットコースターみたいに曲が終わったらいいなと思っていたんです。ビューン!と高速で展開を詰め込めば、疾走感とともに「ああ、なんか終わった」ってなるかなと。呆然としてもう一度聴いてもらえるかな、というのはありましたね。

――アニメ自体もダーッと突き進んでいく圧倒感がありますもんね。

大森 面白いです。オープニングとエンディングの両方を作って、その作品のテーマであるゲームと人生を対比して「始まりがあって終わりがある」だけじゃない捉え方ができるのが、コンセプト的に面白いなと、すごく思う。こういう書き方もあるんだ、いいなあ、って。

次ページ:歌詞の“嫌い嫌い嫌い嫌い”のところはコントローラーを連打してるみたい

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