衝撃的な幕切れで第1クールを終えたTVアニメ『86―エイティシックス―』。その楽曲の魅力を、主役のシン(シンエイ・ノウゼン)を演じる声優・千葉翔也と、音楽を担当する劇伴作家・澤野弘之、KOHTA YAMAMOTOが語り尽くす。楽曲制作の裏側や7月7日発売のサウンドトラックについてはもちろん、千葉翔也が出演したMVの秘話も語ってもらった。
――まずは衝撃的な最終回で第1クールが終わったわけですが、皆さんの感想はいかがでしたか?
千葉翔也 キャストですらビックリっていう(笑)。僕はヒロインのレーナ(ヴラディレーナ・ミリーゼ)役の長谷川育美さんとラジオをやらせていただいていて、よく感想を交わすんですが、「あれ? シンたちどうなったの?」みたいな(笑)。それはこの1クールずっとそうで、演出面や音楽面で予想の150%上を行くという感覚がありました。考えてもわからないので、むしろ逆にキャラクターに集中して演技ができた1クールだった気がします。普段、僕を応援してくださる方は女性の割合が多めなのですが、戦争や生死というテーマはハードなので、観ていただくまでのきっかけとして興味をもっていただけるか失礼ながら正直少し心配だったんです。でも、最初こそ男性からのリアクションの方が多かったのに、話が進むにつれて女性の視聴者の皆さんはキャラクター一人一人を掘り下げて観てくださるなと多く感じて、それは嬉しかったですね。
澤野弘之 僕自身は元から作品の世界観に惹かれていたところがありましたし、それが映像になって、千葉さんたちキャストの皆さんの声が入って、僕らの音楽がついたことによって、期待していた通りの部分とイメージを超えてきた部分、その両方を見ることができたのが毎週楽しかったですね。この作品は日常を明るく描くじゃないですか。日常の明るさと戦争シーンの激しさとのコントラストがあって、そこが余計に引き込まれる部分だったと思います。音楽の使われ方も“日常”と“戦争”で対比されていて、『86―エイティシックス―』という作品だからできた楽曲だと思いますね。音楽的にも映像的にも物語的に色んなものが対比されたコントラストの強さがこの作品の魅力だなと思いながら、ずっと引き込まれて観ていました。
KOHTA YAMAMOTO 僕もストーリーの大筋はあらかじめ把握して楽曲を作っていったのですが、実際に出来上がった作品を観てみると、回を増すごとに“こうなっていくのかな?”という予想が良い意味で裏切られていきましたね。楽曲の使われ方も想像していたものと違った部分があったりして、これもポジティブな意味で驚くシーンが多かったです。澤野さんのエンディング(「Avid / Hands Up to the Sky」)も、必ず同じところで流れるというわけではなく毎回毎回流れるポイントが違いましたし、Wエンディングでそのときの心情によって変わったりとか。そこがまた、演出でグッと引き込まれた部分ですし、毎回予想外のことが起きるので1話として落ち着いて観られなかったですね。音楽的な部分でもこの1クールは充実した使い方をしていただけて、すごく感謝しています。
――物語が進んでいくと仲間が減っていき、シンの周囲の環境も変わっていきました。
千葉 コロナ禍なので全員揃ってアフレコできなかったのですが、キャスト表を見ると最初は20人くらいいたキャストがだんだん減っていって、10人以下くらいになっていくんですよ(笑)。それに、1話はほぼラストシーンにセリフが集約されていて、一言でシンらしさを出すにはどうしようかと考えていたのが、だんだんセリフが増えていきましたね。それは役者としては嬉しいことなのですが、あんなに賑やかだったダイヤ(・イルマ)やハルト(・キーツ)たちがいなくなってしまったということを実感することでもあり、寂しかったですね。あとは、シンは最初からずっと兄の存在のみを追っている部分があったので、シンの兄を演じている古川 慎さんとの絡みが増えていくにつれて、そこに気持ちがシフトしていく感じはありました。そこは物語では説明されていなかった部分で、“実は最初からシンはこう思っていた”というのが出るところなので、特に意識して演じていましたね。
――では、改めて音楽について伺いたいのですが、制作側から何か音楽的なテーマを提示されたことはあったのでしょうか?
澤野 テーマを提示されるということはなかったですね。ただ、日常シーンがある程度占めてくるので、そういう曲が多く必要になるというのはありました。エイティシックスのシーンはちょっと土着的でもいいというのと、サンマグノリア共和国のシーンはクラシック寄りでいいというのを言われたくらいで。僕としては、『86―エイティシックス―』のように話が難しくなる作品では、エンターテインメントとして窮屈にならないように、音楽だけでもわかりやすくアプローチしたほうがいいと思い、いつも音楽を作ってます。
――7月7日には2枚組の『86―エイティシックス― オリジナル・サウンドトラック』が発売となりますが、今回のサントラではどちらかといえば重い雰囲気の澤野さんサイド、ほっこりするKOHTAさんサイドの2つに分かれていて、そこも対比がくっきり出ていますね。まず澤野さんサイドの1枚ですが、今回は特にサウンドの後ろで鳴っているノイズや警告音が効果的に使われていて、迫りくる怖さを感じました。
澤野 そうですね。特にレギオン(敵国の無人戦闘兵器)に関しては、シンセのサウンドをわかりやすくノイジーにして、それが耳につくように意識的に構成していったところはあります。でも、それ以外のところでは、戦闘になったときにみんなが観ていて単純にかっこいいと思えるような、スピード感を煽るようなサウンドにしておきたいというのはありましたね。ちなみに今回の曲はどれも、『86―エイティシックス―』にちなんで数字を曲名に入れたんです。でも最後のほうは数字がなくなってきて、12曲目の「!”#$%&’()0」なんかは数字を1から0までシフトキーを押して並べていったらこうなりました(笑)。
――なるほど! どういう意味なんだろうと思っていたのですが、それでこの記号の並びなんですね(笑)。一方、KOHTAさんの楽曲は日常的なシーンが多いですが、特に気を付けられたことはありますか?
KOHTA 日常やコミカルな曲では、作品として重いからといって抑えるのではなく、明るい曲は明るい曲として振り切って作るほうが作品の中での陰影がよりつくと思ってやっていましたね。
――明るいシーンと重いシーンの切り替えという意味では、千葉さんも演じていてどうされていたのか気になります。
千葉 『86―エイティシックス―』という作品の軸としては、ハンマーで殴られてイテテみたいな、そんな突拍子もないギャグアニメみたいなことはなくて(笑)、楽しいシーンでもその人物の感情の振れ幅の中で起こることなので、それは逆にすんなりいけたかなと思っています。それだけに、あとで音楽を入れることでセリフを料理しやすい作品でもあるかもしれないですね。『86―エイティシックス―』の中では気持ちが切り替わる瞬間や、雪解けの瞬間に曲が始まることが多いんです。例えば、4話のレーナがみんなに名前を聞こうと決意するシーンで、台本では長ゼリフのど真ん中のところで曲が変わるんですよ。そこは、曲が変わることによってキャラクターの深い心情が想像できるような演出になっているんだと思います。もし、そこで言い方を変えてやっていたら狙いすぎになっちゃうんですよ。“お前、すぐ許すじゃん”って思ってしまったりだとか。でも、その微妙なキャラクターの心情を音楽が語ってくれてるんだなと思いました。
澤野 これは気になっていたことなのですが、日常のシーンで彼らが明るく楽しんでいるのは、楽しんでるフリをしてるんですか? それとも、そのときは本当に楽しもうとしてるんですか?
千葉 スピアヘッドに関しては、シンの存在があるからこそ、みんな本当に楽しんでるというのはあるかもしれませんね。レギオンがいつ来るかわかるから、そこは気を抜くことができるシーンなんですよ。みんなが楽しそうにしている、それはなぜなんだろう?と考えると、そこには最後まで命を預けられるシンがいるという構図なんだと思います。
――そういった部分に注目すると作品の見え方も変わってくるかもしれませんね。
千葉 スピアヘッドが戦っているときに曲が流れると、なんとなく戦況がわかるのもすごいですね。この曲が流れると“勝てそう!”って思ったり(笑)。ピンチのときでも、“弱くないピンチ感”が出る曲まであって、こんなにシンたちが強いのにピンチに立っているというのがわかるんですよね。あれは“勝ちそうなときの曲”というように考えて作られているんですか?
澤野 もちろん、そこは音響監督が状況に合った曲を選んでいるというのが大きいと思うんですが、僕ら曲を作っている側としては、優位に立っているときにこの曲が流れたらかっこいいなとか、追い込まれているときはより追い込まれている感が出ているサウンドにしようというのは考えますね。
千葉 やっぱりそうなんですね!
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