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INTERVIEW

2021.07.01

“ありがとう、ずっと隣にいてね”。様々な「富田美憂」に出会える、物語が詰まった1枚に――。1stアルバム『Prologue』ロングインタビュー

“ありがとう、ずっと隣にいてね”。様々な「富田美憂」に出会える、物語が詰まった1枚に――。1stアルバム『Prologue』ロングインタビュー

多種多様な新曲の主人公を歌で演じる、声優アーティストとしての凄み

――3曲目の「Run Alone!」は本作随一のアップチューン。ラップを含む歌唱にも強い意志が感じられます。

富田 ライブで「きたー!」っていうテンションになれるような、疾走感のある楽曲というリクエストで作っていただきました。ラップも今まであまりやる機会がなかったので、今回のアルバムで一番挑戦した曲と感じるくらい新しい引き出しを開けてもらえた曲です。車のCMっぽくて、速そうですよね(笑)。私のお父さん世代にはすごく刺さるみたいです。

――そのスピード感というか勢いが、歌詞にも表れているなと思いました。

富田 独走状態みたいな感じなので、「私は誰にも止められないぜ!」っていうテンションで歌わせていただきました。「Present Moment」は「みんなで一緒に成長していこうね」という感じでしたけど、この曲は「私についてきてくださいね!」という感じで。歌詞に“ギリギリ”というワードが入っている通り、歌にもギリギリ感が出せたと思います。

――続く「片思いはじめました」は、女の子のいじらしい恋心を描いた恋愛ソング。こういうかわいらしい曲調は、今までのアーティスト活動にはなかった方向性ですが。

富田 富田美憂と言えば「Broken Sky」みたいなかっこいい路線のイメージが強いと思うんですけど、元々自分の中にはこういうかわいらしい引き出しも声優としてあったので、アルバムではそういう一面も出したいなと思って。アルバムの中でも特にかわいらしいサウンドなので、「Run Alone!」からのギャップを楽しんでいただけると思います。

――この曲を歌うときは、やはり気持ちの作り方も変わるわけですか?

富田 レコーディングの前日に少女マンガを読みました(笑)。当日はキュンキュンな気持ちでスタジオに行きましたね。きっと中高生の恋している女の子にすごく刺さる曲だと思いますし、逆に大人の方も「自分の初恋はこんな感じだったな」とか、青春時代を思い出させてくれるような曲になっています。

――先ほど報われない恋の歌ばかり歌っているとおっしゃっていましたが、この曲の主人公も最終的には失恋していますよね。

富田 そうなんです! 明るい曲調なんですけど、片想いが実らなかった歌になっていて。でも、最後の“片想いをありがと”というフレーズは、今まで恋というものを知らなかった子が、初めて片想いをして、恋をしているときの心が躍るように楽しい気持ちを知って、何か得るものがあったからこそ、最後に“ありがと”って言えたんだろうなと思って。なので“ありがと”の部分もあえて明るく歌わせてもらいました。

――まさに楽曲の主人公を演じる気持ちで歌ったわけですね。

富田 コーラスも最初は割と平坦な感じで歌っていたのが、ディレクターの方から「ちょっと口角を上げて、明るい感じで歌ってみよう」とご提案いただいて。あと、いつもは何テイクも重ねたうえで良いテイクを使っていただくのですが、この曲に関してはイントロの歌い出しの大切な部分も、ほぼ最初に歌ったものを使っていただいてます。多分、その初々しい感じが、楽曲的には合うのかなって。

――6曲目の「Some day, Sumer day」は、青春感たっぷりの爽快なロックチューン。

富田 この曲のイメージは「野外の夏フェス」で、ライブでお客さんと一緒に盛り上がれる曲というリクエストをしました。サビも「タオルを振り回せる感じにしたいです」とお願いして。ライブで声が出せる状況になったときには、ぜひ歌詞のカッコに入った部分を皆さんに歌っていただきたいです。

――今までのシングル表題曲のロックな流れを汲む曲調のようにも感じましたが、歌入れではどんなことを意識しましたか?

富田 レコーディングではいつも、お客さんが聴いてくれているときの顔を意識して歌うんですけど、この曲はライブを前提に作った曲と言っても過言ではないので、より会場で一体になっているような感覚、グルーヴ感を大切に歌いました。お客さんと一緒に歌っているような気分でした。アルバムのリリースが6月ということもあり、歌詞に“夏”という言葉も入っていて、夏を思わせるような曲だと思います。

――8曲目の「かりそめ」はチルっぽい要素を取り入れた、今までとはまた違った趣きのアンニュイなナンバーに。これも新しい挑戦ですよね。

富田 これは「ジレンマ」とはまたタイプの違う、大人の富田美憂感が出せる曲を歌いたい!ということで。この曲と次の「足跡」は、コンペではなく、コロムビアの担当ディレクターの井上(哲也)さんが直々に作家さんにオファーして書き下ろしていただきました。アニメのタイアップではなかなか歌えない、アルバムだからこそできる曲じゃないかなと思います。

――たしかに。あまりにも曲の中にストーリーがありすぎると言いますか。

富田 はい。歌詞も夜っぽくて、夜景が似合う曲だなと。レコーディングでは、「えっ!こんなに軽めに歌っていいんですか?」って思うくらい力を抜いて歌いました。それが逆に色っぽく聴こえたらいいなって。いつもは「ハスキーな声が素敵ですね」と言っていただくことが多いんですけど、この曲に関してはハスキーではなくシルキーを目指しました(笑)。絹みたいな艶っぽい声音がこの曲とマッチすると思ったので。

――たしかに淡い質感の歌声とコーラスが絶妙ですし、特にサビの部分、主線とコーラスが掛け合いになるR&B的な歌の組み立て方が素晴らしくて。歌ってみていかがでしたか?

富田 挑戦したことのないタイプの曲だったので、家で練習しているときは、どうアプローチしていいのかわからなかったんです。今までは「やるぞー!」って気合いを入れて勢いで歌う部分があったので(笑)。でも、この曲はその真逆で。歌詞も「うわ~、すごく大人だなあ」って思ったんですけど(笑)、いい意味でファンの方を裏切れるかなと思ったので、女性らしさを意識して歌いました。

――続いての「足跡」は、シンプルかつ優しい雰囲気のバラードです。

富田 ライブのときに、ステージ上にはピアノと私だけ、みたいな曲を歌いたいという案を出させていただいていたんです。実はこの曲、「ジレンマ」のその後のお話なんですよ。なので歌詞に繋がりがあったり、「ジレンマ」とリンクするように時計の針の音が入っていたりします。

――両楽曲とも作詞はNIYAさんですしね。

富田 「ジレンマ」は現在進行形でもやもやしている二人を描いた曲ですけど、「足跡」は多分そこから数年経って、ちゃんと顔を合わせて話せるようになった二人の関係を描いていると思ったので、包容力や温もり、温かさをイメージして歌いました。

――「ジレンマ」から「足跡」に至る楽曲の主人公の関係性の変化は、富田さんがアルバムのテーマの1つとおっしゃった「成長過程」を見せることに通じる部分がありますよね。

富田 ありがとうございます。私もまさか「ジレンマ」の続きの曲になるとは思っていなかったのでビックリしたんですけど、そういった仕掛けも含めて、今回のアルバムは1つの作品という感じがしています。きっと10曲全体を聴いたときに、1冊の分厚い本を読み終えたぐらいの満足感を感じていただけると思います。

次ページ:応援してくれる人々への素直な気持ちを書いた、初の作詞曲「Letter」

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