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INTERVIEW

2021.05.27

“未完成な僕らの青春の演舞を”、TVアニメ『バクテン!!』オープニング「青春の演舞」に込めた青春の煌めきについて、センチミリメンタル・温詞に迫る――。

“未完成な僕らの青春の演舞を”、TVアニメ『バクテン!!』オープニング「青春の演舞」に込めた青春の煌めきについて、センチミリメンタル・温詞に迫る――。

中学時代最後の夏に偶然男子新体操を知った双葉翔太郎。部員で動きを揃え、ダイナミックな中に繊細さもあるその世界に魅了された彼は私立蒼秀館高等学校へと進学し男子新体操部に入部。中学男子新体操のスターであった美里良夜や個性的な先輩たちとともに新体操に染まった青春を送ることになる翔太郎の日々を追うTVアニメ『バクテン!!』のオープニングを飾るのはTVアニメ『ギヴン』で疾走する青春の物語を彩ったセンチミリメンタルの「青春の演舞」。『ギヴン』のオープニング「キヅアト」とはアプローチの違う幕開け感で描く“青春ソング”であるこの曲について、センチミリメンタル・温詞に話を聞いた。

――『ギヴン』の楽曲制作を何曲も重ねてこられていますが、アニメーションとのコラボレーションについて今、どのような想いがありますか?

温詞 『ギヴン』が初めてのアニメタイアップで、今作は2回目になるのですが、自分の想像よりも海外の方からの反応が強いなと思っています。YouTubeやInstagramなどのコメント欄もそうですが、様々な国からのメッセージがかなり届いたんですね。それは自分の中で想像していなかった広がりで。日本の方々もそうですが、世界中で日本のアニメや音楽が愛されているんだなと感じています。

――普通に楽曲を作るのと、『ギヴン』のようなイメージのあるものに向けての制作。そこに違いはありましたか?

温詞 今まで自分がデビュー前に作ってきた気持ちと変わらずに作れていますね。昔の想像だとタイアップはもっと窮屈なんじゃないか、困ったりするのかなと考えていたのですが、作品の特性をもらったうえで自分の中で共通する部分はどこだろうと考えながら曲を書けているので、むしろ新たな自分の面を知ることができ、刺激にもなって、自分の内側の世界もより広がっていくんだなと感じています。

――ニューシングル「青春の演舞/nag」に収録の「青春の演舞」はアニメ『バクテン!!』のOPテーマとなっています。このアニメ自体は東日本大震災発生から10年を迎えての「ずっとおうえん。プロジェクト2011+10…」の一貫として制作されているオリジナルアニメです。プロジェクトに対してはどのような想いがありますか?

温詞 東日本大震災から10年を迎えた上での作品である、ということを伺って、当時のことを思い出しました。その頃の僕は高校生で生徒会長をやっていたので、募金活動をしたり、そこに向けて曲を作ったりもしていました。思ったよりもたくさんお金が集まって、募金もできたのですが、それでもどうしても地元や地域の枠を外れることができなかった歯がゆさみたいなものも感じていたので、もっとやれることがあったのではないかと当時すごく思っていたんです。それを10年後に、より広い視野でもう一度関わらせてもらえる、そこに向けて自分の音楽が1つでも関われるのではあれば、僕としてもあのときの歯がゆさに向けてもう一度向き合えるという喜びがありました。聴いてくれる人の支えに、希望になれる曲にしたいと思いながら作り始めました。

――前作「キヅアト」が主題歌となった『ギヴン』は原作がありましたが、今回はオリジナルアニメです。どのように制作へと向かっていったのでしょうか。

温詞 前作のように原作を読み込んでから曲を作ることができなかったので、そこは苦労しました。想いを巡らせて、自分とも向き合いながら曲を作る作業になっていました。

――アニメ制作の皆さんとお話はされたのでしょうか。

温詞 いいえ。書面で「こういう内容です」というのはいただいたのですが、細かい部分については原作もないため、やはり想像でしか作れなかった部分が多かったので、自分の中で向き合ってどれだけ作品に合った曲にするかは自分の中で課題でした。男子新体操については、話題になっているらしいということは知っていたのですが、恥ずかしながら知識がまったくなかったんです。前回の『ギヴン』は音楽に特化した内容ですし、自分も元々はバンドをやっていたので理解できる部分もあったのですが、今回は触れてこなかった真逆な世界にオープニングを作ることに対して、どう向き合えば作品へのズレがない、「このオープニングでよかった」と思ってもらえるのかと悩みながら作りました。

――制作側からのオーダーはどのようなものがあったのでしょうか。

温詞 明るい青春の煌めきを描いたアニメ作品なので「暗い要素は入れないでください」というオーダーがあったんです。実はそれが僕の中で一番悩んだ部分で。今までの音楽制作では割とその「暗い要素」やどん底から這い上がる、暗闇から光を見る、という書き方が多かったので、あまり自分がやってこなかった曲の作り方になるからこそ壁になっていると感じて。いい意味で試されているかもしれない!と思い、そこは自分にとってもチャレンジでしたね。

――新境地を開く。

温詞 まさに。

――こうして出来上がった「青春の演舞」はどのようなテーマを持って制作へと向かわれたのでしょうか。

温詞 男子新体操に対しての知識がなかったので、お話をいただいて調べたりもしたのですが、やはり付け焼き刃ですし真髄までは知れなかったんですね。そんななかで「希望に満ちた曲に」というオーダーにどうやって応えられるだろうかと自分でもすごく悩んで辿り着いた答えが『バクテン!!』というタイトルの作品である、ということ。バク転は人間の身体が本来動く方向ではない方向へと飛んでいってやがて同じポジションに戻ってくる。そのことにふと気づいたときに、自分にとっても想定できない新しいチャレンジをして、もう一度自分の元に戻ってこられたなら、それは自分にとってのバク転になるのかなと思ったんです。音楽として新しいチャレンジをして、自分の得意な音楽へと着地ができたなら、この音楽も『バクテン!!』との全力のコラボレーションになるのではないか、という想いに至ったところでやっと曲が書けました。

――作りとしての起承転結の、起と結は決まっていて、承と転を楽曲としてどう作っていくか……?

温詞 そうなりますね。今までマイナスからプラスへ、というテーマがある中で曲を作ることはあったのですが、今回は自分の中でどこに対して起と結を置けば作れるのかが最大の難関ではあったので、それを結論づけられたことで、書き始めたらスッと出来ました。“演舞”の言葉のような、ダンスや新体操をするわけではないですが、メンタリティとしての動きを揃えるということは音楽との共通する言語だと思いましたし、自分が使いそうな言葉や使わなさそうな言葉も織り交ぜながら新境地を見ることができたらいいなぁ、と思いながら書いていきました。

――楽曲について制作側とやりとりはあったんですか?

温詞 一度、ワンコーラスを作って制作の方に聴いてもらったんです。Bメロの部分を、リズムを一瞬消してふわっと壮大な感じで感じにしていたら「それだとまったりしてしまうので1番は元気良くリズムを突き進んでほしい」というオーダーがあり、そのアレンジはアニメで流れない2番のほうに移して、1番ではビートを足しました。アニメで流れる部分は常に踊りたくなるようなリズムが前面に出るように作りましたね。

――だからこそ89秒のアニメで流れる部分では、これまでのセンチミリメンタルサウンドにはないとことん明るいものが出ているのですね。

温詞 これだけ明るいサウンドはなかなかないですね。10代の頃に初めてバンドの音を作ったときにはこれくらいの明るさで作れていたのかもしれないなと思いました(笑)。今までやってこなかった真っ直ぐさが89秒の中にありますね。

――オープニングらしい真っ直ぐさがありますよね。

温詞 やはりスポーツもので青春の明るい内容なので、すっと耳に入ってくるようなわかりやすさのある、アニソンとしても魅力溢れるものにしたいと作りました。良い意味でシンプルな1曲ですね。

――絵と合わさるとますます真っ直ぐさが出ますよね。

温詞 オープニングの映像を観たときには自分でも感動しました。作って良かったなと思いましたね。

――歌詞についてはどういった視点で作ろうと思われたのでしょうか。

温詞 自分にとっても「これはバク転である」というところと、新体操の踊りや演技、演舞や躍動感とのコラボレーションで言葉を紡いでいこうと思いました。でもセンチミリメンタルの音楽として世に届けるので、自分としても嘘のないものにしたくて。僕も自分なりに新たなチャレンジをして、挑戦をしてそこに悩んだり絶望を抱いたこともあるし、それでも頑張っていこうと希望を見出して戦っているのだ、ということを表現したかったので、“感情を宙返りしてみるよ”という歌詞にも出ているなと思います。

自分が暗い要素のない曲を作るなんて難しいよ、と絶望しかけたのですが、それでも自分の中で宙返りしてみて、気持ちを一周させてみて、こうすれば自分もぶち当たった壁を乗り越えていけるかもしれないという光の見えた瞬間を詰め込みました。きっとどのスポーツにしろ仕事にしろ、何か熱中することや頑張っていることに対して壁にぶち当たることは誰しもが経験することだと思うので、そういうときにこの曲が乗り越える支えになるといいなと思って。そういう意味では今までと書き方とは違いますが、新しい視点で希望と向き合えたのかなと思いました。

――高校入学を機に新体操を始めることとなる主人公の双葉翔太郎の視点ではなく、彼らを見ている温詞さんの視点?

温詞 それが今回は特に大きかったですね。原作がなくストーリーを経ての気持ちの動きはどうしても見られなかったので、それなら僕として彼らの向かう先というか、新しいことにチャレンジして、あれだけの踊りが繰り広げられていくのを目の当たりにしている彼らと同じく「僕もそう思うところから頑張ったよ」と肩を並べるというか。共に挑戦する、という気持ちで綴ったので、僕の気持ちもふんだんに入った曲かなと思います。

――高校生の物語に寄り添う曲が増えましたね。

温詞 「青春といえばセンチミリメンタルだよね」という言葉を見掛けたんです。そんなふうに思ってもらえるんだ、とびっくりしました。高校時代、とりわけ煌めいた青春時代を送ったわけでもなかったですし、「青春最高!」みたいなものは経験してきていなかったけれど、音楽でそことマッチできているなら良かったなって思います。しかも僕が「今、青春しているな」と感じた瞬間というと、デビュー前にライブハウスで仲間たちと苦労したり悩んだり色んなことに挑戦して戦っていたときなんです。高校時代ではないし、成人したあとでしたけれど、自分の中の青春の思い出と向き合おうとして蘇ったのは音楽と戦ったとき。そういう意味では変に「新体操の歌を作ろう」というよりも、ちゃんと自分の音楽と向き合うことで結果的に作品とも手を取れるのかなと思いました。

――ストリングスアレンジを深澤恵梨香さんがされているということですが、深澤さんのアレンジはいかがでしたか?

温詞 2ndシングルの「僕らだけの主題歌」、配信シングル「星のあいだ」でもお願いしました。僕もストリングスが大好きなので最初のアレンジの段階でフレーズまで自分で作るのですが、そこを加味して広げてもらっています。耳につく部分については考えられるんですが、やはりプロの方にお願いするとそこの裏側に鳴っている音の重なりも表現してくださって。自分ではなかなか成し得ない領域まで仕上がっていくので、頭の中にあるフレーズを広げてもらう喜びや感動を毎回感じています。そういう意味でも手を取り合って足並みを揃えて1つの作品を作っていくことは、『バクテン!!』で言えば足並みを揃えて呼吸を合わせて演舞するような喜びを感じています。

次ページ:そして両A面シングルのもう1曲「nag」。

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