緒方恵美×佐藤純一(fhána)、オーダーは「もしもシン・エヴァに挿入歌があったら」――アルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』スペシャル対談

緒方恵美、約4年ぶりのオリジナルアルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』の発売を記念し、制作に携わった豪華クリエイターとの連続対談インタビュー企画。第1弾のHISASHI(GLAY)、第2弾の草野華余子に続いて、今回は佐藤純一(fhána)との対談だ。自他ともに認める熱烈な「エヴァ」ファンである佐藤に緒方がオファーしたオーダーは「もしも〈シン・エヴァ〉に挿入歌があったら?」。碇シンジを演じ終えた彼女が歌詞に込めた思い、圧倒的熱量で仕上げられた楽曲制作の模様、そしてアーティストとしての生き様を語る白熱の対談をお届けする。

「この曲の命運はもうシンジくんに委ねるしかない」

――佐藤純一さんは緒方恵美さんのアルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』で「Repeat」を作曲されました。これはどのような経緯だったのでしょうか?

佐藤純一 最初はレーベルのプロデューサーの方から連絡をいただきました。今回のアルバムのコンセプトはエール(応援)ロックということで、その曲の方向性を打ち合わせしたいというお話でしたので、打ち合わせの席にコロナ禍の状況で皆を応援する、疾走感のある楽曲のデモを1コーラス作って行ったんです。そうしましたところ……。

緒方恵美 その曲はその曲で素晴らしかったんですけど、元々、私のなかでアイデアとしてあったのが、「『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の最後で流れる「翼をください」や旧劇場版の「甘き死よ、来たれ(Komm, süsser Tod)」のような挿入歌を、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(以下、『シン・エヴァ』)で書くとしたら?」というお題だったんです。当時『シン・エヴァ』のアフレコが進行中の時で。色々な思いが沸々とあって、これが終わった時に自分は……というある種の「予感」があり、それを何かの形に消化したくて、元々『エヴァ』が好きでいてくださっている佐藤純一さんにお願いしようと思いました。

佐藤 そのお話を聞いたときは震えましたね(笑)。

緒方 打ち合わせのときはまだ『シン・エヴァ』は公開前で、もちろん佐藤さんは内容をご存知ありませんし、私もお伝えしていません。でも、初めて一緒に仕事をした時から、レコーディング前に30分くらいずっと「エヴァ」の話をしてくれた純一くんなので、きっと、という確信がありました(笑)。

佐藤 『シン・エヴァ』がどういう話になるかはわからなくても、なんとなく「最後のエヴァ」になるだろうとは感じていました。25年前のTV版からついに完結する作品で、ずっと碇シンジくんを演じてこられた緒方さんが、「録り終えても終わっていないような思い」とおっしゃる。その熱に当てられたところもありますし、僕自身も人生の半分以上を、まるで自分ごとのように追いかけていた作品なので、沸々と湧き上がる思いがありました。

――佐藤さんは本当に「エヴァ」がお好きで、色んなインタビューの際に挙げられていますよね。

佐藤 創作の原体験というか、ルーツの1つなんですよ。僕は高校生の頃にTV版をほぼリアルタイムで観ていて、そのとき、シンジくんとのシンクロ率が120%だったんです。当時の記憶を思い返すと、「エヴァ」というアニメを観ていたというよりも、自分が(葛城)ミサトさんの家に一緒に住んでいて、(惣流・)アスカ(・ラングレー)と綾波(レイ)がいて……みたいに、実際のの記憶の一部になっているかのようで。その後、緒方さんとお仕事でご縁があり、親しくもしていただいて、「エヴァ」についての話だけではなく、人生についてのお話も伺うようになって、「こういうふうに自分も生きていきたいな」という、メンターというか心の師匠みたいな存在になっていったんです。

――なるほど。

佐藤 これは2~3年前に伺った話ですが、緒方さんが14歳くらいの少年の役を演じることが多くて、14歳の魂を持っていることがアイデンティティである一方、そのこと自体に迷いを覚えたこともあるそうなんです。歳を取ったらその年齢なりの芝居をするのは決して間違いではない。でも、緒方さんはずっと14歳の魂を持ち続けた。そのことに迷いを覚えたこともあったけど、とにかく14歳で生きてきたと。そんななか、2000年代になって「新劇場版」で、また14歳のシンジくんを演じることになった。『破』の最後の綾波を助け出すシーンのアフレコで、緒方さんは全身全霊を出し尽くし、マイクの前で放心状態になって、膝までついてしまったときに、庵野(秀明・総監督)さんがガチャッとブースの扉を開けて入ってきて緒方さんの肩に手を置いて、「君が14歳でいてくれたから、この映画を撮ることができたんだよ……」って言ってくれた――と言うお話を聞いて。

緒方 その場で見ていたみたいに話してくれますね(笑)。

佐藤 そのお話を聞いて思わず涙ぐんじゃったんですよ。このエピソード自体も素晴らしいのですが、僕は『破』の公開当時、そんな背景があったことなど何も知らずに、いち観客として劇場で観たときから、あのシーンには何か尋常ならざるものを感じていたんですよね。今ここでヤバい何かが起こっていると。やっぱりそういうものって、伝わるんですよね。だったら自分もそういう仕事がしたい、そういう作品を作れるような環境の中に身を置きたいと、緒方さんのエピソードを聞いて改めて思いましたし、それがここ数年の僕の中の創作に対する指針のようになっているんです。

緒方 恐縮です。

佐藤 緒方さんの先ほどのアイデンティティのお話もそうですし、生き様みたいなものを感じたんですよね。お仕事でこういう子を演じますというよりも、14歳で生きていくんだ、みたいな。僕も自分のアーティスト活動をやりながら作家として楽曲提供などもさせていただいているわけですが、仕事として割り切れないんですよね。締め切りや予算があって、その範囲の中で一定のクオリティのものを作るのがプロだと思うのですが、本当に気持ちが入らないと作れない。緒方さんのお話からもそういう姿勢を感じたんです。仕事っていうよりもそういう生き方みたいな。でもそれって、すごい生き辛いことだと思うんです。庵野秀明さんのインタビューも色々と読んでいるのですが、庵野さんにもそういう生き様を感じますよね。先日のNHKの「プロフェッショナル」(「プロフェッショナル 仕事の流儀~庵野秀明スペシャル~」)でも、最後に「プロフェッショナルって言葉、嫌いなんだよね」っておっしゃっていて、まさに「エヴァ」のものづくりってプロと正反対と思うんですよね。

緒方 ご本人もおっしゃってますけど、壮大な自主制作映画なので(笑)。

佐藤 仕事と割り切って作る感じではなくて、1つの作品で完全燃焼する、そういう生き方をしているのがすごいと思ったし、僕もそうありたいってすごく思ったんですよね。僕にとって「ヱヴァ」は高校生のときから重要な作品でしたけど、緒方さんとお会いしてお話を伺って、さらに具体的に自分の人生や創作の指針に繋がる存在になりました。

緒方 とまあ、そういう経緯がありまして(笑)。それで見てもいない、ストーリーも知らない作品に対して「最後にかかる挿入歌の想定で曲を書いてください」と言う無茶なお願いをさせていただいてしまったわけです。

――上がってきた曲を聴いての印象はいかがでしたか?

緒方 それこそ「(「シン・エヴァを」)観たの!?」っていうくらいに、自分が思っていたイメージにピッタリどころか、それを超えてすごい楽曲を書いてくださって、本当にありがたいと思いました。

佐藤 曲作り自体はそんなに苦しまずに出来ました。「翼をください」や「Komm, süsser Tod」みたいに入ってくる曲、と言われた段階でビビッときたので、自然とメロディが湧き出て来ました。音楽的には、ミディアムテンポで壮大な曲を作ろうと思って、Aメロは広がる感じでサビは哀愁がある曲になりました。後日『シン・エヴァ』を観て分かったのですが、その少し哀しげなサビがすごくシンクロしていたんだなと。歌詞は緒方さんがレコーディングの当日、録る直前まで何度も手直しをされてましたね。

緒方 このアルバムは元から『シン・エヴァ』の公開直後ぐらいにリリースする予定だったんです。ですが、ご存知の通り映画の公開は当初の2020年6月から2021年1月に、そして3月に延期されて。ランティスのスタッフの皆さんは頑張ってくれたんですが、もしかしたらこの曲のほうが先に世に出るかもしれないことになり、それまで書いていた歌詞を何度も見直し、熟慮を重ね、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』までの情景の中での言葉を選んで、さらに『シン・エヴァ』を観終えた後に聴いたら違う景色が見えるような詞にとギリギリまで粘って書きました。公開前は内容を誰にも言うわけにいかず、どこまでがネタバレになるか、孤軍奮闘(笑)。もう、てにをは一つ間違ってはいけないと思っていました。作品の幅として曖昧さも残してあるんだけど、でも的確な言葉じゃないといけない。でありつつ、歌なので韻を踏んでいく必要もあって、それを丁寧に。

佐藤 レコーディングのときは『Q』までの風景だけでしか理解できていなかったのですが、それだけで胸にくるものがありました。その後、『シン・エヴァ』を観てから改めて歌詞に注目しながら聴くと、バッチリハマっていて、演じられてきた緒方さんが、これは最後の「エヴァンゲリオン」を経て書いた歌詞なんだなと思うと、ものすごく泣けてきました。

緒方 熟慮した割には結局のところ、ただ刻みこんだだけのような感じもします、自分の気持ちを。サビの部分は、自分の中のシンジとして見えるあるシーンの人物と風景を書いて……(『シン・エヴァ』を)観ていない人でもそれなりにわかってもらえると思うのですが、ご覧になった方は誰のことを言っているのか伝わるようにと。

佐藤 『シン・エヴァ』を観てから一番グッときたのはラスサビですね。(ラスサビの歌詞を読み上げて)緒方さん、“そういうこと”なんですか?

緒方 いや、わかりません(笑)。作品自体がそうだと言ってるわけではなく、シンジの役柄であった私が思っている気持ち。これは舞台挨拶のときにちょっとだけお話ししましたけど、TV版の最後はシンジが皆さんに「おめでとう」と言われ「ありがとう」と言って終わる。でも今回は、自分だけが作品世界に残されている感じがあって……そんな中で、感じている気持ちがそうだということでした。

――レコーディングの様子を教えていただけますか?

佐藤 レコーディングのときの緒方さんは、ものすごくセンシティブでした。僕よりもこの曲のメロディのことも理解していたかのように思うんです。僕は普通に音楽家として、こういうメロディでこういうコード進行でこういう演奏であれば、これぐらいの声のトーンがハマるみたいな感覚があるわけですけど、この曲の緒方さんはことごとくそうではない方向に行かれるんですよね。なので、途中からこれはそんな普通の音楽のセオリーで作れるものではないんだなと思いました。ある種、この曲の命運はもうシンジくんに委ねるしかないなって。

緒方 ごめんなさい(笑)。この曲に関しては、そういう気持ちで書いてしまったんで、どうしてもシンジの声で、シンジが感じたこととして喋るように歌わないと、成り立たない気がして。そこをディレクターの芳賀さんが拾ってくださり、そのような流れになりました。

佐藤 すごく深い経験をさせていただいたと思います。

緒方 ボーカルを録ったあとにストリングスを入れていただいて、音楽的にふくよかになっていく過程を聴くたびに、完成版を聴いたら泣いてしまうかもしれないと思っていました、自分の歌なのに(笑)。出来上がったものを聴いたとき、制作チームみんなが「これは(曲順を)最後にするしかないよね」と。「Repeat」を聴き終えたら、またアルバムをリピートして聴いてもらいたいという意味も込めて。

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