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INTERVIEW

2021.05.19

緒方恵美×佐藤純一(fhána)、オーダーは「もしもシン・エヴァに挿入歌があったら」――アルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』スペシャル対談

緒方恵美×佐藤純一(fhána)、オーダーは「もしもシン・エヴァに挿入歌があったら」――アルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』スペシャル対談

アーティストはエネルギーチャージをする仕事

――現状のライブエンターテイメントについて伺いたいのですが、従来のライブが難しくなった状況のなか、fhánaはオンラインライブなどの活動を積極的に行なっています。活動を自粛したり行き詰ってしまっているアーティストもいるなかで、fhánaや佐藤さんはなぜクリエイティブに活動できているのでしょうか?

佐藤 ピンチはチャンスという言葉は、この状況下で軽々しく言えるものではありませんが、今までの常識が壊れる、今までのやり方が通用しなくなる状況というのは、無理矢理でも何か新しいことを捻り出さなければいけないタイミングなわけです。有観客のライブができないから仕方なしに配信ライブをやるのではなく、これを機にオンラインならではの面白さや表現を追求しようとしました。リアルタイムでユーザーと交流しながら、次のセットリストをユーザーの投票で選んでもらうとか、音楽番組みたいにトークコーナーにゲストが出てきて歌ってもらったり、メンバーが自撮りカメラでセット上を歩き回りながら演奏するパートを作ったり。場面によってはドラマの撮影のようにカット割りを作り込んだりもしました。決して予算をふんだんにかけられるわけではありませんが、限られた条件の中でセットの作りや撮影の仕方や照明の演出もオンラインに合ったものを考え抜きました。そしてそれらをオンラインライブを重ねるごとにブラッシュアップしていきました。そういう工夫をすることで“ちゃんとライブをしている”手応えや充実感もあったし、見てくれたお客さんも喜んでくれたと思います。

――この状況を柔軟に活かした、新たな楽曲作りもされています。

佐藤 fhánaは去年から今年にかけて「Pathos」と「Ethos」という曲をリリースしました。「Pathos」は2020年の最初の緊急事態宣言中にメンバー4人だけでリモートで作った曲で、towanaの歌詞も“悲しくない話をしよう”という、今言える精一杯のポジティブな言葉を使って表現しました。「Ethos」はライブでファンの皆さんと一緒に歌えないから、ファンの皆さんに送ってもらったコーラス音源をミックスし、fhánaとのコラボ曲として作り上げました。先ほどの話に少し立ち返るのですが、今の状況にならなければこれらの曲を作ることはなかったという意味では、仕事として割り切るというよりも、自分の経験や状況がダイレクトに影響するからこそ、出来た曲でもあるんです。fhánaが結成して最初に作った「kotonoha breakdown」という楽曲は、その年に起こった東日本大震災のことや、その後、色んな意見が出てきて論争が各所で起こり、世の中が分断しているような状況を歌にしました。だから、「なぜ柔軟に活動できるんですか?」と問われると、元々そういうふうにしか活動できないんですと答えるしかないんですよね。

緒方 私にとって初めての無観客ライブが昨年6月6日のバースデーライブでした。そのときまでは、これを目標にして頑張ったのですが、やはり勝手が違って打ちのめされて、無観客ライブがかなりのトラウマになっていました。その後この1年は、途中から少人数での有観客ライブを積んでいくなどの試行錯誤を繰り返し、今年の4月21日、スペースシャワーTVの番組(「precious STAGE ~緒方恵美~」)で4曲歌わせていただけることになり、バンドメンバーとライブパフォーマンスをしたんです。無観客ではありますが収録なので無観客ライブとはもちろん違うのですが、いろいろな経験を通した結晶的な収録になりました。このとき、私は腰を痛めて簡易手術をして無理やり退院してきた状態だったので、体は辛かったのですが、チームのみんなが色々と知恵を絞ってくれて、なんとか無事に。それは間違いなく、この1年の積み重ねのおかげ。そんな今は去年と違う何かができるんじゃないかという気がしています。みんなが苦しんでいるときに、楽しいことや嬉しいこと、幸せな気持ちになれることを届けるのが、私たちの仕事ですから。

――政治が動くべきときに動かなくて皆が苦しんでいたり、悔しい思いをしているときに立ち上がるって、やっぱり緒方さんはロックアーティストですね。

緒方 こんなときこそ蹴散らす音楽を!(笑)。ロックの定義は色々あるけど、元々は反骨精神や、何かに対して物申していく部分から。大人は忖度して「政治家も頑張っているから……」と言うものかもしれないけど、私は先ほどのお話の通り、14歳の精神を持ち続けているので、そこを利用してぶちかましていきますよ!(笑)。

――緒方さんが14歳の気持ちを持ち続けられるのはなぜでしょう?

緒方 「エヴァ」のせいです(笑)。だけじゃなく、そうさせてくれている、花子くん(※『地縛少年花子くん』で緒方が演じるキャラクター)や苗木(※「ダンガンロンパ」シリーズで緒方が演じるキャラクター)や色々な役や作品のおかげです。

佐藤 緒方さんからお話を聞いたり、実際にやられてる活動を見ていると、単に反抗しているのではなく、根本にはみんなを助けたい、利他の精神があると思うんですよね。

緒方 自分を活かすためには人を活かすしかないから。「私だけが大事」なんて言ってると生きていけないでしょ? 私1人では作物も作れないし、建物を建てることも出来ない。我々アーティストが出来ることは、皆さんの心に響くステージを作り、「ここに来てよかった。大変だけど頑張っていこう」と思ってもらえるよう、エネルギーチャージをしていただくのが仕事。前からそうだと思っていたけど、今は特に、自分だけが気持ち良いマスターベーションみたいな音楽や芝居をやっているご時世ではない。今こそ、そうしなきゃ。

佐藤 人って、自分のためだけだと、そんなに頑張れないと思うんですよね。誰かのために頑張るときに、より大きな力を発揮することが出来る。

緒方 若い頃のある一時期までは、まったく根拠のない自信を持っていて、のし上がりたいとかモテたいとか、そういう言葉だけで頑張れるわけですよ。得てしてそういう人がこういう業界に入ってきやすい(笑)。で、「自分は通用しない……何故なんだ?」っていうところからやっとプロの第一歩が始まる。声優業の話でいえば、90年代にデビューして3年位で人気声優と言われる状況に身を置く経験をしましたけれども、これは別に自分が素晴らしいから人気があるのではなく、たまたま人気の役を演じているから。じゃあどうしたら自分の力で進めるかを考えても、よくわからないし、わかるわけがないんです。自分のためだけに頑張るには限界があるから。この抱えているモヤモヤは、自分のためだけにやっている段階では、どうやってもクリアにならないんです。

佐藤 緒方さんであってもモヤモヤが消えず今も続いているというお話、すごく響きました。僕もモヤモヤがずっと消えないんですよ。fhánaでも活動させていただいてるし、曲も色んなところで制作させてもらっている状況はとてもありがたいのですが。モヤモヤは消えないけれども、それに打ち勝つには後悔しないように、誰かのために自分に出来ることを常にやっていくしかないんだということを、今日の緒方さんのお話で学びました。

緒方 今はコロナ禍だけど、なんとか頭を使ってとりあえずのベストチョイスをしていかないと、後々後悔すると思うから。この1年間、何とかしようと足掻き続けた人は少しずつ向かい方がわかりつつあるけれども、一旦歩みを止めてしまった人たちは、そこからどう再開していいのかわからないという声をよく聞きます。一度止まると、次に動くときにきっかけがないと難しくなってしまうのかもしれない。

佐藤 もう一度飛び立つときにはよりエネルギーが要りますからね。たとえ低空飛行になっても飛び続けていることが大事だと思いました。我々も地面に落ちそうになっても持ち直して、まだなんとか飛行はできているので。低空飛行でも、飛んでさえいればちょっとした力で前に進むことが出来るし、良い風が吹けばまた高く舞い上がることも出来る。でも、地上に降りて止まってしまったら、そこからもう一度空に飛び立つにはすごく力が必要ですから。どんなときでも飛び続けている限りは、希望は残っていますからね。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉


●リリース情報
「劇薬 -Dramatic Medicine-」

発売中

品番:LACA-15844
価格:¥3,300(税込)

01. Never, ever
作詞:em:óu/作曲・編曲:HISASHI
02. パンドラ
作詞:em:óu/作曲・編曲:黒須克彦
03. 祈り
作詞:em:óu/作曲:草野華余子/編曲:古川貴浩
04. Buster Master
作詞:em:óu/作曲・編曲:ANCHOR
05. ラボラトリー・マリオネット
作詞:em:óu/作曲・編曲:宮崎京一
06. Precious shining star
作詞:em:óu/作曲・編曲:manzo
07. Like a human
作詞:em:óu/作曲:芳賀政哉/編曲:中土智博
08. Try Out, Go On!
作詞:em:óu/作曲・編曲:伊藤 賢
09. Breaking Dawn
作詞:em:óu、ASH DA HERO/作曲・編曲:ASH DA HERO
10. Repeat
作詞:em:óu/作曲・編曲:佐藤純一(fhána)

関連リンク

緒方恵美  公式サイト
https://www.emou.net/

緒方恵美  公式Twitter
https://twitter.com/Megumi_Ogata

fhána 公式サイト
http://fhana.jp/

佐藤純一  公式Twitter
https://twitter.com/jsato_FLEET

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