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INTERVIEW

2020.11.26

内田真礼の新たな音楽表現がここに!最新両A面シングル「ハートビートシティ/いつか雲が晴れたなら」リリース記念、内田真礼×TAKU INOUEとkz(livetune)スペシャルトークセッション

内田真礼の11枚目となるシングルに収録されるのは、TAKU INOUEとkz(livetune)が作詞曲と編曲をクロスさせた2曲の新境地。彼女が新しい音楽表現へと踏み出すことを決めた心境と、そこに至るまでの葛藤について、2名のクリエイターも交えた鼎談形式で語ってもらった。本記事では、発売中の最新号「リスアニ!Vol.42」掲載のインタビューに増補加筆したスペシャルエクステンド版をお届けする。

――今回のシングルは特殊な制作方式となっていますが、まずはこの形に至った経緯からお聞かせください。

内田真礼 プロデューサーの冨田明宏さんから「次はこうしようと思う」という話があったのが、6月頃。コロナ禍の状況下で、もしかすると今までスタンダードだった手法や形式が変わってしまうかもしれないという思いがあり、それならまったく違う角度から音楽をやってみようというお誘いでした。DJという私の活動的には新しいタイプのクリエイターの方と、しかも二人のクリエイターの役割をクロスして3人で作る楽曲なら、今までの形から一歩踏み出す音楽になるのではないかと。

――今の世情を受けて、新しいスタイルを提示した結果であると。

内田 内田真礼チームって、その時点まで築いてきた基準をすぐにぶっ壊すんですよ(笑)。今回も冨田さんがまったく新しいアイデアを持ってきたので最初は驚きました。

――そこからTAKU INOUE氏とkz氏の2名を迎えて楽曲制作に入るわけですが、事前に「こういう楽曲にしたい」という話し合いはされましたか?

内田 収録する2曲とも同じテーマを扱ったうえで、“近い私”と“広い私”に分けようとお話がありました。とても近い距離感の、これまでの私から続く曲と、今の時代を描くような大きい曲というイメージで。

――気持ち的な面でも普段の制作とは違いましたか?

内田 そうですね……本当はコロナ禍に関わる曲を作るのには抵抗があって。私自身は今までと同じように音楽を作りたくて、ゴリゴリのバンドサウンドで「世の中がどうなっても私は変わらないよ!」というスタンスでいたかったんです。でもそこからものすごく話し合って今しか作れない音楽を作ろうという結論に至り、結果今回のような方向性になりました。

――上がってきた楽曲を聴いてみて第一印象はいかがでしたか?

内田 最初はシンプルな状態のデモが届いたので、完成形がまったく想像できませんでした。本格的な編曲は歌の収録後だったんですよ。

――レコーディング時点でそれぞれの楽曲はどんな状態だったんでしょうか?

内田 TAKUさんの曲「ハートビートシティ」は軽めにイノタク節編曲がしてありました。だけど完成してみたらまったくの別物になりましたね。kzさんの曲「いつか雲が晴れたなら」は本当にシンプルな状態でしたが、こちらも編曲によってどんどん壮大になっていって。第一印象でいうと「ハートビートシティ」は一発で好きだと思ったんですが、「いつか雲が晴れたなら」は自分の気持ちとリンクするように歌詞を少し調整していただいて。kzさんとも話したんですけど、世間に暗い空気が漂っているなかで、現状を生きていこうというのがkzさんの意図で、その空気を壊したいというのが私の気持ちだったので、そのスタンスのズレが原因だったんだという結論になりました。そのズレのすり合わせができて、私の気持ちとも繋がる曲になったと思います。

――たしかに「いつか雲が晴れたなら」という曲名からして待ちのスタンスですよね。

内田 そうですね。歌詞のニュアンスも当初はいわば私とファンのみんなの曲だったんですが、7月の配信ライブをやってみて、自分の能力や歌が全然足りてないなと思ってしまって。お客さんが入った状態の会場なら、盛り上がりも込みで自分のパフォーマンスに見えるんですけど、何もない空間だと素の自分をさらけ出された気がして、他人に寄り添うほどの余裕がなくなってしまって……。そういう心境で制作に突入したので、「私は手を引っ張ることはできないけど、みんなと同じ空を見上げている者同士だよ」という距離感の曲になりました。だから“きみ”という言葉は最後に1回しか入ってないんです。でも今思い返すと「なんでこんなに刺々しかったんだろう……」と(笑)。やさぐれて気が立っていたのかもしれません(笑)。

――歌録りはいかがでしたか?

内田 まず2曲ともお二人から「力を入れないでください」というオーダーがありました。今までの私の曲って、地声で力いっぱい歌うものが多くて、自分の音としてそれが基本で正解だと思っていたんです。でも今回は力を抜いて広い感じで歌ってくださいという指示があって「いったいどうやれば……?」と。こんなに脱力していいのかっていう歌い方なうえに、裏声を使ってもいいと言われて、サビはパワーの見せどころだと思っていたし、裏声なんてこれまでほぼ使ってこなかったので「そんなことしていいんですか……?」みたいな(笑)。でも2曲とも最終的な完成形を聴いたらきっちり成立していて、こういう私もアリだと思えるような不思議な感覚でした。

――正解はわからないけど、ディレクションに従ってみようと。

内田 そうです、でも楽しかったですね。これまでは己のすべてを出し切らないと音楽って成り立たないような、どこか張り詰めた気持ちだったんですが、そうじゃない楽曲を作れたという感覚です。変わってしまったというより、変われる時を迎えているというか、こういう私もアリだなと受け入れられつつある今という感じです。

――そうやって張り詰めた状態でも、「ハートビートシティ」は聴いた瞬間から好きだと思えたわけですよね。

内田 そうですね。この曲は最初に聴いた段階でメロディやリズムをかわいいなと思えたんです。すごく純粋で夢を見ているようで、曲が想いを直接伝えてくる感じというか。私も自分から行動するのが好きなので、TAKUさんと曲を作るのは初めてなのですが、最初から気持ちが通じていた感じです。

――「いつか雲が晴れたら」のレコーディングはいかがでしたか?

内田 この曲は、曲自体にストーリー性があるので情景がパッと思い浮かびましたね。ディレクションが面白くて、kzさんから「ここの頭から最後まで、映画の予告を作れるくらいの感じで歌ってください」って言われて。映画の予告編とかって作品紹介の流れがあってタイトルが出て、最後に一言だけセリフが入ったりするじゃないですか。「ああいう感じで」って。ちょっと芝居っぽいというか、本当に歌で物語を1本表現するような感覚でした。

――そういったディレクションが来たときに対応はすぐできるんですか?

内田 声優なのでむしろそういうほうがやりやすいんです。kzさんが面白いのは、ディレクションがわかりやすいけど抽象的なんですよ。「こういう感覚なんだけど、わかります?」「わかります!」みたいな感じで。

――歌録りを経た完成版のアレンジについては、このあと作家のお二人を交えて鼎談で語っていただきましょうか。お一人のうちに言っておきたいことはあったりしますか?

内田 そうですね、「いつか雲が晴れたなら」は歌録りの時点でTAKUさんが軽く編曲に着手されていたので完成後が想像できたんですけど、「ハートビートシティ」はデモと完成版がほぼ別物になっていたので、並べて聴き比べしてほしいです。

――完成版から聴いた身としては、逆に別の形が想像できないですね。

内田 キラキラした雰囲気にも方向性の違いってあるんだなと思いました。編曲でキラキラの場所が変わった感じです。大阪と名古屋みたいというか……。

――すみません、一気にわからなくなりました(笑)。あとで詳しくお聞きしましょう。ちなみにお二人に質問してみたいことなどはありますか?

内田 そうですね……「私のことどれぐらい知っていましたか?」とか(笑)。

――(笑)。ということで、ここからは鼎談に移りましょう。まず、内田さんが気にされていたのが「どれぐらい私のことを知っていましたか?」という件だったのですが……(笑)。

TAKU INOUE 同じコンテンツには関わったりしていたので、初めましてではないのですが……(笑)。

内田 お会いしたこともありますもんね(笑)。

kz(livetune) 僕は以前楽曲で一度関わらせていただいたこともありましたが、誕生日とか血液型まで完璧に把握してるかといわれると……まさかここでそんな質問されるとは思ってなかったな(笑)。

――でも大事ですよ。何を思って作曲したかという話ですから。

kz あと野球がお好きだったり、そういう周辺情報も知ってます。

内田 うわーよかったー。

kz というかレコーディングでそういう話してたじゃないですか(笑)。

――作詞作曲に入られる前に、お二人の間で何か話し合いはあったのですか?

TAKU 最初は特になかったよね。

kz まず冨田さんと僕らでシングル全体の方向を決めて、ざっくりラフな作曲デモを作って、それお互いが編曲する、という話になってたはずなんですが……僕は「いつか雲が晴れたなら」をシンプルにピアノとドラムとベースだけで作曲してたのに、TAKUさんは「ハートビートシティ」をデモの段階でお洒落なストリングスとかが入った編曲をすでに施していて。

TAKU 楽しくなっちゃって。

kz 「ズルじゃん‼」ってなりましたね。

TAKU 僕は「これは良い曲だぞ」って自分で思って(笑)。

kz 「さては内田さんの印象を良くしようとしてるな……」と。

TAKU それは否定できない。

――デモの段階でTAKUさんが入れていた要素は、編曲で残したり反映されたりはするのですか?

TAKU 一応要素は引っ張ってきてもらってるよね?

kz 引っ張りました。もっとシンプルなデモだったら、もしかしたら全然違う編曲になってたかもしれない。TAKUさんが作ってた雰囲気を消すのはもったいなかったので、僕は編曲でそこは残しました。一方で僕の「いつか雲が晴れたなら」のほうはほぼ味付けしてない素のデモだったので……。

TAKU でも僕も、パッとこんな世界観かなって思いついたよ。

kz 僕もこうくるかなと軽く予想はしてました。

TAKU デモをあくまで素材にしようっていう話だったからね。

――内田さんが楽曲のイメージを“近い”“広い”という言葉で説明されてましたが、その担当区分はあらかじめ割り振られていましたか?

TAKU 近いほうの「ハートビートシティ」が僕で、広いほうがkzでという話は決まってましたね。

kz 僕は広くしがち人間なので(笑)。

――得手分野があってということなんですね。今回内田さんにどんなメロディを歌わせようとか、内田さんだからこそこうしたという部分はありましたか?

TAKU 僕はメロディはパッと出てきたんですけど、歌詞を結構悩みました。生身かキャラクターかに関わらず、一人の人間が歌う曲につける歌詞っていつも悩むんです。

内田 歌詞はとても私っぽいと思いました。さっきも話してたんですけど、2曲をパッと出されたときに「私のこと知ってるのかな?」って思うぐらい。

TAKU 明確なオーダーがあったからね。歌詞は視点が広くなると歌う人の個性は薄くなりがちだし。

kz 難しいのが、声優の方の曲って基本的に視点は狭くなりがちなんですよね。広く世界全体に歌おうとすると、本人の視点よりもっと俯瞰の視点になっちゃうので、個人の存在感って薄れるんですよ。だから内田さんの感想は直観的に正しいんです。あ、だからさっきの質問が出たのか! 一回一緒に仕事してるのにあの質問ってどうしてかと思ってた!(笑)。

内田 (笑)。でもその歌詞のちょっとした違和感を「こう思ってるんです」と伝えたら「なるほどね、わかった!」って調整してくれて、良い歌詞に仕上げてくれました。

kz でもそこまで大枠を変えたとかではなくて、歌詞の一言だったり言い方を少し変えたぐらいですよ。

TAKU でもなぜか視点が更に広くなった印象があるよね。

kz カメラが遠くなりましたね。

TAKU 個人としての内田さんの存在が薄れたというか。

内田 完成した歌詞はkzさんの優しさがものすごく出てると思います。私はバトルだったら前衛タイプなんですよ。オラーって直接殴りに行くタイプ。でもkzさんはヒーラーなんです。

kz 間違いなく後衛ですね(笑)。実際いつもゲームで職業選ぶときは魔法使いとかで、戦士は選ばないですね。

内田 私のガーッといきたい部分にkzさんの魔法を取り入れてくれた感じになってますね。

TAKU 魔法戦士だ。両方の特性が合わさった曲だ。

――お三方が揃ってのレコーディングの現場はいかがでしたか?

TAKU 「ハートビートシティ」は自分がメインでディレクションをやりまして、そんなに苦労した覚えはないですね。

内田 楽しかったですね。お二人とも踊ってましたよね。

TAKU 「いいじゃんいいじゃん!」って(笑)。

kz 二人いると片方は手持無沙汰になるから(笑)。

内田 録音が終わってブースから出たら、「聴きながら踊ってたよ」って言われて「踊ってた……?」って(笑)。

kz 体が無意識に踊れない瞬間があると、多分どこかが良くないテイクなんだと思うので、一人でディレクションするときも立って踊ってることがありますね。

内田 座らずにディレクションするんだ(笑)。

――引っ掛かりポイントの検出方法なんですね。

kz そうですね。最近の僕はそういうやり方が合ってるなと。

――レコーディングにもお二人とも立ち会うのは、元々決めていたのですか?

TAKU 決めてました。そのほうが単純に楽しいし、ジャッジする視点は多いほうが良いこともありますし。

kz しかも編曲するのが作曲者とは別人なので、歌を聴いて編曲のアイデアを思いつくこともあるし、お互いいたほうがいいだろうと。

――「いつか雲が晴れたなら」のレコーディングはいかがでしたか?

kz こっちは僕がディレクションをやって、TAKUさんは後ろでちょろちょろしながら……。

TAKU 「尊い……尊い……」ってボソボソ言うだけで。

kz テイクの感想聞いても「良い……」としか言わなくて。

――レコーディング見学に来たファンみたいになっていたと。

kz なんか……いてもいなくても変わらなかったなって(笑)。

TAKU あのときの僕はいなくてもよかったなって思ったね。

kz さすがにどうかと思って「どうすかTAKUさん?」って聞きましたからね。

TAKU 「良いっすよ、最高」って、全肯定おじさんになってた。

kz でもそれぐらい録れた歌が良かったんですよ。2曲の歌の対比もあったし。

内田 本当に楽しいレコーディングでした(笑)。

――内田さんは力を抜いた歌が初挑戦に近いとおっしゃっていました。

TAKU そうは思えないよね。

kz めちゃくちゃ良かったですよ。

内田 実はレコーディング終わってからも「どうだったかな……」って不安で。録った歌をラフに乗せた状態を聴いてる限りは、全体像が想像できなくて。ハモりもまだ合わせてなかったし、こんなに力抜いていいのか、裏声ってアリなのか……って。

TAKU そんなレベルだったんだ。

kz 基本的にいつも全力ストレートな歌い方ですもんね。

内田 そうなんです。頭の「雨が降り続いていた」の部分とか、「これが正解としてパッケージされるんだ」って。

TAKU 確かに結構脱力して歌ってますもんね。あそこめちゃくちゃ良いですけどね。

kz あのテイクが録れた瞬間にもう我々としては「勝ったな」って感じでしたよ。

内田 そんなだったので2曲とも完成するまでめっちゃ不安でした。

kz 「ハートビートシティ」もですか?

内田 「ハートビートシティ」もノれてはいたんですけど……。

kz これもサビは結構力抜いてるんですよね。

内田 最後の“愛してる”もロボットみたいに歌ってて、気持ちを込めなかったじゃないですか。

TAKU そうそう、そこだけめちゃくちゃ録り直したんだ。感情の入れ方をどうしようか悩んで。

――確かに放っておいたらキメにいってしまいそうなフレーズですよね。

内田 そうなんですよ。すぐキメちゃうんです。声優が出ちゃうんですよ(笑)。

TAKU 演技の心得がある方だからこそ、重いセリフはそうなりますよね。

内田 笑顔じゃない感じとか、難しくてあれこれ試しましたね。

TAKU ここは結局あんまり感情が入ってないテイクにしたんですよね。

kz ここだけアフレコ現場みたいでしたね。

内田 感情を伝えない伝え方、真顔でいることの難しさを勉強しました。

kz 2番サビとかあれこれディレクションしてましたね。「天井をとっぱらってみてください」とか。

内田 その場面に天井があるかないかみたいな話をしましたね。「外なので広く」とか。

TAKU あと「光の玉に弓矢を放ってそれがバタっと崩れて」とか。

kz あー僕が言ってましたね。

――めちゃくちゃ抽象的ですね。

kz 「ここで光の雨が」とか言って。

内田 でもそういうふうに言われると「おーなるほど!」ってわかる(笑)。

TAKU その横で「ちょうど僕もそう思ってたんだよね!」って(笑)。

――内田さん単独のインタビューで「kzさんのディレクションが抽象的で、しかもわかりやすかった」とおっしゃっていました。

kz わかりやすいと言ってもらえるのはありがたいですね。イメージの共有ができているということは、それだけ曲を同じ角度から見られているということなので、こっちも安心してディレクションできます。

内田 良かったー。

kz 日頃からマジで抽象的なので、不安だったんですよ(笑)。伝わるときとそうでもないときの打率がバラバラだし。でも声優の方との仕事が増えてきて思ったのは、皆さん多分アフレコなどで演技についてのディレクションを受けることが日常じゃないですか。だから音楽的な言葉より、感情の込め方とかそういう方向で話をしたり、曲をシーンごとのイメージでとらえてもらった方がやりやすいのかなと最近思ってます。

――歌のレコーディングを経てそれぞれ編曲に入られるわけですが、お互いの間でこういうアレンジをしようという話し合いはありましたか?

TAKU なかったですね。お互いの曲のリミックスはやったことがあったので、「いつもみたいな感じで」というか。

kz 全幅の信頼があるので、「どうせ良いものしか出てこないでしょ」みたいな感じ。

TAKU とりあえずお互いやってみますか、と。

kz 途中経過を聴く必要もないかなと。結局その後はグループトークで「神曲」としか送ってないですよね。

TAKU だいたい形になった頃に「こんなんでどう?」って送ったら「神!」とだけ返事がきて終わった(笑)。

内田 めっちゃいい会話(笑)。

TAKU 「いつか雲が晴れたなら」はそもそも世界観が出来上がっていたから、あまり苦労はしなかったですね。ピアノのトラックは作曲段階で入っていたテイクを使ったりしましたし。

――では改めて各曲の印象やエピソードなどを話し合っていただければと思います。まずは「ハートビートシティ」から。

TAKU 「ハートビートシティ」は超ハッピーな夜の雰囲気の曲になったなと思います。「いつか雲が晴れたなら」との対比がシングルとして良いバランスですよね。デモはもう少しフワっとキラキラしてる感じだったんですけど。

kz もっと深めの夜のイメージでしたね。

TAKU そこから明るい夜になったよね。ディスコ感というか、「楽しくやろうよ」的な雰囲気が出た。

kz デモは印象として深夜1時だったんですけど、それを編曲で21時か22時ぐらいにしました。

TAKU そんな感じだね。これから夜が始まる感じ。実は最初に編曲の初稿をもらったときはもう少しシブめの音だったんですけど、もうちょいキラキラさせてほしいって僕からリクエストしました。

kz 大筋はほぼ変わらないんですが、いくつかの音色でいつもの僕のキラキラ感を聴きたいと。

TAKU あの“kzキラキラ”が欲しくて、そのほうがコラボ感も出るし良いんじゃないかと。

内田 たしかにそのコラボ感は見えたほうが嬉しいですよね。

――デモから編曲による変化は、さっき内田さんが面白い喩えをされてましたね。

内田 大阪と名古屋の違い!

TAKU え? まずどっちが大阪でどっちが名古屋なの?

kz 解説がほしい(笑)。

内田 なんかこう、東京と大阪ほどの違いじゃないんですよ。変化はもう少し小さい。どっちがどっちとかじゃなくて、雰囲気というか、街の景色が変わったなっていう。

kz ああーそうですね。TAKUさんは基本的に大人の街なんですよ。

TAKU 六本木みたいなイメージか。

kz 僕の街はお酒は出てくるけど精神的キッズ感というか、テーマパーク感が出る。現実だと東京ディズニーシーの、アメリカンウォーターフロントあたりのキラキラした夜景が一番近い気がしますね。

TAKU 言われてみるとたしかにそういう変化だね。

――最初に聞いたときはさっぱりわかりませんでしたが、綺麗に言語化されて納得しました。

TAKU 僕もあんまりわかんなかったけど今納得したわ(笑)。それが大阪と名古屋なのかはいまだにわからんけど。

内田 うまく喩えられてなかっただけです(笑)。

kz でもそういうことですよね。場所が違うっていうのは。

TAKU 違う「シティ」になったなっていうね。

――元々TAKUさんが作られた時点ではもう少し大人の街の深い時間帯だったと。

TAKU 自分の中ではそうでした。イメージ的にも、まさしく六本木の深夜2時ぐらいかな。

内田 ビートとか音色に重さがありましたよね。

TAKU そうかも。それが編曲でもっと軽快になりましたね。

kz 両A面シングルという話も聞いていたので、「いつか雲が晴れたなら」がA面で「ハートビートシティ」がB面とかだったらまた違う方向性になってたと思います。

TAKU 僕は実はそのつもりで作曲してた。「ハートビートシティ」が2曲目みたいな思い込みで。

kz 両A面って最初に決まってましたよね?

TAKU 決まってたけど、曲順の雰囲気ってあるじゃない。流れ的には雲が晴れたあと街に遊びに出るみたいな。

kz あーなるほどね、TAKUさんはこうやってバランスを取るタイプなんですよ。僕は「僕がA面だ!」って殴り合うタイプなので(笑)。お互いの性格が出ましたね。

――作家としての性格の違いが出るのは面白いですね。

kz 実は最初にデモ聴いたときに起伏を抑えてきたなとは思ったんですよ。なるほどそういう意図があったんですね。腑に落ちました。

――kzさんは「ハートビートシティ」の感想はいかがですか?

kz TAKUさんは基本的に夜のイメージなんですよ。夜大好きっ子なんで。ほとんどの曲のイメージは夜ですよね。

TAKU たしかに多いね。

kz その夜の解釈が僕とは違うなとずっと思っていて。

TAKU ディスニーシーと六本木っていう例えはすごくよくわかる。

kz 僕はテーマパーク派なので、そこの違いが見事に出せたのでやった甲斐がありましたね。方向は同じだけど細部の解釈が違うっていうのは、編曲で出せる差の面白さだと思います。

TAKU そうだね。

kz 僕自身は普段ストリングスや管楽器を多く使うタイプではないんですけど、今回は作曲の空気に引っ張られたというか、あまりやらないことができて楽しかったです。メロの溜め方とかも自分とは全然違うので、TAKUさんの作り方からの学びも多くありました。あと編曲しながら歌を単体で聴いていると、ボーカルディレクションの方向性や基準も自分とは違うなと感じて、他人のディレクションって勉強になるなって。

TAKU それは本当に思う。自分もたまに他人のディレクションに触れる機会があると勉強になる。

kz 「いつか雲が晴れたなら」もTAKUさんだったら違うディレクションになるでしょ?

TAKU どうかな。変わるかも。

kz 微妙に変わるじゃないですか。そこも含めて色々聴けて面白かったです。

――内田さんの感想もお聞きしましょう。

内田 「ハートビートシティ」は、最初と完成後の印象が私の中でガラッと変わったんですよ。そこは今回のクロスして楽曲を作る手法の面白さだと思いました。歌い方とかも含めて、私なんだけど私じゃない曲というか、一歩踏み出す感じの音楽を作れて、すごく好きになりました。でも今後歌ったらどうなるんだろう……。

TAKU そうか、ライブとかで歌ったらまた変わるかも。

内田 ステージで自分はどう歌ってるんだろうっていう。この曲はMVがブランコに乗ってる映像なんですけど、そのイメージも私の中にはまったくなかったので。

TAKU 僕らも今聞いて「ブランコ!?」って思ってますよ(笑)。頭の中にはハイジが出現してます。

内田 でもあれぐらい長いブランコでした。スタジオの天井のほうから吊る長いブランコがあって、結構な勢いでこぎましたよ。でも今日話していて、MVのイメージとkzさんのテーマパーク感はちょっとリンクしてるのかなって思います。

kz あー、テーマパークとくくればたしかに。

内田 ものすごい数の風船の中でブランコに乗ってるんですよ。

kz いわゆるアトラクション的な。

TAKU でも監督が撮影の準備をする段階では、編曲まで完成したものを聴いていない可能性ありますよね。

内田 たしかに! 曲が完成したのは撮影の準備期間ギリギリぐらいでしたもんね。

TAKU そういう意味では曲のテーマパーク感は最初から出てたのかもしれない。

kz 逆にあの六本木感あるデモを聴いてテーマパークを作り上げたってことですよね。

TAKU まあ六本木も大人のテーマパークだし。

kz 全然意味変わってくるじゃないですか(笑)。

内田 歌詞の「踊るパレード」とかもテーマパーク感ある要素なのかも。

kz そうですね。2番サビに“魔法”とかもあるし。

TAKU たしかに。「空飛ぶほうき」とかもそうか。

kz 実は編曲にあたって僕が一番フィーチャーした部分って、それらが出てくる2番サビなんですよね。歌詞も美しくて好きなんです。

――それぞれの目線から見て、個人的に好きなポイントはありますか?

TAKU 僕はそういう意味だと“大袈裟”っていうワードかな。

kz あぁー! そこ完全にイノタクワードセンスですよ。

TAKU 90年代のトレンディドラマみたいなイメージだったんですけど。最近「大袈裟だって構わない」なんて言わないでしょ。

kz この曲の最もイノタクだなっていう部分ですよ。

TAKU 声質とかも考えると、内田真礼さんの曲としても合ってるなと思って気に入ってますね。

kz 僕もTAKUさんの歌詞は好きなんですけど、今回は比較的TAKUさんっぽくないんですよ。特に2番サビとか。こういう広めの視点の歌詞ってTAKUさんのイメージになくて、もうちょっと個人的な視点で美しい歌詞を書くイメージなんです。

TAKU (両腕を広げて)この曲のサビはこう歌う感じだよね。

kz そうそう。こういう手を広げるタイプのTAKUさんってあんまり見たことなくて良いなと。僕は手を広げがちな人間なので、この歌詞すごく好きなんですよね。あと“さんざめく”ってワードは僕も好きです。

TAKU いいよね。わかる。さんざめきたいよね。

――内田さんはいかがですか?

内田 私が好きなポイントは、Aメロが静かに流れるのに、そこからパーンって展開するところです。レコーディング時に頭で描いていた絵からまったく変わったんです。進化した感じがして。

TAKU ここはデモのときより緩急がつきましたよね。ここで踊れーって感じで。

内田 移動中の車で聴いたとき、車内がダンスホールになった感じでした。

TAKU いい感想ですね。

内田 キラキラしていて、自分の曲になかった雰囲気なんです。これまでサビ前のキメって「ここから強くて速い曲が始まるぞ!」みたいな感じだったのが、これはゆったりと心地良くて。お母さんに聴かせたら「めちゃくちゃ歌上手いね」って褒められて嬉しかったです(笑)。「すごく聴きやすい声だね」って。

TAKU お母さんに喜んでもらえるのは嬉しいですね(笑)。ご家族って良くないと思ったら素直に言うじゃないですか。

kz 一番本音で言い合う関係性でその感想が出てくるのはいいですね。これは予想なんですけど、展開がそうなった理由として、僕はサビ前って音を上げがちなんですよ。でもTAKUさんは割と下げるんです。だからTAKUさんが作曲してないとこの曲の雰囲気は生まれなかったんじゃないかと。

TAKU そうか、そういえばそうかもね。

内田 ほんとだ。「ハートビートシティ」の“ここで”と「いつか雲が晴れたなら」の“ここに綴ろう”の違いですよね。

kz 僕もTAKUさんも割とABメロを落としてサビを盛り上げる手法はやるんですけど、その上げ方の違いはあるなと。僕もこういう突然ドカーンみたいな上げ方はあんまりやらないので、これは完全にメロに引っ張られた形ですね。

――「いつか雲が晴れたなら」についても伺いましょう。

kz これはめちゃくちゃ良い歌が録れたっていう、もうそれだけで満足です。

TAKU ほんとにハチャメチャに良いテイクだった。抜群の聴き心地良さです。

――それは内田さんが話していた歌詞の調整なども含めた、ディレクションの賜物だったんでしょうか。

内田 そうですね。2曲目ということもあり関係性もできていて、歌詞への理解度も深まっていたし。

kz テーマが大きいので、ここがっていうポイントよりも「良い……」みたいな感想になりがちですよね。

TAKU 僕個人はアイルランドのイメージですね。行ったことないけど好きなアイルランドを思いながら編曲してました。

kz あの印象的な間奏はバグパイプですか?

TAKU そうそう。バグパイプとアコーディオンを重ねてエモい民族音楽っぽい雰囲気にしてます。

kz TAKUさんの広い世界観の編曲ってあんまり聴いたことがなかったので、「こうくるのか!」って面白かったです。あと「バグパイプはエモ」っていうのは完全に解釈一致で嬉しい(笑)。

TAKU お互いによく使ってるもんね(笑)。

kz あと素直に雨の音を入れてくるのはTAKUさんっぽいなって思いました。

TAKU 雨の音も好きだから。経験上、雨音が入っていると曲に入り込みやすいと思うんですよ。編曲時にもちょうど雨が降ってたんで、じゃあ入れちゃおうかなと。

内田 「こういう世界観なんだ」っていう絵がすぐに浮かびました。

TAKU 雨の音ってホワイトノイズなので、空間の支配率が高いんですよね。そういう意味でもこの音から世界観に入っていきやすいんだと思います。もう歌がAメロからめちゃくちゃ良いんだよね。

kz 入りから本当に良かったです。これは冨田さんも交えたコンセプトの話なんですが、2曲とも「いわゆる内田真礼じゃない音楽を目指そう」という意識で、今まで見せていたイメージのもう一段上、次に進んでいく姿を見せたいと話していたんです。

内田 2曲とも同じ方向の未来へ進むんですけど、AパターンとBパターンというか、未来の私の分岐点っていう感じがしますね。両方の可能性を示せて良かったなと。あとは個人的には歌詞に句読点が入ってるのは結構衝撃的でした。

kz やってみたかったんですよね。そして試しに入れてみたらすごく美しかったので。

TAKU 印象は深くなるよね。

内田 小説みたいな印象です。

kz この曲の俯瞰的なメッセージを伝える歌詞を考えたときに、句読点をつけるとより話し言葉っぽくなる気がしたんです。調整した歌詞が更に客観的になった結果、視点は遠いんだけど語りかけてるような独特の距離感になりました。

――句読点は役者として感情の起伏がつけやすかったりしますか?

内田 たしかに、句読点がついてる曲って過去あまりなかったかも。

kz 僕も多分初めて使いました。もしかしたら「。」とかは使ってたかもしれませんけど、サビで使うのはおそらく初です。使ったほうが曲に合ってるなと思ったので。

TAKU これは最初からずっと入ってたもんね。

内田 最初に歌詞を読んだのが顔合わせする前だったので、なんて詩的な人なんだと思って(笑)。

kz そうそう前回ご一緒したときって、作詞が僕じゃなかったんですよ。

TAKU そうか、kz作詞曲は初だったんだ。

内田 前回はあれだ、みんなで歌ったやつ。

kz そうです。すごい人数で歌ったやつ。そこも含めて今回は関わり方が違いましたね。

――ではこの曲のそれぞれのお気に入りポイントをお聞きしましょう。

TAKU 僕はやっぱり内田さんの声かな。新しさもあるし、かといって違和感があるわけでもなく、すんなり入ってくると思います。声を楽しんでほしいです。

kz それはありますね。今回はおそらく、ファンが予想していた内田さんの曲ではないものになっていると思います。表現活動って長く続いていくと、ある程度のカテゴライズというかライブラリ化が進んでいく気がするんです。だからそうじゃないものを作りたいという思いもあって、内田さんから「本当に私のこと知ってるのか」っていう感想が出てくるのは、僕はむしろ嬉しかったんですよ(笑)。

TAKU 新鮮味があるってことだからね。

kz あるあるではない、想定外のものって僕は好きなので。本人のお気に召すかは正直わからなかったんですが。

内田 すごく好きです。私は“変わったものや 変わらないこと”から始まるブロックが特に好きで。

TAKU たしかにここすっげえ良いんだよね。僕も超おすすめ。

kz えっ、そこですか。

内田 あれっ、ご本人はそうでもない?

kz いや、たしかにDメロって一番重くなりがちなので作り込むんですけど、そんなに評判良かったんだって逆に今びっくりしました。

TAKU あーでもこれはテイクの力も大きいかもしれないね。

kz あっ! それはあるな!

TAKU 「愛しくなる」の歌い方とか超良かったもん。

kz あそこねー、めちゃくちゃ良かったんです。

内田 ここはどう歌ってもハマる感じがしたんですよ。ちょっとメロディから外れたり、歌が遅れたり前に行ったりしてもニュアンスが勝つ箇所だと思ったんです。全世界に向けて歌っていたとしても、ここだけは寄せられた感じがあって。

kz ここだけ急に視点が狭いんですよね。他はみんなに向けて歌ってるけど、ここは個人的というか視点が自分なんです。

内田 だから寄せられたんですね。

kz サビで1回盛り上がったあとのDメロで個人に戻るイメージですね。ここが良いと感じたのは歌う前からですか?

内田 歌う前からでした。歌い始めてからもノリやすくて好きでしたね。

TAKU ここはめちゃくちゃノってましたね。

kz ここはもう数ある良テイク中から、選りすぐりのテイクを採用してます。

内田 その後の落ちサビも、今までの私だったらたぶん歌えないんですよ。そこの新表現を引き出されたDメロだと思います。録る前は「ここの音綺麗に出せるかな……」みたいに不安で。

TAKU でも最終的に半音上がりましたよね(笑)。

内田 上がりましたね(笑)。新しさもあるし、ほんとに良いですね。

kz あとは歌のディレクションで、「長編映画の予告映像みたいなイメージ」という話をずっとしてましたね。

――内田さんも先ほどおっしゃってましたね。

kz やっぱり話されてましたか(笑)。そのイメージは僕の頭にずっとあって。

TAKU 予告でサビがカットインしてきて、題名がドーンと出て、最後に無音になってヒロインが何か一言! みたいな。

内田 ラストで「ここで空を照らすんだ。」ってセリフが入る感じ(笑)。あれは役者としてめちゃくちゃわかりやすいディレクションでした。

kz 僕はよく曲を映像付きでイメージするというか、こういう絵の中でこういう音楽がかかってるところを見たいという動機の作り方をするんです。その傾向が今回はめちゃくちゃ出ました。しかもタイトルを日本語の文章みたいにすることなんてほぼないので、そういう広い世界観を感じてもらえたらと。

TAKU 僕もそこは珍しいなって思った。kz先生は英語でくると思ったので、自分は日本語にした。

kz そこ寄せたんですか、さすがバランスタイプ(笑)。いや何となく今回は日本語だなって思って。今はこういう時世だし、まだ暗い気持ちの人も多いと思うんですけど、いつか雲も心も晴れたらいいなって思いながら聴いてもらえたら嬉しいです。

INTERVIEW BY 青木佑磨(学園祭学園)
TEXT BY 市川太一(学園祭学園)


●リリース情報
「ハートビートシティ/いつか雲が晴れたなら」
11月25日発売

【初回限定盤(CD+DVD)】

品番:PCCG-01943
価格:¥1,800+税

【通常盤(CD)】

品番:PCCG-70474
価格:¥1,273+税

<CD>
01. ハートビートシティ
作詞・作曲:TAKU INOUE 編曲:kz(livetune)
02. いつか雲が晴れたなら
作詞・作曲:kz(livetune) 編曲:TAKU INOUE
03. ハートビートシティ [Instrumental]
04. いつか雲が晴れたなら [Instrumental]

<DVD>
「ハートビートシティ/いつか雲が晴れたなら」 Music Video
off shot(ハートビートシティ, いつか雲が晴れたなら)
Making

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