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INTERVIEW

2020.06.09

『攻殻機動隊 SAC_2045』コンセプトシングル「Intrauterine Education」&Wタイアップシングル「雨と体液と匂い / Static」を同時リリース!Miliインタビュー

『攻殻機動隊 SAC_2045』コンセプトシングル「Intrauterine Education」&Wタイアップシングル「雨と体液と匂い / Static」を同時リリース!Miliインタビュー

カナダ人ボーカリストのCassie Wei、コンポーザーのYamato Kasai(Guitar)を中心に、Yukihito Mitomo(Bass)、Shoto Yoshida(Drums)、そしてイラストレーターのAo Fujimoriという構成で、ジャンルに捉われることのない世界基準の作品をクリエイトする音楽集団・Mili。近年はアニメ音楽の世界でも存在感を強めている彼らが、話題のタイアップ曲を収めた2枚のシングルを同時リリースする。

1枚は日本が世界に誇る人気シリーズの最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』のEDテーマ「sustain++;」を含む、『攻殻』からインスピレーションを得たコンセプチュアルなシングル「Intrauterine Education」。もう1枚は、TVアニメ『グレイプニル』のEDテーマと、映画『ゴブリンスレイヤー-GOBLIN’S CROWN-』のテーマソングを収録した「雨と体液と匂い / Static」。未来的なエレクトロニカサウンドから、ピアノや弦を中心としたクラシカルな楽曲まで、Miliらしいミクスチャー感で各アニメ作品に寄り添った本作について、現在は長野を拠点に活動しているCassie WeiとYamato Kasaiに、ネットを通じて取材を試みた。

――今回はリモート取材になりますが、お二人はコロナ以降、生活や活動にどのような変化がありますか?

Yamato Kasai 生活に関しては、僕もCassieも元々わりと引きこもりの部類に入る人間なので、いつもとあまり変わらない感じですね(笑)。クリエイティブの話で言うと、コロナの影響で人を集めてレコーディングができないので、みんなで宅録して作品作りを完結させることをしました。

――こないだ配信リリースされた新曲「String Theocracy」は、リモート環境ですべての制作を行ったそうですね。

Kasai あの曲は全部遠隔で作りました。今回、初めてアレンジャーの方(鎌田瑞輝)に入ってもらったんですけど、ディレクションも基本は奏者さんとアレンジャーの方にお任せで、音源を聴いて問題がなければそれで進めていきました。初めて一緒にお仕事する方もいたので、その人たちに直接ご挨拶できなかった寂しさはありますけど、作品作りにおいては合格点のものが出来たんじゃないかなと。

――トランペットやサックスなどの管楽器を入れたジャジーな曲調で、生楽器中心のアレンジにも関わらず、リモート制作でこんなにもクオリティの高い作品ができるんだと感心してしまいました。

Kasai Miliの活動自体が元々現場主義じゃないところから始まっているので。そもそもいちばん最初の頃はCassieがカナダに住んでいたので、日本とかでレコーディングを行っていたわけではなくて、僕やメンバーとデータのやり取りをしながら制作していたんです。最初からそういう作り方をしていたので、今回も、いつもよりちょっと極端なリモートワークっていう感覚でやっていましたね。改めて意識すると「そういえば、今回、誰とも顔を合わせていないな……」とは思いましたけど(笑)。

――今回はシングルを2作品同時リリースされますが、まずは「Intrauterine Education」についてお話を聞いていきます。本作の収録曲「sustain++;」は、Netflixオリジナルアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のEDテーマですが、お二人は『攻殻機動隊』という作品をご存知でしたか?

Kasai それはもう。押井守監督の手掛けた最初の映像作品(『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』)から入って、TVシリーズも追いかけていたので、お話をいただいたときはびっくりしました。『攻殻機動隊』シリーズや『AKIRA』もそうですが、当時のジャパニメーションと言われた日本のSFアニメ周辺の作品は、音楽も含めて独特の空気感があるじゃないですか。大人っぽいし、不思議な印象があって。僕はその世代の人間ではないので、10代になってからそういう作品があることを初めて知って、「えっ!昔にこんなアニメがあったんだ!?」という衝撃を受けて。そこからいろいろ掘り下げて観るようになりましたし、その当時の日本のアニメのすごさを感じる作品として、とても心に残っていますね。

Cassie Wei 私も元々オタクですけど、世代的には自分の上の世代で流行っていたアニメだったので、私も入りはちょっと遅くて、はじめはTVアニメの最初のシリーズ(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』)から入ったんです。最初に観て思ったのは、すごいテンポ感ということで。あんなにたくさんの内容を20分ちょっとの枠にギュッと入れられることがすごいし、濃度が今のアニメとは違うなあと思って。

Kasai そうだね、1話の濃密さはハンパなかった。一瞬でも見逃すと展開がわからなくなるし。

Cassie そう。それにどのシーンにも意味があって、作画が美しいですね。だから一気に観ましたし、日本のアニメの中でのレジェンドのひとつだと思います。

Kasai 大ファンだったので、最初に当時所属していた事務所から「もしかしたら(EDテーマのアーティストに)決まるかもしれない」ということをお伺いしたときも、あまり期待しないように受け止めていましたね。浮足立ってしまうのがいちばんよくないので。楽曲を制作している段階でも、内心はめちゃくちゃうれしいんですけど、ちょっと抑制して、なるべくフラットに捉えるようにしていました(笑)。

――「sustain++;」はどのような流れで制作を進めたのでしょうか。例えばアニメ制作サイドから何かリクエストはあった?

Kasai それは特になくて、僕らが考える“『攻殻機動隊』のEDテーマ”というところから制作を始めました。もちろん新作の内容をお伺いしてから制作を進めたのですが、僕らは今までの『攻殻機動隊』の劇伴音楽やテーマソングのことも知っていますし、『攻殻機動隊』は僕らを含めてたくさんのコアなファンが待っている作品でもあるので、Miliらしさを詰めていく重要さも半分意識しつつ、『攻殻機動隊』の世界観を崩さないものを僕ららしい形で表現できればと思いました。

――たしかにエレクトロニクスと生楽器の融合した音作りは、これまでの『攻殻』サウンドの流れを汲みつつ、Miliらしいミクスチャー感覚もある印象を受けました。

Kasai 特にイントロの音は、これを聴いた人が「あっ、これは『攻殻機動隊』だ」って感じてくれればいいなと思って。そういう印象付けはしたかったです。

――曲名の「sustain++;」は、アニメ本編に登場する重要なキーワード「サスティナブル・ウォー(計画的かつ持続可能な戦争)」に絡めたものなのでしょうか?

Cassie そうですね。最初にいただいた資料に「サスティナブル・ウォー」という単語が出てきて。ちょうど英語圏では「サスティナビリティ(持続可能性)」という言葉がバズワードになっていて、環境問題だとか、人間の生産活動が持続可能なのか?という意味で話題になっていたので、これは面白いから使おうと、最初から決めていたんです。

――なるほど。

Cassie で、そこから何の持続可能性について歌詞を書こうか考えたときに、『サウスパーク』を観ていたら、カップルはコミュニケーションが大事、というような話が出てきて。そこで「人間関係についての持続可能性」の歌詞を書こうと思ったんです。そして、私は元々プログラマーだったので、今までのMiliの曲にもプログラムコードで歌詞を書いた曲があるんですけど、そのやり方が『攻殻機動隊』の世界にすごく合うと思ったので、今回もコードで書きたい!と思ったら、このタイトルが先に決まりました。

――このタイトルについている記号(++;)はインクリメントと言って、プログラミング用語で「変数の値に1を加える」処理を指す単語らしいですね。タイトルにはどのような意味を込めたのですか?

Cassie これは簡単に言うと「サステインを一つ増やす」ということで、持続可能性がワンユニット上がるという感じですね。単純に数字が高くなる。プログラミングコードも一つの言語なので、英語の歌詞に和訳がつくように、プログラム言語で書くことによって翻訳がひとつ増えるっていう。で、やっぱり言語によって文化が違うので、同じものを少し違う目線で見られるようになるんです。このタイトルもプログラミングを知っている人が見ると、また違う解釈の仕方があると思うので、そこが面白いかなと。

――『攻殻機動隊』のテーマ性を意識して書いた部分はありますか?

Cassie そこは歌詞の内容というよりも、歌い方で表現しました。例えばAメロやBメロのちょっと無機質な感じとかもそうですし、TVサイズ以降の部分でちょっと可愛く歌っているのは、タチコマをイメージしたところもあって。歌詞に同じフレーズの繰り返しがあるところも、アンドロイドっぽさをイメージして書きました。

――2番の後半部分ですよね。あのパートはサウンド的にも昔のエレクトロっぽい音に変化して、印象に残ります。

Kasai あの部分はかなり意識して作りました。最初のワンコーラスを終えたところから色を変えたくて、結果的に選んだ音がレトロなテクノ感というもので。前半のモダンな音に比べて、音楽のジャンルの年代が急に昔になる感覚があると思うんですけど、そこはエンジニアさんにも説明して、あえてレトロな質感にしてもらったんです。最近は音楽や映画でも、全体的に70年代や80年代の雰囲気を醸し出しながら現代を舞台にしていたり、当時の描写や時代背景を引用して新しいものを作る作品が増えているし、『攻殻機動隊』は原作から考えると歴史の長い作品でもあるので、音楽的にも聴く人が聴けば懐かしいと思えるようなサウンドを入れ込みたいなと。そこになおかつ曲の最初や最後のパートにモダンな要素を入れて、現代的な作品にしたいという気持ちがありました。

――そこは温故知新というか、作品に対する敬意を感じますね。

Kasai 僕は昔からジャパニメーションと呼ばれるものに対しては敬意しかなくて(笑)。それこそ大昔に受けたインタビューでも『AKIRA』みたいな作品が大好きということを公言してきたので、ああいった世界観を音にできればと思っていたんですよね。今回の曲は6分という尺になりましたけど、ああいう形にまとめることができて良かったです。

――その「sustain++;」を収録したシングル「Intrauterine Education」には、その他にもカップリング2曲が収められていますが、こちらも『攻殻機動隊』をイメージして作られたのですか?

Kasai そうですね。この3曲は、いちばん最初にEDテーマを作ることになったときに、何曲か候補のデモ出しをしたくて書いた曲なんです。結果「sustain++;」がEDテーマになったんですけど、それをシングル化するにあたって、ほかの2曲もデモからフルにしました。

――「Intrauterine Education」は直訳すると「胎内教育」という意味になりますが、このタイトルの由来は?

Cassie この3曲で一つのプロパガンダというか、私が『攻殻機動隊』を観て感じたものをそのまま歌詞に入れていて、ある種の教育になっていると思ったので、このタイトルにしました。「人を教育する」という言い方はちょっと偉そうになりますけど、結果的にそういう曲ばかりになったので。

――シングルの2曲目「Petrolea」はミニマルなエレクトロニカっぽい作風ですが、この曲はどんなイメージで作られたのでしょうか。

Kasai この曲は「sustain++;」に比べると穏やかでミドルテンポな楽曲ですが、それはもし「sustain++;」よりもEDテーマっぽいものがいいと言われた場合は、どういう形になるのかという発想からサウンド作りを始めたからなんです。だからしっとりしていて、フラットな感覚のある曲になっていて。それと「sustain++;」は生楽器やシンセサイザーの音が混ざっているんですけど、こちらの曲はシンセしか使っていないんです。デジタルシンセだけでなくアナログシンセも多用したんですけど、最初からシンセだけで完結させようと思って作ったもので、言い方は悪いですけど、受けとかは狙わずに、自分の好きなように作った曲なので、個人的には大好きですけど、たぶん人気にはならないと思います(笑)。

――でも、アンビエントやドローンに通じる音響系のサウンドが、『攻殻機動隊』の世界観にも合いそうです。

Kasai 一応4つ打ちが軽く入っているので、アンビエントテクノと言えばいいんですかね。この曲、聴くとわかると思うんですけど、ずっと同じコード進行で、歌のメロディ以外は同じことを延々と繰り返しているんですよ。そのなかで本当にちょっとした微妙な差をつけていて、でも抑揚があるかと言われたら、よくわからない楽曲になっていて。「これから音楽を聴くぞ!」という感じではなく、部屋のコンポで流しながら聴くのがちょうどいい感じだと思います。

――歌詞はどのようなテーマで書かれたのですか?

Cassie この曲で伝えたいのは、現代のLGBTQに対する偏見についてです。(草薙)素子はどちらかと言うと(セクシュアリティ・性的指向が)曖昧じゃないですか。アニメのなかでも、女の子と関係がありそうなシーンがよく出てくるので、そこからインスピレーションを受けました。

――素子は原作コミックでもバイセクシャル的な描写が多いですものね。

Cassie 素子が女の子のことを好きなのは自由じゃないですか。それに対して、周りの人の見方が普通で、反応が特にないことがよいなあと思って。そういうふうに自然と受け入れてくれている状態が、目指すべき未来じゃないかと思うので、そういう未来が来ればいいなあと思って歌詞を書きました。

――自分はこの曲の歌詞から、境界を意識せず取り払うようなメッセージ性を感じたので、今のお話でいろいろ納得しました。ちなみに「Petrolea」というのタイトルは、人の名前か何かですか?

Cassie これは造語で、「Petro=石油」という言葉を女の子の名前っぽくアレンジして「Petrolea」にしました。なぜ「石油」かと言うと、石油は光を当てると虹色に光るじゃないですか。虹色というのはLGBTQを象徴する色なので(注:レインボーカラーはLGBTQの社会運動を象徴するカラーとして知られる)。しかも、昔のTVアニメのなかで、バトーがタチコマにオイルを与えて、それを摂取したタチコマたちが人間らしくなる、というエピソードがあったので、私はそのオイルが人間になるために必要なものだと捉えて。この「Petrolea」という曲の内容を受け入れることも、人間が人間であるために大事なことじゃないかと思うんです。

――そこまで深い意味が込められていたとは、驚きました……。そしてもう1曲、「War of Shame」は、他の2曲とは趣きを変えて、伴奏はピアノのみの楽曲になります。

Kasai ほかの曲とは別のカラーのもので、なおかつ、Miliが従来やってきた形の一つとして、ピアノとボーカルという構成の楽曲を入れたいと思って。「Petrolea」はオールシンセの曲だったので、こちらはピアノだけでいきました。クラシカルな印象を受けると思いますけど、『攻殻機動隊』にはミスマッチに感じるかもしれないこの曲調がどう受け止められるかを知りたい部分もありました。

――曲名は直訳すると「恥の戦争」となります。

Cassie 「恥を受ける人」と「恥を与える人」の戦争をイメージしています。この曲で伝えたいメッセージは「両性平等」なんです。私は別にどういう身体でも人間の中身はそんなに変わらないと思っていて。今、日本でもトランスジェンダーについてじわじわと話題になっているじゃないですか。明らかに自分の性別がわかる人がいれば、自分の性別が男と女の間のどこかにあるという人もいるし、心理的な性別と物理的な性別がマッチングしていないときもあったり。そういうときに、恥ずかしいと思わず、堂々と生きていける世界がいいなあと思って書きました。自分のすべてを気にせず見せられるのは、素晴らしい世界だと思うので。

――たしかに歌詞からは、見た目による差、ひいては差別意識なようなものからの解放を説くようなイメージを受けました。

Cassie それらはすべて、私が『攻殻機動隊』から感じるイメージを曲にしたんです。例えば素子もずっと堂々と生きていますし、自分を見せることに恥を感じていないように思うので。セクシーな恰好でも「私はこんなに露出していいのかな?」って言う感じはいっさいしないですよね。その感じがいいなあと思って。

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