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INTERVIEW

2019.11.29

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』音楽担当・末廣健一郎インタビュー

TVアニメ『炎炎ノ消防隊』音楽担当・末廣健一郎インタビュー

とある大災害を境に始まった人体発火現象「焰ビト」の脅威に苛まれる世界。そんな世界の、東京皇国で、幼い頃からヒーローに憧れを抱く森羅 日下部(シンラ クサカベ)は焰ビトを鎮め、原因究明に向き合う特殊消防隊の扉を叩く。訓練校を卒業し「第8特殊消防隊」に配属されたシンラは実は12年前に突然の火事で母と幼い弟を失った過去を持っていた――。

そんなシンラと第8特殊消防隊の活躍を描く大人気アニメ『炎炎ノ消防隊』で彼らの時間を鮮やかに彩る劇伴音楽を制作している末廣健一郎。テレビドラマや映画、舞台音楽までも担う多彩なこの才能が挑む『炎炎ノ消防隊』の世界とは?

――そもそも末廣さんが劇伴音楽を作られるようになった経緯はどのようなものだったんでしょうか。

末廣健一郎 元々は学生時代に趣味でバンドをやっていて。オリジナルの曲も作っていましたが、だんだんバンドでやっていることよりも楽曲を作っているほうが楽しいなと思うようになってきました。また当時から、歌の入っていない、ドラマや映画の音楽もよく聴いていて。アーティストさんのアルバムでよく1曲目や最後に収録されているようなインスト曲も好きで、そこばかり聴いてしまうこともありました。歌ではない音楽をずっとやっていきたいな、という気持ちが強くなっていき、作曲を仕事にすることを目指してやってみよう、と思い立って専門学校に入ったことがスタートだと思います。

――インストに惹かれるようになったきっかけとなる作品はあったんですか?

末廣 いくつかありますが、映画「ブルース・ブラザーズ」のサントラは何回も聴きました。それと「踊る大捜査線」のサウンドトラック。このふたつの影響はすごく強いです。それにジブリ映画の音楽も。「もののけ姫」や「となりのトトロ」も聴きました。でもいろいろとかいつまんで聴いていくうちに、そこを総合的に目指すなら劇伴の作曲家しかないかなという想いが強かったですね。

――劇伴となると、ひとつのジャンルではなく大きな意味での「音楽」を捉えていく必要がありますしね。

末廣 そのインストゥルメンタルをいろんな幅広いジャンルで作れるということが劇伴の作曲家の魅力だと思います。ただ、劇伴の作曲家を目指すための情報を、学生の頃は知り得る方法がありませんでした。でもこれだけ魅力ある音楽は誰かが作らないとありえないと思ってはいて。それがどんな職業かはわからない。それで調べていったら専門学校を見つけて、音楽的な素養や教養のなかった自分でも入って教わればなんとかなるだろう、と学校の門を叩きました。

――その専門学校で学ばれたなかで「面白かった!」という授業はどんなものでしたか?

末廣 作曲の専門学校に行ったときにいちばん大事だったのが、作曲技法や編曲技法、それにオーケストレーション技法という昔からあるジャンルと、今の技術に必要なDTM、パソコンを使った機材の使い方や、どういうソフトがどんな概念のもとにあるのか。そういった授業がいちばん身になったように思います。特にパソコン周りの技術や知識はネットを調べればいくらでも出てくるので、独学で学ぶこともできると思いますが、作曲技法や編曲技法は知識のある人から学んだほうが理解も早いと思います。そういったところから作曲を学んでいきました。

――劇伴制作の魅力はどんな部分にあるでしょうか。

末廣 もちろん各分野のエキスパートの方たちが集結してひとつの作品を作っていますが、音楽が映像の魅力を何倍も引き出してくれるのではないかと僕は思っていて。逆にそこを無駄にしてしまうことがあってはいけない、と常に注意していて、そういう意味でもとても大事な役割として作品の一端を担っているという感覚はあります。さらに、作品を演出するのは監督ですが、その手助けができるのも音楽ではないかと。映像の接着剤みたいな役割を音楽がしてくれる、と監督やプロデューサーがおっしゃってくれることも多く、実際に自分でもそれは感じていて。そこも含めて劇伴を作ることは魅力的だな、と感じています。

――そんな劇伴制作に於いて、ご自身が最も意識しているのはどんなことですか?

末廣 作品が肝にしているシーンというのがあると思いますが、そこに向かうための音楽的な導線はかなり意識しています。例えばアニメの中で、感情的に大事なシーンが肝としてあるのなら、そこに向かっていくためにアクションシーンがどう盛り上がるか、心情を描写するシーンがどう盛り上がっていくか。日常の音楽ではどれくらいのメリハリをつけたらいいか。そのあたりを全部含めて、トータルとして音楽でデザインできるように、ということを心がけています。

――実写作品の劇伴も作られている末廣さんですが、アニメだからこその面白さはあるんですか?

末廣 アニメ作品は本当に高いクオリティで作られているので、実写とどう違うかは一概には言えませんが、ただ実写は空気感からなにから本物の映像なので情報量が多いです。画面の中でなにもしていなかったとしても、そこにはたくさんの情報がある。空気感や温度が伝わる。でもアニメはそこを音楽で補完しないといけないのかなと思っていて、アニメの方が音楽としても情報量を少し盛って作っているという感覚はあります。少し過剰に演出するといいますか。

――そんななか、今回は『炎炎ノ消防隊』の音楽制作をされていらっしゃいます。オファーはどのような経緯で末廣さんの元へときたのでしょうか。

末廣 プロデューサーの立石謙介さんが僕の音楽を耳にしてくださった、ということでオファーをいただきました。

――まず最初は音楽的にどういった指針をたてられたのでしょうか。

末廣 打合せの段階では具体的なジャンルの指定があったわけではないのですが、「炎炎ノ消防隊」の原作者の大久保 篤さんがすごく音楽がお好きな方で、打合せにもいらっしゃっていました。そこで「こういうテイストを盛り込んでもらえるとうれしい」というお話をいただきました。大久保さんが好きな音楽として、すごくエレクトロニカな雰囲気や、ブレイクビーツを使ったようなテイストのアーティストをその場で聴かせてもらいました。実際に原作を描いているときにそのあたりの音楽をかけながら作業をして、インスピレーションを湧かせていらっしゃるということで、打合せにも楽曲を持ってきてくださったので、そこを意識しながら作った曲がいくつもあります。音楽的な部分での、描いているときの気持ちなどを伺えたのはとても参考になりました。なかなか生の声を聞けることはないですし。

――『炎炎ノ消防隊』という作品の印象を教えてください。

末廣 まず世界観にオリジナリティが溢れています。そしてディテールの細かさやこだわりを、読んでいてとても感じます。ちょっとした小物のデザイン性や、作品の中でシンラ(主人公:森羅 日下部)を取り囲んでいる環境。それらの魅力でグイグイ作品の世界に引きこまれていきます。物語を読み進めると第8特殊消防隊が持つエネルギーと魅力にたくさん気付きます。キャラがみんな、とても立っていますし、見ていてもその絆を感じさせるし、アクションは熱いし。本当に惹かれていきます。

――音楽をつけるにあたって印象に残るオーダーはありますか?

末廣 大久保さんが原作を描いているときに聴いている音楽というのはかなり特徴的な音楽だったので、そういう意味では印象的でした。特にアドラリンクのシーンや、地下世界に行くシーンについては具体的に「こういう音楽だと嬉しい」というリクエストがあったので、そこはとても印象的でした。マンガ家さんはこういう音楽を聴きながら描いているのか、と初めて聴くお話でしたし。もちろん劇伴ではない音楽だったので、そこは自分なりに前後の話の流れを考えながら劇伴に落とし込んでいく、という作業をさせていただきました。

――こと「炎炎ノ消防隊」の劇伴制作で普段と違っていたことはありましたか?

末廣 デジタルとアナログが混在したような作品感なので、そこをいつもより強めに意識しながら作った曲は多いですね。アコースティックな楽器も、ただアコースティックなだけではなくちょっとデジタルな加工をしたりするように意識したり。とは言えデジタル過ぎるのも合わないので、そこはバランスを見ながら作りました。ちょっと大正時代を感じさせるような街並みであったり、でも急にスチームパンク的だったり、メカニックな描写があったりもして。そこは作品の魅力だと思うので、壊さないように注意しました。

――こと作品における音楽の大きな役割としてはどのような部分だったと感じられますか?

末廣 魅力あるアクションシーンで熱を出すこと。それと原作を読んでいて第8や登場人物たちの絆を強く感じて、最終的にその絆へと向かっていくような音作りをしています。その絆にいちばん感情移入ができるように作ったので、そこへと繋がっていく導線としての役割かと思います。

――それと日常のシーンというのも、物語のクライマックスに向かうなかで大切なのかなとも感じます。「日常」だけでもたいへん多くの楽曲を作られておられますが、いかがですか?

末廣 メリハリが大事かなと感じていて。『炎炎ノ消防隊』は笑えるシーンは本当に笑えるので、そこからテンポ感よくアクションシーンや緊張感のあるシーンに持っていって、絆が深まるシーンや感情移入できるシーンまでの流れは壊れないように、日常のシーンにおいてもそこは大事にして作りました。

――ご苦労された楽曲はありますか?

末廣 メインテーマです。かなり考えました。アクションシーンはもちろん、決意のシーンにも使えるように。なおかつ1話から流れても不自然ではないようにしなくてはならない。大事なシーンに流していただけるような作りにはしたつもりです。そのぶん、作るのに長く時間が掛かってしまいましたが。

――では逆に「これは会心のトラックだ!」と思われたのはどの曲でしたか?

末廣 ちょっと作るのが大変だったこともあり、会心の1曲はメインテーマですね。あとはこのメインテーマのメロディを使った心情面の曲もいくつかあるので、それも踏まえて作品を象徴するような曲が書けたかなと思っています。

――そこは注目して聴きたいですね。実際に劇中で流れているのを聴かれていかがでしたか?

末廣 音響監督の(明田川)仁さん、八瀬(祐樹)監督も含めて、すごく印象的に音楽を使っていただけているなと思いましたが、それよりも作品が面白すぎて、自分の音楽なんて気にする隙もないくらいに楽しませてもらっています。あとは想像以上に監督が無音の時間をたくさん作られて、そのおかげですごくメリハリがついています。敢えてBGMを流さない、という選択のあとに音楽が流れると印象が強くなりますよね。各音楽が効果的に使われていて、ここぞというところでは音楽が流れていなかったりするので、そういう意味では面白い演出だなと思いながら観ています。

――まだまだ物語は続いていきますが、今後の『炎炎ノ消防隊』に付けたい音楽のアイディアなどは浮かんでいらっしゃるんでしょうか。

末廣 たくさんあります。今、いろいろと湧きに湧いている状態です。まだ僕が勝手に「今後もある」と思い込んでいるだけですが、もしも続きをアニメでやるのなら作りたい曲がいっぱいあります。今回作った曲は原作と脚本を読んだだけで作っていましたが、アニメで動くシンラたちを見たことでより刺激を受けましたし、インスピレーションもさらに受けたので「こういう曲も」「ああいう曲も」という想いはすごくあります。

――未来のことが楽しみになりますが、最後に劇伴を楽しみながら『炎炎ノ消防隊』に心を躍らせるファンの皆さんへメッセージをお願いします。

末廣 この先もアニメはもっともっと盛り上がりますし、僕もいち視聴者として楽しんでいますので、最後まで熱く第8(特殊消防隊)の絆と共に劇伴も楽しんでいただけたらなと思います。

Interview & Text By えびさわなち


●リリース情報
炎炎ノ音楽隊〜TVアニメ『炎炎ノ消防隊』オリジナルサウンドトラック〜
12月11日発売
音楽:末廣健一郎

品番:DMPCZ-010
価格:¥2,500+税

<CD>
01.炎炎ノ消防隊-MainTheme-
02.第8特殊消防隊
03.出動要請
04.魂ノ呼声
05.アラウンド8
06.トラフィック
07.青線デイズ
08.始動
09.ジョーカー
10.バトルクリシェ
11.業火撃墜
12.火華ノ闇
13.煉獄イデア
14.灰色ワルツ
15.デビルビート
16.決意ノ心音
17.レオナルド・バーンズ
18.思惑
19.ヒートアップ
20.紅蓮
21.潜入捜査
22.与エラレタ使命
23.哀しみ景色
24.ワークスリズム
25.浅草スケール
26.喧嘩祭リ
27.灼熱ディザスター
28.焦熱レクイエム
29.仲間を繋ぐ絆

●作品情報
TVアニメ『炎炎ノ消防隊』
MBS・TBS系全国28局ネット”スーパーアニメイズム”枠にて
毎週(金)25:25より放送中

【キャスト】
森羅日下部:梶原岳人
アーサー・ボイル:小林裕介
秋樽桜備:中井和哉
武久火縄:鈴村健一
茉希尾瀬:上條沙恵子
アイリス:M・A・O
レオナルド・バーンズ:楠 大典
カリム・フラム:興津和幸
フォイェン・リィ:日野 聡
烈火星宮:関 智一
環 古達:悠木 碧
武 能登:小西克幸
プリンセス火華:Lynn
トオル岸理:河西健吾
新門紅丸:宮野真守
相模屋紺炉:前野智昭
ジョーカー:津田健次郎
ヴィクトル・リヒト:阪口大助
ヴァルカン・ジョゼフ:八代 拓
リサ:朝井彩加
ユウ:千葉翔也
象日下部:坂本真綾

【スタッフ】
原作:大久保篤(講談社「週刊少年マガジン」連載)
監督:八瀬祐樹
シリーズ構成:蓜島岳斗
キャラクターデザイン/総作画監督:守岡英行
サブキャラクターデザイン/総作画監督:小堺能夫
キーアニメーター:三輪和宏
メインアニメーター:大梶博之、松浦 力
色彩設計:佐藤直子
美術監督:高峯義人
美術設定:天田俊貴
撮影監督:元木洋介
CGディレクター:日下大輔
VFX:大橋 遼
編集:廣瀬清志
音響監督:明田川 仁
音楽:末廣健一郎
第2クールオープニング主題歌:「MAYDAY (feat. Ryo from Crystal Lake)」coldrain(ワーナーミュージック・ジャパン)
第2クールエンディング主題歌:「脳内」Lenny code fiction(Ki/oon Music)
アニメーション制作:david production

©大久保篤・講談社/特殊消防隊動画広報課

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