TVアニメ『BEM』劇伴インタビュー Part2.『TVアニメ「BEM」オリジナルサウンドトラック UPPERSIDE』未知瑠インタビュー

「早く人間になりたい」のキメ台詞があまりにも有名な『妖怪人間ベム』の誕生から50周年を記念して制作されたアニメ『BEM』。巨大な港町「リブラシティ」を舞台にスタイリッシュかつ現代的な表現と共におどろおどろしいまでの人間の裏側が描かれ展開していく物語にさらに表情をつける劇伴を、本作ではSOIL & “PIMP” SESSIONSともうひとり、劇伴界の異能と評される未知瑠が担当。最近では映画『賭ケグルイ』やアニメ『ギヴン』の劇伴を手掛けたことでも知られる未知瑠が作り上げた『BEM』のオリジナルサウンドトラックがリリースされる。SOIL & “PIMP” SESSIONSによるオリジナルサウンドトラック第一弾『OUTSIDE』と対をなす『UPPERSIDE』。この劇伴に彼女が込めたものとは。

――「BEM」の劇伴制作のオファーはどのような経緯だったんでしょうか。

未知瑠 昨年の秋頃にオファーがあり、以前『終末のイゼッタ』でお世話になったフライングドッグの福田正夫プロデューサーからお声をかけていただきました。その時にSOIL & “PIMP” SESSIONSさんと未知瑠の組み合わせで劇伴制作する旨を伺いました。

――実際にベースになっている『妖怪人間ベム』についてはどんな印象をお持ちですか?

未知瑠 『妖怪人間ベム』は放送から50周年ということで、何度か観たことはあったんですけど、今回改めて観直しました。おどろおどろしいけれども「人間になりたい」という切実な想い。そして正義感のある妖怪たちに対して、人間のどろどろとしたところや汚いところが描かれたりと、なかなか奥深い作品で。また、不思議さや歪んだものも混ざった独特の世界観だなと感じました。

――その『妖怪人間ベム』が『BEM』へと生まれ変わりました。

未知瑠 今回『BEM』のお話を伺ったときには、まずビジュアルに驚きました。オリジナルの『妖怪人間ベム』と大きくビジュアルが変わり、すごくかっこよくなっていて。世界観もちょっと近未来で、都会的で。そういうスタイリッシュな部分に驚きながらも、この世界にどういった音をつけていこうか、とワクワクしました。

――SOIL & “PIMP” SESSIONSさんはこういう音楽、未知瑠さんはこういう音楽、という明確な細分化がされていたんですか?

未知瑠 そうですね。説明を受けたときには「SOILさんにはSOILさんらしくジャズを中心にスタイリッシュなものを、未知瑠さんはそれ以外の部分を」という形でお聞きしました。わたしは主に心情とかバトルとか、どろどろとした部分が中心になっていくと思う、という話はありましたね。

――「このシーンに使うこういう音を」という明らかなイメージは制作側からはあったんですか?

未知瑠 はい。打ち合わせで音楽メニュー表をいただいて説明を受けたのですが、その音楽メニュー上で既に「未知瑠用」「SOILさん用」と分けられていて、しっかり棲み分けがされている感じでした。

――そんなメニュー表で印象に残る発注文言はありましたか?

未知瑠 「ストレートでないもの」とか「違和感が欲しい」「闇の中の歪み」とか、そういう言葉が並んでいました。あとは打ち合わせをする中で「異質感」という言葉がよく出てきたり、『BEM』の世界観の中にある浮遊感や不思議な部分とか、そういうものがオーダーの中に多かった印象があります。

――今回の劇伴を拝聴しても、「異質感」という言葉についても本当に様々な種類の「異質感」を織り交ぜられているなと感じました。

未知瑠 そうですね。

――SOILさんと対照的な意味でいうと、未知瑠さんの楽曲はボイスを象徴的に使われている部分かと。

未知瑠 はい、わたしの作風としてボイスを使った劇伴を作ることが多いんですね。コーラスを散りばめたり、ボイスをまるで楽器のように使ったり。そういう部分を「未知瑠らしさ」として捉えてくださっている方も多いようで、今回もボイスをぜひ採り入れてほしいと言われました。

――今回の楽曲群の中で制作に苦労された曲はありましたか?

未知瑠 全体の方向性としては、大きく悩む事なく進めることができました。というのは、福田さんがわたしの作風をよくご存じで、わたしの得意なところをそのまま、自分らしくやってくれたらいい、と言ってくださったので。ある意味自由に泳がせていただいて、思う存分制作することができました。

――その楽曲は非常に民族楽器や民族音楽的旋律を使ってのものですが、そういったアイディアはどのように出てきたものだったんですか?

未知瑠 その辺りの要素は、わたしのソロアルバム(『WORLD’S END VILLAGE』(2009)、『空話集~アレゴリア・インフィニータ』(2015))でやってきたような世界観からきています。ソロアルバムでは、ボイスの他にも民族楽器や民族的なパーカッションをいろいろと使っているのですが、そういう部分を「未知瑠らしさ」と捉えられることが多いみたいで。なので、オリジナルアルバムの中にあるような要素を、劇伴に取り込んでいく手法で、『BEM』の劇伴も作り進めていった感じです。

――ソロアルバムの2作は、未来への指針になるアルバムだったんですね。

未知瑠 そうですね。ソロアルバムを作っていた当時は、この作品が後にアニメ劇伴の仕事に繋がっていくなんて、まったく想像していませんでした。ただただ自分が突き詰めたい世界や面白いと思う音楽を追求して、自主制作でレコーディングして作り込んで。それは一般的にはちょっとマニアックな音楽だったこともあり、幅広く売れたわけでもないし、多くの方の耳に届いたわけではないのですが、精一杯作ったアルバムです。そこから5年、10年と経った時に、そのアルバムのようなことをアニメ劇伴としてやってほしいとご依頼頂くようになり、わたし自身驚きました。それはありがたいことだと思いますし、あの当時のように、面白いと思うことを、恐れずにどんどんやっていけたらと思っています。

――未知瑠さんのその民族音楽感があるからこそ、『BEM』での、ベムたちのいるリブラシティの多民族感が浮き彫りになるのかなと感じます。

未知瑠 そうですね、『BEM』の街や人のような、その雑多で混沌とした世界観や、架空の民族感のようなものが、劇伴によって浮かび上がればいいなぁ、と思いながら作っていました。

――実際にアニメの中で流れているのをお聴きになってどのような想いがありましたか?

未知瑠 『BEM』のスタイリッシュなビジュアルと、ほんの少しミスマッチなところが印象に残るというか。少しズレがある感じが、今回目指すところの「異質感」につながっているのかなと思いました。

――そんな今回の劇伴ですが、渡辺 等さんや西川 進さんなど、演奏メンバーが非常に豪華です。未知瑠さんは劇伴制作に於いて「ミュージシャンとセッションしながら作る」フリーな部分を作られる制作法をされますが、今回のミュージシャンとのセッションはいかがでしたか?

未知瑠 今回も本当に、皆さんとのセッションがあってこその楽曲ができたと思います。まずは音楽メニュー表を見ながら、じっくりと曲を考えていったのですが、その中で「この人の音が合うんじゃないか」といろいろとアイディアが浮かんできました。どんなミュージシャンのどんな音を、どう組み合わせたら面白いかなと考えていって、「この人にお願いしたい」という方にオファーをさせていただきました。曲を作っている段階で「完成形はこんなふうになるかな」と想像はするんですが、実際にミュージシャンの方々とスタジオでやりとりしていくと、私の想像以上のフレーズやサウンドを出して下さって! 例えば、いくつかリズムパターンを作っておいて、「渡辺さんならこれに対してどんなベースが返ってくるかな」と想像を巡らせていたところ、わたしの頭からは出てこないようなかっこいいベースのフレーズがどんどん返ってきて「凄すぎる!」と思いました。本当にミュージシャンの皆さんのおかげで面白い音がいっぱい録れたと思います。

――ミュージシャンの皆さんからはどんな反応があるんですか?

未知瑠 最初に楽譜をお渡ししつつイメージを説明するんですけれど「楽譜はあくまでもガイドなので自由に」と言うと、「楽譜通りじゃなくていいの?」って質問をされることが多いです。「もうどんどん自由にやってください」と話しながら、音を出していくにつれて、どんどん暴れてくださいますね。その暴れ方に関しても「こんな感じ」「こういうふうにしてみたい」と一緒に面白いものを探しながら録音していったんです。

――まさに「セッション」。ご自身の中で「これは面白い変化をしたな」という曲はありますか?

未知瑠 たくさんありますが、ひとつは「Chasing Game」ですね。これはまずエレキベースを渡辺さんに、そこにichikaさんという独特な演奏をされるギタリストさんに、さらにハンドパンという変わった楽器にも入っていただいて、皆さんに基本自由な演奏で暴れていただきながらレコーディングしました。それぞれの個性がいい具合に融合しました。

――「ハンドパン」はスティールパンから派生して、最近作られた楽器ということですが、そんな新たな楽器の音を「この曲にほしい」というのは作られながら浮かんでくるんですか?

未知瑠 はい。ハンドパンは2000年以降に生まれた打楽器で、まだ新しくて珍しい楽器なんですが、サウンド感はひんやりとクールな印象で、パーカッションとしてリズムも出せるし、音階も出せるんです。冷たい空気感の中に、人間の息遣いが感じられるサウンドで、『BEM』にはぴったりだと思いました。コンピューターでは出せない質感です。

――昨今ではデスクトップ上で楽曲が制作できますが、未知瑠さんは生音でのレコーディングに非常にこだわっていらっしゃる印象です。それは何故なんでしょうか。

未知瑠 ひとつには、生音でのレコーディングは、生身のミュージシャン同士の化学反応が起きることで、予想以上のサウンドが録れる可能性があるからです。スタジオでミュージシャンと一緒に、楽譜ではないところで音を探りながら作っていくことは、本当に面白くてスリリングで。そういったことが、わたしらしい音楽を作るためには必要なことだなと感じています。

――そんな今作は非常に感情的な印象。おどろおどろしいですよね。

未知瑠 そうですね、こういう感情的な部分は、むしろ、わたしっぽいと言われる所なのかもしれません。先ほどお話したソロアルバムがまさにこういう世界観なので。ソロアルバムを聴いてご依頼くださる方には、こういった印象が強いようです。

――今回の劇伴。サウンドトラックを1枚通して聴くと、未知瑠さんと『BEM』のどのようなコラボレーションになったとお感じになりますか?

未知瑠 今回わたしが『BEM』の劇伴作りで意識した部分は、『BEM』のおどろおどろしさや混沌とした部分と、スタイリッシュさとを、曲の中でどう融合させられるかということです。そこは何度も調整したり試行錯誤した部分で、まさに『BEM』ならではの音楽になったと思いますので、サウンドトラックもアニメと共に楽しんでいただけたらうれしいです。

Interview & Text By えびさわなち


●リリース情報
TVアニメ『BEM』オリジナルサウンドトラック
「UPPERSIDE」音楽:未知瑠
9月25日発売

品番:VTCL-60506
価格:¥2,500+税抜)

<CD>
01.アウトサイドの蠢き
02.摩天楼の決闘
03.運命の歯車
04.猟奇の予兆
05.怪奇事件
06.人間への憧れと無情
07.見えざる議会
08.欺きと陰謀
09.ドクターリサイクル
10.アウトサイドバトル
11.水男出現!
12.立ち上がる決意
13.哀しい告白
14.邪悪な存在
15.あの橋の向こう側
16.Mysterious Lady
17.柔らかな微笑み
18.Chasing Game
19.希望の欠片
20.柔らかな微笑み-Piano Ver.-

●作品情報
TVアニメ『BEM』

テレビ東京 毎週(日)25時35分~
テレビ大阪 毎週(月)25時05分~
テレビ愛知 毎週(日)25時35分~
BSテレ東  毎週(水)24時30分~
AT-X  毎週(金)23時00分~
※リピート放送:毎週(月)15時00分~/毎週(木)7時00分~

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