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2017.07.19

豊崎愛生『love your Best』レビュー

豊崎愛生『love your Best』レビュー

豊崎愛生の初となるベストアルバムがリリース。シングル曲からカップリング曲、アルバム収録曲まで、これまでに発表した楽曲のなかから15曲を選曲。加えて安藤裕子が書き下ろした新曲「猫になる」も収録。

豊崎愛生の初となるベストアルバム『love your Best』。ソロ・アーティストとして2009年10月のデビュー以来、これまでに3枚のオリジナルアルバムと15枚のシングルをリリースしている彼女だが、今回はこれらの作品に収録された楽曲から選曲。安藤裕子が書き下ろした新曲「猫になる」も加えた全16曲を収録している。

このベストアルバムでは、オリジナルアルバムからそれぞれ5曲を選曲。その5曲のうち3曲がシングル収録曲(カップリング曲も含む)、2曲がアルバムのみの収録曲となっている。シングルを中心としたベストアルバムではなく、バランスに気を配った選曲であるのがこのベストアルバムの特徴。どの曲も大切であるがゆえ、あえてこのような基準を設けたのかもしれない。

また曲は時系列やリリース順とは関係なく並べられている。もちろんバラバラな印象はなく、程よく緩急をつけた曲順は通して聴くと全体的に流れを感じさせるもの。その中で、3rdアルバム『all time Lovin’』のラストナンバー「一千年の散歩中」を1曲目に、デビュー曲「love your life」を既発曲の最後に並べているのもなかなか興味深い。“さあ何処かに出掛けよう”と新しい物語へと誘なう「一千年の散歩中」から始まり、少しずつ変わっていく日々をゆっくりとめくるように、“この物語の続き”を描く「love your life」へと至る曲順は、アーティストとして歩み続ける豊崎愛生の今の姿を強く意識させるかようでもある。

 

M-1「一千年の散歩中」は、前述の通り3rdアルバム『all time Lovin’』(2016.03.23)収録のナンバーで安藤裕子が作詞・作曲を手がけている。ここへと集約する楽曲のエンディング感とともに、ここから始まっていく予感をイメージさせる広がりのあるサウンドが力強く押し出すように奏でられている。

M-2「春風 SHUN PU」は、2011年4月にリリースされた4thシングルで、つじあやのが作詞・作曲を担当。うららかな雰囲気が漂うメロディが心にすっと染み込む。『love your Best』にはつじあやのが手がけたM-4「片想いのテーマ」も収録している。こちらは小粋なホーンアレンジとグルーヴィなベースラインが印象的。どちらも柔らかな語感と歌詞の譜割りのセンスがとてもつじあやのらしい。

M-3「シャムロック」は、2014年11月にリリースされた12thシングル『ポートレイト』のカップリング曲。作詞は戸松 遥やLiSAなどの作詞で知られる古屋 真。作曲・編曲の関 淳二郎は、豊崎愛生の楽曲の多くにアレンジャーと参加しており、このベストアルバムにも関が携わった6曲が収録されている。爽やかさを感じさせる、彼のアレンジの特徴がよく表われたナンバーだ。

アルバム『all time Lovin’』に収録されている M-5「クローバー」は、青葉紘季(サラブレンド、seagulloop)と角野寿和のユニット“aokado”が担当。aokadoは三月のパンタシアの2ndシングル「群青世界」(OVA『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』OPテーマ)、4thシングル「ルビコン」(TVアニメ『Re:CREATORS』第2クールのEDテーマ)なども手がけている。春の風景をゆっくりと色づけるように清々しいサウンドが流れてゆく。「シャムロック」や「シロツメクサ」、「CHEEKY」のアルバム・ヴァージョンとなる「CHEEKY -clover mix-」、そしてこの曲「クローバー」など、豊崎愛生の楽曲のタイトルにはクローバーにまつわるものが多く、彼女のお気に入りであることがよくわかる。

M-6「オリオンとスパンコール」は、2012年12月リリースの7thシングル。戸松 遥やRayに楽曲提供している大沢圭一が作曲を手がけ、編曲では関 淳二郎も加わっている。中期のビートルズを想起させるサイケデリック感も交えた、緻密かつダイナミックなアレンジが非常にカッコいい。“楽(ジョイ)・手(ハンド)・歌(ソング)・友(フレンド)・愛(ラブ)・哀(クライ)・音(ロック)・月(ムーン)・自(マイ)・生(ライフ)”と、ピースフルに言葉を並べる感じもまた60年代的なロックならでは。

M-7「シロツメクサ」は、2012年5月にリリースされた6thシングル。作詞と作曲は羊毛とおはなの千葉はなと市川和則が手がけている。編曲は羊毛とおはなのサポートメンバーでもある塚本 亮が担当。塚本 亮は坂本真綾の「something little」(2011年10月のシングル「Buddy」のカップリング曲)の作曲を手がけている。なお「something little」の編曲は、安藤裕子の楽曲の多くにアレンジャーとして携わっている山本隆二が担当している(「CHEEKY」のアレンジも山本隆二が担当)。歌詞は豊崎愛生から聞いた卒業式のエピソードから着想を得たという。過ぎ去った日々を愛おしむように、切なさがあふれる歌声が想いを強く伝え、優しさを幾重にも織り込んだメロディとともに包み込むように響く。

M-8「ほおずき」は、2015年6月にリリースされた13thシングル『Uh-LaLa』のカップリング曲で、bonobosの蔡 忠浩が作詞から作曲・編曲までを手がけている。レゲエやスカをベースにしたオーガニック・テイストのサウンドで、初恋の思い出をノスタルジックに描き出している。夏祭りの風景に淡い想いを重ねる歌詞が心の中で鮮やかなイメージを結ぶ。幼き日の記憶へと誘うイントロのキーボードの音色や、純真さを表わすようなフルート、清冽に流れるストリングスなど、アレンジも秀逸。

M-9「Dill」は2010年11月にリリースされた3rdシングル。作詞は原田郁子、作曲はミト、編曲と演奏はクラムボンが担当。ポストロックの手法を用いた複雑な構造を持つこの曲は、疾走感のあるサビでの開放的な展開や、繊細なニュアンスからさらに大胆な跳躍をみせるヴォーカルが聴きどころ。歌唱もかなりの表現力を要求されるものだが、サウンドと見事なまでに調和を果たしている。

M-10「パタパ」は、2ndアルバム『Love letters』(2013.09.25)に収録されているナンバー。作詞・作曲・編曲は、“たむらぱん”こと、田村歩美が担当。たむらぱんはこの半年後にリリースされた10thシングル「ディライト」(2014.03.19)も手がけている。“パパパパパタパ”のコーラスが人懐っこく弾む、のんびりとした雰囲気のサウンドにクールな視点で書かれた歌詞が妙にはまっているのが面白い。

M-11「叶えたまえ」は、2014年7月にリリースされた11thシングル。作詞・作曲はシアターブルックの佐藤タイジ。そして、シアターブルックが編曲と演奏を担当している。活き活きとしたロックのノリ、器の大きさを感じさせるサウンドが痛快に鳴り響く。おおらかに歌い上げるヴォーカルとパワフルな演奏との一体感が魅力的。

M-12「letter writer」はUNISON SQUARE GARDENの田淵智也が作詞・作曲を担当。アルバム『Love letters』のラストに収録されている。バンジョーも加えたカントリー・スタイルのアコースティックサウンドが紡ぐメロディが美しい。ほんのりとセンチメンタルな雰囲気をまとったヴォーカルが、“明日また君に会えますように”のフレーズをそっと届ける。

M-13「君にありがとう」は、1stアルバム『love your life, love my life』(2011.06.01)収録されている楽曲で、奥 華子が作詞・作曲・編曲を手がけている。奥 華子によるピアノ演奏と豊崎愛生のヴォーカルのみというシンプルな曲だが、だからこそメロディの美しさとヴォーカルの存在感が際立つ。お互い静かに寄り添うような、親密な音の響きが感じられる。

M-14「music」は、2012年1月にリリースされた5thシングル。作詞のつじあやのがウクレレ、作曲・編曲のミトがベース、クラムボンの伊藤大助がドラム、ピアノがコトリンゴでレコーデイングが行なわれている。軽やかで躍動的なサウンドには、新しい季節の到来を告げるようなみずみずしさがあり、聴いていると気持ちがとてもワクワクしてくる、そんな1曲。

M-15「love your life」は2009年の10月28日、つまり豊崎愛生の誕生日にリリースされた1stシングル。豊崎愛生のイメージにもぴったりなこの楽曲で自身のデビューを広く印象づけた。Rie fuによる歌詞とメロディが、ソロ・アーティストとして進み始めた豊崎の姿を優しく描き出している。ゆったりと流れるサウンドには温かな空気感があり、またどことなく懐かしさも感じさせる。

M-16「猫になる」は、安藤裕子が作詞・作曲を手がけた新曲。安藤は9thシングル「CHEEKY」(2013.08.28)、「一千年の散歩中」に続いて、3度目の楽曲提供となる。明るくポップなメロディを関 淳二郎が軽快なアレンジでまとめている。歌詞こそ人に憧れる猫の気持ちを描いているものの、ヴォーカルは「猫っぽい」キャラ的なニュアンスを含んでおらず、むしろありのままの自然体な雰囲気を感じさせる。猫の姿を借りつつ、等身大の豊崎自身を表わしたようでもある。

 

ハイレゾは低域が程よいバランスで、「一千年の散歩中」ではドラムの鳴りも張りがあって実にふくよか。それぞれの音の分離感や楽器同士の距離感がさらに感じられ、「ほおずき」の左右からこぼれるようなギターやフルートの音色からも、余裕のある空間を生かした音作りとなっていることが理解できる。グルーヴ感やノリのよさもその特徴で、「片想いのテーマ」「オリオンとスパンコール」ではベースラインがますます心地好い。また「music」はイントロのクラップのシャキッとした感じやドラムの爽快な音の響きなど、アクセントが跳ねるような活き活きとした演奏の様子が目に浮かぶ。「Dill」や「叶えたまえ」では熱量の高いバンドサウンドの一体感がよりいっそう伝わってくる。そして高い解像感がふわっとした声の質感や抑揚の柔らかさといった豊崎愛生のヴォーカルの特徴をよく捉えており、彼女らしいナチュラルな雰囲気がサウンドにまろやかに溶け込んでいる。

なお今回はアナログ盤『love your Best Analog Selection』も同時にリリース。レコードの特性として、また音質を保つため、曲数は9曲とCDよりも少ない。しかし、CDには収録されていない曲がレコードには収録されており、レコードをこよなく愛する豊崎のこだわりといったものも窺える。

豊崎愛生
love your Best

Music Ray’n Inc.
2017.07.19

FLAC 96kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

 収録曲

 1.一千年の散歩中
   作詞・作曲:安藤裕子 編曲:森 俊之
   3rdアルバム『all time Lovin’』(2016.03.23)収録

 2.春風 SHUN PU
   作詞・作曲:つじあやの 編曲:関 淳二郎
   4thシングル(2011.04.13)
   1stアルバム『love your life, love my life』収録

 3.シャムロック
   作詞:古屋 真 作曲・編曲:関 淳二郎
   12thシングル『ポートレイト』(2014.11.12)カップリング曲
   3rdアルバム『all time Lovin’』収録

 4.片想いのテーマ
   作詞・作曲:つじあやの 編曲:関 淳二郎
   1stアルバム『love your life, love my life』(2011.06.01)収録

 5.クローバー
   作詞・作曲・編曲:aokado
   3rdアルバム『all time Lovin’』収録

 6.オリオンとスパンコール
   作詞:古屋 真 作曲:大沢圭一 編曲:関 淳二郎、大沢圭一
   7thシングル(2012.12.19)
   2ndアルバム『Love letters』(2013.09.25)収録

 7.シロツメクサ
   作詞:千葉はな 作曲:市川和則 編曲:塚本 亮
   6thシングル(2012.05.23)
   2ndアルバム『Love letters』収録

 8.ほおずき
   作詞・作曲・編曲:蔡 忠浩
   13thシングル『Uh-LaLa』(2015.06.24)カップリング曲
   3rdアルバム『all time Lovin’』収録

 9.Dill
   作詞:原田郁子 作曲:mito 編曲:クラムボン
   3rdシングル(2010.11.10)
   1stアルバム『love your life, love my life』収録

10.パタパ
   作詞・作曲・編曲:田村歩美
   2ndアルバム『Love letters』収録

11.叶えたまえ
   作詞・作曲:佐藤泰司 編曲:シアターブルック
   11thシングル(2014.07.09)
   3rdアルバム『all time Lovin’』収録

12.letter writer
   作詞・作曲:田淵智也 編曲:関 淳二郎
   2ndアルバム『Love letters』収録

13.君にありがとう
   作詞・作曲・編曲:奥 華子
   1stアルバム『love your life, love my life』収録

14.music
   作詞:つじあやの 作曲:mito 編曲:よだれ虫オールスターズのみなさん
   5thシングル(2012.01.25)
   2ndアルバム『Love letters』収録

15.love your life
   作詞・作曲:Rie fu 編曲:馬場一嘉
   1stシングル(2009.10.28)
   1stアルバム『love your life, love my life』収録

16.猫になる
   作詞・作曲:安藤裕子 編曲:関 淳二郎
   新曲

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