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2017.10.11

緒方恵美『アニメグ。25th High Edition』レビュー

緒方恵美『アニメグ。25th High Edition』レビュー

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の主題歌「桜流し」は、宇多田ヒカルの楽曲で、映画公開日である2012年11月17日よりデジタルシングルとして配信された。今作では『real/dummy』のリード曲「white closet」を手がけている中土智博がアレンジを担当。原曲ではピアノをメインに重厚なストリングスを加えて構成されているが、今回は弦楽器をチェロだけに絞っている。チェロの演奏は元G-CLEFの柏木広樹。落合徹也(元G-CLEF)、川井郁子、高橋直之(NAOTO)らとともに参加した『エヴァンゲリオン交響楽』では、第拾伍話「嘘と沈黙」のBパートで碇シンジが弾いていた「無伴奏チェロ組曲第1番ト長調op.1007~前奏曲」を演奏している。ということもあり、今回のチェロは緒方恵美曰く、“碇シンジのチェロの中の人”による“シンクロ率400%”の演奏となる。「無伴奏チェロ組曲第1番 前奏曲」の印象が強いので、こちらもチェロによる独奏と思いきや、後半からは原曲のストリングスの厚みをチェロの多重録音で再現しており、原曲と同じように展開がダイナミックである。ボーカルもまた弦を弓で奏でるがごとく、伸びのあるしなやかな歌声で、楽曲の世界観に深く溶け込んでいる。

緒方恵美がモモカ役を演じたTVアニメ『ハマトラ』からは、ムラサキ役の羽多野渉によるED主題歌「Hikari」を選曲。作詞・作曲は、元SURFACEのギタリスト・永谷喬夫で、原曲のアレンジは羽多野渉の楽曲にも多く携わっている山下洋介が担当している。今回はアレンジにR・O・Nを迎え、原曲の激しさに輪をかけて、楽曲をさらにアグレッシブに繰り広げる。調和しないままサウンドが始まるAメロの、譜割りをややズラして苛立ちを伝えるパートから、リズムが入り込んで一直線に進み、サビへと突き抜ける、この構成がたまらなく痛快。楽曲の疾走感をいっそう促すようである。孤独なイメージを破り捨てる、ボーカルが力強く響く。

「バイバイYESTERDAY」は、TVアニメ『暗殺教室』第2期のOP主題歌。作曲はフレデリックの三原康司、原曲の歌は5名のキャストによる“3年E組うた担”〈 潮田 渚(CV. 渕上 舞)、茅野カエデ(CV. 洲崎 綾)、赤羽 業(CV. 岡本信彦)、磯貝悠馬(CV. 逢坂良太)、前原陽斗(CV. 浅沼晋太郎)〉が担当している。今回のカバーでは、“堀部糸成(CV. 緒方恵美) feat. 寺坂組”〈寺坂竜馬(CV. 木村 昴)、村松拓哉(CV. はらさわ晃綺)、吉田大成(CV. 下妻由幸)、狭間綺羅々(CV. 斎藤楓子)〉が歌唱。アレンジは、『real/dummy』にて「アルター・エゴ」を提供したジェッジジョンソンの藤戸じゅにあによるもので、原曲のギターロックをエレクトロニック・サウンドに置き換え、ビートやアクセントをさらに強調。このアッパーな感じが元不良たちの集まりである寺坂組にぴったりなのだ。3年E組の生徒らしい強い絆をユニゾンの一体感で聴かせながら、2番からはリーダーの寺坂竜馬がラップを披露。木村 昴のライミングがあまりにもうまいので、寺坂竜馬が2割増しでカッコよく思えてしまうほどである。やんちゃなキャラたちの存在感をさらにアピールする楽曲となった。

アルバムのラストナンバー「Komm, susser Tod」は、1997年に公開された『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に』の挿入歌で、鷺巣詩郎が作曲を手がけている。今作でのアレンジを、「Nobody’s perfect!」(アルバム『Rebuild』収録)、「永遠駆動タイム・マシーン」(アルバム『Desire -希望-』収録)、「断鎖 -break-」(アルバム『real/dummy』収録)などの曲を提供している黒須克彦が担当。今年の9月にリリースされたPlastic Treeのトリビュートアルバム『Plastic Tree Tribute~Transparent Branches~』では、緒方恵美がカバーした「みらいいろ」のアレンジを手がけ、演奏にも参加している。このように緒方からの信頼も厚い黒須が今回、“ハードルの高い”この曲のアレンジという大役を担っている。アレンジは英詞による原曲の雰囲気を大切にしながら、イントロのピアノをギターへ、Aメロのギターは逆にピアノへというように、楽器の変化を細かく加えており、またそれらの音色の重なり具合や音の響きに気を配っていることもわかる。終盤のちょっとサイケデリックな演出は、ザ・ビートルズのナンバーのようでもある。そして、歌声は碇シンジそのもの。健気でひたむきな姿が思い浮かぶその歌声は柔らかく、安らぎに満ちているようだ。しかし、“無へと還ろう”というフレーズが繰り返される歌詞には、傷ついた彼の想いがそのままに表われており、それは静かな祈りへと変わっている。その繊細で儚い歌声を癒すように、サウンドが優しく包み込んでいる。

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