取り戻した“声”に乗せた、彼女の強い意志とは? 牧野由依ミニ・アルバム『WILL』インタビュー

牧野由依は、転んでもタダでは起きなかった。昨年夏に開催した2Daysにわたるワンマンライブの2日目でノドを傷めてしまった彼女は、このたびミニアルバム『WILL』をリリース。ノドを痛めて声が出ないという辛い時期を過ごした彼女は、その間の様々な出来事を発想の転換により貴重な経験へと落とし込み、呼吸法から自身の歌唱法に向き合うことでフィジカル的にもプラスに転化し、このアルバムへと繋げたのだった。本稿では収録曲についてはもちろん、彼女のリリースに至るまでの想いにも迫る。

最大の危機を乗り越え、“声”で魅せる1曲を作り上げる

――今回のミニアルバムは、今までの作品の中でもっとも内面をさらけ出されているという印象があったのですが。

牧野由依 元々は、本来であれば昨年6月に「Reset」というシングルをリリースして、その流れでアルバムを……という話が出ていたんです。でもその矢先に去年の夏のライブのときにノドを壊してしまって、1回全部ガラガラッと企画が崩れまして(笑)。もう隠そうと思っても隠しきれないような状態だったので、「なら、取り繕ってもしょうがないよね」というところはありました。

――そんな『WILL』のコンセプトは“困難を乗り越える強さ”とのことですが、決め手になったのはどんな想いだったのでしょうか?

牧野 やはりノドを壊して、あんまり見せたくない弱い姿だったりかっこ悪い姿を見せてしまったという気持ちがずっとあったので、改めて“自分が進んでいきたいもの”というものをしっかり打ち出したくて、このタイトルとコンセプトを選びました。

――ノドのお話が出たので、その夏のライブのお話をお伺いしたいのですが、2日目のライブ中はどのようなお気持ちだったんでしょうか?

牧野 2日目は、まずライブ前に朝起きたときから「あれ?」っていう状態だったんです。今までは現場に入ると多少の調子の悪さはなんとでもなってしまっていたんですけど、ステージに出たときから「あ、これヤバいな」ってずっと思っていたんですよ。もちろん、やらなきゃいけない治療とか薬とか、いろんな手は打ってたんですけど……。

――ご自身でも、明らかにおかしいと感じられていた。

牧野 はい。それで、歌っていくうちにまず高音が出なくなって、その少し下が出なくなり、メインで使っている音域もだんだん出なくなっていって……灯りがどんどん消えていくような感じがしましたね。最後はもう、1~2個しか灯りがついてないところを、一生懸命目指して走っていくみたいな感じで。デビューしてから十何年歌わせていただいてますけど、あんなに必死だったことはないかもしれないです。なので、振り返ろうと思っても細かいことって覚えてないんですよ。でもライブ後は、「全部が終わってしまった」と思いましたね。それまでずーっと出てなかった咳も突然出始めちゃったりしていたので、「戻れないかもしれないな」っていうのは漠然と思っていました。

――実際、声が戻るまでどのくらいかかったのでしょう?

牧野 お医者様からは最初「1週間ぐらいで治る」と言われていたんですけど、治らなくて。初めの2~3週間ぐらいは、喋れなくてずーっと筆談だったんですよ。

――かなりの重症だったんですね。

牧野 はい。タクシーに乗って病院に行ったりするときもずっと筆談だったので、すごく温かい声をかけてくださる方もいれば、強く当たられてしまうこともあって……これは今だからこそ言えることかもだと思うんですけど、それも「普段できない経験を、今できてるんだな」って発想の転換ができるようになってからは、ちょっと楽になりました。

――牧野さんの場合は、歌だけでなく声優としてのお仕事も多いので、そちらも大変だったのでは?と思ったのですが。

牧野 先ほどのお医者さんのお言葉をもとにマネージャーもスケジュールを調整してくれていたので、1週間経って声が出てなかったときには「役、替えられちゃったりしたらどうしよう」という不安も出てきましたし、そう言われてしまうことも覚悟していました。でもマネージャーから「どの現場の方も、『ギリギリ待てるところまで待つから、ちゃんと治させてあげて』って言ってくださってるよ」と聞いたときは、本当に涙が止まりませんでした。

――そういった経験を経てのアルバムが、「Reset―A Cappella Version―」という声だけの曲で始まるというのは、とても大きな意味があるように感じました。

牧野 それも「やりたい」と言ったのは私なんです。『WILL』にはみんな共通の認識として、“リベンジ”といういちばんの裏テーマがありまして。なので、いちばん心配をかけてしまった私の声というものを、「戻りましたよ!」と聴かせたかったんです。

――しかもそれを、ボイスパーカッションなども駆使した声だけの曲、という初挑戦のもので。

牧野 そうですね。ノドを壊したときから「タダでは起き上がらず、絶対に何かを掴んで起き上がってくる」というのは思っていたので、やったことのないものを100%の声で作りたい、と言いまして。ただ、その話をした時点ではまだ完全には治っていなかったので、レコーディングに向けて治療もしつつ、ピラティスに通ったりボイストレーニングをイチから全部やり直したりして、何ヶ月もかけてレコーディングのためにずっと準備をしていましたね。

――そして臨まれたレコーディングですが、実際されてみていかがでしたか?

牧野 そもそもこのバージョンのボーカルレコーディングで取られていたのは1日だけだったんですけど、音が入らないように空調を切った状態で1畳ぐらいのブースの中で7~8時間ずっと歌っていたら、歌を録っているのに寝落ちるという現象が起きまして。

――酸欠に。

牧野 はい。歌の間は大丈夫なんですけど、チェックをしていただいている間に、気がついたら意識を失っている、というのが何回かあって(笑)。それで、何日かに分けて録ることになったんですけど、それもまた毎回10時間ぐらいかけていましたね。

――その分コーラスはすごく密度の濃いものになりましたが、全体で何パートぐらいになったんですか?

牧野 トラック数が40トラック以上あるので、1クラス分の牧野由依がこの1曲にいます(笑)。しかもメインボーカルもいますから、担任の先生も牧野由依、みたいな(笑)。だから、今まで曲を出させていただいたときには「こんなシチュエーションで聴いてください」とか「皆様に寄り添える楽曲になってもらえたらうれしいな」なんてきれいなこと言ってたんですけど、今回に関してはホント「心して聴いてください!」っていうのを、ホント心の底から思います。魂を紡いでいったような感じですね。

――その、何十時間が5分間に詰められているわけですからね。

牧野 そうですね。今の時代っていろいろできるので、機械で調節することはすごく簡単だと思うんですよ。でも“声”と“強い意志”というテーマを掲げているのに、「機械使いました」じゃ全然説得力がないなと思って。全部自分でやっているというのは、すごくこだわったところですね。

――もちろん、コーラス以外のボイスパーカッションの部分も挑戦されて。

牧野 はい。「できるまで10本・20本ノック」みたいな感じでやっていったんですけど、そのなかで出なかった音が出るようになったり、できなかったことができるようになったりっていう練習と成果が詰まっているので、聴いていただけたらすごく報われるなと思います。

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