リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

REPORT

2017.06.03

もりくぼは、もりをでました。“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!”石川公演レポート(後編)

もりくぼは、もりをでました。“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!”石川公演レポート(後編)

『アイドルマスター シンデレラガールズ』初の全国ライブツアー“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!”石川公演が5月27日~28日、石川県産業展示館・4号館で開催された。

石川公演には青木瑠璃子(多田李衣菜役)、飯田友子(速水 奏役)、大坪由佳(三村かな子役)、金子有希(高森藍子役)、洲崎 綾(新田美波役)、髙野麻美(宮本フレデリカ役)、高橋花林(森久保乃々役)、種﨑敦美(五十嵐響子役)、津田美波(小日向美穂役)、長島光那(上条春菜役)、花守ゆみり(佐藤 心役)、原 優子(向井拓海役)、春瀬なつみ(龍崎 薫役)、牧野由依(佐久間まゆ役)、安野希世乃(木村夏樹役)が出演した。

石川公演レポート(前編)はこちら

さて、石川公演2日間のセットリストを構成する各ブロックのうち、もうひとつ特記すべきなのが14曲目・青木の「Sparkling Girl」から、17曲目・青木と安野の「Jet to the Future」に至る流れだ。クールでロックな楽曲を集めたブロックであり、同時に多田李衣菜と木村夏樹のユニット「ロック・ザ・ビート」(=だりなつ)の物語を濃厚に香り立たせる流れでもある。2人のキャラクターのつながりはゲームの「アイドルマスター シンデレラガールズ」で5年前に始まり、2015年夏放送のTVアニメ版『シンデレラガールズ 2nd SEASON』でも新たな物語として再構成された。本作でも高い人気を誇るユニットのひとつだ。

その関係性は、音楽が体に染み込んだ本格的なロック好きである木村夏樹の背中を、ロックという言葉に漠然とした憧れを持つ少女・多田李衣菜が追いかけていくのが基本だ。夏樹との関係性を通して、李衣菜は本当の意味でロックを知り、さらに好きになっていく。そうした関係性から考えると、歴史を積み重ねてきたロック・ザ・ビートの新曲「Jet to the Future」をオリジナルメンバーで披露する晴れ舞台で、先陣を切るのが李衣菜のソロ「Sparkling Girl」なのは感慨深いものがある。伸びやかな長身をいかした青木のパフォーマンスは、ファーストライブを知る初期メンバーの一人として、後半戦の先陣を切る切り込み隊長の気迫にあふれていた。

このブロックの演出面の特徴が、スクリーンに表示されたバンドセットのイラストがうなりをあげるたびに会場をふるわせる重く激しい音響だ。青木自身もスタンバイエリアで感じるこのブロックの音響を「会場がブンブン言ってる」と表現していたほど。生バンドではなくても、それに迫る、あるいはそれ以上の迫力の音響を。音にこだわりがあるシンデレラチームの意地を感じるブロックだ。もっと弾けていくことを宣言した青木のエアギターは、バックダンサーをも巻き込んで最高のテンションへと会場を連れていった。

安野の「Rockin’ Emotion」には、原優子がパートナーとして参加。ステージでは夏樹のロックと、原が演じる向井拓海のノンブレーキのノリががっちりと噛み合った。安野と原がお互いの背を預けあってのセッションプレイは、2日目にはさらに身体をぶつけあうようなライブ感のある熱い表現へと進化。原優子がステージで、あるいはMCで見せる陽性のテンション感は、石川公演のチームに欠かせないピースになっているように感じられた。

飯田が歌った「Hotel Moonside」は、近年クラブシーンで最も愛されているアイマスソングだろう。だがこのクラスの箱で、ライブチームとサウンドチームが培ってきた光と音の演出の粋を凝らした本家のパフォーマンスには、公式の本気を感じた。アレンジされたイントロのサウンドが荒れ狂う中、ピンスポットで断続的に照らし出された6人のダンサーたちが、リミッターを解除したパフォーマンスを披露。アイドルがステージに現れる前に、会場に既に醸成される完全に出来上がった空気。それはアイドルライブとはある意味異質なものだ。

だがそれも、女王が、主役がステージに立つまでのこと。音響が、照明が、ダンサーたちが、それぞれの上限まで振り切った魅せ方ができるのは、スイッチを入れた彼女が真ん中に立った瞬間、その場の主役が誰であるかを細胞レベルで知らしめる異能の持ち主だからだ。海と海、銀河の映像の狭間に立つ飯田の存在とカリスマが場を圧し、全てを従えていった。

先程クールでロックなブロックという括り方をしたが、厳密に言えばEDMである「Hotel Moonside」はその枠からは外れる。だが不思議とその配置に違和感がなかったのは、どんなに広くフラットな環境でも、全身を貫く音と、会場を伝播していくテンションの一体感は共有して楽しむことができる、というシンプルなコンセプトは一貫していたからだ。アイマスの客席の基底にあるのはコールとサイリウムを中心としたアイドル文化だと思うが、このブロックの一連の流れの中で生まれた、音を身体で楽しむ温度感は、初披露の「Jet to the Future」の後半、ステージの2人に呼びこまれるように起こるクラップの海でより顕著になる。思えば、全面フラットな客席とステージが対峙する会場は、演者とファンがむき出しのテンションをぶつけあうにはぴったりの構図だ。客席というよりはフロアと呼びたくなるような、ある日何処かのロックフェスに紛れ込んだような、そんな不思議な一体感。李衣菜が追い続けてきた「ロック」という言葉が持つ熱量が、確かにそこにあった。

ロック・ザ・ビートに関しては特に2日目、歌い終えたあとに会話する青木と木村の間に流れる、どこか面映いようなおだやかな空気も印象に残った。お互いの存在と、支えあってきた時間がどれだけ大切であるか。青木が曲中に目を合わせるタイミングを決めていなかったのに自然に2人の目があった話をすれば、安野は曲中の「yourself」を初日は客席のプロデューサーに、2日目は青木に向けて歌っていたことを明かしていた。一方、MC途中で登場した原が今日も安野と揃いの指輪(昨年の神戸公演で、原がユニット「炎陣」全員に贈った品)をつけていることをアピールして対抗したりと、なんだかモテモテな安野だった。

そして、表題である。初日はなるべく全体を俯瞰して見るようにしている中で、森久保乃々役の高橋花林が、歌いながら忙しく目線を左右に散らしている姿が目をひいた。それは言うまでもなく、なかなか人と視線を合わせることができない森久保らしさをステージでも表現しようとする試みだ。

最初に乃々の視線の表現が如実に感じられたのが、自分らしさと向き合いながら、自分の中に秘められた宝物を探していく「私色ギフト」だった。高橋は基本的に客席と目線を合わせない表現に注力しているのだが、歌詞が森久保の心情とリンクしているようにも感じられる二番では、ソロパートで彼方のどこかを祈るように見つめる視線が強く印象に残ったりする。それに近い表現を感じたのが「Star!!」で、高橋は全体的には視線を彷徨わせながらも、高く掲げた自分の指先の向こうに星を、憧れを見るような振付では、はっきりとその先を見つめるニュアンスを込めてくる。

一方、この世ならざる雰囲気を漂わせたお菓子の魔女の集会を描く「Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~」では、素の森久保とは違う表情感で、客席をぼんやりと見つめながら妖しい空気感をかもしだした。別種の表現を選んでいるときには先程までの森久保感が霧散したことで、逆説的に先程までの表情のひとつひとつに意図が込められたものであることを再確認する。そんな新しい表現を見せながらも、ステージの上段から走ってくる時のてててて、という感じの足取りが森久保そのものなのは微笑ましい。

勇気を出してステージに立ち続けた森久保は、やがて「夕映えプレゼント」で胸を高鳴らせながら客席に向けて大きく手を振る。そしてアンコールの「M@GIC☆」、一番ではまだためらいを見せていた彼女が、ステージの魔法にかかった二番でまっすぐに、ひたむきに客席を見つめて歌い始めた時には不思議な感動を覚えてしまった。初日にステージで森久保乃々を再現する意志を見せた高橋は、2日目には星の輝きに憧れ、見つけてほしくてふるえていた女の子が、やがてステージの魔法に出会うまでを体現してみせた。

「もう、もりくぼは……もりくぼじゃありません。森から一歩出た……くぼ。」

締めで高橋がなぞってみせたのは、『デレステ』のSSRカード[森のものがたり]森久保乃々の親愛度MAXの台詞だった。シンデレラガールズのライブに初参戦した新人である高橋花林が、2日間のライブを通して、森久保乃々というキャラクターの物語を鮮やかに描き出してみせたのである。

花守ゆみりもまた、石川会場で『シンデレラガールズ』ライブに初出演した一人。だが彼女のパフォーマンス中には、それほど初ステージ感を感じなかった。佐藤心の髪型を再現したふくらみの大きなツインテールで登場した花守は、その場にいることが当然に感じられるぐらい頼りになる、堂々たるパフォーマンスを見せていたからだ。そんな花守=心の表現が爆発したのが「Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~」で、かわいいけれどどこか妖艶な、包みこむようなニュアンスの表現は、まさに不思議な世界の魔女を思わせるもの。花守自身も19歳の自分が「年齢不詳の26歳」をどう表現するかをずっと考えていたそうだが、そのアンバランスさこそが佐藤心というキャラクターにぴたりとハマっていた気がする。

演じる佐藤心のことを「シュガハ姉さん」と呼ぶ姿が印象的だった花守。「Love∞Destiny」の個性豊かなメンバーの中に入る心情を「心がシュガシュガしてきた!」と表現したりと、MCで自分を鼓舞する時にこそ心らしいフレーズを口にしていたように感じた。そんな花守が秘めた内心を吐露したのがラストのMCで、なかなか合同練習に参加する時間がとれなかったかった焦りや、そのことや初参戦であることをできない理由にしたくない、といった複雑な想いを語っていた。その上で、重みを力と愛に変えてステージに立ったという花守が見せたパフォーマンスが、客席からは揺らぎを感じさせなかったのは改めて尊さを感じるし、佐藤心らしいと感じるあり方だった。

石川公演を真に印象的にしたのは、2日目最後の締めのMC全体の流れだったかもしれない。まず押さえておきたいのは、青木が“はっしーがいないライブ”に言及していたこと。シンデレラのセンター・大橋彩香はいつも笑顔でしっかりと、ラストのMCを締めくくってくれた。絶大な安心感と信頼感をもたらす彼女がいないライブで、敢えて青木がそのことを言葉にした意味。それは「Jet to the Future」を歌い終えたあと、安野に泣いてる? と聞かれた青木が客席に背を向けて、カメラにも、客席にも絶対に表情を見せなかったことにもつながるのではないか、と思う。

締めのMCで津田が、仲間たちが頑張っている姿を見ると泣けてしまうと語っていたのはとても津田らしく、小日向美穂らしい姿だったが、泣きそうになるたびに彼女が自分が泣く場じゃない、と言い聞かせていたのが印象に残る。青木は石川公演の素晴らしさと、それゆえにツアーのラストのSSAのハードルが上がったのではないかと語った上で、「見ててくださいよ。やってやりますからみんな!」と、さらに高い目標を超えていくことを決然と宣言した。挨拶順が後半だった大坪は「やりたいことがあります!」と宣言すると、マシュマロならぬきんつばを客席に投げこむ(真似の)パフォーマンスを満面の笑顔で見せた。牧野は真ん中に立つ重みと、この場所に立つ幸せを語った上で、最後は明るく気丈に言葉を締めくくってみせた。シンデレラのステージをたくさん踏んできた先輩たちからは、涙に染まりがちなラストの挨拶の中で、自分たちが支えるんだという強い気持ちが感じられた気がした。

それだけに、締めの挨拶の後半に初出演組が多くいることで、プレッシャーがかかりすぎないとよいな、と、思っていたのだが…。それが杞憂だったことは、洲崎の故郷への深い想いがこもった挨拶のあとに登場した種﨑が教えてくれた。石川の素晴らしさやこの公演への思いをとつとつと語っていた種﨑が、「緊張はしましたけれど、不安はありませんでした。ビコーズ、なぜなら! 本当に楽しくって」と唐突に英単語を織り交ぜた瞬間、会場から巻き起こった笑いで空気がふわっと軽くなったのである。その後もちょっと不器用に言葉をつなぐ種﨑の言葉からにじみでる天然のおかしみに、会場からは笑いが続き、最後は温かい拍手に包まれた。

この挨拶の、綱を渡るようなバランスを言葉で伝えるのは、とても難しい。だが花守がはじめて吐露した内心や、会場に家族が訪れた長島が上条春菜と仲間たちに捧げた感謝の言葉で、ふたたび暖かくもウェットな方に空気が流れると、今度はそこに高橋花林がいるのである。高橋が100%陽性の、「ぺっかー」と擬音がつきそうな明るい口調で語りだすと、会場から軽い笑いとどよめきが起こる。高橋自身はなんでどよどよするんですか、と笑いながら抗議していたが、ライブ本編であれだけ「森久保乃々」に寄り添った表現に魅せられた上で、締めのMCでは「高橋花林」本人の素の朗らかさ、天然の芯の強さに救われた感じになるなんて、もう笑うしかないというのが正直なところだった。

今回のツアーの副題「Serendipity Parade!!!」は、千川ちひろのライブナレーションでは“奇跡の大行進”と訳されている。「Serendipity」はちょっと難しい単語だが、予期しない偶然からふと見つける発見、幸運、宝物、といったニュアンスがある。様々な想いがつながっていった締めの挨拶の最後で、バトンを受け取るのは原優子だった。

原は一緒に鍋を囲んだ時の話から、牧野や津田をチームのお姉ちゃんに、石川公演の仲間をひとつの家族になぞらえると、「石川に向けたこの家族、やべぇなって思います!プロデューサーもこっちもみんな身内じゃん!いぇーい!このまま5thライブ、駆け抜けて、いこうなー!」と笑顔で締めくくったのだった。頼れるセンターの不在に言及されたライブで、最後を鮮やかに締めくくったのが拓海の?ヤンキー的価値観、仲間意識の暖かさだったとは。まさに予想外の宝物と言うしかない。

だが原にその気持ちを抱かせた代表として名前が挙がった「お姉ちゃん」が、仲間のために涙を見せた津田と、プロデューサーが応援してくれる限りアイドルをやり続けると力強く誓い、仲間たちを引っ張った牧野の2人だったこと。それはきっと、偶然ではなかったはずだ。

Text by 中里キリ

「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!」石川公演2日目セットリスト
2017.05.28 石川県産業展示館・4号館

M01:Yes! Party Time!!(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
M02:エヴリデイドリーム(牧野由依)
M03:恋のHamburg♪(種﨑敦美)
M04:青空リレーション(金子有希)
M05:私色ギフト(髙野麻美、花守ゆみり、春瀬なつみ、高橋花林)
M06:おかしな国のおかし屋さん(大坪由佳 ゲストプリンスパフォーマンス:安野希世乃)
M07:空と風と恋のワルツ(津田美波)
M08:ヴィーナスシンドローム(洲崎綾)
M09:あいくるしい(牧野由依、大坪由佳、飯田友子)
M10:オルゴールの小箱(高橋花林、洲崎綾、青木瑠璃子、飯田友子、長島光那)
M11:絶対特権主張しますっ!(金子有希、安野希世乃、原優子、春瀬なつみ、花守ゆみり)
※10曲目と11曲目は初日と入れ替え
M12:キラッ!満開スマイル(大坪由佳、髙野麻美、種﨑敦美、津田美波、牧野由依)
M13:Star!!(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
M14:Sparkling Girl(青木瑠璃子)
M15:Rockin’ Emotion(安野希世乃、原優子)
M16:Hotel Moonside(飯田友子)
M17:Jet to the Future(青木瑠璃子、安野希世乃)
M18:Love∞Destiny(牧野由依、青木瑠璃子、津田美波、金子有希、花守ゆみり)
M19:Nocturne(飯田友子、洲崎綾、長島光那)
M20:Sweet Witches’ Night ~6人目はだぁれ~(大坪由佳、高橋花林、髙野麻美、種﨑敦美、花守ゆみり)
M21:生存本能ヴァルキュリア(洲崎綾、金子有希、長島光那、原優子、春瀬なつみ)
M22:夕映えプレゼント(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
-ENCORE-
EC01:M@GIC☆(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
EC02:お願い!シンデレラ(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
(C)BNEI/PROJECT CINDERELLA

関連リンク

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP