REVIEW&COLUMN
2015.06.26
うたパス×リスアニ!のコラボレーション第3弾は、前回、前々回から少し趣向を変えて、スタッフによる選曲会議をそのまま記事化!うたパス部門で随一のアニソン知識量を誇るぴょん太さんと元リスアニ!編集長の西原史顕、そして男だけでは寂しいので『ガンスリンガーストラトス』まぐま役、『アイドルクロニクル』MIU役などで活躍中の声優にしてアニソン系クラブイベント“リスアニ!ナイト”常連、湯浅かえでを加えた3人で、“ノイタミナ10周年”を語ります。タイトルはズバリ「ノイタミナ(勝手に)BEST」!今年4月にリリースされたコンピレーションアルバム『ノイタミナ FAN BEST』にあやかって、我々の趣味全開な選曲をお届けします!
(※本記事には一部ノイタミナ作品のネタバレを含みます。予めご了承ください)
★リスアニ!×うたパス特集チャンネル【湯浅かえでと選ぶノイタミナBEST】はこちら
西原史顕 さてさて、我々のこの企画のために湯浅さんにご登場いただいたわけですが、初回のテーマがノイタミナ。今年で10周年というわけで、改めて歴代のOP、EDテーマを並べると100曲以上!
湯浅かえで す、すごい……。
西原 10年ですよ、10年。
ぴょん太 10年前はKDDIに入社したばかりの頃ですね。当時は今のような音楽の仕事ではなくて、通信の仕事をしておりました。
西原 僕なんてフリータでしたよ。ピザ配ってました。
湯浅 そうなんですか!? 10年ひと昔ですねぇ。
『のだめカンタービレ』がノイタミナの認知度を拡大
西原 この10年でノイタミナもすっかり定着したわけですが、まず、ノイタミナ作品で印象に残っているものってありますか?
湯浅 印象に残っているもの……ノイタミナという放送枠を意識しだしたのが、私は『東京マグニチュード8.0』あたりだったと思います。その前後の『東のエデン』『空中ブランコ』も観ていて、「ノイタミってこういうアニメをやるんだな」っていうイメージが自分の中ではっきり出来上がったというか。
西原 そのノイタミナのイメージとは?
湯浅えっと、なんかちゃんとしてる(笑)。ちょっとオシャレかなという感じですね。それ以前も観ていたんですけどね。『墓場鬼太郎』とか大好きでしたし。さらにその前だと『Paradise Kiss』も観てました。マンガが好きで。
西原 ぴょん太さんはノイタミナ作品はいつ頃から?
ぴょん太 いちおう『ハチミツとクローバー』からですね。やはり原作マンガが好きだったので。でもノイタミナのアニメって、湯浅さんがおっしゃるとおり少しオシャレな感じで、美少女に萌えるようなタイプではなかったですよね。だから当時の自分にとってはど真ん中ではなくて、微妙な距離を置いていたのが正直なところですね。
湯浅 たしかに特に最初の頃の作品は、女性向けな感じがしますよね。
西原 「木曜深夜にドラマではなくアニメを観るOL」というのが、そもそもフジテレビさんが想定したノイタミナの視聴者像でしたからね。僕も『のだめカンタービレ』を観るまでは、ぴょん太さんと同じく多少の畑違いを感じていたのですが、『のだめ』は女性マンガ誌原作なのに完全なスポ根というか、男性でも入りやすい作品だったと思うんです。あれでノイタミナが一気に認知されたという感覚は、男性アニメファンにはあるのかもしれませんね。
ぴょん太 『図書館戦争』なんかもそうですよね。表現の自由をテーマにしているのが面白くて。冷静に考えると極端な設定なんですが、その点は自分も夢中になれた内容だったと思います。
西原 ドラマとしてはべったべたな恋愛モノなんですけどね。
湯浅 そうなんですか!? 私、『図書館戦争』は最後まで観てなくて……。
西原 基本は主人公のふたりがどうくっつくかって話ですから(笑)。
“10年後”に聴く「secret base 〜君がくれたもの〜」
西原 ではそろそろ本題に入りましょう。音楽が印象的だったノイタミナ作品ってありますか?
湯浅 『坂道のアポロン』が思い出深いですね。私、昔ジャズをやっていまして、ウッドベースを弾いていたんですよ。
西原 えっ!? そうだったんですか? しかもウッドベースとはまた意外。
ぴょん太 かっ、かっこいい。
湯浅 (笑)。劇中の音楽が超素敵なんですよ〜。どの曲の演奏も素晴らしくて。
西原 『坂道のアポロン』といえば渡辺信一郎監督と菅野よう子さんのコンビで、『カウボーイビバップ』以来の本気のジャズを聴かせてくれた作品でしたよね。文化祭のシーンが最高で。
ぴょん太 自分は直近の『四月は君の嘘』がそうですね。こちらは『のだめ』以来となる本格クラシックアニメですけど、どの演奏シーンも気合が入っていた。それとGoose houseの「光るなら」。久しぶりに曲だけで全部をもってかれるオープニングでしたね。
湯浅 「光るなら」! ほんと名曲ですよね。アニソン系のクラブでめちゃくちゃかかりますよ。毎回みんなで大合唱。
ぴょん太 Goose houseの皆さんで原作を読んで作詞されたそうなんですが、あれ、一聴すると主人公の有馬公生くんの視点に思えますが、最終話の手紙のシーンで、実はヒロインの宮園かをり視点だったことに気がつくんですね。
西原 これ思い切りネタバレですが、あそこまで生存を期待されたヒロインがちゃんと亡くなるドラマって、久しぶりなような。重病に直面したと仮定してこの曲の詞を読むと、たしかに泣けてきちゃいますよね。
湯浅 少しニュアンスは変わりますけど、泣けたといえばやっぱり『東京マグニチュード8.0』。弟くんの幻が〜。
西原 このアニメもメインキャラが亡くなっていますね。「キミノウタ」の歌詞も最後まで観たら解釈が変わる……ってやつですね。
湯浅 それと『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。この座談会のためについ観直してしまって、今日は目が腫れてるっていう(笑)。エンディングがズルいんですよね。毎回入るタイミングがあざとくて。
ぴょん太 たしかに! 最終話のフルコーラス演出とか、あんなの泣くしかないじゃないですか。
湯浅 タイミングが計算され尽くされているんですよ。「secret base 〜君がくれたもの〜」なんですけど、実は原曲をリアルタイムで聴いていた頃って、あんまりいい思い出がなかったんです。でも『あの花』でのこのカバーによって、素直に「いい曲だ」って思えるようになったんですよね。
ぴょん太 そうなんですね。僕はZONEのファンだったので、まさか“10年後”にまたこの曲を聴けるとは、という思いでアニメを観ていましたね。しかもアニメ放送後にはZONEが再結成されましたし(笑)。
西原 この曲のアレンジはtokuさん。当時はまだGARNiDELiAが同人だった頃で、ニコニコ動画でもとくPとして活躍していて、アニメ音楽の世界にピックアップされたばかりのときですね。
湯浅 tokuさん! 今期、私が出演させていただいた『ガンスリンガーストラトス』でもOPテーマとEDテーマ両方を作られていますよね。
西原 今やすっかりヒットメーカーですけど、「secret base 〜君がくれたもの〜(10 years after Ver.)」がその飛躍の第一歩だったんですね。
ノイタミナ作品はオシャレで文化的?
西原 本題の楽曲セレクトをじゃんじゃん進めましょう。ほかに思い入れのある曲はありますか?
湯浅 電気グルーヴの「モノノケダンス」! 単純に好きなんです。まず電気グルーヴさんがアニメの曲をやることに驚きでしたし、『墓場鬼太郎』の雰囲気にもぴったりでした。『空中ブランコ』ではOP、EDテーマ両方を担当されていて。
西原 テクノ系のサウンドはノイタミナ作品らしさのひとつだと思うんですよね。AZUMAHITOMIさんの「ハリネズミ」なんかもそうですし、あと電気グルーヴ繋がりで牛尾憲輔さん。『ピンポン THE ANIMATION』での素晴らしい劇伴が記憶に新しいですが、LAMAではテクノ+ロックなサウンドで良曲を残しています。
湯浅 そういうところがノイタミナのオシャレ感に繋がっているんですかね。
ぴょん太 ノイタミナのイメージを作ったという点では、YUKIさんもそうですよね。『ハチクロ』の「ドラマチック」は忘れられません。
湯浅 そうそう。さっき話した『坂道のアポロン』の「坂道のメロディ」もいい曲でした〜。ノイタミナといえばオシャレなロック。フジファブリックの「徒然モノクローム」やASIAN KUNG-FU GENERATIONの「迷子犬と雨のビート」なんかも“らしい”ですよね。
ぴょん太 『四畳半神話大系』こそノイタミナの最たる例ですよね。オシャレなうえに文化的(笑)。自分は『四畳半』のEDテーマ「神様のいうとおり」が衝撃的で。
西原 「神様のいうとおり」のクリエイター陣は今話している流れの集大成みたいな組み合わせですからね。元スーパーカーのいしわたり淳治さんに、元電気グルーヴの砂原良徳さん、そして相対性理論のやくしまるえつこさん。90年代から綿々と続く日本の文化系ポップスがここに集約されているわけですよ。
湯浅 「あの人がアニソンを!?」っていう驚き系だと、凛として時雨もそうだと思いますね。『PSYCHO-PASS サイコパス』が初アニソンだったんですよね?
西原 以前からドラムのピエール中野さんがアニメ好きだって話は出ていたんですけどね。『PSYCHO-PASS サイコパス』は凛として時雨にNothing’s Carved In Stoneという攻めたOPテーマの組み合わせだったのに、アニソンファンからも非常に評価が高かったですよね。
ぴょん太 EDテーマが2曲ともEGOISTだった安心感もあったと思うんですね。『ギルティクラウン』からのryoさん無双もやっぱりノイタミナの特色かと。
西原 やっぱりryoさんは00年代末からのアニメソング界を引っ張ってきた存在ですから。出自もニコニコ動画で、新時代の象徴みたいな人ですよね。まあ、逆に名曲すぎるという理由で、今回はあえてセレクトしない方向にしようと思うのですが。
湯浅 えっ!? そうなんですか? そんなことして大丈夫なんですか?
西原 大丈夫なハズ(笑)。ryoさんの曲は4月に発売された本家『ノイタミナ FAN BEST』にたくさん収録されていますし。せっかくの機会ですから、この企画ではなるべくほかの良曲にも光を当てましょうということで。
アニソン界に爪痕を残したロックミュージシャン
西原 引き続き「あの人が!?」系でいくと、agehaspringsがアニメの音楽制作に本格参入した『サムライフラメンコ』。Aimerさんの「六等星の夜」や「あなたに出会わなければ 〜夏冬雪花〜」みたいにアゲハが作った曲がアニソンになったことはあっても、ここまで劇伴からキャラソンから何まで全面的に前に出てきたことはなかったですよね。
ぴょん太 YUKIさんの曲も蔦屋好位置さんだからアゲハですよね。でも「デートTIME」と「フライト23時」は明らかに異質ですよね、いい意味で。今やアニソン系クラブイベントの定番曲ですし。
湯浅 あのキラキラした感じ、大好きです!
西原 それと『図書館戦争』のBase Ball Bear。当時のロックバンドって、タイアップがついてもあまりアニメ好きを公言することって少なかったけど、小出祐介さんはいつもワンマンライブで『新世紀エヴァンゲリオン』をネタにしていたりして、わりとオープンだったんですよね。さすがに西川貴教さんほどではなかったですけども(笑)。
ぴょん太 ロックバンドの人たちって意外にアニメ好きが多いじゃないですか。それなのにどうして表に出さないんでしょうね。
西原 単純にイメージの問題なんじゃないですか? この年(2008年)にデビューしたUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんなんかが典型ですね。今となってはオタクを隠していませんが、やはり当時は伏せていた。いや、正確には出しどころがなかったんでしょうね。それだけ今のほうがファンもメディアもアニソンにオープンになっているってことかと。
ぴょん太 アンティック-珈琲店-のカノンさんもそのひとりですよね。自分はkanon×kanonの「カンデュラ レクイエム」が楽曲的に大好きで。いちおう、カノンさんとkanonさんは別設定ということになっていましたが(笑)。
西原 カノンさん、2010年から2012年までのアンカフェ活動休止期間に、結構な爪痕をアニソン界に残していますよね(笑)。そうそう、話は戻りますがノイタミナらしさの部分でschool food punishmentはいかがです?
ぴょん太 「RPG」の印象が強いですね。
湯浅 私もその曲好きです! SFPは『UN-GO』の「How to go」もかっこいいですよね。
西原 『東のエデン』から始まって、SFPって実はアニソンのタイアップが多いんですよね。気がつけば坂本真綾さんとコラボ(「Buddy」)していたりして。先ほどの電気グルーヴから連なるノイタミナ音楽の特色でいうと、エモさをまとったデジタルロックとして突出していたのですが……解散しちゃいましたね。
ぴょん太 SFPはピアノが主張していて美しいんですよね。『のだめカンタービレ』の「Allegro Cantabile」にも通ずるエモなんじゃないかと。
やっぱり外せないsupercell & EGOIST
西原 さて、選曲リストもだいぶ埋まってきましたが、「これだけは入れたい」って曲はありますか?
湯浅 中川翔子さん! 私、実はアイドルファンでもありまして、中川翔子さんをずっと追いかけているんです。だから「snow tears」はどうしても!
西原 するとしょこたん♥でんぱ組の「PUNCH LINE!」は?
湯浅 ど真ん中です! 濃いもの同士がコラボした最高の組み合わせかと。あと私立恵比寿中学の「バタフライエフェクト」もぜひ皆さんに聴いてほしいですね。
西原 では僕からもひとつわがままを。『うさぎドロップ』の「SWEET DROPS」。もうね、第1話から(鹿賀)りんちゃんが最高で。「あれ? 俺ってこんなにロリだったっけ?」と自分でも疑問に思うくらいハマってしまって(笑)、原作マンガから何から揃えてしまったんです。
湯浅 目覚め……ですか?
西原 いやいや、違いますって(笑)。で、「SWEET DROPS」の詞曲が鈴木祥子さん。僕が小学生の頃から大好きなシンガーソングライターですね。
ぴょん太 とことん個人的な選曲ですね〜(笑)。
湯浅 じゃあ私もわがまま選曲をもうひとつ。『ブラックロック★シューター』の「僕らのあしあと」。この作品のあのグチャッとした人間関係が大好物なんですよ。特に女子同士のお話なのがポイント高くて。恋愛よりもこじれると怖いのが女の友情です。
ぴょん太 わ、笑えないですね……。
西原 『ブラックロック★シューター』はあの独特な世界観やバトルのスピード感が楽しいものだと思っていたのですが……湯浅さんはものすごく本質的なところをご覧になっていたんですね。
湯浅 そんな作品のEDテーマのタイトルが「僕らのあしあと」ですからね。「どんなあしあとなんじゃーい!?」って(笑)。
ぴょん太 では自分からもリクエストをひとつ。先ほど天邪鬼的な意味でryoさんの曲を控えめにしようと言っていましたが、『PSYCHO-PASS サイコパス』の「名前のない怪物」だけはぜひ。ていうか、このアニメの曲はどれもアンセムですよね。
湯浅 じゃあ私も「拍手喝采合歌」をぜひ。これもクラブアンセムですよ。
西原 あらら、結局supercellとEGOISTで計3曲になっちゃいましたね。電気グルーヴと並んでトップの数字です。あえてセレクトしないって話だったのに……(笑)。
選曲リストから感じる“近代アニソン”の流れ
西原 というわけで、40曲選びきりました(下部のリストを拡大してご覧ください)! 一部私情が入ってるのはご愛嬌として、“ノイタミナらしさってなんだ?”という問いにある程度の答えが出せる、意味ある選曲になったと思いますがいかがでしたか?
湯浅 まずは120曲近いノイタミナの楽曲リストを見て、10年分の重みというものを感じました。そこから40曲に絞るのは大変でしたけど、好きな曲には思い出もたくさんあって、まるで自分自身のことを振り返っているようで楽しかったです。
ぴょん太 アニメ音楽のトレンドというか、2006年頃から始まったこの業界の変化の足跡が感じられました。最初に述べたとおりノイタミナにはほんの少し距離を感じていましたが、こうして振り返ると好きな作品も好きな曲も結構あったんですね。次回はどんなテーマにしましょうか? 自分はアイドルアニメが専門なので、ぜひそっち系で(笑)。
Photography By 山本哲也 / Text By 西原史顕
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<プロフィール>
ゆあさかえで/2014年より声優として活動を開始。TVアニメ『ガンスリンガーストラトス』まぐま役、ゲーム『アイドルクロニクル』MIU役などを務める。また、ニコニコ生放送「ニンジャスレイヤー フロムネットテレビジヨン」ではMCを担当。アクロス エンタテインメント所属。
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