10周年の感謝の想いを胸に、「また、ここから始める」ステージ。“Yui Makino 10th Anniversary LIVE ~So Happy!!~”レポート

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8月22日、牧野由依が赤坂BLITZにて“Yui Makino 10th Anniversary LIVE ~So Happy!!~”を開催。新旧楽曲織り交ぜられたステージ構成からは、この10年を総括しつつも、そのうえで“この先”を見据えた想いが感じられた。

この日の赤坂BLITZは、珍しく座席指定のあるスタイル。紗幕の降りたステージを前に、妙にざわつくこともなくただ静かにその幕開けを待つ観客たちも含めて、まるでコンサートホールのような様相だ。客入れBGMにこの日歌われなかった牧野の楽曲を用い、言外に「この曲たちも含めての10年だよ」と伝えているのもまたニクい。

年ごとにディスコグラフィーを振り返るOP映像を経て、バイオリンによるサビ部の再現を皮切りに、紗幕が落ちる。「夏休みの宿題」からこの日のステージはスタート。イントロでライブタイトルになぞらえて「今日はみんなをハッピーにさせちゃいます!」と宣言する。序盤はそのままアップテンポなナンバーが続くが、おてんばさの中にほのかに垣間見えるボーカルの儚さ成分が、ファンの心をグッと掴む。中でも「もどかしい世界の上で」の落ちサビで、スポットライトを浴びた彼女の吐息多めの歌声には、完全K.O.だ。

 

MCパートで巻き起こった大歓声に一瞬気圧される牧野だったが、デビュー10周年を迎え、ファンからの声援を受けて今このステージに立てているという現実に「幸せで顔がニヤッニヤッしちゃう」と喜びを隠せない牧野から、「いつも皆さんからたくさん幸せな気持ちをいただいているので、今日は私がハッピーな気持ちをお分けできたら」と、再び意気込みが語られる。

そして彼女は舞台中央に据えられたグランドピアノの前に座り、弾き語りで「碧の香り」を披露。実はこの日の編成は、ノーマルのバンドに加えて弦楽四重奏という豪華なものだったのだが、それがこの曲にはドンピシャ。楽曲に込められた哀しみを弦の涼やかな音色が増幅させる。牧野の歌声もメリハリのついた、かと言って乱暴すぎない感情表現を豊かに成し遂げている。一転「春待ち風」では曲のスタートと同時に笑顔に変わり、楽曲ごとの表情を表現。再びハンドマイクに持ち替えると、自作詞曲「たったひとつ」と不朽の名曲「ウンディーネ」を続けて披露。まっすぐ力強く突き抜けていくような前者と、ベールのような繊細さが持ち味の後者。この2曲に、彼女の歌声の魅力が凝縮されていたと言っても過言ではないだろう。

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ここで一旦牧野は降壇。自らがピアノ演奏を担当した映画『Love Letter』の劇伴「A Winter Story」をバックに、生誕時からの成長写真を編集した映像が流れる。そこに写る彼女のそばには、いつもピアノがあった。そこから生まれた「みんなにクラシックを、もっと身近に感じてほしい」という想いや、ピアノを通して出会った人々とピアノへの感謝の気持ちを表すため、ここからは“Yui Makino Classic Award”と題したクラシックコーナーへ。今度はピアノ奏者としての魅力を届ける。「道連れ(※牧野談)」として、高校時代からの学友・菅原梨乃さんとともに連弾を披露することに。最初に披露された「剣の舞」は、手元カメラに映し出された序盤~中盤のバトルもさることながら、速いテンポのまま突入する終盤での息の合いっぷりに、会場中が息を呑んでいた。その後、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」より4曲を続けて披露。曲前に「これは彼が極めて仲間内のために作った曲なので……オマージュがたくさんあるんです!」と解説し、クラシックにより親しみやすくさせてくれるのも、このコーナーの冒頭に掲げられた彼女の想いに沿ったものだろう。もちろんひとたび演奏が始まれば、牧野の表情は再び真剣そのものに。

緊張かつ怒涛の5曲が終わり、寸劇を交えたグッズ紹介のコーナーでちょっとひと息。どのグッズも最後には「……(物販コーナーを指し)ぜひ!」という恒例の文句で締めるのだが、Tシャツの紹介後に舞台上で全サイズソールドアウトとの報を受け、「うん、じゃあ、なにも、ない!」と驚き、会場にひと笑いをもたらす。そして驚きのグッズといえば、“10万円一本勝負!!”。開演前に希望者が、牧野と同ブランドのイヤモニやサイン入りケースなどのセットの購入権(価格:10万円)を応募。当選者を牧野が壇上で抽選する……というものだ。抽選のためにBOXに手を入れた牧野、そのなかなかの容量に「たくさんのご応募を……!」と恐縮しきった反応。無事当選者も決まり、笑顔で牧野の呼びかけに応えていた。

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さて、ライブは早くも中盤戦。最新シングル「きみの選ぶみち」をしっとりと弾き語って会場の空気をコンサートモードに引き戻すと、続くMCでは10月7日に発売されるニュー・アルバムの新アー写を発表。10周年を意識してテーマを「旅」に設定した本作について、牧野自身も「これまでのアルバムを『聴かなくてもいいかな』と思っていた方にも、ぜひ!聴いていただきたい」と、アツく意気込みを語っていた。そこまで熱弁されたら、聴きたくなるのが筋というもの。牧野自身も「何の収穫もなしに皆さんをお返ししません!」と語れば、ニュー・アルバムから「ワールドツアー」を初披露だ。「ノリのいいハッピーな曲(牧野)」が、観客のサビでの「ハロー!」のコールでよりにぎやかに・ハッピーになる。楽曲からは、デビュー10周年を迎えたけれども音楽の世界での旅はまだまだ続くよ、というメッセージも感じられた。そしてBGVに『フランチェスカ』を流しての「囁きは”Crescendo”」からは、3曲続いてポップなナンバー続き。こういったサウンドをキュートにふわっと乗りこなせるのも、また彼女の魅力である。落ちサビでハートが場内に舞う光景は『フランチェスカ』にもちなみながらも、続く「お願いジュンブライト」にもしっかり繋がっていた。

そして「最後も盛り上がれる曲!」と紹介されたのは「Cluster」。サビでファンと牧野が一緒に指を天に向かって掲げる光景も、今や定番である。繊細さと芯の強さをともに見せられるこの曲は、今の彼女の活動にもピッタリだ。

ステージから牧野が降りたあとも、ファンの想いはクラップに乗せて届けられ続ける。それを受け止めた彼女は再びステージに上がり、改めて10周年の意気込みを語る。そして話題は彼女がこの夏出演したミュージカル『うたかふぇ』へ。そこで彼女が演じた堀口メイや物語について紹介して土台を作ったところで、メイの抱いた恋心を歌った楽曲「わたしのオモチャ箱」を披露する。イントロで目を閉じた瞬間、彼女のスイッチが明確に切り替わったのを感じ取れた。“堀口メイ”がそこに生を受けたのだ。とりわけ、震えた声でこの恋へのためらいを表現しつつもそれでもすべてを吹っ切って自らの想いを撃ち出すという、落ちサビ以降数十秒の彼女のパフォーマンスには、ただただ見入ってしまった。

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ニュー・アルバムからもう1曲、ミドルテンポのドリーミーな「星に願うなら」をチャーミングに歌い、バンドメンバーを紹介。仲間とのトークでまた少し場が和んだところで、アンコールラストの曲「今日も1日大好きでした」を、過去の写真が散りばめられた映像をバックにしっとりと温かに歌い上げる。やはり落ちサビの気持ちの入り方は白眉で、気持ちをいっぱいに込めつつも押し付けがましくなく聴かせる、想いと技術の両立に思わずゾクッとした。その歌声で、最後の歌詞を「みんなのことが大好きです。」と歌い替えられたら、もうたまらない。

これで大団円でも公演として美しかったかもしれない。しかし、このライブはデビュー10周年を記念したもの。“大事な曲”を期待したファンも多かったのか、再び場内をクラップが包み込む。ダブルアンコールへ突入である。MCで「時には厳しく、愛情を持ってずっと素敵な楽曲を歌わせてくださった昔のディレクターさんにも感謝ですし、優しく厳しくアーティストとしての姿や目指すものを一緒になって考えてくださった、当時のプロモーターの方にも感謝の気持ちでいっぱいです。そして何よりも、私を歌の世界に引っ張ってくれた作品・楽曲、ディレクターさん・プロデューサーさんに感謝の想いでいっぱいです」と語る。そしてデビューの思い出を回想しながら、彼女のスタートになった曲「オムナ マグニ」を、トイピアノを弾き語ることで原曲のテイストを生で忠実に再現。

いよいよ本当に締めに向かうライブ。ところどころこみ上げるものもこらえつつ、「この10年間、本当にたくさんの方に助けていただきながら毎日過ごしていました。うれしいことや楽しいこともたくさんありましたし、逆に目の前にある大きな自分の課題に対してなかなか追いつけない時期もあったんですけど……でも、ステージに立ってこうして皆さんとお会いして、こうやって素敵なメンバーの皆さんと一緒に演奏させていただけて、幸せを感じる、どんなに苦しいことがあっても頑張れちゃうんですよね。これからはお世話になった皆さんやファンの方々に、お返しができるように頑張っていきたいです」と語り、再び彼女はグランドピアノの前へ。この大事なライブの最後を飾るのは、デビュー・シングル「アムリタ」だ。

「今日は、こうやって皆さんと過ごす時間の一瞬さえも愛おしくて仕方がありませんでした」と語ってから奏で出した牧野のピアノの音色は、澄み渡っていた。歌声も、10年前と変わらぬ透明感と、この10年のキャリアを感じる深みとを併せ持ち、最後の最後まで観客を魅了し切っていた。

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観客への挨拶後、バンドメンバーが先に降壇したところで、ひとりの紳士が花束を持ってステージに登場する。なんと、牧野の高校3年生時の担任の先生がサプライズとして登場!学業との両立に悩んだ彼女を優しく支えてくれた恩師の登場に、ここまでこらえていた牧野も大粒の涙を流して号泣。横で微笑んで見守りながらも、要所要所でちょっぴりとぼける恩師に「私の涙返してください!(笑)」と牧野がツッコむ場面も。

少々放心状態になってしまった牧野だが、今度は彼女から観客にサプライズ返しが。11月23日に、恵比寿ガーデンホールでのコンサート開催を発表したのだ。「本当に、続けてきてよかったなと思っています。この感動を力に変えて、もっともっと皆様に私の歌を聴いていただける場所を増やすために、また、ここから始めたいと思います!」と語る彼女の表情は、とても頼もしかった。

幅広い年代からの楽曲セレクトやクラシックコーナーと、彼女の活動の年輪を感じられたのがこのライブ。ロック系のサウンドで攻めるシンガーが多いアニソン・シーンにおいてポップ、果てはクラシックに至るまで様々なアプローチのできる彼女の存在は、やはり稀有なものだ。その声の表現の質も、従来の活動に加え前述のミュージカルなどあらたな活動を通じてより洗練されてきている。なのでぜひ、これまで深く聴いていなかった方にも、彼女の歌声を聴いてもらいたい。10月にリリースを控える4thアルバムが、きっとその入口になってくれるはずだ。

Text by 須永兼次

“Yui Makino 10th Anniversary LIVE ~So Happy!!~”
2015.08.22@赤坂BLITZ
【SET LIST】
M1.夏休みの宿題
M2.88秒フライト
M3.もどかしい世界の上で
<MC>
M4.碧の香り(弾き語り)
M5.春待ち風(弾き語り)
M6.たったひとつ
M7.ウンディーネ
●“Yui Makino Classic Award”(M8~M12:ピアノ連弾)
M8.ハチャトゥリアン作曲 バレエ「ガイーヌ」より“剣の舞”
<MC>
M9.サン=サーンス作曲 動物の謝肉祭より『序奏と獅子王の行進曲』
M10.サン=サーンス作曲 動物の謝肉祭より『水族館』
M11.サン=サーンス作曲 動物の謝肉祭より『化石』
M12.サン=サーンス作曲 動物の謝肉祭より『フィナーレ』
~グッズ紹介コーナー~
M13.きみの選ぶみち(弾き語り)
<MC>
M14.ワールドツアー(10/7発売 ニュー・アルバム収録予定曲)
M15.囁きは”Crescendo”
M16.お願いジュンブライト
M17.ふわふわ♪
<MC>
M18.Cluster
【ENC】
M19.わたしのオモチャ箱(舞台『うたかふぇ』曲)
<MC>
M20.星に願うなら(10/7発売 ニュー・アルバム収録予定曲)
M21.今日も1日大好きでした。
【W/ENC】
M22.オムナ マグニ
<MC>
M23.アムリタ

 

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