8月5日にリリースされたTrySailのニューシングル「憧憬」。TVアニメ『落第賢者の学院無双~二度目の転生、Sランクチート魔術師冒険録~』のEDテーマとして制作された本作は、活動10年を迎えた彼女たちにとっても新境地となるシリアスでハードな世界観となった。10周年を締め括るツアーの初日直後にTrySailから話を聞く。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――インタビューのタイミングは、「LAWSON presents TrySail 10th Anniversary Live 2026 “Cheers!!!”」の大阪公演を終えた直後。パシフィコ横浜での最終公演を残すのみというところです。
雨宮天 ひとまず安心しています。結構盛りだくさんな内容で、始まってみないとちゃんと上手くできるかわからない部分もあったので。
麻倉もも 久しぶりの曲だったりイチから振り起こしになる曲が多くて、頭を使うライブだったので3人とも不安はあったと思います。でも無事に大成功で、次への不安が解消されましたね。
夏川椎菜 私も一番は「安心」でした。すごく体力を使うライブなので、リハーサルの時から通しでやった結果すごく体が疲れていて。私たちもだしお客さんもだし、本番倒れたりしないかなって。そう思っていたんですが、無事に走りきることができてお客さんにも無事に10周年の打ち上げの雰囲気を届けることができて良かったです。
――全員が口々に「安心」を口にするライブだったんですね。10年の足跡を追おうとするとやはりカロリーは高いものなんですね。
夏川 しかも直近で表題曲を全曲やる日本武道館ライブ「LAWSON presents TrySail 10周年出航ライブ “FlagShip” in 日本武道館」もやっていて、自分たちで選んだ楽曲を歌うベストツアー「LAWSON presents TrySail 10th Anniversary Tour 2025 “BestSail”」もやっていたので。そこで歌っていない曲を選んでいくと結構ニッチな曲や昔やっていたカバー曲が挙がってきて、かなり異色なライブになったんですよ。
――お客さんの反応はいかがでしたか?
夏川 なんだか不思議な……。
雨宮 絶妙だったよね。披露した楽曲がTrySail結成前の曲(「Let’s貢献! ~恋の懲役は1000000年~」)とか1stライブツアーの頃にカバーしていた曲(「銀河鉄道999」)とか、歴史がありすぎるがゆえに知らない人も多くて。もっとみんな悲鳴を上げて崩れ落ちるかと思ってたんですけど(笑)。
夏川 意外とポカーンの人も多かったという。
――10年でたくさんのご新規が入ってきていたということですね。
麻倉 お客さんに挙手でファン歴を聞いたりしてみてたんですけど、さすがにそこまでの古参じゃなかった(笑)。
夏川 それだけ我々の歴史も長くなったということですね。
雨宮 昔から応援してくださっている人はそれはそれで、多分衝撃すぎて声が出ないみたいな状態になっていました。
麻倉 昔やっていたレア曲を披露する前の最後のポーズが、お客さんに背中を向けるポーズだったんです。
――「これをやったら盛り上がるだろうなぁ」と後ろ姿でニヤニヤしながら。
麻倉 そう、そしたらいざ始まったらお客さんポカーンで(笑)。
夏川 昔聴いていた人もイントロじゃピンと来なかったのかもね。「なんか聴いたことあるけどなんだっけ」的な。そういうリアルな反応も含めて、逆に面白かったです。
――今回のライブも含めこの1年で古い楽曲やレアな楽曲を色々と披露したと思いますが、今やるからこその表現の違いなどはありましたか?
雨宮 あの頃は表現とか考えてたっけ……?
夏川 当時はライブするだけで精一杯だったもんね。それでいうと今になって「意外と難しいなこの曲」ってすごく思いましたよ。昔歌っていた時も難しさは感じてましたが、それはもっとざっくりとした「速くて難しい」とか「高いキーが多くて大変」みたいなことだったので。「大変」の解像度が上がったことによってより自分の中で「もっとこうしたい」が生まれて、それで楽曲の難しさが一層身に染みた瞬間がたくさんありました。
――ただ楽曲に追い立てられるだけじゃなく、やれることが増えたからこその悩みですね。
麻倉 私は楽曲単体というより、切り替えが上手くなったなと思えることが増えました。この10年で初期の楽曲の雰囲気からお祭りマッスルになっていくグラデーションがあって、今向き合ってみると結構振り幅が大きいなと。ライブの中でセトリに緩急を付けるとなった時に、「別人かな?」って(笑)。
――雨宮さんはいかがでしょうか。
雨宮 私、記憶するのが苦手なので、過去の記憶があまりないタイプなんですけど……(笑)。でも多分、当時はなかった我が出ていると思います。10年ぶりにカバーした「銀河鉄道999」のハモリなんかは、1番はちゃんとリズムに乗せてやるんですけど2番からは溜めて歌いたいなとか。ビブラートもこういう幅でいきたいですとか、細かい我が出ているのは今まで積み上げてきたものがあるからなんだと思います。
――「やりたいこと」が出てくること自体がまず成長ですもんね。
雨宮 そうですね。多分当時は、とにかくやらなきゃいけないことをやっていて。でも今はちゃんと自分で「こうしたい」という意思がすごくあるので、それは大きな変化だと思います!
――そんなライブを経て18thシングル「憧憬」がリリースされます。カップリングには10thライブのための楽曲「Cheers and Cheers!!!」を収録していますが、まずはライブのお話の流れでこの曲について聞かせてください。どのような要望で制作されたのでしょうか。
雨宮 「楽しい飲みソング」でありながらも、頭を空っぽにするというよりはお互いを労いあうみたいな。「ありがとう」と「これからもよろしくね」が込められたものにしたいと話していました。
――そもそも今回のライブはなぜ「飲み会・打ち上げ」がモチーフになっていたんですか?
夏川 日本武道館で10周年の出航ライブライブをやって、“BestSail”ツアーをやって、10周年ミュージアムもあったりして。本当に「やれることは全部やったな」という感じだったので、その10周年イヤーの終わりにちゃんと区切りをつけたいねという話になったんです。パーッと打ち上げみたいな気持ちでフィナーレを迎えたいねということで発足したライブになります。タイトルの“Cheers!!!”も最初から決まっていて、その名に恥じないセトリを組もうという感じで作っていきました。
――「Cheers and Cheers!!!」はイントロ~Aメロの雰囲気で「なるほど飲み会モチーフの盛り上がる曲ね」と思ったら、1曲聴き終わるとちゃんと10年に思いを馳せて泣けるようにもなっていますよね。
雨宮 明るいものもあれば、ちょっとお洒落なものなどいくつか候補がある中から、自分たちで選びました。
夏川 「シャンパンかな?」みたいなね。
麻倉 大人っぽい曲もあったよね。
雨宮 その中で選んだこの曲が、一番TrySailらしい飲み会ができそうかなって。騒ぐのも楽しいけど、どちらかというとみんなで笑顔で飲み交わすみたいな感じ。明るいメロディの中にもホロっとくる部分もあるのが良いですよね。
夏川 私個人的にはちょっとやんちゃな感じもほしいなと思って(笑)。たくさんの候補から選ぶなかで、この曲が一番イントロのベースがやんちゃな感じがあったで良いなと思いました。
――アニバーサリー的な楽曲ってどうしても素敵な曲調を想像してしまうので、この曲のイントロは初見では驚きますよね。
夏川 日本武道館公演に向けて作った「声のシンフォニー」があるので、エモに寄せなくても良かったんですよね。なので意識して明るく楽しくわちゃわちゃしたものを目指しました。歌詞が最終的にこの形になったのがレコーディングギリギリのタイミングで、歌録りの前日まで「こっちのほうが良いよね」と意見を出し合いながら修正してもらっていたので、この曲は「みんなで作った」という気持ちが大きいです。
――どういった形でメンバーの希望を汲み取っていったんでしょうか?
夏川 作詞家の田中花乃さんとリモートでやり取りをして、その打ち合わせ中に出た言葉がたくさん入っています。私たちがよく言っていたのは、「打ち上げで盛り上がりたい気持ちはあるけど、この打ち上げに来るまでの間も大変だったよな!みんな一緒に頑張ったよな!」って肩を組んでいるみたいな。そこは3人共通の思いがあって。
――ただの打ち上げじゃなくて、正しい意味でちゃんと10年を労い合っている曲なんですね。
麻倉 ギリギリまで歌詞をこうしたいっていうのを伝えて作っていただいたので、真っ直ぐな言葉だけど私たちにしか歌えない曲になったと思います。私はサビ前の“同じ船から 見てきた仲間 最強 愛だ!”のところが好きで。私たちらしさもありつつ、私たちとお客さんたちとみんなで渡ってきたんだというのが感じられるんですよね。サビの“エネルギー交換しあって”も、ライブってまさにエネルギーの交換会みたいだと思うんですよ。私たちがライブを見せるだけじゃなくて、お客さんからも日々の活力をもらっているっていう話をリモート会議でお伝えして。それを組み込んでくれた歌詞になっているので、本当に私たちにしか歌えない歌詞だと思います。
雨宮 歌詞の“愛だ!”は多分私から出たワードだと思っていて。リモート打ち合わせで愛の話をして、それを歌詞に組み込んでくださったんです。ここまでしっかりと話した内容をそのまま歌詞にしていただくことはなかったので、作詞に参加させてもらった感覚が強いですね。あと、“Try and Sail”という言葉が出てくるんですが、「歌詞にTrySailって入れていいんだ!」って。そういえば!って気付きがあってここはすごく好きですね。私たちの曲じゃないとありえないですし。
――TrySail自体が造語なのでそのままは使えないですが、これは確かに10年溜めた必殺技感がありますよね。
雨宮 あとは最後のサビの“泣いちゃいそ”も好きですね。ライブって楽しい空間ですけど、1曲目からみんなの顔を見て泣いちゃいそうになることがあって。その時の気持ちが湧き上がってくる歌詞にしてくださっているんですよね。
――実際にライブで披露してみていかがでしたか?
雨宮 今回のツアー初日で行った大阪って、いつも「みんなで声を出して盛り上がる」というよりは、ライブの序盤は特に「しっかり聴いてくれる」というイメージがあったんです。でも今回は1曲目からすごく元気で。やはり飲みとなると大阪は最初から飛ばしてきてくれるんだなと(笑)。
夏川 「Cheers and Cheers!!!」でももう、みんな本当に笑顔!
麻倉 お客さんもみんな同じジョッキ型のペンライトを持ってくれていて、一緒に乾杯をするような振付もあってりして。みんなで踊って楽しめる曲になっているので、皆さんすごく笑顔でした。
夏川 ジョッキを掲げて左右にぶんぶん振り回すみたいな、一緒にやりたくなるような振付がたくさんあるんですよ。1曲の中でどんどん付いてきてくれる人が増えていって、それがまさしく飲み会で「楽しい」が伝播していく感じに似ているなと思って、すごく素敵な光景でした。
――インタビュー時点では大阪公演が終わったところですが、東京公演では先々の活動の発表が行われているとのことで。
麻倉 あー、運動会!
夏川 運動会か。
――運動会!?
雨宮 そう、運動会です!
――現時点で詳細はいただいていなかったんですが、インタビューが掲載されている頃には「運動会をやる」はとっくに周知されているんですね。
夏川 そうですね、しかもハロウィン運動会。
麻倉 最初は秋頃のイベントだから「ハロウィン企画」みたいなスケジュールが入っていたんですけど、先日会議をして、「運動会やりたくない?」って。
夏川 10月だから。……主に言い出したのは天さん(雨宮)なんですけど。
雨宮 だって運動会はやりたいじゃないですかー?
夏川 最初はハロウィンイベントの予定だったんですよ!ハロウィンで何をしようかっていう会議だったのに、最終的にハロウィンの格好で運動会をすることになっていて……。どの程度ハロウィンと運動会が混ざるかはまだちょっとわからないんですけど。
――大人数のユニットでやることですよ、運動会。あまり3人ではやらない。
夏川 あははは!(笑)。だから、参加者は私たちだけじゃないです。お客さんにも運動してもらうつもりなので。
――もうただの「マッスルユニット」だ。
雨宮 はい、そうです!
麻倉 一緒に戦おう!みたいな。
夏川 ライブでここまで育てあげてきた筋肉って運動会のためだったんじゃないかって。
雨宮 ちゃんと使いたいじゃないですか、せっかく鍛えてきたんだから。
――ずっとトレーニングさせられてきたんだ……。
3人 この日のために(笑)。
――インタビューが公開されるのは8月なので、どんどんその日は迫ってきていますね。
夏川 何らかの形でお客さんにも競技に参加してもらいたいなと思っています。
――ではここからは表題曲の「憧憬」のお話を。こちらはTVアニメ『落第賢者の学院無双』のEDテーマ。どのような経緯で制作されたのでしょうか?
夏川 これもいくつかの候補がある中から選ばせてもらいました。作品側から「エンディングだけどロックなかっこいい楽曲」という希望があって、それで集まった楽曲から選んだ形になります。
――候補の中から今回「憧憬」が選ばれた理由は?
夏川 実は3曲くらいまで候補を絞って最後の決定はお任せしたんですけど、私たち的にはこの曲が選ばれるのは予想外でした。
雨宮 ナンちゃん(夏川)と私はそれぞれ違う曲になるんじゃないかと思ってたよね。
夏川 作品側の希望通りのロックな楽曲も候補にあったから、この曲が選ばれたのが結構意外で。思っていたよりがっつりシリアスな曲がほしかったんだなと。
――他の2曲はロックだけどシリアス度はもっと低かったと。
夏川 シリアスというよりは、感情としては怒りみたいな。
――なるほど、バトルものっぽい感じ。
夏川 そうです。候補の中で一番どシリアスなものが選ばれました。
――曲が決まったうえで、レコーディングに向けてどのように向き合っていきましたか?
雨宮 1曲の中でどんどん展開していくのが今っぽい感じだなと。TrySailって最初から歌い分けが決まっている訳ではなくて、全員が全パートを録って、レコーディングの時点では一旦自分1人の歌として完成型を目指すんです。今回は曲の展開に合わせての切り替えもありつつ、表現をたくさん入れられるような歌詞じゃないですか。ずっとモノローグみたいな歌詞で、私は「表現を入れねば」「ここで声優を見せねば」という感じがあったので、そこを意識しながら仕込みました。
――確かに物語や状況説明よりも思いがずっと連なっている歌詞ですね。
麻倉 すごくシリアスでかっこいい曲なんですけど、その中に切なさも感じるなと。この曲の主人公は弱いかもしれないけど弱さを認めたうえで進もうとしていて、それって逆に強いな、すごいなと思うんです。真っ直ぐに突き刺さるような歌詞が多くあるなと思ったので、その言葉のニュアンスが1つ1つ伝わるように歌わなきゃと思いましたね。
夏川 最初に文字面で歌詞を読んだ時に「やばい、ずいぶん暗い曲だ」と思って。楽曲のサウンド的には爽やかな部分もありますし、作品の雰囲気的にもがっつり暗く歌う曲でもないんだろうと思ったので、そこのバランスが難しいなと思いながらレコーディングしましたね。とにかく展開が多いので普通に音を追うだけでもかなり難しいんですけど、その中に微妙な気持ちの変化や、サビに行くまでの流れは繊細に進めていかなきゃいけないなと。
――デビュー当時に歌うのと、10周年を越えた今歌うのとで表現の幅が変わりそうな楽曲ですよね。
雨宮 もしもっと新人の頃にこういう憧れを歌っていたら、もっと明るい曲だったんじゃないかと思うんです。もっと実感の伴わない、キラキラした無責任な憧れだったんじゃないかなって。憧れへの距離が遠いからこそただただ輝いているし、まだ自分の立ち位置すらわからないくらい未熟だからこそ、いくらでもそこに希望を持つことができると思うんです。だからそういう意味では今のTrySailが歌う憧れ、タイトルも少し重たく「憧憬」が似合うのかなって。未熟な憧れほど希望的な気がしているので、今の私たちで表現すべきことは希望よりも「憧れることで生まれる苦しみや悔しさ」なのかなと思って、声を震わせるような息遣いや繊細な表現を意識して歌いました。
――確かにボーカルの質感が、3人それぞれの方向で「軽くない」で統一されている感じがします。
雨宮 そうですよね。憧れとの距離が遠くないからこその重みなんじゃないかと。
――若い頃に表現される絶望って、まだ本当の絶望を知らずに歌っている感じというか。
麻倉 そうなんです。そのうえで主人公像はそんなにか弱い感じじゃなくて。弱さを認められたうえで前に突き進む姿を私は感じたので、この子は強い子なんじゃないかなって。だから今のTrySailで歌うとこに乖離もないし、昔の私たちが歌っていたらまた全然違うものになっていそうですよね。今歌わないとここまでのもがき感は出せなかったと思います。
夏川 最近のTrySailはお祭りマッスルユニットを押し出しているので、「馬鹿騒ぎだー!マッスルだー!」というイメージが強いと思うんですけど、私たちが「メンタル」って呼んでいる心情がメインで描かれる曲も結構あるんですよ。
――そうだ。マッスルの対義語として「メンタル」があるんでしたね。
夏川 そう!メンタルのほうで歌っている楽曲に近い考え方なのかなと思うし、実際にレコーディングでもマッスルのTrySailは封印というか(笑)。等身大の大人である私たちが思う絶望とか。上を知っているからこそのリアルな憧れ、憧憬が表現できたらいいなと思って歌いました。
SHARE