ソロアーティストおよびJAM Projectのメンバーとしてアニメ音楽のシーンを30年以上に渡って牽引し続けている奥井雅美と、声優ユニット・NOW ON AIRの活動を経て2024年10月にソロアーティストデビューした声優・田中有紀。田中の2025年のシングル表題曲「I need」の作詞を奥井が担当したことから生まれた縁が、希望の光に満ちたコラボ曲に結実した。それが東映の特撮作品に特化した動画配信アプリ「東映特撮ファンクラブ(TTFC)」の10周年記念作品『フォルティクス 配信!推しを継ぐもの』のED主題歌「Trinity Force」だ。歴史ある東映特撮作品の楽曲に初めて携わる二人がコラボ曲に込めた想い、そして今年5月3日に開催されたツーマンライブ“Two-man Live 田中有紀 歌姫修行 ~ 奥井雅美編 ~”でさらに深まった両者の関係と修行の成果について、ざっくばらんに語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――先日のツーマンライブ“Two-man Live 田中有紀 歌姫修行 ~ 奥井雅美編 ~”はいかがでしたか?
奥井雅美 楽しかったです!やっぱりワンマンライブだと、一人で歌いっぱなしになるので体力がいるじゃないですか。JAM Projectの場合は(歌い分けで)分散されるから割と余裕をもってパフォーマンスできるんですけど。今回のツーマンは、お互いが数曲ずつ歌って入れ替わるというやり方だったので、体力的に助かりました。あと、ファンの方に「ママ」って呼ばれちゃって(笑)。私は多分有紀ちゃんのお母さんより年上だと思うんですけど、それくらい世代が違う方、今の世代の人たちと一緒にステージを作ることはなかなかないことなので、こちらが学ぶことが多かったですね。
田中有紀 えー!そんなそんな。私の方こそたくさん学ばせていただきました!私はツーマンでライブをすること自体が初めてでしたし、お互いが入れ代わり立ち代わりステージに立つ構成がすごく楽しくて。自分が歌った後に奥井さんの曲が流れ始めて、ハケる時に「奥井さんお願いします!」とバトンを渡すような感じがすごく新鮮で、まさにステージを一緒に作っていただいている感覚があって、一人では味わえない楽しさがありました。
――ツーマンや対バンライブの場合、通常は2組が前半と後半に分かれてライブを行うことが多いですが、今回のように交互に現れて持ち曲を歌う構成は珍しいですし、1曲目に披露した奥井さんの名曲「Shuffle」(TVアニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』OPテーマ)をはじめ、お二人で一緒に歌う場面もあったので、コラボレーション感が非常に強かったです。あの構成はどのように考えたのでしょうか。
奥井 今回は有紀ちゃんの“歌姫修行”という名目だったことを踏まえつつ、演出家さんやプロデューサーさんと一緒に、どうすれば一番いい形になるかを考えていきました。私の場合は世代のギャップがあるので、有紀ちゃんのファンの方でも知ってくれていそうな曲を軸に選んでいって。「Shuffle」に関しては、去年のアニサマ(「Animelo Summer Live 2025 “ThanXX!”」)で若い世代の人たち(Roselia)と一緒にやらせてもらったので、いいんじゃないかと提案させていただきました。
田中 先に私の歌う曲を決めさせていただいて、それに合わせて奥井さん側がセットリストを組んでくださったんです。
奥井 有紀ちゃんの曲を聴いたうえで、全体の流れを見て選曲しました。有紀ちゃんのかっこいい曲の後にかわいい曲が来ても変になるので。なので自分のライブでは最近歌っていない曲が結構多かったかも。例えば『SHIROBAKO』のOPテーマの「宝箱-TREASURE BOX-」は最近歌ってなかったんですけど、この曲なら有紀ちゃんのファンの世代の方もわかるかな、と思って持ってきましたね。
――「Shuffle」を二人で歌ってみて、田中さんとしてはいかがでしたか?
田中 まず、とってもパワフルな楽曲なので、奥井さんと一緒に歌うとなった時に、自分がどこまでエネルギーを放出できるかが課題だと感じました。なので、「とにかく出し切るぞ!」という気持ちで臨みました。交代で歌ったり一緒に歌ったりすることができて、すごく楽しかったです。ただ、最後のあのフェイクは……(笑)。
奥井 そうそう。リハの時にいきなり「ここではフェイクを歌ってください」って修行のように宿題を出したんです。で、ライブ当日にちょっと聴かせてもらう、という形でしたね。
田中 そうなんです。元々はフェイクを入れる予定はなくて。私はリハまでにしっかり準備をして、「これを本番でやります」という形を固めるタイプなのですが、リハで宿題が出たのは初めての経験で、本番までにどう調整しようかドキドキでした。
奥井 それも修行ですから(笑)。フェイクは、ある意味作曲に近いものなんですよね。ただ叫ぶだけでは様にならないので、自分でメロディを考えないといけない。それを初めてやってもらったんです。
田中 初めてのフェイクであり、初めての作曲でした(笑)。
奥井 作詞は経験があるというお話だったので、作曲に挑戦していくのもいいと思いますよ。これからは何でもやる声優さんがもっと多くなっていくと思うので。次の“歌姫修行”の相手はザッキューちゃん(ZAQ)だから、機材の使い方まで教えてもらったりしてね(笑)。
田中 えーっ!作詞は結城アイラさんと一緒に書かせていただきましたけど、作曲も……?修行します!
――修行と言えば、ツーマンライブの時にも“歌姫修行コーナー”を設けて、奥井さんの「時に愛は」(劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』挿入歌)を課題曲として、田中さんに直接歌い方の手ほどきをしていましたよね。
田中 あの時、バンドのリズムをしっかり意識しながら歌うように助言してくださったのですが、自分の歌を作る時、どうしても大きな波で捉えてしまって、リズム感への意識が疎かになるのが課題だったので、教えていただいたことを心に刻みました。
奥井 でも、有紀ちゃんは元々お歌が上手なので、飲み込みが早かったですね。「もうちょっとこうしたら」と言ったことをすぐに形にしてくれました。ライブの後、SNSで反応をチェックしていたら、ファンの人が「あの後、本当にゆっきー(田中)の歌が変わっていた」と書いてくれているのを見て嬉しかったです。
――田中さんは、今回のツーマンライブ“歌姫修行”で他に学べたことはありますか?
田中 私はライブで歌う時に「表現しよう」という気持ちが強いのですが、リハーサルや本番での奥井さんの姿を見て「音楽で遊んでいらっしゃる」ように感じたんです。パフォーマンスするというよりも踊っている方に近いというか。見ているお客さんもすごく楽しんでいらっしゃったし、私もそういうステージを作れたら素敵だなと思いながら見ていました。
奥井 若い頃は、人の目やMCでの振る舞いを気にしてしまうんですよね。私は26歳でデビューしたんですけど、最初の頃は自分で自分のことを「いい人ぶってるな」と感じて、それがすごく嫌だった時期があって。でも、ライブを重ねていく中で、究極は「自分がどれだけ楽曲の世界に没入できるか」だと思うようになりました。これは当時林原めぐみさんが言っていた表現なんですけど、彼女は演技の時に役を自分の中に降ろすことを「イタコる」と表現されてたんですが、要は恐山のイタコさんをもじった言葉なんですけど、めぐちゃんの場合は、「あくまでも役者であってアーティストやシンガーではないので、レコーディングで歌う時も声優として歌手を降ろして歌っているんだよね」と言っていて。
田中 すごい……!
奥井 私は演技はできないけれど、歌を表現する時に、どれだけ自分の中に歌詞を降ろして、その曲と一体化できるかが重要で。それによって出来栄えが全然違います。その意味では、実は「ファンの方に楽しんでもらおう」とすらあまり意識していないんです、ライブの時は。そうすると歌詞も間違えないんですよ。例えば、覚えている歌詞を頭の中でいろいろ考えたり、「ここの音は高いけど出るかな、難しいな」とか考えていたら絶対に間違えます。そういう邪念が生まれないくらい入り込む。
――没入して、完全に憑依するような。
奥井 そうそう。そうやって「イタコる」と、自分の歌でツーと涙が出てしまうような感覚になる時があるんですよね。自分の場合、特にソロではそういうステージをいつも目指しています。カラオケよりもバンドの生演奏の方が、そうなりやすい。バンドさんが支えてくれるエネルギーやグルーヴ、みんなが出す渦のようなリズムに乗って、どれだけ歌えるか。音程とかは基本中の基本としてできるようになったうえで、その先の話ですね。でも、これは長年の経験なので、有紀ちゃんはまだお若いのでこれからだと思います(笑)。
――田中さんは声優として、日常的にそういう「降ろす」作業をされている部分がありますよね。
田中 そうですね。アフレコの場合は、準備の段階で、どこを立てるか、どういう気持ちや役割なのかを考えはしますけど、本番では冷静な自分もいつつ、表現の方に振るということをしていて。歌も一緒なんだと、今のお話を聞いて思いました。
奥井 テクニックの先にあるものですよね。きっと売れている人やベテランの方は、演技でも歌でもそこができるんだと思います。それは私が30年以上歌ってきて一番感じることです。
田中 確かに私はライブの本番中、いろいろ考えすぎているのかもしれません。もちろん楽しんではいますし、ファンの方とのやり取りも嬉しいですけど、何層かに分かれている思考の奥で「次は何をしようか」と考えてしまっていて。別にそれは悪いことではないと思いますけど、体への指令が少し遅れる気がして。感じるままに、心に任せて入り込む方が、より自然にそこにいられるんじゃないかと思いました。
奥井 有紀ちゃんはこれまでグループ活動が多くて、振り付けのあるステージが多かったという話なので、これからアーティスト活動を続けていくことで自然と身についていくんだと思います。最初は考えるのが当たり前なので。私は長くやっているから、もう僧侶というか、阿闍梨のような境地になっているだけだから(笑)。
田中 私はまだ、入門したてです……!(笑)。
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