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INTERVIEW

2026.04.21

前田佳織里、声優デビュー10周年の節目に語る自身の哲学とアーティスト活動にかける思い、表現の世界で見つけた「自分の居場所」

前田佳織里、声優デビュー10周年の節目に語る自身の哲学とアーティスト活動にかける思い、表現の世界で見つけた「自分の居場所」

声優デビュー10周年、そして30歳という大きな節目を迎える前田佳織里。圧倒的な熱量と「ブレーキのない」芝居で、多くのアニメファンに鮮烈な印象を残し続けてきた彼女の歩みは、常に全力疾走の連続だった。代表作である『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』や『ウマ娘 プリティーダービー』との出会い、そしてアーティスト活動で見せる等身大の姿――。これまでの軌跡を振り返りながら、自身のコンプレックスを武器へと変えてきた彼女の哲学と、これから始まる30代への展望をじっくりと語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

声優活動を続けてこられた理由、この10年で得られたものと気付き

――声優活動10周年を迎える今の率直なお気持ちをお聞かせください。

前田佳織里 自分では10年経った感覚はあまりなくて、本当にあっという間だったなと思います。体感ではまだ5年くらいの感覚なんですけど(笑)。私は小さい頃から飽きっぽいところがあって、一番長く続けた習い事も小学生の頃にやっていた新体操の4年だったので、そもそも10年間何かを続けられたのは声優のお仕事が初めてのことなんです。だからこそ、自分はこのお仕事が本当に好きなんだなと今実感しています。

――声優のお仕事のどんなところが好きですか?

前田 全ての経験が無駄にならないことがいいなと思います。例えば、日常生活でうまくいかないことやモヤモヤすることがあっても、その気持ちをお芝居に活かすことができます。自分の経験を何でも活かせるからこそ、日々の出来事から得られるものがありますし、毎日をしっかり生きようとも思うことができています。全ての経験に価値があるというのが、声優のお仕事の好きなところです。

――10年続けてきたなかで気づいたこと、声優のお仕事に対する向き合い方の変化もあったのではないでしょうか。

前田 そうですね。最初の頃は本当に何をどうしたらいいかわからないことばかりだったので、とにかく「全部全力だ!」という気持ちで取り組んでいました。今は、経験値が上がったことで「自分はこれが苦手なんだな」とか「これは絶対こうなるな」というのが見通せることも増えて、視野が広くなったと思います。デビューしてすぐのタイミングで印象的だったのが、現場で先輩に「佳織里は大人になるのが早かったね」と言われたことで。

―それはどのような意味合いで?

前田 「地に足をつけるタイミングが他の人よりも早い」ということでした。多分、私は比較的早い段階から大きな会場でライブをさせていただく機会があったことが大きいと思うのですが、そういう経験もあってか、「自分は今後この部分を伸ばしていかないとまずいかも」と悟るのは早かった気がします。

――当時、伸ばしていかなくてはいけないと感じていた部分は?

前田 やっぱりお芝居に対してですね。最初の頃は自分の個性や強みが全然わからなくて。自分の声質はアニメにハマらないと思い込んでいたんです。今は地声もだいぶ変化して、「ここが得意」「この感じの役どころはよく任せていただける」というのが自分の中で見えてきた部分があるのですが、当時はいろんな可能性がある分、どこを伸ばしていけばいいのかわからなかったと思います。ゲームで例えると、昔はステータスが全部平均値で低いままだったのが、今はどこにバロメーターを振ればいいのかが見えてきて、自分の得意な攻撃や呪文を使えるようになったような感覚です。

――具体的にどんな部分に自分の強みがあると考えていますか。

前田 これは私自身の周りからの印象もあるかもしれないですが、ありがたいことにテンションが高かったりコミカル寄りの役柄をいただけることが多くて、私自身もそういう感情がバーンと出るタイプのお芝居が大好きなので合っているのかなと思います。『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。』の現場で音響監督の大寺文彦さんから「前田の強みはブレーキがないところ。序盤からアクセル全開で行けることがすごい」と言っていただいたことがあって。普通であれば少し躊躇するところも、私は最初から弾けることができるみたいで、その思い切りの良さは自分の強みなんだと思います。

――勢いのある役どころは演じやすいと。

前田 あとは、一見すると正統派ヒロインのようなポジションだったり、おしとやかな雰囲気だったとしても、最終的には闇堕ちしたり過去が重いキャラクターになぜかご縁があります(笑)。SNSでも「あ、また前田佳織里のキャラが闇堕ちした」という感想を見かけることが多くて。もしかしたらそういう役柄を演じる運命にあるのかもしれないです。

――弾けたタイプのキャラクターは前田さんのパーソナルと紐づきやすい印象ですが、背景に影があるタイプのキャラとのご縁が多いのはなぜだと思いますか?

前田 どうなんでしょう? でも、私が以前、吹き替えでお世話になっているCHANCE iNのサイトウユウさんという音響監督さんに言われて大切にしている言葉で「声優は自分の中のコンプレックスが大きいほど武器になるし、演技するうえで説得力になる」というものがあって。演技というのは自分自身の挫折や辛い経験も武器になるし、そこから膨らませていくことができる。むしろ辛い経験をしていない人のほうが少ないと思いますし、私が声優になりたいと思った根本的な理由も「自分ではない何かに成りたい」ということだったので、逆に「自分自身はいらない」とどこかで思えていることが私にとっては大事なのかなと思うんです。なので過去に重たいものを抱えているキャラクターを演じるのも大好きです。

――前田さん自身も、過去のコンプレックスがエネルギーになっているところはありますか?

前田 はい。これはワンマンライブのMCでもお話したのですが、私は今でこそ、いろんな方から「人当たりが良くて器用だね」と言われることが多いんですけど、昔はそんなことは全然なくて、小さい頃から人と何を話していいのかわからない人生だったんです。誰かとお話したり人のことは大好きだったけど、その熱量が高すぎて、空回りして嫌われたりすることが多くて。

――なるほど。そこもブレーキが効かないというか。

前田 そうですね。入力はするけど出力がうまくできないタイプだったので、自分のことを“人間もどき”と思っていた時期が結構あって。自分は人間ではなくて、野生動物のように感じて生きていたので、お芝居を始めた時も「大人と何を話したらいいんだろう?」という感じでした。でも、このお仕事を始めてから、周りとちゃんとコミュニケーションを取れるようになりましたし、過去に何か抱えている役柄を演じる時も、自分が抱えていたコンプレックスをその子の孤独に寄り添える優しさに変えていけると思うので、声優になることができて本当によかったなと思います。

『ラブライブ!シリーズ』『ウマ娘』『2.5次元の誘惑』――転機となった出会い

――これまでの10年間の中で、声優としてターニングポイントになった作品や役柄をいくつか挙げていただけますでしょうか。

前田 どの子もかけがえのない存在ですが、3つに絞ると、まずは代表作とさせていただいている『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』と『ウマ娘 プリティーダービー』です。事務所に入って半年くらいで人生初のオーディションを受けて受かったのが『ウマ娘』、そのすぐ後に『虹ヶ咲』が決まりました。どちらも最初はこんなに長い付き合いになるとは思っていなかったです。

――『虹ヶ咲』ではスクールアイドル同好会と演劇部を兼部している女の子・桜坂しずく役を演じています。

前田 『虹ヶ咲』と桜坂しずくちゃんに関しては、お芝居だけでなくライブパフォーマンスや生放送での立ち振る舞いなども育ててくれたので、等身大で一緒に成長してきた感覚です。

―ステージに立って歌うお仕事に関しても、『虹ヶ咲』を通して積んできた経験が大きいのではないでしょうか。

前田 本当にその通りで、私は高校時代にガールズバンドでボーカルをやっていたので、最初の頃はキャラソンで自分の歌の癖を出さないようにすることが難しくて、自分が歌いやすい“自己満足の歌”になってしまいがちだったんです。でも、それだとコンテンツのキャラクターとしてステージに立つことができない。なので自分のバンドっぽい癖を削ぎ落とすところから始めました。それとしずくちゃんは演技派系スクールアイドルなので、演技派の彼女が楽曲の世界観に合わせて七変化できるように自分も進化していかなくてはいけない。なのでしずくちゃんの歌では、楽曲ごとにガラッと雰囲気を変えるようにしています。

――確かに「オードリー」と「小悪魔LOVE♡」では歌のアプローチが全然違いますものね。

前田 聴いていただいてありがとうございます!そこは楽曲ごとに演じ分ける感覚で歌っています。楽曲の力が素晴らしいので、練習していけば自然とそうなっていきますし、無理に自分の中で「この歌声が出ないと正解ではない」と決めてしまうと負担になるので、ライブを含め自分から出てきた表現を信じて歌うようにしています。

――そして『ウマ娘』ではナイスネイチャ役を担当しています。

前田 ナイスネイチャは常に前に進む力、諦めない気持ちを持っている子で、その意味でも一緒に成長させてもらったと思います。彼女の“諦めない気持ち”は、10年経った今の自分にとても刺さります。

――ありがとうございます。もうひとつは?

前田 『2.5次元の誘惑』のリリサが、ここ最近のなかで、自分の意識を見直しきっかけを教えてくれた役になります。作品自体はコスプレが主な題材になっているのですが、リリサは自分が好きなキャラクター・リリエルのコスプレにすごく情熱を持っていて、自分の好きなものを大切にしている子たちの物語なんです。彼女を演じることで、アニメ作りやエンタメは愛がないと成しえないと改めて思いました。それまでは現場でも自分のことだけで精一杯になってしまって、ちょっとイエスマンになりかけていたんです。でも、もっと情熱がないとそれより先のもの、突破力のあるものが自分の中から出てこないと思ったので、自分の中に出てきた“こなれ感”みたいなものを顧みる機会になりました。

――ある程度のキャリアを積むと、どうしても慣れが出てくるでしょうからね。

前田 そうなんです。でも「そうじゃないよ」「あなたがしたいことは何?」と魂で貫いてくれたのがリリサだったのかなと思います。

――10年続けてきたなかで、今改めて感じる課題はありますか?

前田 もうすぐ30歳になるので、やっぱり、どこまで体力がもつかは気になるようになってきました。昔はショートスリーパーでガンガンいけたのですが、だんだん睡眠負債が溜まってくる感覚があって。20代前半が元気すぎたので、今は生活リズムの改善が一番の課題です。ずっと第一線で活躍されている声優の先輩方に体のケアの方法をインタビューして回りたいくらいですもん!(笑)。

――ここまで全力で駆け抜けてきた分、調整が必要なタイミングなのかもしれませんね。

前田 体力自体は今もあるのですが、一番いいコンディションで現場を迎えられるように調整するのが大切なのかなと。今はその練習をしている期間です。去年からジムにも通い始めて、逆にちょっとワクワクしているんですよ。これは私の強みでもあるのですが、「自分ってどこまでやったら壊れちゃうのかな」というのを知りたくて。

――いやいや、それ、大丈夫ですか(笑)。

前田 自分自身の体で実験するというか、トライアンドエラーが好きなんです(笑)。「あ、ここまでやったら限界なんだ」というのを体験して、その先に行くにはどうすればいいかを考えて伸ばしていきたい。筋肉も筋繊維が壊れれば壊れるほど強くなっていくじゃないですか。それと一緒で、壊れることで強くなることもあると思うので、自分自身を守るよりも広げていきたいんです。

――でも、実際に限界に達してしまう時もあるわけですよね?

前田 それが面白いんですよ。自分がボロボロの状態を俯瞰で見ると「あ、私、こんなボロボロやん、ウケる」ってなっちゃうので(笑)。これは私が人とは違うところだと思うんですけど、元々強い芯がある人が折れた時は怖いですけど、私は最初から折れているので、だからこそ不調なタイミングがあっても「まあそういうものか」って思えるというか。

――客観視が得意なタイプなんでしょうね。

前田 その傾向は小さい頃から強いと思います。自分を分析することが好きですし、他人のことを観察して「あ、この人はこういうタイプなのかもしれないな」って考えるのも好きなので。根本的に人間が好きなんだと思います!!自分を観察して足りないところを埋めていく作業が好きなんです。例えば、昔はギリギリまで寝てしまうので朝ごはんを食べることがなかったのですが、これは弱点だなと思ってからは、少しでも早く起きて朝ごはんを作るようになって、今は魚を焼けるまでになりました。自分に対して“人間もどき”という感覚があったからこそ、当たり前にしていくことがすごく好きです。

――その意味では向上心も強いと思うのですが、今現在思い描いている自分の理想の姿はありますか?

前田 理想の自分……あ、そういえばちょうどこの間、岡咲美保ちゃんと露天風呂に入った時にそんな話をしました(笑)。私は人を観察するのが好きな分、他人と自分を比べてしまうことも多いのですが、先輩方とご飯とかに行くと、皆さんあまりにも素敵すぎて、「私はまだ自分のことだけで手いっぱいなのに、なんで後輩にこんな風にできるんだろう?」と、ちょっと落ち込んでしまったことをミポリン(岡咲)にお話ししたんです。そうしたら「でも、佳織里も時間を重ねたらそういう一面を持った佳織里になると思うし、他人と比べるのではなくて自分らしくいることが大切じゃない?」って、結局は自分の延長線上なんだと気づかせてくれて。ミポリンはすごく言語化能力が高い子なんですよね。

――自分も何度か取材させてもらったことがありますが、すごくわかります。

前田 ですよね!真っ直ぐ人のことを見ていますよね。たまたまロケで一緒になったんですけど、自分が節目を迎えるタイミングで何になりたいかを考えていた時期だったのでいろいろ考えてしまっていて、「あれ?カウンセリングを受けているのかしら?」と思うくらい話を聞いてくれました(笑)。

――でも、前田さんも身の回りに後輩が増えてきて、いい先輩になれているんじゃないですか。

前田 いやいや、全然です。私は先輩面できるような立場でもないですし、後輩ちゃんたちにもリスペクトしかないので。でも、やっぱり後輩ちゃんたちはすごくかわいいです。私の「お酒の伝説エピソード」が独り歩きしているみたいで(笑)、現場でも「一緒にお酒飲みに行きたいです」と言ってくれることが多くて。連れて行けた子もいれば、まだ連れて行けていない子もいるので、今年中に絶対ご馳走したいなと思っています。同じ声優仲間として、話しやすい先輩と思ってもらえたらいいなと思っています。

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