自身の活動を第2期のフェーズへと移行したやなぎなぎが、また新たな試みを行ってくれた。従来も物語性が高かった彼女の作品だが、これを更に一歩進める新作アルバム『Green Light』を中心に据えたプロジェクトがそれだ。アルバムを通じて語られるストーリーを原案としたアドベンチャーゲームを同時に制作し、更に深く物語を楽しんでもらう趣向という趣向だ。また、この作品では物語への没入感も重視しており、それはライブにおいて完成するという。トライアングル構造のこのプロジェクトについて詳しく聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
――新作アルバム『Green Light』は、やなぎなぎさんが原案を作られたアドベンチャーゲームのストーリーとリンクした楽曲が収録されており、音楽と物語が交錯するという内容だそうですが、まずこのプロジェクトの構想はどのように生まれたのかを教えてください。
やなぎなぎ メジャーデビュー10周年の際に、次に発表する新曲のテーマをファンの皆さんの投票によって選んでもらうという企画(https://www.lisani.jp/0000219011/)をしたことがあったのですが、次に物語を元にした作品を作るプロジェクトがあれば、ゲームという媒体で作りたいと思っていました。元となる世界観を提示して、「こういうゲームにしたいんです」とお伝えして、あとはお任せになるのかなと最初は思っていたのですが、かなり細かい部分まで監修させていただけました。まず私の構想として、2人の登場人物の物語があって、それを音楽の形に作り上げつつ、ゲーム制作サイドにそのあらすじと、こういったゲーム性にしたいとお伝えして作品を作っていっていただきました。途中に少し調整も入りましたが、ほぼすべて最初の物語に基づいています。そんなわけで、かなり自分の色を入れさせていただいたゲームになっています。昨年の春から2週に一度くらいの定例会議にも出席しています。
――そこまで目が行き届いたものになっているとは、音楽制作とはまた異なるクリエイションを経験されていますね。
やなぎなぎ そうですね。純粋に作業として異なる部分も多いですし、私としてもとても面白い構造になったと思っています。音楽だけでは説明しきれないような登場人物のパーソナルな部分もゲームでは表現することができますし、アルバムと合わせて聴いていただくことによって、より輪郭が浮かび上がってくると思います。これまでは意図的に空白や想像していただく余地を設けていたのですが、今回は物語を追っていただくことに意味がある作品になったかなと思います。
――ゲームのストーリーは、夢の世界と現実の世界を往復するような流れでしょうか?
やなぎなぎ 登場するキャラクターたちが夜中に不思議な夢を見るのですが、その夢とは一体何なのか、主人公が昼間に情報を集め、夜になったらそれを追求していくという流れのゲームになります。その不思議な夢にもいくつか種類があって、それは劇中劇のような作りにもなっています。ゲームも同時に作ることが決まっていたので、その夢に対応する楽曲はゲーム音楽のレジェンドの方にお声がけして作りたいなとは思っていて、下村陽子さん、除村武志さん、大島ミチルさんにお願いすることができました。物語を追うメインストーリーはすべて私の曲で、それらの楽曲には大きく2つの視点があります。1つは「あなた」と呼ぶ対象がいる視点。もう1つは「キミ」と呼ぶ対象がいる視点。その2つの視点から進行していきます。楽曲制作としてはこれらを交互に進めていきました。
――アルバム『Green Light』全体を通じ1つのコンセプトを貫くうえではどのような工夫がありましたか?
やなぎなぎ 今回はキャラクターに対して、それぞれのイメージを想起させる楽器や音階というものを決めていて、それらを各楽曲やゲームのサウンドの一部に採り入れています。アルバムの中で、ある楽器の音色やフレーズが出てくることで、そのキャラクターの思いを強く表したり、逆にゲームの中にはアルバム曲のフレーズがSEとして登場したりもするので、その辺りを意識して聴いていただけると、より考察が深まるのではないかなと思います。
――ではメインストーリーにあたる楽曲から伺ってまいります。最初に書かれたのは1曲目の『Green Light』でしょうか?
やなぎなぎ そうですね。ゲーム制作をするにあたり、まずイメージリリックのようなものを制作会社さんにお渡しいたしました。そうした経緯もあったので、この曲は他の曲とは異なり、歌詞から書いていきました。私のアルバムでは1曲目に世界観の導入になるような楽曲を置くことが多いのですが、この『Green Light』は、まさにそれにあたる楽曲です。ゲーム中でも重要なポイントになる「グリーンライト」という存在の一片を表現したもので、これからどうなっていくのかというイントロになるような楽曲を作っていきました。
――これ以降の楽曲は、それらを読み解いていくことがゲームの進行になっていくような構造でしょうか?
やなぎなぎ そうですね。世界観的には一緒の世界の作品なので、皆さんがアルバム全体通して考察してくれた内容が、ゲームでは更に内容が深堀りされていったり、歌詞の意味合いに別の一面を感じていただけるかと思います。楽曲の読み解きとゲームの進行を同時に行なっていただくのがベストですが、どちらか片方だけでも楽しめる内容になっています。
――今作ならではの工夫やご苦労されたことがありましたら教えてください。
やなぎなぎ 作りたいものを作りたいように作ったという感じなので、大変だったということはないんですが(笑)。キャラクターの視点に合わせてフラットなメロディにしたり、情熱的にしたりと自分のこだわり強く、本当に楽しく、作りたいように作っていくことができました。先ほどのキャラクターに合わせた楽器の使い方の縛りも楽しくて、むしろそれがアイデアの源になったこともありました。
――歌録りはいかがでしたか?
やなぎなぎ 普段の私はみんなに想像していただけるよう、客観的に歌うことが多いのですが、今回は気持ちを受け取っていただけるよう主観で歌う曲が多かったのが特徴です。キャラクターになりきるというわけではないのですが、「こういう声色だと少し主観に寄るかな?」と、主観の視点を歌う際には意識しました。その辺りの気持ちの込め方を聴いていただく際には感じていただけると嬉しいです。
――ではゲスト作曲の3曲について伺っていければと思います。まずは下村陽子さんによる「星年」を。
やなぎなぎ ゲーム音楽ファンからすると、下村さんはダークなBGMを書かれている印象があると思うのですが、私は下村さんと茶太さんがコラボしたアルバム(2007年作『murmur』)がとても好きだったので、今回はその時のような明るめの楽曲をお願いしました。
――下村さんに対して『Green Light』の内容はどの程度までお伝えされましたか?
やなぎなぎ まずゲームの内容と、その中で見る夢のお話であるというご説明と夢のあらすじ。そして私が書こうと思っている歌詞の内容と「ファンタジーな夢」というイメージでリクエストをお伝えしました。いただいた楽曲はとてもかわいかったです。下村さんのダークな曲が好きな方にはちょっと申し訳ない注文だったんですけど(笑)。私はこのテイストの下村さんもすごく好きなので、もうホクホクというか、お願いしたイメージ以上にすごくファンタジーに仕上げていただきました。普段自分が作っている曲よりも読み取れる情景や情報量が多く、ワクワクしながら歌詞を書いていきました。
――続いて「花笑み」は除村武志さん楽曲です。除村さんには当初からチップチューンでお願いする狙いがあったのでしょうか?
やなぎなぎ そうですね。最初はピアノっぽい音源のラフをいただいて、それがとても良い感じでしたので、そのままピコピコサウンドに仕上げていただきました。チップチューンはどうしても音色が限られてくるので、メロディとコードのどちらがメインになるか、ゴチャゴチャしがちなのですが、除村さんの曲はそうしたことが一切なく、自然に聴こえるんです。それがすごいなと思いました。
――なるほど。チップチューンはつい、レトロなお洒落感に耳が行きがちですが、構造上の工夫もしっかりあるんですね。
やなぎなぎ そうなんです。除村さんに作っていただいた曲を後に私がリアレンジしてゲームのBGMに使ったのですが、その際にコード進行などを解析すると構造的にもとてもお洒落なんです。今までフワッと、かっこ良いなあと思って聴いていたものが、しっかり理論に裏打ちされていたことに、改めて感心いたしました。
――そうした「花笑み」に対し、ボーカリストとしてレコーディングにはどのように臨みましたか?
やなぎなぎ この素晴らしいバランスを崩したくないという思いがやはり強かったので、どうしたら馴染み良くなるかを意識して臨みました。ゲームのほうではチップチューンをむしろあまり使っていないのですが、この曲はアルバム『Green Light』を通して世界観が異なるものになったので、とてもフックになった楽曲だと思います。夢って結構、唐突な場面があったりもするので、その意味でもこの違和感を出す効果が生まれたと思います。この曲はMVも作っていただいて、それもとてもかわいいので私としてもお気に入りの1曲になりました。
――そして、大島ミチルさん作の「We don’t know」についても教えてください。
やなぎなぎ この曲もアルバムの中で、また毛色の違う楽曲です。いただいた時には「どうやったらこんな曲ができるの!?」と思ったほどすごい曲でした。私は大島さんの楽曲の中では『ICO』というゲームのEDテーマ「You were there」が好きで、とお伝えしたところ、やっぱり名曲ですからそういったご依頼はとても多いそうなんです(笑)。でもそれを汲み取って作っていただいたこの曲は、懐かしくもあり新しくもあり、「さすが大島さん、巨匠すぎる……」と思いました。更に大島さんからは「このサウンドにはこういうイメージを込めた」ということを明確にお伝えいただき、歌詞を書くうえでのニュアンスについてアドバイスまでいただきました。そのお言葉から浮かんできたワードもありましたし、気持ちの面でもよりしっかりと取り組むことができました。
――アルバムの最後を飾る「ふたりのヴィリジアンド」はゲームのEDテーマにあたる楽曲でしょうか?
やなぎなぎ はい。この曲はゲームをクリアする前に聴いても大丈夫ですし、プレイしてから戻ってきて聴いていただくと、また違うものが見えてきたり意味合いが変わって聞こえる内容になっています。アルバムは「あなた」と「キミ」の視点から始まっている物語ですが、ゲームにはもっとたくさんの人が登場しますので、その視点から見ていくとこの2視点がどういうことだったのかを解明してくれると思います。ただ、この2視点だけでも完結はできるので、そこに思いを馳せていただくのもいいかなと思っています。
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