INTERVIEW
2025.08.21
2025年8月22日にメジャーデビュー7周年を迎えるナナヲアカリ。そんななかでリリースした「ムリムリ進化論」は、TVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』のOPテーマでありながらも彼女の集大成とも言える楽曲に仕上がった。過去楽曲が今までにない層まで届き、かつ『フライングベスト2』の発売も控えたナナヲアカリに、新譜と現在のモードについて聞く。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――前回リスアニ!でインタビューさせてもらったのが「明日の私に幸あれ」のリリース時で、その時点ではナナヲさんご本人やTVアニメ『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』(以下、『ギルます』)出演声優陣の皆さんが曲に合わせて踊る動画が公開されたくらいのタイミングでした。
ナナヲアカリ そうですね。とてもありがたかったです。
――その時に「働く人や学生さんが老若男女問わずみんな踊ってくれたら面白いですね」なんて話をしていたのですが、まさか本当にその未来が来てしまうとは。狙いどおりという感じなんですかね?
ナナヲ そういうことになるのかなぁ(笑)。狙ってはいたけど時期もズレてるし、不思議な感じです。
――少し前ですが「め組のひと」が流行っていたり、SNSでのバズはリアルタイム性があまり関係ないのかもしれません。
ナナヲ やっぱりそうなんですね。リリース当初はVTuberの方や、アニメや声優さんから派生した人たちが踊ってくれているイメージだったんですよ。でもリリースから4ヵ月くらい経ってからTikTok界隈の人たちに届いて……。
――アニメを観ていない人や、おそらくナナヲさんを知らない人のところまで。
ナナヲ そうなんですよ。そこまで届き始めて……オヨヨヨヨヨヨヨヨっていう感じ(笑)。狙った以上のところにまで届いたのは新鮮でしたね。
――YouTubeのご自身のチャンネル上でも数千万、1億を超える再生数の動画は数ありますが、それとはまた少し違いますよね。自分の本丸じゃない場所で自分の作品が動き続けているというのはご自身的にいかがですか?
ナナヲ なんかもう……わかんないです(笑)。替え歌だったりとかネットミーム化していている感じなので。
――ミーム化は初ですか?
ナナヲ いや、「ダダダダ天使」がすごくミーム化されていたので。でもメジャーデビューしてからは初ですね、ここまでイジられ倒すのは……(笑)。まぁイジられてナンボのネット社会ですから、「イジられてんなぁ」とは思いますけど。
――やはり玉屋2060%(Wienners)さんの楽曲にその力があるんでしょうか。
ナナヲ そうですね。アニメ好きがとかリア充がとか関係ない、垣根を越えたところの共感軸が高い曲を書かれる方なんだと改めて思いました。今まで全然連絡の来たことがない友達やいとこから「あの曲めっちゃ歌詞いいね!」って言われたりしました。
――オタク軸や陰キャ軸とはまた少し違う、かつ“実はみんな思っていること”だったんでしょうね。
ナナヲ ですね。『ギルます』のアリナさんとナナヲの共感軸を見つけてたら、いつの間にかみんなの共感軸だったって感じなのかな、と。
――やっぱりみんな働きたくないんですね、この世界は。
ナナヲ うん、思いました。誰も働きたくないんですよ(笑)。
――TVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(以下、『わたなれ』)のOPテーマとしてリリースされたニューシングル「ムリムリ進化論」は、作詞・作曲がナユタセイジさん、編曲がやしきんさん、ポエトリーがナナヲさんという布陣で制作されています。今回こちらのタッグに至った経緯や制作過程についてお聞かせください。
ナナヲ まず『わたなれ』テーマソングのお話をいただいた時に、「また節目のタイミングでピンク髪が現れた(主人公・甘織れな子)」と(笑)。そんなことを思いながら原作を読み進めていたら、ナナヲアカリ自身というか、ナナヲアカリの代表曲である「ダダダダ天使」でダ天使ちゃんが表現してきたこと、MVの中で奮闘しているその人生を送ってきたのがれな子ちゃんなんだなと思って。この子はめちゃくちゃダ天使ちゃんです!というところから始まって、それなら作詞・作曲はナユタンさんにお願いしようと。オープニングの映像がついたときに改めて思ったんですけど、この作品ってすごく王道ラブコメじゃないですか。ちょっと平成を感じさせる雰囲気もあったので、アレンジはその方向性も得意なやしきんさんにお願いしました。
――ご本人の中で主人公のれな子とダ天使ちゃんをニアリーイコールにしてしまっていいと考えたんですね。
ナナヲ そうですね。こんなに結びつけられる子は他にいないくらい。いつもだったらナナヲアカリと登場人物との共感できる部分を探す作業から入るんですけど、そこがもう「なくていいな」と思って。すごく作りやすかったですね。
――たしかにここまでこの属性に振り切った、しかも女の子の主人公というのはあまり見たことがないですね。
ナナヲ 珍しい!って思いました(笑)。
――ナユタセイジさんへのリクエストはどのようなものがありましたか?
ナナヲ まずアニメサイドからのリクエストとして、セリフパートを1番から入れてほしいと伝えられていて。れな子ちゃんが脳内で反省したりアワアワするあの感じをOPテーマの尺に入れたいとのことだったんですね。なので結構珍しく1番からポエトリーのパートが入っています。
――ずっと喋ってますもんねこの曲。脳内葛藤がそのまま漏れ出しているような。
ナナヲ アニメサイドからそのオーダーがあったからこそ、逆に2番以降の展開をそれ以外の方向に持っていきたくて。それで振り切った展開の今までになかったポエトリーにしたいねという話になって、結果極悪サウンドにポエトリーを乗せる形になりました。2Aの“あぁ、やっぱムリかも”から始まる部分ですね。
――ポエトリー部分の作詞はどのようなイメージで?
ナナヲ 頑張って頑張って頑張って、ガス欠するみたいな。ダ天使ちゃんもそうなんですけど、れな子ちゃんも原作にそういう描写があったので。
――ナユタセイジさんから上がってきた楽曲はいかがでしたか?
ナナヲ 1番は本当にリクエストどおりに仕上がっていて、その上で2番からの展開がただのアニメタイアップじゃない“7周年のナナヲアカリの楽曲”としてもすごく胸に迫るものがありました。なんか聴けば聴くほど泣けてくるんですよね。「全部取っちゃいたい!」からの流れとか第一印象から好きでしたけど、歌を録ってミックスをして、完成したものを聴いて改めてここのすごさをより感じました。
――フルコーラスで聴いた時に「最終回のエンディングで流れてほしいオープニングだ」と思ったんですよ。
ナナヲ いい喩えすぎる(笑)。なんだか最終回感があるんですよね。
――1番で使われている展開やコード進行が、全部終盤で加速されていく感じがして。
ナナヲ 疾走感が爆上がりしますよね。1サビの段階ではこうなると思ってなかった展開です。
――TVサイズだと迷いや戸惑いだったり、れな子ちゃん特有の行ったり来たりがメインですけど、終盤にちゃんと一歩を踏み出す感覚といいますか。
ナナヲ ちゃんと走り出しましたね。アレンジ面だとどれくらい平成感を出すかというのは結構話し合いました。ちょっと懐かしい感じも入れたいけど、入れすぎると「これはもう令和じゃないかもしれない!」みたいになってしまって。
――わかる人にはわかる懐かしさと、平成のパロディでは意味が変わってしまいますもんね。
ナナヲ そうそう、その塩梅が難しかったです。最初にやしきんさんが入れてくれたバキバキのシンセとか、ループ素材の音色がすごく懐かしい感じだったんですよ。「これは確かに懐かしいけど、平成すぎるかも……!」と(笑)。美少女たちのアニメではないかもなと思って、削ったりボリュームを下げたりして調整していきました。
――ナユタさんの作曲の時点で2Aの歌詞をポエトリー用に空けておいてもらうといった作業工程なんですか?
ナナヲ そうですね。先にTVサイズが出来上がっていたので、後半の展開をざっくり作ってもらって。前半の迷いのパートと、後半に一歩踏み出すパートを繋ぐような感覚で書いていきました。すごく書きやすかったけど、後半にどう繋げるか。最初はちょっとエモ寄りに書いていたんですけど、じゃなくてもっとスピード感や畳み掛ける感じがほしくて書き直して。これは私が勝手に言ってるんですけど……「令和の吉 幾三」ですね。
――!?
ナナヲ 「愛嬌あれば苦労しない!!流行りのトークにゃご縁がない!!勇気がない!!言葉が出ない!!みんなの普通は普通じゃない!!」です。
――本当だ。「俺ら東京さ行ぐだ」と同じく“ないもの”が連なっている(笑)。
ナナヲ めちゃくちゃハマりが良くて。「令和の吉 幾三にしたらめちゃくちゃ良くなりました!」って一同盛り上がりました(笑)。
――ただ物理的に足りない部分だけじゃなくて、連なったなかでも「みんなの普通は普通じゃない」はいいワードですね。
ナナヲ これいいですよね。ナナヲが常日頃から思っていたことをれな子ちゃんと「ムリムリ進化論」が言わせてくれたなって。
――「明日の私に幸あれ」は結果的に普遍として多くの人に届くメッセージになりましたが、「ムリムリ進化論」はナナヲさんが根本的に伝え続けていることに近い印象ですね。
ナナヲ れな子ちゃんがどうかというよりは、ナナヲアカリがどうかを考えれば自然と作品テーマソングになる感覚でした。
――「わかんないセブンティーン」(「明日の私に幸あれ」のカップリング)について聞いている時に、17歳の感覚を思い出すために過去のアルバムやノートを見返したと伺いました。「ムリムリ進化論」は大人でも持っていていい感覚の歌だとは思いますが、表現するにあたって昔と比べてこの感覚は自分の中から減っていったりはしませんか?
ナナヲ 減ってはいきますね。減ってはいきますけど、音楽を始めた時の初期衝動なのでセブンティーンの頃の感覚よりも近くてちゃんと自分の中に留まってくれているものだと思います。だから何かを見返したりする必要はなかったですね。
――今の作風が世に認められている現状の中で、それでも陽に憧れたり新たな場所に踏み出すチャレンジをする歌じゃないですか。そこって乖離したりはしないのかなと。
ナナヲ そこは全然しないですね。そんなそんな、認められるとも思ってないですし。
――そもそも論ですねぇ。
ナナヲ あはは。そもそもそんなふうに思えていないので、一生憧れているんだと思います。憧れますよ。全然今もラッパーみたいになりたいですもん(笑)。
――いわゆる陽サイドの人たちを、陰サイドから見下す人たちも多い世の中だと思うんです。「憧れない」というスタンス。
ナナヲ いや、絶対その人たち憧れてるはずなんですよ!陽サイを見下そうとしている陰サイの人は、誰よりも陽サイに憧れてますよ!自分がそこに行けるハシゴが見つかったら、ワーッ!っと飛びついちゃうタイプですその人たちは(笑)。
――「実は憧れている」ってほとんどの人にとって認めたくない感情だと思うんですよ。ナナヲさんはかなり早い段階で、素直に明るい場所に憧れていることを認めているんですね。
ナナヲ うん、そうですね。昔は確かに、学生時代は見下そうとしたこともあったんですけど。でもそこで変に捻くれたところで、というのは20歳過ぎには思っていましたね。
――こんなにも迷ったり躓いたりする楽曲なのに、ナナヲさんも楽曲自体も1本そこの軸は通っているんですね。
ナナヲ そうですね。それはナナヲもそうですし、れな子ちゃんもそうなので。れな子ちゃんは自分ルールがしっかりあって、友達を大事にするということで芯が通っていて。そういう部分が曲にも反映されているんだと思います。
――レコーディングはいかがでしたか?
ナナヲ これは結構難しかったですね。かなり練習していったものの、本当にずっと喋っているので(笑)。息をする場所がない状態。レコーディングでは一番良い状態で録りたい、かといって不自然なぶつ切りで録るのはあまりしたくないので、完璧なブレスの位置を探す作業が大事でした。
――歌い出しのセリフ的な部分やポエトリーなど音符の存在しないパートが多い曲ですが、こういった箇所の正解はどのようにして見定めていくんでしょうか?
ナナヲ こういうナユタンさんの曲でいうポエトリーに関しては、ご本人から絶大な信頼を得ていて(笑)。そこは自分の解釈で2パターンくらい持っていきつつ、だいたい1パターン目のハマりがよくて採用される感じです。なのでここはあんまり苦労しなかったですね。2、3テイクくらい録って「あ、これでもう全然いいのあります」みたいな。なんなんですかね、この天性の陰キャポエトリーの才能(笑)。そこだけは間違いなくあるらしい。
――「ア、ア、ア、アノォ……」みたいなわかりやすく挙動不審な部分ならまだ解釈しやすいですが、その直後に「超絶進化の充実生活この手につかむ!!」と突然テンションが高くなったり、普通の感情の動線では歌うにあたって理解できない人も多いと思いますよ。
ナナヲ ここはもうあるあるなんですけど、すぐ調子に乗っちゃうんですよ。脳内で調子に乗る自分がいる、私のようなタイプの人ならすぐに理解できます(笑)。「イケるかも!?」ってすーぐ調子に乗って、すーぐダメになっちゃう。
――歌録りも含めて完成した音源を聴いてみて、改めてお気に入りの部分などはありますか?
ナナヲ やっぱり「全部取っちゃいたい!」からのセクションですね。アニメを観ている人にとってはれな子ちゃんの気持ちに感じていいし、ナナヲアカリと、ナナヲアカリを今まで聴いてくれてきたリスナーの人たちにとっての全部みたいに感じてもらってもいいし。“この自分”がいるから明るい人たちのことがわかるんですよ。自分が陽だったら陽の人の良さは当たり前過ぎてわからなかったと思うので。自分が陰の者であるからこそ、どっちもわかるよっていうのが表現できていて、歌詞もメロディも全部含めて好きですね。
――「今の自分を捨てて別のものになりたい」じゃないんですもんね。
ナナヲ そうなんですよね。「どっちの自分も」というところにすごくらしさがあると思います。
――このバランス感覚はナナヲさんと長い付き合いのナユタンさんじゃないと生み出せないものなのかもしれませんね。普通ならもっとわかりやすく陰サイ陽サイを区分けてしまいそうなのに。
ナナヲ どっちも内包させるんですよね。それはナユタンさんの手腕だと思います。ナユタンさんは常にどっちも救ってくれるんで。
――デビュー7周年記念の曲にする予定は元々なかったんですよね?
ナナヲ 全然なかったです。本当に何も狙っていなくて。ただ7年前の流れがナユタンさんの作ったシングル「ワンルームシュガーライフ」でデビューして、そのあと1枚目の「フライングベスト」が出るっていう順番だったんですよ。で、今年7周年で「ムリムリ進化論」が出て「フライングベスト2」が出るっていう。しかもそれがたまたま同じ夏に引き起こされて。これは『フライングベスト2』に続く流れにしたいですよね、というのはリリース時期が決まってから意識はしました。
――「ムリムリ進化論」のMVは“ナナヲアカリ史上最多数クリエイター参加作品”と銘打たれています。こちらはどういった意図で企画されたんでしょうか?
ナナヲ いつもと違った布陣でMVを作ろうということになって、監督のもにゃさんと打ち合わせしたときにナナヲアカリをすごく聴き込んでくれていたんですよ。「ムリムリ進化論」の映像は色々なナナヲアカリが集合した、今まで表現してきたナナヲアカリがギュッとしたようなものにしたいということで、「色々なクリエイターさんがダ天使ちゃんを描くことによってそれができると思うんですけど、どうですか?」と聞かれて。「そりゃできたらめちゃくちゃいいですけど、多分そんなのムリですよ」って。ムリムリって(笑)。そう言ってたんですけど、蓋を開けてみたら最多数のクリエイターさんに参加していただけて。そんなに納期に余裕があったわけでもないし、絶対上手くいかへんやろなって思ってたんですけど、でもできちゃったんです。完璧。解釈完璧なすごいMVになりました。この映像と合わせて曲を聴くと、「あれ、引退する……??」って思いますね(笑)。
――ベストアルバムのリリースがあるので総括は自然な流れではあるんですが、確かに帰結点というかこれまでの総集編を観ているような気持ちになりますよね。
ナナヲ そうなんですよ。図らずもベストアルバムに向けて「ナナヲアカリ総集編始まります!」みたいなMVになって。自分では名乗ったことないんですけど、インターネットアーティストって紹介してもらうことがよくあるんです(笑)。それをすごく体現したMVになったと思いました。インターネットをやったことがある人なら誰しも見たことがあるような絵柄が集まって、自分がやってきたことを振り返れるような映像になりました。
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