声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。
「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。
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前回の「成功体験」で私がなぜこのタイミングで運転免許を取得するに至ったのかの話をした。今回は人生初めての教習所で起こった“なんだかんだ“について書いていこうと思う。
軽くおさらい。私は有言実行できない自分に嫌気がさし、まず成功体験を得るために教習所に通うことを決めた。せっかく通うなら初めての土地がいいと思い、家からも仕事場からもまあまあ離れた場所にある学校に決めた。決めた時に家族やマネージャーさんから「それ通える?大丈夫?」と心配してもらったのにも関わらず「大丈夫、きっと楽しく通える!」と当時の私は自信満々だった。はあ、たまにこういう謎の自信で周りに相談せずに決めてしまうことがある。反省。案の定通うのがなかなか大変だった。基本は仕事の前に行く、休日に詰め込むという作戦で通っていたのだが、朝に授業を取っていたことが多く、床に這いつくばりながら準備をして向かうのがほとんどだったし、終わりの移動は良いタイミングのバスが来なかったり電車が遅れたりすることもあり、仕事に遅れないようにと心臓がキュッとなることも。もっと都心に近ければ……と何度思ったことか。でもその土地は景色が良く、駅にきれいな商業施設もあり、休日に授業に出る日は、終わってから買い物をしたり本を読んだりと、意外とそこで過ごす時間を楽しんでもいた。思いつきで行ったドーナツ屋さんのドーナツ美味しかったな。
運転免許を取得するには学科試験と実技試験があり、教習所でももちろん学科と実技の授業を受けていく。学生ぶりの授業にワクワクし、授業自体は毎回楽しく受けていた。が、私はとにかく記憶力がない。覚えることがとても苦手な私には、記憶力テストといっても過言ではないこの学科試験がとにかくつらかった。そして世に言うひっかけ問題にもまんまとひっかかる。試験の前に効果測定という、学んだ知識の習熟度を測る練習試験があるのだが、この測定に何度も落ち、これを受けるためだけに仕事の空き時間で急遽教習所に行ったりした。仕事の移動時間にもアプリでできる問題を解き、ツアー帰りの新幹線で解説動画を観まくった。誰だ、運転免許なんて教習所にさえ通えれば余裕で取れるよーとか言った人は……嘘つきだ。いや私の能力が低いのです、すみません。でもここまで真っ直ぐに取り組んだからか、仮免の試験も本試験も1回で合格することができた。
やっぱり楽しみだったのは実技。運転することにずっと憧れていた。初めてハンドルを握ったとき、ふと、まだ幼稚園児くらいの頃、父に車屋さんの夏祭りみたいなのに連れて行ってもらい、そこの体験で車のハンドルを握らせてもらったことを思い出した。運転は割とスムーズにできるようになり、中盤には景色を見る余裕も出てきた。しかし、駐車の練習に入った途端何もできなくなった。感覚がまったく掴めず縁石に乗り上げまくり、私って運転のセンスないのかも……と落ち込んだまま実習を終えるように。救いとなったのは、一緒に乗ってくれる教官のお姉さんが素敵だったこと。1回できたらたくさん褒めてくれ、運転に緊張していると「最初はみんなこうだからね」と柔らかく励ましてくれた。正直後半はお姉さんにちゃんと免許取れたよー!と報告するのが目的になっていた。家でも毎日寝る前に運転のイメージトレーニング。そして不安が残るなか、実技試験を迎えた。駐車は並列駐車、右バック駐車、左バック駐車の中から1つランダムで行う形式。自分は運がいいと信じていたが、神様は私が左バック駐車だけマスターしていないのを知っていたらしい。コースが書かれた紙には左バック駐車の番号。終わった……とすでに半べそをかく。でもここまで来たら、受からなくてもやるしかない。他のコースをなんとか終え、駐車の試験場所にきた。心臓がはち切れそうになりながら、ゆっくりハンドルを切っていく。伊藤美来よ、今までも人生で色んな試練を乗り越えてきたじゃないか!こういう時にできちゃうのが伊藤美来なんじゃないのか!と頭の中で熱く熱く自分を鼓舞した。結果、今までで一番斜めだった。どうしたらこんな斜めに止められようか。車内も気まずい雰囲気。だめだ、やっぱりまた最初から試験やり直しだ。ああ、お姉さんごめんなさい……。とお姉さんに試験前に言われたことを思い出した。「もし失敗してもしっかりと駐車し直せればそこで落とされることはないので、失敗してもまず落ち着いてくださいね」。そうだ、まだチャンスはある。すぐ「やり直します」と言ってもう一度駐車した。完璧とは言えないが、外に出れたのでなんとか成功。すべての試験を終え、1人ずつ名前を呼ばれて結果を知らされる。合格だった。ここ数年で一番震えた。
とまあ、なんだかんだあったが私は運転免許証を手に入れた。己の努力の結晶のようで発行後しばらく眺めた。嬉しかった。運転免許くらいで大袈裟だと言われても構わない。私は私の手で、あの時の私の夢を叶えてあげられたんだ。勝利の女神であるお姉さんには試験後に会うことはできなかったので、カードにメッセージだけ残した。元気だろうか。せっかく運転免許を取って1年経つのにまだ近所のスーパーと回転寿司屋にしか行ってないが、2週間に1回くらいはちょっと運転している。駐車はまだ1人じゃできないし怖いけれど、私のペースで進んでいこうと思う。次の夢は二十歳の時にインタビューで答えてた“赤いオープンカーを運転すること“だ。大きいサングラスなんかかけちゃったりして。楽しみうふふ。
▼愛犬のピノとも車でいっぱいお出かけしたい。
車に震えるピノ。
※出発前の写真です。ピノも安全確保の上乗車してもらっています。
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