INTERVIEW
2025.08.07
“絶望系アニソンシンガー”ReoNaと、TVアニメ『アークナイツ』シリーズの3度目の邂逅。このたび届けられたニューシングル「End of Days」は、現在放送中のTVアニメ『アークナイツ【焔燼曙明/RISE FROM EMBER】』OPテーマとして、佳境を迎えるロドスとレユニオン・ムーブメントの苛烈な争いに“終わり”の花を添える、荘厳な祈りの歌となっている。アプリゲーム『アークナイツ』の5周年記念曲「Runaway」を含め、作品との結びつきを大切にしているReoNaだからこそ表現できたお歌について、たっぷりと話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――アニメ版『アークナイツ』の主題歌を担当するのは3度目となります。これまでの2曲「Alive」「R.I.P.」や劇中で描かれるストーリーの流れを踏まえて、今回はどのように制作を進めましたか?
ReoNa まず改めて、ゲームのシナリオを読み返すところから始めました。元々ゲームはプレイしていたので、今後の展開については知っていたのですが、ここからさらに繊細で緊迫感のあるお話に入っていくので、私の周りにいるドクター(※アプリゲーム「アークナイツ」のプレイヤーの呼称)の皆さんに「この場面のキャラクターの心情はこういうことですよね?」みたいなことを相談しながら、解釈をすり合わせていったうえで制作に取りかかりました。
――TVアニメも第3期ということで、今回は更に深いところまで踏み込んだストーリーになるわけですね。
ReoNa レユニオンの成り立ちやロドスの過去、タルラとチェンの姉妹がどうして生き別れになったのか。今まで明かされてこなかった部分の答え合わせが色々と描かれます。『アークナイツ』の物語は本当に理不尽や不条理を感じてしまうことが多くて。種族間や都市同士の争いといった、個人の力ではどうにもできない確執が多く描かれるなかで、今回は「Alive」で表現した広い世界の中でのたったひとつの命の絶望だとか、「R.I.P.」での自分の力だけでは抗いないようのない怒り、そういったものがすべて合流して進んで行くような印象があります。
――そのOPテーマとなる新曲「End of the Days」は、「Alive」に続いてrui(fade)さんが作曲、堀江晶太さんが編曲を担当。作詞はハヤシケイ(LIVE LAB.)さん、rui(fade)さん、ReoNaさんという座組みになっています。
ReoNa 『アークナイツ』チームの皆さんが、結構早い段階から、rui(fade)さんの書いた楽曲を気に入ってくださっていて、そのメロディに歌詞をつけていくところから楽曲制作がスタートしました。まずハヤシケイ(LIVE LAB.)さんが土台となる言葉をハメてくださって、私は「こういう言葉で作品に寄り添いたい」ということを文章でお渡ししたり、最初のプロトタイプから完成に至るまでには、かなりたくさんのやり取りをしました。
――ReoNaさんが今回の楽曲に織り込みたかったことというのは?
ReoNa とにかく私は今回、レユニオンの指導者のタルラというキャラクターに目いっぱい寄り添いたい気持ちがすごくありました。私は物語の悪役に感情移入しやすいタイプなのですが、タルラはまさに運命の犠牲者と言えるほど、色んなピースがすべてダメなほうにハマっていったことで、悲しみに飲み込まれてしまった生い立ちのキャラクターなんです。きっと何か1つ環境が違えば、1人でも側に理解者がいれば、ここまで復讐心に捉われることはなかったはずだし、私の中でレユニオンの人たちは、ひと口に悪者とも言い切れない、被害者の1人という感覚があるんです。そんなことを考えながら、このメロディにどんな言葉を当てはめていくのがいいのか。ハヤシケイ(LIVE LAB.)さんと夜通しお話した日もありました。でも、完成した歌詞を見たら、タルラのことだけでなく、『アークナイツ』の世界に生きる名前のないようなキャラクターにも重ねられるものに辿り着けたと思います。
――例えば、歌詞のどんな言葉に『アークナイツ』との寄り添いを感じますか?
ReoNa それこそA・Bメロの問いかけになっている言葉(“心は傷つきましたか?ちゃんと痛いですか?”)や、“踏みつけた 小さい花”のような情景描写は、私の中で『アークナイツ』のイメージと結びつく部分です。この問いかけは、いともたやすく踏みにじられてしまう花の側の言葉なのか、それとも踏んでしまった人の側の後悔なのか。そんなところから歌詞を組み立てていった記憶があります。それと今回、ハヤシケイ(LIVE LAB.)さんが打ち合わせの時にイメージイラストのようなものを見せてくださったんです。それが、退廃的な風景の中で女の子が空に向かって祈っているような絵だったのですが、それがあったので全員イメージの共有は出来ていたように思います。
――タイトルの「End of Days」や“どうか 終わりを”という歌詞が象徴的ですが、この楽曲における祈りというのは“終わり”を求めることですよね。“終わり”がそのまま“救い”や“赦し”に繋がるものとして描かれている。
ReoNa 『アークナイツ』の世界では、“感染者”として虐げられる側と意識せずとも虐げている側との気持ちは、多分どこまでいっても平行線で、その戦いに決着がつくことはないと思うんです。本当に終わりが見えない戦いだからこそ、強く“終わり”を願ってしまうし、仮に自分が死んで終わりを迎えたとしても、残された人たちは自分と同じような苦しみを味わい続けていく。だからこそ、自分の手で何か“終わり”を作らなくてはいけないし、解決しなくてはいけない。そういう背負っているものの大きさを含めて、この“終わり”というのは非常に切実な祈りだと思います。より身近なことで言うと、日常でも辛い時間はどうしても早く終わってほしいと願ってしまいます。
――確かに。ReoNaさんとしては、それがタルラの心境にも寄り添う言葉だと感じる?
ReoNa はい。きっと彼女はすべての戦いが終わった後、自分が一番裁かれるべきだと思ってるんだろうなって。あの世界では“感染者”として人権すら認められていないと、正しく裁いてもらうこともできないので、1人の人間としての尊厳が守られる場所にたどり着きたいという、彼女の切なる願いがあるんだろうなと。そんなことも求めなくてはいけないのか、という意味でも“裁き”という言葉は入れたかったです。
――その一方で、絶望を通して命と向き合ってきたReoNaさんの楽曲としても、しっかりと意味のある楽曲になっているように思います。
ReoNa ありがとうございます。私は日常の絶望に向き合ってきたのですが、そのなかでこの曲の“生まれる場所さえ 散りゆく場所さえ じゃあ 何が選べるのですか?”という歌詞は、『アークナイツ』という作品から離れた部分でもしっくりくるフレーズだと感じていて。生きとし生けるすべての命は、自分が生まれる場所を選ぶことはできない。私も「何でこの家に生まれてきたんだろう?」とか、結構疑問に感じることがあって。生まれる場所やプロフィールを選ぶことができないというのは、『アークナイツ』に限らず、身近に感じる絶望の1つになり得るんじゃないかと思います。
――楽曲のアレンジに目を向けると、クワイアやストリングスとエレクトロニックなサウンドが融合した壮大な楽曲に仕上がっています。
ReoNa 元々rui(fade)さんが、デモの時点からバンドサウンドで音作りをしてくださっていたのですが、そこから堀江さんがかなり一新して、サイバー感や退廃的な音、荘厳な音を加えてくださって、デモとは全然印象の違うものになりました。EDMの要素を取り入れたいというお話はしていたのですが、堀江さんがあまりありがちなものにはしたくないということで、映画『TENET テネット』の劇伴のイメージなども参考にしてくださったみたいで。そういえば、メロディや展開もデモの時より減っていて。
――というのは?
ReoNa デモができた段階で、rui(fade)さんと堀江さんに集まってもらって一緒にプリプロ(プリプロダクション)をしたのですが、そこで話し合いながら手直ししていくうちに、どんどんシンプルになっていったんです。でも、そうすることで逆に楽曲のメッセージ性がどんどん強まっていって。サビも、完成形では同じメロディを2回繰り返していますけど、元々は2回し目の部分に別のメロがついていたのを、“祈り続ける”という意味も込めて、同じメロディの繰り返しに変更したんです。ただ、それだと単調になってしまうので、同じメロだけど1回目と2回目でコードが変わっていて。それでも違和感なく聴けるのがすごいなと思いました。
――ReoNaさんの歌声の強度もすごくて、まさに何かを希求するようなイメージが浮かびました。
ReoNa 祈りはすごく込められていると思います。自分の力ではどうすることもできない時というのは、やっぱり最終的に祈りに辿り着くと思うので。そういえばこの曲は、まだ歌詞がつく前のデモの段階から、何回も歌った覚えがあります。歌詞やアレンジが変わるたびに歌って。歌ってみないとわからない部分、音と合わさった時に初めて歌詞になるみたいな部分がすごくある曲なんです。
――冒頭のクワイアによる英語詞のフレーズ(“To all the lives, a place of peace, a tranquil sleep”)もインパクトがあります。
ReoNa 実は私が「絶対にこの言葉がいい」と思った文章をお渡しして、それを英語で歌ってもらいました。「Alive」も「R.I.P.」も踏まえたうえで作った楽曲なので、最終回で「End of Days」の響きもまた変わってくれたらいいなと思っています。
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