2023年にTVアニメ『カノジョも彼女Season2』主題歌「ドラマチックに恋したい」でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライターの小玉ひかりが、新境地となる新曲「寵愛ちょーだい」をデジタルリリース。「花一匁」をモチーフに、寵愛という言葉が持つ響きに導かれながら生まれた本作。「真面目に生きていても認められない、愛されない」ことへの葛藤や届かない気持ちの渇望。これまでとは違ったまなざしで心の奥底にある感情を描き出した小玉ひかりに、その制作の裏側を教えてもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
PHOTOGRAPHY BY 堀内彩香
──約1年ぶりとなる新曲「寵愛ちょーだい」はどのように向き合って生まれた曲だったのでしょう?
小玉ひかり 昨年の夏に2ndシングル「チャージ!」をリリースして、その後もライブやイベント出演など、様々な経験をさせていただいて。その一方で、毎月のように何曲も書き続けていていたのですが、「これを今出すべきだ」と思えるテーマに出会うまで、慎重に向き合っていた感覚があります。
──なかなか「これだ」というテーマに出会えなかった、ということでしょうか?
小玉 そうですね。実は秋くらいから自分の中で色んなことが重なって、正直、かなりしんどい時期に入ってしまって……。人生の中でも、過去一番くらいに落ちていたんじゃないかと思います。
──無理のない範囲で構わないのですが……その時、どんなことを抱えていたのか、少し教えていただけますか。
小玉 シンガーソングライターとして、これまでも自分のありのままを歌詞にしてきたつもりなので、あまり取りつくろわずにお話ししようと思うのですが、プライベートなことというより、自分の活動について思い悩んでいました。当時はステージに立つことにも自信がなくて。でも、音楽を届けたいからステージに立っているのに、「怖い」と思ってしまう自分にも苛立ってしまって……。来てくれた方に対して、すごく失礼じゃないですか。そういった自分の中にあった色々な葛藤も、この曲には乗っています。
──紆余曲折あった時間を経たからこそ生まれた曲でもあるんですね。
小玉 はい。思い悩みながらも曲を作っていくなかで、タイトルでもある“寵愛”という言葉と、歌詞にも出てきている“花一匁”の言葉が浮かんできて。実は「花一匁」というタイトルで、歌詞を書き起こしていたことがあったんです。そこから、自分の中にある渇望と「寵愛」という言葉を結びつけた時、“ちょーだい”というワードが自然と出てきて。それで、タイトルを「寵愛ちょーだい」にしようと決めたんです。今回は、タイトルが先に決まって、そこから曲全体を構築していきました。
──以前、「歌詞とメロディが同時に降りてくる」とおっしゃっていましたが、それは今回も?
小玉 今回もまさにそういう感じでした。ただ、タイトルに決めた時に「かわいい雰囲気のポップな楽曲にしようかな」という気持ちも少しあったんですが……いざピアノの前で歌ってみたら、言葉の持つ悲哀さに引き込まれてしまって。「これはもっと毒のある、内面に迫るメロディのほうが合うな」と方向転換したんです。“腕を伸ばして、下ろすような動き”をイメージしたメロディと言いますか。そういう動きからメロディが生まれていきました。
──曲調はまさになめらかでメロディアスですよね。すごく聴きやすいしすっと馴染んできます。
小玉 重たいテーマではあるので、バラードにしてしまうと心が苦しくなって、自分が消化しきれなくなりそうだなと。むしろ、自分の中の重たい感情を強さに変えたくて、テンポもあえて前向きなBPMにしました。この曲のテンポって、私が強気な気持ちで大股で歩いている時のリズム感にすごく近くて。「この曲を聴きながら歩いて下さい」という感じなんです(笑)。
──ああ、わかります。無敵感というか。以前お話を伺った際に「街の中で好きな曲を聴きながら歩いている時、主人公っぽいなと思う瞬間がある」というお話をされていましたが、それにも通じるものがあるような。
小玉 まさにそうです(笑)。音楽には、強さを与えてくれる力があると思っているので、ぜひこの曲を聴きながら大股で歩いてほしいなって思います。
──サビの挑発するような雰囲気もいいですよね。
小玉 サビだけは、ちょっと“演じている自分”をイメージしていて。妖艶に舞うような、なんなら少し誘惑するようなイメージを込めて、あのメロディをつけました。内面にある感情は重たいんですけど、表面ではあえて軽やかに装っていて。その一方、ラスサビはかなり強く、感情むき出しで歌っています。
──確かに、その裏にある“本音”が徐々に浮かび上がってくるような構成ですね。“花一匁”の歌詞が組み込まれたラップパートも印象的でした。
小玉 一見、ラップの早口部分は強気に聞こえるかもしれませんが、語尾には切なさを滲ませてます。見せかけの“強さ”と、本当の“弱さ”の間を揺れ動くような表現ができたらいいなと。
──サウンド的にはEDMっぽい要素もあって。ジャンルで言うと……何になるんでしょう?(笑)。
小玉 私自身もわからないんです(笑)。「これはJ-POP?ラップ?EDM?」みたいな感じで。サウンドはEDMっぽくしたいなと思っていたのですが、今までジャンルにとらわれたことがなかったので、そこに対して緊張感はなく「やってみたい!」という感じでした。
──ところで、“寵愛”にしかり、“花一匁”の一節や“ハンカチーフ”など、どこか昔懐かしい雰囲気の言葉が混ぜ込まれているのが印象的でした。昔の物語の中で使われているような、ちょっと情念を含んだ響きがあるなと。
小玉 まさに平安時代や鎌倉時代をイメージしていたところがあって。少し話がズレてしまいますが、全体的にそういった和のイメージがあったんです。MVもそういう雰囲気にしたいなと思いながら楽曲を作っていきました。実は小さい頃から時代劇を観るのが好きだったんです。例えば勢力争いのために兄弟や姉妹のどちらかが親から寵愛されて、溝が深まっていくといったシーンなんかは、まさに今回の楽曲を制作するうえで影響を受けている気がします。
──「寵愛」って愛される側と愛する側の力関係みたいなものも感じさせる言葉ですよね。
小玉 そうなんですよね。まさに花一匁の遊びの記憶がそこに繋がっています。私自身、花一匁を実際にやった記憶はそこまで多くはないんです。でもすごく印象に残ってて、子供心に「すごく怖い」と思ったんですよね。現実では言葉にしないようなことを、子どもたちが当たり前のように口にするじゃないですか。「あの子が欲しい」「この子が欲しい」って。そもそも集団での遊びに対して、私自身敏感だったところがあって。そういう場にいると、なんとなく不安になってしまうというか、自分が“選ばれない側”になるんじゃないかという恐怖を感じていました。
──疎外される怖さが、リアルな経験として心に残っていたのですね。
小玉 人生の中で自分が選ばれなかったと感じる瞬間とリンクするなと思って。私はどちらかというと、選ぶ側の立場に立っていたことはなくて。「認められたい」という渇望に対して努力してきた人間なんです。だから、それに対して反応してもらえなかった時の悲観のようなものがあって。アーティストとしての活動の中でもそういうことを感じる瞬間はありました。(選ばれる)人のことを羨ましい、妬ましいって感じてしまうこともあるけれど、でもそういう人にも悩みはあるわけで……ってキリがないですけど、そんなことを考えてしまう自分自身を嫌いになりそうだったんですよね。周りに話を聞くと、誰もが悩むことなのかもしれないなと思うようになって。だから今回の楽曲では、「こういう感情を持っていても大丈夫だよ」と伝えられたらと考えていました。
──そういう“理想と本音のズレ”のようなモヤモヤって、大なり小なりありますよね。さらに自分は羨ましいと思う一方で、自分が“羨ましがられる側”にいることもあると思います。そう考えると、本当にループし続けるテーマなのかもしれません。
小玉 そうなんですよね。本当にキリがなくて。頭ではわかっているんですけどね(苦笑)。そんな“わかっているのに”というもどかしさも、今回の歌詞の中ではちゃんと書きました。特に2番の歌詞には複雑な感情が詰まっています。
──“馬鹿なふりしよう”という言葉もリアルでした。鈍感なほうが上手くいくことって、変な話あるような気がしていて……。
小玉 そこは実は悩んだところではあったんです。何様だよ、って思われるかもしれないんですが、完璧でいたいって思っていると、人を寄せ付けにくくなるような気がしていて。実際、私自身が「扱いづらい」言われたことがあって(苦笑)。すごくショックだったんです。努力して、認められたくて頑張ってきたのに、どうして扱いづらいって思われるんだろうって。でも、“扱いやすい人”になりたいかって言われたら、それも違う。そういう人が可愛がられるのも分かってるんだけど、自分を偽ってまでそうなりたくない……なんて思ったりして、もうジレンマだらけです(笑)。本当にキリがないテーマではあるんですけど……でも感情をほどいていくと、最終的には「愛されたい」という、すごくシンプルな想いが残っていて。この曲は、そんなシンプルな気持ちを書いたものでもあります。ある意味、すごく人間らしい曲ができたなと思っています。
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