ついに鬼殺隊と鬼舞辻󠄀無惨率いる鬼たちとの決戦の幕が切られた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。そのW主題歌をLiSAと共に担当しているのが、同アニメシリーズの主題歌を歌うのはテレビアニメ『「鬼滅の刃」遊郭編』以来、2度目となるAimerだ。梶浦由記と共に本編の劇伴を手がける作曲家・椎名 豪が作編曲、本作の総監督を務める近藤 光が作詞した主題歌「太陽が昇らない世界」は、間違いなくAimerにとっても、アニメ音楽全体にとっても、新しい扉を開く挑戦的な作品となっている。緻密にして激情的、禍々しさとそれに立ち向かう勇敢さを併せ持つ、『鬼滅の刃』のために生まれた本楽曲と、Aimerはどのように向き合い歌ったのか。その全貌にインタビューで迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――『鬼滅の刃』シリーズの主題歌を担当するのは、テレビアニメ『「鬼滅の刃」遊郭編』に続き、2度目となります。お話をいただいた時はどんな感想を抱きましたか?
Aimer 他作品でも同じアニメシリーズの主題歌を何度も担当させていただくことは珍しくて、それこそ(『鬼滅の刃』シリーズを制作している)ufotableさんの劇場版『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』三部作くらいしか自分のキャリアの中でも経験がなかったんです。なので、また『鬼滅の刃』の主題歌を担当できるとは、正直、全然考えていなかったので、すごく驚きましたし、同時にすごく光栄に思いました。
――ご自身の中で『鬼滅の刃』と再びご一緒したい気持ちはありましたか?
Aimer 私が『遊郭編』で担当させていただいた「残響散歌」と「朝が来る」は、作品の力をお借りして、想像していた以上に広いところまで届いてくれた実感があったので、自分としてはそれでちゃんと役目を果たせたなと思っていたところがあって。すごく実りのある経験でしたし、その後、シリーズの主題歌は色んな方にどんどんバトンタッチされていったので、私はいち視聴者としてアニメを楽しんではいました。だから余計にもう一度というのは本当に想像していなかったです。
――「残響散歌」と「朝が来る」がご自身の活動にもたらした影響や刺激について、もう少し詳しくお話を聞いてもいいですか?
Aimer 特に「残響散歌」は本当に遠い場所まで響いてくれた実感があります。当時、自分はちょうどデビュー10周年のタイミングだったのですが、「残響散歌」の派手さや煌びやかな曲調も相まって、5周年の時以上に色んなメディアに出させていただく機会をいただけましたし、自分自身の気持ちもそこに向かっていけたところがあって。色んなステージでこの歌をうたわせていただいた経験が、これから先、また何年も何十年も歌い続けていくうえで、より大きなスケールで自分の未来を描いた時に大切なものになっていくことを感じています。
――今回の主題歌「太陽が昇らない世界」は、本作の総監督を務める近藤 光さんが作詞、劇伴を手がけている椎名 豪さんが作編曲を担当しています。
Aimer お話をいただいた段階から、この布陣で楽曲の制作が進められていることを聞いていたので、私は今回、純粋にシンガーとしてそこに関わるんだと最初から意識していました。近藤さんは、それこそ『Fate/stay night[Heaven’s Feel]』や、その前の『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』の頃からご一緒していましたけど、椎名さんとご一緒するのは初めてだったので、どんな楽曲になるのかも含めて、ドキドキしながら楽曲が届くのを待っていました。
――実際に受け取った時の印象はいかがでした?
Aimer 衝撃が走りました。この楽曲は完全に作品の一部としてリンクしながら楽曲が進んでいく形なので、椎名さんは本当に作るのが大変だったろうなと思って。だから、いわゆるポップスの範疇に収まらないような楽曲になるのは必然だったと思うのですが、自分が想像していた以上に多様な音楽性を含んだ楽曲になっていたので、ひと言で言うならすごく衝撃でした。
――それは、これまでのアニメシリーズの劇伴を制作してきた椎名さんだからこそやり遂げることのできたアプローチでしょうね。
Aimer 本当にそう思います。今回の「太陽が昇らない世界」は、私も今までにない歌い方をした方が、きっとこの曲には合うだろうなと感じていました。近藤さんいわく、この楽曲が今回の劇場版の最後のピースになるということで、レコーディング当日に近藤さんからご提案いただいて、アニメの映像を観ながら歌うことができて。楽曲と歌詞と映像のマッチングがすごくわかりやすくて、歌詞の内容も本編とシンクロしていることが実感できました。
――そのシンクロについて、具体例を教えていただいてもいいですか?
Aimer 無限城での躍動感や「どうなってしまうんだろう?」というハラハラする感じを、歌詞がより際立たせている印象があって。特に“荒々しい潮騒が 頬をすり抜けていく”のところは重力を感じますし、“飛べ”や“闇を裂き”のところもリンクしてます。近藤さんも「重力や風を感じさせる言葉を入れたかった」とおっしゃっていました。
――楽曲の構造としても、1曲を通して様々に展開していく作りになっています。先ほど「今までにない歌い方をした方がこの曲に合う」という発言もありましたが、どんなことを意識して歌いましたか?
Aimer この楽曲はボーカリストの表現に委ねられている部分が大きくて、私がどう歌うかによって楽曲のイメージが大きく変わる印象があったので、レコーディングブースに入るまでは、どういう熱量で歌うか迷いが結構ありました。でも、途中から近藤さんの提案でアニメの映像を観ながら歌えたことで、どのくらいの温度感と熱量で歌えばいいのかが、自分の中で明確になったんですよね。例えるなら、ライブで歌う時と似ている感じでした。普段のレコーディングでは、割と頭で考えて歌を組み立てることが多いんですけど、そうではなく、オーディエンスがいて、バンドメンバーがいて、その日その時だけの熱量によって、楽曲が生き物のように変わっていく感覚。そういうライブ感を思い出すレコーディングでした。
――アニメの絵があったからこそ、ある種の臨場感を持って歌うことができた、と。
Aimer そうです。アニメーションで描かれるみんなの表情もそうですし、そういったものに少なからず刺激を受けながら、それに沿って歌うことができました。私もアニメの絵を観ながらレコーディングするのは初めての経験だったんですよ。だから、すごく刺激的だったし、楽しかったです。
――そういった機会はなかなかないでしょうしね。
Aimer ないですし、これからもないんじゃないかと思います。今回、事前に気持ちを一致させられたのはすごく嬉しかったです。
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