楽曲ごとに様々な物語をテーマにした“おとぎ話”のような世界を表現する、岩田陽葵と小泉萌香による声優ユニット、harmoe。2ndミニアルバムとなる新作『i k i』は、「竹取物語」「源氏物語」「浦島太郎」「東海道中膝栗毛」「羅生門」「銀河鉄道の夜」という日本の物語をモチーフにした個性豊かな6曲が並ぶ、コンセプチュアルな作品になっている。音楽と物語と一緒に歩み、旅の道中にある彼女たちから届けられた“粋”な新作に、2人へのインタビューを通して迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――2ndミニアルバムのタイトルは『i k i』ということで……これは、イントネーションは“息”でしょうか。もしくは“粋”のほう?
岩田陽葵・小泉萌香 “粋”です!
――なるほど。『i k i』は資料によると“【日本】と【時間】”をテーマにした作品とのことですね。
岩田 今回は各楽曲のテーマになっている物語をすべて“和”に絞っていて、楽曲も時系列順に並んでいて、全体を通して時空を旅している作品になっています。いつか“和”をテーマにした作品を作りたい、という話をチームでもしていたので、それが叶って嬉しいです!
小泉 プロデューサーが結構前から、どうしたら“和”をテーマにした作品を作れるか悩んでいたんですよ。日本には物語はたくさんありますが、和を想像させるような楽器や曲調は限られているので。でも、私たちも「やりたいやりたい!」とずっと言っていて(笑)。実際に完成したら、6曲とも日本的な特徴を捉えつつ、振り幅もすごく広い作品になったので、さすがプロデューサー!と思いました。
岩田 色んな曲が集まっているけど、よく聴くとどの楽曲にも馴染み深い和の要素が入っていて。壮大でドラマチックな曲もあれば、もっと日常っぽい曲もあって、色んなタイミングで楽しめる作品だと思います。
小泉 確かに。夜更けに聴きたい曲とか、朝のテンションを上げたい時に聴きたい曲とか、1日中聴けるかも。どのタイミングで聴いていいのかわからない曲もあるけどね(笑)。
岩田 徹夜したい夜中3時に合いそうな曲もあるよね。聴くと目が覚めるかもしれない(笑)。
――ちなみにお二人が“粋”に感じるものはありますか?
岩田 それこそharmoeそのものが粋だと思うんです。作品やライブを作る時のみんなの熱量だったり、作品にかける思いが粋だなって。ジャケットの撮影なんかをしている最中にも「ああ、こういうことか、粋じゃん!」と思う瞬間がありますし、デザインもよく見たら私たちも知らない仕掛けがあったりするんですよね。
小泉 私はやっぱり日本が粋だと思いますね。昔の人の工夫ってすごく粋なものが多いじゃないですか。今でこそ“レトロ”って言いますけど、例えば、水に濡れたら模様が浮き出てくる傘とか、日差しの角度によって影が浮かび上がる細工とか。
――ということは、harmoeと日本、お二人の思う粋なものが合わさった作品が今回の『i k i』ということですね。実際、今作はジャケットなどのビジュアル周りも、和の要素を取り入れた粋なものになっています。
岩田 今回の私たちは“月から来た人”という設定なんです。撮影の時もポージングがしっかりと指定されていて、振付師さんが来てくださって、その場で一緒に考えてくださったんですよ。それは今までにない試みで、新しくてかっこいい感じになりました。
小泉 私たちが着ているお揃いの衣装は実際の着物をアレンジして作ってもらったもので、振袖が付いていたり和の部分を取り入れつつ、でも足元はブーツで合わせたりしていて、ちょっと地球人っぽくない感じもあるんですよね。しかも本物の銭湯で撮影しました。
岩田 あの赤い富士山の絵、すごかったよね!
――その銭湯のカットは通常盤のジャケットになっていますが、赤いロングブーツを履いて見返り美人図のように立っているお二人のポージングは、すごく絵になっていました。
岩田 ありがとうございます。あのポーズも振付師さんに指定してもらったんですが、結構大変でした。
小泉 だいぶ(腰を)ひねったよね。ストレッチみたいな感じ(笑)。
――ここからは収録曲のお話を。リード曲の「旅しよ!don’t you?」は、TVアニメ『ざつ旅-That’s Journey-』のOPテーマでしたが、作品のどんな部分に寄り添った楽曲になりましたか?
岩田 アニメは、主人公の女の子(鈴ヶ森ちか)が「よし、旅しよう」と思い立って、すごくラフな感じでフラッと旅を始めるのが素敵だなと思うんですけど、この曲も歌詞に“のらりくらり”や“気ままに思うがまま Let’s go”みたいなフレーズがあって。アニメのオープニングを担当するのは初めてだったんですけど、これから始まるワクワク感もありますし、レコーディングも楽しさが伝わるように、ずっと明るく、満面の笑みで歌っていました。
小泉 私も歌っている時は絶対に満面の笑みでした(笑)。仕事とかでバタバタした日々を送っていると、旅行をしたいなと思っても、準備のこととかを考えると、なかなか踏ん切りがつかないと思うんです。でも、この曲は「それはもうその時に考えればいいんじゃない?」っていうことを歌っていて。まさに、雑に旅ができるような楽曲になっていると思います。
岩田 でも、Dメロにはちょっと切ない部分もあって、そこもまた旅のエモさだと思うんですよね。アニメの第1話は一緒に観たんですけど、この曲のイントロが流れた時に2人で「うわー!知ってるこの曲!」ってなって(笑)。そういう思い出も含めてお気に入りの曲です。
――MVはお二人が鎌倉近辺を散策する映像がメインになっていて、まさに“ざつ旅”感が出ていました。
岩田 もう本当にリアル旅行みたいな感じで、2人でフラフラと観光しているところを色んな角度から撮ってもらったんですけど、完成した映像を観たら、自分たちでも「こんなのいつ撮ってたんだろう?」みたいなカットがあったりして。
小泉 そうそう。その意味では今までで一番自然体な、素のharmoeが映っているMVだと思います。私たちは普通に楽しい旅をしているだけっていう。こういうのもアレですけど、もしかしたら今までで一番お気に入りのMVかもしれない。旅の思い出を撮影してくれて、しかも楽曲に合わせてMVまで作ってくださって、本当にありがとうございます!みたいな(笑)。
――ある意味、Vlogみたいな感じと言いますか。個人的にはお二人がシルエットで手を取り合う夕景のカットが印象的でした。すごく美しい映像になっていて。
岩田 あれ、いいですよね。夕日が沈む前に撮らなくてはいけないから、時間との戦いでした(笑)。
小泉 あの日はびっくりするくらい天気が良かったよね。harmoeの撮影は悪天候なことが多くて(笑)。
――ちなみに、もし撮影や仕事と関係なく2人で旅行に行くとしたらどこに行きたいですか?
小泉 はるちゃんにとってはあまり旅じゃなくなるかもしれないけど、はるちゃんのおばあちゃんのお家に行きたい。
岩田 あー、そうだ!これはずっと言っていて。うちのおばあちゃんは長野に住んでるんですけど、遊びに行くといつも、もえぴ(小泉)の話をするんですよ。例えば、私が個人で出演した舞台のパンフレットを見せたりすると、必ず「もえちゃんはどこにいるの?」って聞いてきて。多分、私たちはセットだと思っているんです。
小泉 愛おしい!だからいつか会いに行って、「これが本物のもえちゃんだよ」ってやりたいんです。
岩田 すごくいい場所で。街灯がなくて、星もきれいなので、流れ星がたくさん見られるし、畑もあるので、いつでも野菜をとって食べられる。絵に描いたような田舎なんです。いつかもえぴを連れて行きたい!
――その他にも5曲の新曲が収録されているわけですが、その中から、お二人の今の気分で選ぶお薦め曲を教えてください。
小泉 私、はるちゃんのわかるよ。
岩田 じゃあ当てっこしようよ。でも、外れるかも。今、2択で思い浮かんでるから。
小泉 えっ?ちょっと待って、もう1回考える……じゃあ、はるさんが選んだのは「Nephelis」ですか?
岩田 外れー!今の気分は「唯-tada-」でした。この曲、イントロの「シュワーン♪チャララララ♪」っていう始まりから、1曲目に相応しい感じがして好きなんですよね。「竹取物語」をテーマにした曲なんですけど、歌詞も切ないし、耳を澄ませて聴いていると、和楽器の音も含めてすごく美しいので、皆さんにもじっくり聴いてほしいです。
――お二人の歌声にも儚さがあって、雅やかで情緒豊かな楽曲だと思います。続いては、岩田さんに小泉さんのお薦め曲を当ててもらいましょうか。
小泉 私も2択なんだよね。
岩田 わかるかも。「アルビレオの硝燈」でしょ?
小泉 あー、そっちは2択で迷ったほう。正解は「縁のまにまに」でした。
岩田 お互い2択までは合ってるんだよね。で、その心は?
小泉 「縁のまにまに」はすごく爽やかなところが好きなんだよね。以前に「一寸先は光」という曲でご一緒したyuigotさんが作ってくださった曲なんですけど、そのyuigotさん感もすごく好きだし、何より「浦島太郎」をテーマに、浦島太郎と亀の関係性をharmoeの2人や、harmoeと応援してくれるファンの方たちと重ねているところがエモくて。何年経っても一緒にいられることを願うような歌詞、“二人を結ぶ 縁は永遠に”というところが大好きです。
――この曲は南国っぽいリズムで、沖縄の三線っぽい音が入っているところが、ライブでも楽しく盛り上がれそうでいいですよね。それでは次の質問、今作で一番チャレンジした曲を選ぶとすれば?
岩田 うーん、全部かなあ。全曲、まったく違うジャンルなので、それぞれで挑戦したところがあって。でも「サンチマンタリスム」はここで挙げておきたいかも。「羅生門」をテーマにした曲なんですけど、楽曲の解釈が結構難しくて。私たちはだいたい2人で一緒にスタジオに入って録るんですけど、この曲はスケジュールの都合で一緒に録ることができなくて、1人ずつ別日に録ったんです。で、私が一番手だったんですけど、「この歌詞は誰目線なんだろう?」ということを話し合いましたし、自分が練習していた時の解釈とは違う部分も結構あって。
――それは例えば?
岩田 私は「羅生門」の主人公のに下人なりきろうと考えていたら、「ここは神の視点で」という部分もあって。なので達観して歌う部分もあるし、2人で同じ人を演じる瞬間もあれば、ちょっと違った役割のところもあって。そのすり合わせが難しかったです。でも、出来上がった曲を聴いたら「なんじゃこれは?」というくらいのすごい曲になっていました(笑)。
――“悪かろか 悪かろか なあ? 悪かろか?”と繰り返すところは、他とは歌い方が全然変わりますけど、あれも視点が変わっているということですか?
小泉 そうです。表現がすごく難しかった。
岩田 別録りになった時は、いつも先に歌った方が歌詞にメモ書きを残して「ここはこういうイメージで歌ったよ」というのを共有するんです。でも、この曲に関しては全然わからなくて、「私はこう歌ったんだけど、もえぴは違うかも?」みたいなことしか書けなくて(笑)。
小泉 なので何の参考にもならなかったです(笑)。もちろんはるちゃんの歌を聴いて参考になった部分もありましたけど、私は私で表現する感じでした。
岩田 もえぴの方が下人視点が多かった気がする。私は神視点のところが多くて。
小泉 一緒に録れる場合は、お互いがその時に何を感じて歌っているのかを直接見ることができるので、「はるちゃんはこう歌っているから、私はこう歌おう」というのを判断することができるんですけど、この曲は別々で録ったことでさらに難易度が高くなってしまって。でも、頑張った甲斐あって、本当にすごい曲になりました。
岩田 ライブでどうやって歌うんだろう?想像もつかない。
小泉 この曲は爆音で聴かせて、みんなを震え上がらせたいですね(笑)。
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