REVIEW&COLUMN
2025.06.12
声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。
「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。
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皆さんは朝と夜、どちらが好きだろうか。私は幼い頃からいわゆる夜型で毎日遅くまで起きてずーっとテレビを観ていた。夢見る少女だった私は特にドラマが大好きだったので、小中学生の頃は親が寝静まった後に1人でリビングに行き、お気に入りのドラマを流しながらヒロインごっこをしていた。思えばこの頃から演技に興味があったのかもしれない。高校、大学時も夜型が変わることはなく、その頃から携帯電話を持ち始め深夜まで好きな音楽を聴いたり、動画を観たりの日々。1人夜ふかしの時間が至福だったし、テスト前にはオールで勉強することも課題を作ることも余裕だった。そして何より、静かな夜に1人で好きなことに没頭する時間ってなんかかっこいい！と思っていた。だからそんな時間が少しでも長く続くように、夜はできるだけ起きていたかった。
夜型になった原因として朝が苦手だったこともある。どうしても布団から出られず、何度お母さんに起こしてもらったことか。本当に起きたくない時は「頭いたーい」なんて言って学校をずる休みしたこともしばしば。学校帰りにプリントと連絡帳を持って来てくれる友達に、心の中で「ごめんよ」と呟いていた。懐かしいな。今も連絡帳や休んだ子の家に届けに行くシステムはあるのだろうか。
「私は夜が大好きで、朝にめっぽう弱い。」自分の取り扱い説明書に昔から書いてあった言葉だが……最近の私は、夜が苦手だ。28歳にして、急に夜が怖くなった。私は1年前から、朝に活動をすることが仕事や生活の質を上げるというのを雑誌で見て「時代は朝活だ！」と思い、今まで起きていた時間の2時間前に目覚ましをセットし、起きたらすぐ今日やらなきゃいけないことをチェックし、朝ご飯におにぎりを作って食べ、時間があれば仕事もできるだけ進める。そんな、学生時代の私が聞いたらひっくり返りそうな朝を過ごしている。最初は眠かったし絶対に続かないと思っていたけれど、意外にも慣れるとそれが当たり前になって、今では習慣になりつつある。朝が早くなると、自ずと日付が変わる前には眠くなる。こんなに早く寝れるようになるなんて良いことだ、体にも優しい、と朝型生活を始めた頃は嬉しくてすぐ布団に入っていた。ところが最近、「ん？この時間、もったいなくない？」と感じるようになった。長年夜型として生きてきた私は、たくさん楽しみがあるはずのこの時間を、何もせず睡眠に当てていることに違和感を覚えるようになっていた。とはいえ、朝早く起きて色々済ませているので、夜にやるべきことは少ない。趣味の時間にあてたいのだが……眠い。読書も映画も100％頭に入らずに寝てしまう。今まで集中するといえば夜だったのに……夜のほうが何もできないなんて。じゃあ朝に趣味もやったらいいんだと考えたが、朝はその日の仕事の緊張やら最終チェックやらで、気持ち的にも時間的にもそこまでは余裕がない。読書は移動時間でもまあ読むのでいいとして、映画やドラマは帰ってから観たい。でも夜は眠い。あー、時間を作るために朝活をし始めて、夜をスーパー自分タイムにしたかったのに。何もできていない。「何もせずにたくさん寝られてるのが幸せなんじゃん」と思えるような人間だったら……。何かしなきゃ何かしなきゃと焦っている自分も、余裕がない大人って感じでなんだかな。
夜って本当にしんとしてるんだなと最近知った。テレビをつけるのが当たり前で、動画で音楽を聴くのも当たり前で、意識的に無音にしたことがなかったんだと思う。無音の夜って寂しい。そして何かをやる気にもならない。人間ってやっぱり朝活動して、夜寝るようにできてるんだなと実感する。この状況を脱するために、夜、家に帰ってからパウンドケーキを焼いたことがある。作っている時はいつもと違うことをしてる状況にワクワクするのだが、焼き上がったのは24時。出来立てを食べたかったが、あまりにも夜すぎて罪悪感に負け食べるのを諦めた。ここで「今日はいいや」と思いっきり食べることができたら満足度はまた違ったのかもしれない。夜との付き合い方は難しい。逆に言えば、朝との付き合い方が上手くなったとも言える。1つ得意になったと思ったら1つダメになる。間をとって生活できる人って存在するのだろうか。こんな答えの出ないことをぐるぐる考えてしまう夜はやっぱり苦手だ。でもきっとこの思考も無駄ではないと信じる。こんなに考えても、明日の朝になればスッキリした顔でカーテンを開けるのだろう。なんならもう忘れているのかも。しんとした夜に乾杯できるようになる日を夢見て、今日もおとなしく寝てしまおう。
▼朝の楽しみはガジュマルにお水をあげること。
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