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INTERVIEW

2025.06.04

「自分の思うがままに届けたい言葉を放ち、届けたい表現で歌を届けることができている」――ニューシングル「MOONWORK」からみえた、ASCAの強く真っ直ぐな想い。

「自分の思うがままに届けたい言葉を放ち、届けたい表現で歌を届けることができている」――ニューシングル「MOONWORK」からみえた、ASCAの強く真っ直ぐな想い。

ASCAのニューシングル「MOONWORK」は、現在放送中のTVアニメ『ばいばい、アース』第2クールのEDテーマ。主人公のベルに強い共感を覚えたASCA自身が歌詞を書き、深い愛ゆえの悲しみを感情豊かなボーカルで表現した、ドラマチックなミディアムナンバーに仕上がっている。様々な波を乗り越えて、今、大きな変化の時を迎えている彼女が感じていること、見つめているもの、改めて取り戻した歌への想い。カップリングを含めた3曲の制作エピソードを通して、ASCAの今に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

自分らしくあるために、自己と歌を見つめ直したASCAの変革

――いきなり確認で恐縮ですが、今回の新曲タイトルの読み方は「MOONWORK(モーナーク)」でいいのでしょうか?『ばいばい、アース』に登場する用語から取ったと思うのですが。

ASCA いえ、「MOONWORK(ムーンワーク)」と読んでください!アニメをご覧になっている方は「モーナーク」と思われるかもしれないですけど、より普遍的な伝え方を考えて読み方は「ムーンワーク」にさせていただきました。

――なるほど。「MOONWORK」は、現在放送中のアニメ『ばいばい、アース』第2期のEDテーマで、ASCAさんは第1期のOPテーマ「FACELESS」も担当していました。改めて作品とどのように向き合って楽曲を制作したのか、お聞かせください。

ASCA この第2シーズンのお話をいただいたのも、第1シーズン同様にかなり前のことでしたので第1シーズンも同時の感覚でいました。『ばいばい、アース』に関しては、まず原作を読ませていただいた時に、主人公のベルにすごく共感したんですよ。彼女は自分が何者なのかをずっと探しているキャラクターなんですけど、私もちょうどその頃、自分のことを考える機会が多くて。

――というのは?

ASCA ありがたいことに、ここ数年は海外でライブをする機会が増えて、「これは何を意味しているんだろう?」と、自分の人生について問いかけるような時間があったんです。その頃の私は、歌に対する悩みをずっと抱えていて、お客さんは喜んでくれているけど、それとは裏腹に自分としては思い通りに歌えていない悔しさがあった。そんななかで制作を進めていたのが『ばいばい、アース』の2曲で、「FACELESS」は自分が何者なのかを探しているベルに私自身を重ねて歌詞を書きました。そして「MOONWORK」は、第2シーズンの台本を読ませていただいたうえで強く共感した部分、つまりベルが自分の人生を生きるために、自分自身のために“恋”や“愛”を手放す選択をする、という部分を足掛かりに制作しました。

――愛を手放す選択、ですか。

ASCA はい。そこにとても共感してしまって。これまでの私の人生を振り返っても、自分から何かを手放すことが多かったんです。例えば、楽しくて居心地のいい場所にいたとしても、私は「このままここにいたら自分は成長できない気がする」という気持ちから、別れを選ぶことが多かった。でも、内心はすごく寂しいんですよ。その決断ができた自分への誇らしい気持ちと、同時に温かい思い出がたくさんあるからこその寂しさ、その両方を抱えながら進んできた。なのでベルの生き様に触れた時に「いや、これはもう私じゃん!」と思ったんです(笑)。すごく良いテーマをいただけたと思いましたし、そのことについて書いたのが「MOONWORK」になります。

――『ばいばい、アース』の物語になぞらえるなら、ベルとアドニスの関係性をモチーフにされたと思うのですが、ASCAさん自身の経験がどのように「MOONWORK」という楽曲に繋がったのか、もう少し詳しくお話を聞いていいですか?

ASCA 別れた直後はすごく未練があるのですが、そういう時に私自身を助けてくれたのが音楽でした。とにかく音楽を聴いて、「この選択は間違ってなかったんだ」と思い込みたいがために、ずっと失恋ソングを聴いていた時期もあって。その中でも、悲しい内容だけど最後には少しだけ希望を感じるような、思いきり背中を押すわけではないけれど「前を向けたらいいね」くらいのニュアンスで終わる曲に、私はすごく助けられてきたんですね。

――なるほど。

ASCA なので「MOONWORK」のラストの歌詞も、まさにそういう形にしています。「前を向こうね」と語り掛けるのではなく、“前を向けるように”という願いを込めて。そして「絶対にそう思える日が来るからね」と、これまでの経験を経た自分からのメッセージも込めています。きっと私と同じような境遇や経験をしている人がいると思うので、そういう人にピンポイントで刺さってくれたら嬉しいな、と思いながら歌詞を書きました。

――作品の世界観に寄り添いつつ、現実的な描写も入っているのは、ご自身の経験がかなり反映されているからなんですね。

ASCA そこは意識しました。Dメロの日常を想起させるような歌詞は、聴いてくださる方が想像や共感をしやすいように、あえてそういう言葉選びをしていて。とはいえ、具体的な描写が多いと作品の神秘的な世界観を損なってしまうので、「そのままの私」を出すのはDメロの部分だけに留めていて。ここは過去の記憶を手繰り寄せながら書きました。

――それこそ2024年のシングル「紫苑の花束を」や、そのカップリング曲「Gift of Life」も“別れ”をテーマに制作したと、当時のインタビューでお話ししていましたよね。

ASCA そうですね。制作の時系列的には「MOONWORK」のほうが「紫苑の花束を」よりも早かったのですが、どの楽曲にも私がここに至るまでの人生での気づきが反映されているので、すべてが繋がっていると思います。自分の中での“別れ”の捉え方も少しずつ変化していて、「Gift of Life」では「別れがこんなに悲しくなるくらい大事な人に出会えたことに価値がある」という想いを込めていたんですね。要するに“別れ”をネガティブなものとして捉えない歌だったんですけど、それはある意味、別れ自体を受け入れて“諦めている”ことにもなる。でも、その後にレコーディングした今回のシングルのカップリング曲「Never Let It Go」では、逆に「決して手放さない」という想いを歌っているんです。

――“別れ”を受け入れるのではなく、その“別れ”自体が起こらないように自ら働きかける意志が生まれた、と。

ASCA 以前の私は、相手に対して「いなくならないで」と伝えたり、自分の居場所を守るために行動するのが怖い人間だったんです。それは多分、私の自己肯定感の低さからきていたと思うのですが、自分に対して「ここじゃない場所に行ったほうが幸せになれるよね」と言い聞かせることで、自分が傷つかないように守る生き方をしていたんですよね。でも、最近は「大事な人は絶対に守る」とか「この環境を壊したくない」ということを、ちゃんと自分から発信したり、行動できるようになった。

――自分の気持ちに正直に動けるようになった。

ASCA はい。私は性格的に、駄々をこねたり我がままを言うことが本当に苦手で、周りの人の気持ちを優先して動くタイプの人間だったんですよ。みんながいいなら私はそれでいいや、っていう。平和主義なんです。でも、それだと自分の人生を生きていることにはならないことに気付いて。嫌なものは嫌だし、好きなものは好きと言える強さが出てきた。「Never Let It Go」はそんなタイミングでレコーディングした楽曲だったので、自分でもすごいなと思いました。

――そのように考え方が変わったのは、何がきっかけだったのでしょうか?

ASCA 多分、(2023年2月に)声帯ポリープの手術をしてから、自分自身と向き合う時間が増えたことが大きいんだと思います。さっきもお話ししたように、自分の思うような歌がうたえなくて悔しい思いをすることが増えたなかで、その原因を紐解くフェーズに入ったんですよ。そこで自分自身の気持ちを隠し過ぎていたこと、周りの目や評価ばかり気にして生きてしまっていたことに気づいた。多分、そこを改善しないと、人生も歌も良くならない。全部が繋がっていると思ったんですよね。

――その気付きを経て、歌に向き合うスタンスはどのように変わりましたか?

ASCA これまでたくさんのアニメソングを歌わせていただくなかで、「アニソンを歌うASCAはこうあるべき」というもの、パワフルで何にも負けないイメージ像を、自分の中で作り過ぎていたところがあったんですね。毎回、その“型(かた)”に自分をハメていく作業をしていたけど、自分を無理やり変形させてきた結果、歌にも無理が生じてきた……。そこで自分は完璧を求めすぎていたことに気付いて、そういう“型”は取り払って「思うままに歌ってみよう」という気持ちで臨んだのが、今年の“リスアニ!LIVE”でした。

――そうだったんですね。“リスアニ!LIVE 2025”3日目でのASCAさんのステージは、自分も現地で観ていましたが、今までにないものを感じて、本当に素晴らしかったです。実際、衣装もジャケットにジーパンというシンプルなスタイルで、そこにも「今までの型にはハマらない」という意識が表れていたように思います。

ASCA まさにそこからでした。髪型にしても、以前は「本番15分前に必ず前髪を切る」というルーティンがあったんですよ。ピタッと揃ったパッツンじゃないとステージに出られない、みたいな。でも、それも自分で自分を型にハメていたんですよね。「完璧にしなくては」という意識が強すぎた。でも、今は自分の気持ちに素直になれてきたし、自分の思うがままに届けたい言葉を放ち、届けたい表現で歌を届けることができている。無理がなくなってきました。今は1月の“リスアニ!LIVE”の時と比べても、自分がどんどん進化している感覚があります。

「MOONWORK」のレコーディングとMV撮影から得た新しい気付き

――「MOONWORK」の話に戻りますが、感情豊かでありながらも、ただ力押しするのではなく、繊細なタッチのボーカル表現が素晴らしいですね。

ASCA ありがとうございます。この表現を探るのには、とにかく時間がかかりました。何時間レコーディングしたんだろう……確かお昼くらいから深夜0時を回るくらいまでかかって、近年まれに見る長時間のレコーディングでした。でも、レコーディングから1年以上経った今聴いても、自分で「いい表現ができたな」と思えているので、あの時にちゃんと突き詰めておいて良かったなと思います。

――具体的にどういった部分で試行錯誤されたのでしょうか。

ASCA とてもドラマチックな曲なので、毎回、少しずつ声色を変えてみたり、キャラクターを変えてみたり、色んな状況を頭に浮かべながら録っていったので、そこのチューニングにすごく時間をかけました。例えば、ラスサビ前の“忘れない 忘れない この声 届かなくても それでも それでも ずっと歌うよ”の部分。ここは最初、すごく感情を入れて歌っていたのですが、それだと逆に届かないことを、このレコーディングで学んだんです。

――というのは?

ASCA この部分は、淡々と歌えば歌うほど歌詞の言葉が真っ直ぐに届いてくる、という気付きがあったんですよね。なので、感情はいったん置くことを意識して歌いました。ラストの“あなたの腕の中に未だ”から始まるブロックも同じ意識て歌った結果、ラスサビの感情的な表現がより映えるものになったと思います。ディレクションは(作曲・編曲を手がけた)Sakuさんがしてくださったんですけど、デビュー曲の「KOE」から私のことを見てくれていて、「ASCAはこういう声の出し方をしたらいい響きになる」という設計図を持っていらっしゃる方なので、色んな意見をいただきながら録っていきました。

――MVのお話もぜひお聞かせください。雨に打たれながら歌うASCAさんの姿が印象的で、まるで映画のワンシーンのような映像に仕上がっていますね。

ASCA ありがとうございます!こちらからは「1枚絵ですごくインパクトのあるもの」というオーダーをさせていただいたのですが、監督が楽曲を聴き込んだうえで内容を汲み取ってくださって。雨の中にいる私と車の中で歌っている私、モノクロから始まって最後は色が付く対比も含めて、とてもリッチな映像になりました。個人的にもすごく気に入っています。

――撮影はいかがでしたか?

ASCA この楽曲の主人公になり切ろうと思って、ものすごく集中しました。特に雨に打たれるシーンは、一度濡れたら髪を乾かすのに時間がかかるので、何度も撮ることはできない。あの雨は技術の方たちが人工的に降らせているものなんですけど、私を含めその場にいる全員の仕事がハマらないと良いテイクは撮れないので、いい意味での緊張感がありました。

――ASCAさんの表情や動きからも、感情の波が伝わってくるような迫力があります。

ASCA 演じようとするとわざとらしくなると思ったので、とにかく主人公の気持ちになって、「今、私はすごく悲しんでいる」と思い込んで、自分の昔の悲しかった記憶を全部持ってきて撮影していました。車の中のシーンを撮っている時、過去の悲しかったことやつらかったことが走馬灯のようにブワーッと出てきて、気付いたら泣いていたんですよね。そんなことは初めての経験で。“泣く”というのは、つまり、その場で自分をさらけ出すということじゃないですか。私は人の目を気にする性分なので、今までそんなことはできなかった。その意味でも「私、成長しているんだな」と客観的に思いました。これはきっと歌にも活きていくと思うし、色んな意味でアップデートできた自分が、このMVには写っていると思います。

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