声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。
「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。
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家にケータイを忘れた。気づいたのは駅の改札を通ろうとした時。私は、ケータイの中に交通系のICを入れているので鞄から取り出そうとしたら嫌な予感がした。どこにもない。はあ、今日は朝ご叛も食べて、鞄の中の整理までする余裕があったのに。どうしてここに来るまで気づかなかったんだ……。でも今から家に帰るとなると、駅に戻ってくるまでに20分はかかるだろう。でもでも、これから行く場所に時間通り着くには、あと3分後に来る電車に乗らなければ間に合わない。一瞬のうちに選択を迫られた。さてどうする。行くべき場所の地図も、連絡アプリもケータイに入っている。場所がわからないんじゃまずい……これは遅れてでも帰らないとダメか……。とその時、鞄の中に台本を読むのに使っているタブレットを発見した。こっちのスケジュールアプリに、今日行くスタジオの住所が入っていたはず。連絡は取れないけどこれで道に迷うことはない。電車の乗り換えは……まあなるようになるだろう。よし、このまま電車に乗る。今日はケータイに頼らずに過ごしてみよう。
まずは時間通りの電車に乗り、都心の乗り換えもすんなりこなした。見たか、これが東京育ちの底力よ。えっへん。電車に乗って思ったのが、電車の中はほとんどの人がケータイを見て過ごしている。若い方からご年配の方まで。確かに私も電車の中ではSNSをチェックしたり、出演したアニメを観て過ごすことが多い。何もすることがない時は、動画サイトのショート動画を虚無で観ていることもある。ケータイのない今の私は、上にある広告をじっくり読んで過ごした。ちゃんと観てみるとなかなか面白いもので、クスッと笑えるものから「なるほど」と感心してしまうようなものまで様々。広告を決める会議って楽しそうだな。みんなでひらめきを出し合って、いかにこの時代に目立つか考えるんだろうな……。と、そんなことを考えていたらあっという間に目的の駅に着いた。スタジオまでの道のりはタブレットを使って……待てよ。このスタジオは昔一度来たことがある場所。まずは調べずに行けるところまで行ってみよう。時間はある、冒険だ。確かこの出口から出て、道を真っ直ぐ。ああ、そうそう。このパン屋さんを曲がって、ここに不動産屋があったな。懐かしい。確か意外と遠いんだっけ……と思っていたらいきなり目的地が現れた。あれ、もっと時間がかかったような……。そうだ、当時は初めて行く現場に緊張して足取りが重かったんだ。帰りも1人反省会のためトボトボ歩き、駅までが永遠に感じた。それがこんなにもすぐに辿り着くなんて。実感はなかったが、私も少しは成長しているのかも、なんて思えた。
すべての仕事を終え、無事に家に帰って来た。ケータイは充電器に刺さったままだった。絶対家にあるだろうとは思ってたものの少し安心。連絡アプリを開いてみると、特に誰からも連絡は来ていなかった。そっか、そうだよね。急な用ってなかなかないよね。せっかくだから、帰ってからもデジタルデトックスをしてみる。ご飯を食べて、お風呂に入って、お仕事をして、ストレッチもして……え、2時間しか経っていない。いつもは気がついたら寝ないとまずい時間になってて焦るのに。やることがもう終わってしまった。素晴らしい。ないと思っていた時間はここにあったんだ。ケータイで時間を潰している人にドヤ顔で教えたいくらいだった。改めて、日頃自分がどれだけケータイに時間を取られているのかがわかった。よし、最後に本でも読んで寝ようかなと思い、途中で止まっていた本を読み始める。数ページ読んで違和感を感じた。内容が全然入ってこない。どうも頭の中がうるさい。本に集中したいのに、頭の片隅で違うことを考えている。しかも今必要のない思考ばかり。そういえば前にこんな失敗をしたな、あの時なんでああやって言えなかったんだろう、たまたま見たあのネットのコメントつらかったな、など。脳内で1人でぶつぶつと喋っている感覚でくらくらしてきた。落ち着きたいのに考えれば考えるほどドツボにはまっていく。一旦本は諦めて、ケータイを手に取り、いつも見ている夢の国の動画を再生した。すると脳内も少しずつ落ち着いていった。
「ケータイを見ているほうが心に良くない」と勝手に思っていたが、見ないと見ないで、自分との対話のみになって逆に頭がゴチャゴチャする気がした。私はケータイを見ることで、無意識に嫌なことから気を逸らしたり、早く忘れるようにしていたのかもしれない。心のバランスをケータイでとっていたんだな。なぜか悔しい気持ちになった。デジタルデトックスは色んな気付きをくれるし、時間も増えるけど、無理にすることではないなと思った。このデジタルデトックスを楽しめるような自立した人になるには、まだまだ修行が足りないみたいだ。
▼デジタルデトックス……難しい。お気に入りのフタバスズキリュウのしおり。
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