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INTERVIEW

2025.03.13

水瀬いのりにとって、ライブは“大切な居場所”――。全国ツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark”をパッケージした映像作品リリース!

水瀬いのりにとって、ライブは“大切な居場所”――。全国ツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark”をパッケージした映像作品リリース!

2024年9月から11月に開催された水瀬いのりの全国ツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark”は、彼女自身のアーティストとしての成熟を感じさせると共に、デビュー10周年イヤーに向けた期待と希望を抱かせてくれる素晴らしい内容だった。1stハーフアルバム『heart bookmark』と連動した、水瀬が自ら考案した“heart bookmark(=心のしおり)”というタイトルが象徴するように、ツアー全体に通底するハートウォーミングな空気感こそが、彼女自身が目指した景色であり空間なのだろう。そんなツアーの千秋楽となった11月3日の千葉・LaLa arena TOKYO-BAY公演の模様を収めた映像作品『Inori Minase LIVE TOUR heart bookmark』のリリースに合わせ、同ツアーに込めた想いを余すことなく語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

“heart bookmark”ツアーに至るまでのマインドの変化と手応え

――今回映像化される“heart bookmark”ツアー、自分は千葉・LaLa arena TOKYO-BAYの2公演を現地で拝見しましたが、いつも以上に伸び伸びとした様子で歌っているのがとても印象的でした。

水瀬いのり ありがとうございます。リハーサルの時から、自分の中でやりたいことができている手応えを感じていたことが大きくて。バンマスのみっちーさん(島本道太郎)も「歌がすごくいい」「コロナ禍以降、歌のアプローチがすごく変わったと思う」とおっしゃってくださったのですが、実際に私としてもコロナでライブが中止になったこと自体はものすごく悲しかった反面、心のどこかでようやくブレーキを踏めたことに安心している自分もいて、それまでずっとあったライブの準備期間の小さな不安やもやもやと向き合う時間を作ることができたんです。それによる歌声やマインドの変化を、みっちーさんが近くで感じてくれていたこと、その変化をポジティブに受け止めてくれていることが自信に繋がって、自分にとっても追い風になりました。

――前回のツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART”もコロナ禍以降と言える時期の開催でしたが、その時よりもさらに変化があったのでしょうか。

水瀬 はい。それよりも前の“(Inori Minase LIVE TOUR 2021)HELLO HORIZON”や“(Inori Minase LIVE TOUR 2022)glow”では、自分の中に「こうしたい!」という想いがあっても、それに届かなかったり掴めないことにまだ悩まされていたところがあったのですが、“SCRAP ART”ツアーをやり切った時に、まだ確定ではないにせよ何かが見えた気がしたんです。その手応えをブラッシュアップさせたのが“heart bookmark”ツアーでした。

――“SCRAP ART”ツアーは巨大スクリーンを使って世界観を作り込んだステージでしたが、今回のツアーではどんなものを届けたいと最初に考えましたか?

水瀬 まず10周年を控えているタイミングのツアーなので、10周年の時にはやらないであろうアプローチのライブにしたい気持ちがありました。今回は初めて自分でイチからセットリストを組んだのですが、いわゆるリード曲や表題曲ではないけど、ここまで活動するうえでその曲がなければ自分は前を向けなかったであろう曲をなるべく入れるようにして。なおかつ(歌う楽曲が)みんな主役でいてほしかったので、全部の楽曲が手を繋いでいるようなライブを目指しました。みんながバトンを渡していく、温かいセットリスト。それが最初の大枠でした。

――その“温かさ”はコロナ化以降のマインドの変化とリンクする部分がある?

水瀬 それもありますし、私は幼少期の頃から好きなものが変わらず一貫しているタイプで、昔からミディアムテンポやエモーショナルで哀愁のある楽曲が好きで、それが自分の背中を押してきてくれたところがあるんです。例えば名刺代わりになるデビューシングル「夢のつぼみ」のカップリング曲「笑顔が似合う日」や「あの日の空へ」がゆったりしたテンポだったように、そういう曲調に自分の“好き”が変わらずあって。だからこそ改めて自分が寄りかかれるような楽曲を並べていきました。

――なるほど。そういった楽曲を表現するうえで大切ないのりバンドのメンバーも増員して、バイオリンのすまりこと須磨和声さんとパーカッションのにゃんちーこと若森さちこさんが新たに参加しています。

水瀬 お二人とはFCイベントのアコースティックライブ(“いのりまち町民集会2024 -ACOUSTIC LIVE Wonder Caravan!-”)で初めてご一緒したのですが、それが終わった後に「絶対一緒にツアーを回りたい!」と思いました。以前は音について私から意見することはあまりなかったのですが、ここから先また頑張っていくうえで、自分がやりたい音楽・聴きたいものを意見としてもっと伝えてもいいのかも、とコロナ禍を経て感じるようになったので、今回は新しいメンバー2人とシンクロライトの演出を私から事前にお願いしました。

――シンクロライトも水瀬さんからの提案だったんですね。

水瀬 私のライブは、初めて参加する方や私よりも若いファンの方が多いのですが、周りを気にしたり、サイリウムやペンライトを変えることに集中してステージではなく自分の世界に戻ってしまうのはもったいないなと感じていて。シンクロライトを導入すれば「ライブではこう動くべき!」みたいなものを取っ払えるし、あとはシンプルに私が統一されたライトの景色を見たかったのが大きな理由です(笑)。きっとすごくきれいだから「その景色をブックマークして思い出に残したいんです!」とプロデューサーさんにお願いしました。

――他にもバンド紹介パートでBGMとして使われたウィンドベルの演奏も自分で行われたというお話ですし、ライブ制作に積極的に関わるようになったのは、ライブが自分の居場所になったことが大きいんでしょうね。

水瀬 そうですね。かつ、「頑張らなくちゃ」と思っていた自分から、素直に弱音を吐いたり、SOSを言えるようになったことも大きいです。それまでは「できます……!(震え声)」みたいな感じで内心は「どうしよう、どうしよう……」みたいなところがあったのですが、今は調子が悪い時も正直に伝えられるようになりましたし、そんな時はどうすればいいかをみんなで話し合えるようになって。自分のかっこ悪いところもちゃんと見せられるようになったのは、真の信頼というか、(ライブチームが)ファミリーになった証拠だと思います。それはここまで続けてきたからこそ救われた部分ですし、きっとみんなではなく私が変わった部分であり、私が変えてもらった部分だと思います。

――それがこの暖かな楽曲を中心にしたセトリや演出にも反映されているんでしょうね。

水瀬 そうだと思います。なので今回は、もちろんドキドキもあったのですが「何とかなる!」という謎の自信があって。普段の私はネガティブな方向に考えがちなのですが、「いやいや、ウチらならいけるでしょ!」というギャルマインドが突然生まれました(笑)。不安や緊張、ちょっとした悔しさはどうしてもあるのですが、怯えや恐れは皆無で。それに支配されるというよりは、その中からちゃんとポジティブを見つけられるようになりました。

ツアー最終公演のこだわり&見どころを全曲分語る!

――ここからは今回のBlu-rayに収録のツアー最終公演について、ブロックごとに見どころやこだわりを聞いていければと思います。まずOP映像がしっかりと意味を感じさせる内容になっていましたね。

水瀬 そうなんです。今回のツアーのテーマは“heart bookmark”ということで“思い出”という部分をフィーチャーしていただきました。私の後ろの本棚に色んな過去のライブのモチーフが置いてあるので、ぜひBlu-rayでは一時停止してチェックしてほしいです。これまでの歩みがあって今の自分があることを表現していただけたのでお気に入りのムービーですし、私は毎公演その映像を観ながら最初の楽曲の立ち位置に着いていたので、今でもあの映像を観ると背筋が伸びます。

――そしてライブ本編は、TAKU INOUEさん提供の「We Are The Music」で一体感を作りながら幕を開けます。

水瀬 歌詞に“呼吸さえもきみだけのメロディー”とあるように、会場にいる1人1人が主役で、その場にいるみんなが音楽なんだよ、というメッセージが込められた楽曲です。鼓動はリズムだし鼻歌だって音楽になる。みんながこの場所に集まっている意味が詰まっていて、壮大なテーマかつすごく説得力を感じる楽曲なので、セットリストを考え始めた時から迷いなく「1曲目はこの曲しかない!」と思って決めました。

――2曲目は日替わり曲で、今回のBlu-rayには「Sweet Melody」を収録。別日には「ピュアフレーム」を歌っていました。どちらの楽曲も相手に直接気持ちを伝えるような内容なので、あえて2曲目に選んだのかなと。

水瀬 そうですね。ライブは私だけでなく、観ている方たちも序盤は「どんな世界が待っているんだろう」という緊張があると思うんです。だからこそ始まりのゾーンではみんなとの距離が近くなるような楽曲を置きたくて。今回のテーマ“heart bookmark”にも合わせて、より「近くにいるよ」ということを伝えるために選曲しました。

――この曲を歌っている時は客席に向けて積極的にファンサービスをしていましたよね。

水瀬 みんなが色んな愛情表現をしてくれるので。アンコールでトロッコに乗った時もそうだったのですが、私はあの瞬間だけ特殊能力が使えるみたいなんです。映像を観返すと、かなり俊敏に色んなことをしているんですよね、普段は全然動けないのに(笑)。本当にみんなに引き出してもらっている感じで、自分でもびっくりします。

――続く「Ring of Smile」「ほしとね、」「ソライロ」の3曲を歌うブロックでは、パリの街並みをイメージした舞台セットを活用した演出が印象的でした。

水瀬 前回の“SCRAP ART”ツアーは私たちがショウを見せるような感じでしたが、今回のツアーは、私たちが街で音楽を鳴らして歌を歌っているところに、みんながその音に惹かれて寄ってきたようなイメージで、なおかつその人たちの日常は続いていくことが感じられるような、「私たちはいつでも歌っているのでまた観に来てね」って気軽に楽しんでいただけるライブ空間にしたくて。そこに生活や人の温かみが感じられるセットということで、バルコニーやカフェを含め生活感のあるイメージで作っていただきました。より楽曲の世界観に入り込みやすくて、お芝居しているような気持ちで歌えたのがすごく楽しかったです。

――そこからバンド紹介コーナーを挿んでの「フラーグム」と「Kitty Cat Adventure」では、イチゴをイメージしたかわいらしい衣装に着替えてのパフォーマンスでした。

水瀬 29歳になる年にこのような服を着られて嬉しかったですし、まだ「かわいいー!」と言ってもらえることに、深く深くお辞儀して感謝したくなるような気持ちでした(笑)。1stライブの頃からお世話になっているスタイリストさんに「かわいらしい感じのイチゴっぽい服はどうですか?」と相談したら、私から「かわいい」というワードが出てくるのが新鮮だったのか、ものすごくかわいい服をデザインしてくださって。デザインのイラストを見た時点で「かわいすぎるかも、どうしよう……」と思ったんですけど、覚悟を決めて袖を通すことにしました(笑)。バンドメンバーからは「Kitty Cat Adventure」の振付のネコのポーズをいじられたり、実は「フラーグム」でもAメロでバンドの上手側・下手側がそれぞれ私を見るルールが公演を重ねる中で生まれて。そういう楽しみが増えていったのも今回のツアーの思い出です。

――そして「グラデーション」「夏夢」と水瀬さん好みのミディアムナンバーが続くブロックへ。

水瀬 私の中では“沁み沁みゾーン”です(笑)。リハーサルの時から「ミディアムテンポが似合うようになったよね」と言ってもらえて。これまでの自分だと少し背伸びしていた曲が、等身大で歌えるようになったことが嬉しかったです。声優のお仕事でも大人っぽいキャラクターをやりたくて、艶やかさや大人な上品さを出せないものか模索していた時期があったんです。それは歌心にも通じていて、私は声質的に元気・かわいいイメージで歌うことが多かったので、そういう子が頑張って大人っぽくしていても、逆に子供っぽく見えたりするじゃないですか。そういうことを意識せずとも相手に届くバラードを歌えるようになったのが嬉しかったです。

――続いてクール系の煌びやかな衣装にチェンジして歌われたのが、「スクラップアート」「アイオライト」の通称“かっこつけゾーン”です。

水瀬 どんな表情をして歌えばいいのかいまだに正解がわかっていないゾーンです(笑)。ただ“KING SUPER LIVE 2024”のDAY2公演でもこの2曲を歌わせていただいたのですが、その時に“SCRAP ART”ツアーを経たことで楽曲が自分の体に馴染んでいることを感じて、ファンの皆さんの受け止め方を見ていてもすごく良いアプローチができているように感じたんです。初めてライブで歌った時は息が持たなくて、かっこ良く歌う未来が見えなかったのですが、今となっては自分の中の「こういうふうにかっこつけたい!」という希望を形にすることができる、確かな成長を感じられる2曲になりました。

――その後の「八月のスーベニア」「三月と群青」と続くブロックは、どちらも藤永龍太郎(Elements Garden)さん提供曲ということで個人的にも熱くなりました。

水瀬 このブロックは切なロックと言いますか、前半のエモーショナルさの中にはなかった、激しさや葛藤、その甘酸っぱさを描いているゾーンになります。個人的にはあの日を思い返す切なさを歌いたかったところで。その次の「Starry Wish」も“あの日の僕がいて自分がいる”という楽曲ですし、弱いところがあるからこそ強くなりたいと願うという意味では、上手く繋げることができたと思います。

――そしてYDこと栁舘さん提供曲「燈籠光柱」に入る前、すまりさんのバイオリン独奏から始まるバンドの演奏パートも素晴らしい演出でした。

水瀬 私が衣装チェンジする時間を繋ぐためにバンドが音を紡いでくださるのですが、私としてはこの部分を何度でも聴きたいくらいの完成度で。少しずつ楽器が増えていって「燈籠光柱」のメロディに繋がる流れが素晴らしすぎて、心の中で追加投げ銭をしたくなるくらいです(笑)。じっじーさん(植田浩二)のアコギがきっかけで流れが変わるところもいいんですよね。裏で衣装さんに着替えさせてもらいながら、「やっぱりじっじーさんは持っていくなあ」と思って聴いていました。

――「燈籠光柱」はセットの洋風の建物のランタンが灯るなか、水瀬さんがドアから登場する演出で始まりました。

水瀬 ランタンが灯る絵は私が見たかったもので、みんなも「うわー!」という表情をしてくれていたのが嬉しかったです。みんなが声を出して一緒に歌ってくれたこともすごく支えになりました。“どこまでも 私たちと”という歌詞があるのですが、実際にみんなとならどこまでも一緒に行けるという確信が生まれて。レコーディングの時は1人で無限にコーラスを重ねていたのですが(笑)、ライブ会場でみんなと一緒に歌うことで完成した楽曲だと思います。

――オリエンタルな雰囲気の衣装も素敵でした。

水瀬 ありがとうございます。あの衣装は次に歌った「My Graffiti」の“色んな色を見つけていこう”というメッセージにも合わせて、グラデーションで色んなカラーの入ったものにしていただいたんです。願わくば歌詞にある“12色の色鉛筆”に合わせて12色の衣装にしたかったのですが、さすがにネタバレ過ぎるということで諦めました(笑)。“heart bookmark”の“ひとつではなく色んなお気に入りを集める”というところにも繋げているんです。

――なるほど!そこから“私が歩いている毎日”“きっとぜんぶ宝物”と歌う「glow」に繋げる流れもエモかったです。

水瀬 私も泣きそうでした(笑)。ツアーの最終日で歌っている時に、泣きながら聴いてくれている男の子と女の子がいたんです。1番のサビが終わったところで目が合ったんですけど、その子は前を見るどころの感じではなくて(笑)。自分が思っている以上に自分の曲が誰かに届いていて、誰かの思い出や記憶に残っていることを確かめられたので、私も泣きそうになって「ヤバいヤバい!」となっていました。

――そしてライブ本編を締め括ったのが「heart bookmark」。にこやかに歌っていたのが印象的でした。

水瀬 楽しくなるラストになりました。岩里(祐穂)さんが書いてくださった歌詞には、これまでのアルバムのモチーフが入っているので、ここまで歩いてきた道のりもそうですし、これから先も増えていく思い出のページをめくるのが楽しみになる、私の「heart bookmark」というアルバムが未来に繋がっていくことを象徴する1曲になっています。この曲の歌詞はフランス滞在中に(岩里さんから)届いた思い出があるので、歌いながらまたフランスに行きたくなりました(笑)。

――ラストは観客も“We are all right!”というフレーズを大合唱していましたね。

水瀬 そうなんです。私がステージから自撮り棒で映像を撮って、会場の皆さんとの思い出をブックマークする演出もあって。その各公演の映像の様子も、今回のBlu-rayの特典映像に収められるので、ファイナル以外の公演に来てくださった方もぜひ観てほしいです。

次のページ:アットホームで距離を感じさせないライブ空間を目指して

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