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INTERVIEW

2024.01.26

Myuk、1stフルアルバム『Arcana』リリース!リード曲「encore bremen」を手がけたササノマリイとのスペシャル対談、ソロインタビューから本作の全貌を探る

Myuk、1stフルアルバム『Arcana』リリース!リード曲「encore bremen」を手がけたササノマリイとのスペシャル対談、ソロインタビューから本作の全貌を探る

昨年は「北極百貨店のコンシェルジュさん」など話題作のテーマソングを担当し、“リスアニ!LIVE 2024”の出演も決定しているシンガー・Myukが、メジャー1stフルアルバム『Arcana』をリリース。これまでに発表したJ-POPシーンやネットミュージックシーンで活躍するクリエイターからの提供曲に加え、初タッグとなるササノマリイによる提供曲「encore bremen」、二度目のタッグなるGuianoによる提供曲「Arcana」を収録した、充実の内容となっている。

今回「リスアニ!」では、Myukとササノマリイの対談と、Myukのソロインタビューの2本立てで『Arcana』というアルバムの全貌を探った。Myukとして活動してきた3年間で辿り着いた「encore bremen」と「Arcana」に、彼女はどんな想いを込めたのだろうか。

INTERVIEW & TEXT BY 沖 さやこ

Myuk×ササノマリイ対談――「諦め」から始まる物語

――Myukさんがササノマリイさんの楽曲をよく聴いていたことがきっかけで、今回のタッグにつながったそうですね。

Myuk そうなんです。だから今回、初めてお話ができてとても光栄です。「共感覚おばけ」のミュージックビデオがYouTubeのおすすめに出てきたのが、ササノさんの楽曲を初めて聴かせていただいたきっかけで。『夏目友人帳』や「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」のニーゴ(25時、ナイトコードで。)も大好きなので、いつも楽曲を聴かせていただいていました。寂しさや叫び、少し壊れてしまったものをに美しさを与えてくれるような音楽だなと思っています。

ササノマリイ たくさん聴いていただいて恐縮です。僕が初期衝動で曲を作ると、Myukさんが言ってくださったような表現になることが多い気がします。楽曲提供をするのは久しぶりだったので、ご依頼をいただいて「頑張ります!」という気持ちでしたね。

Myuk

Myuk

――そうして完成したのがMyukさんのメジャー1stフルアルバム『Arcana』のリード曲「encore bremen」ということですね。Myukさんはササノさんにどんなオーダーをなさったのでしょうか。

Myuk おとぎ話がベースになった楽曲を過去に2曲リリースしているので、今作のリード曲もそういう楽曲にできたらいいなとチーム内で話していたんです。そこでスタッフさんが「『ブレーメンの音楽隊』をテーマにできたらいいんじゃないか」と提案してくださって。小さい頃に読んでいたおとぎ話だったので、自分にもすごくしっくりくるテーマだと思ったんですよね。そこに大好きなアニメ作品の要素も入れていただけないかとお願いをしました。

ササノ だからまず、そのアニメ作品と『ブレーメンの音楽隊』にどういう共通点があるかなと探し始めてから制作を始めました。……実はそのアニメ作品は、あえて観るのを避けていたんですよ(笑)。

Myuk えっ、そうだったんですか。

ササノ 僕の性格上この作品にはハマりそうだし、ハマったら抜け出せなくなるので仕事に支障を来たす!とあえて避けていたんです。でも、ご依頼をいただいたのならばリファレンス作品は履修するべきなので、原作を全巻読んでみて……思いっきりハマってしまいました(笑)。それで先ほど言った共通点というのが、「旅」と「仲間が増えていく」という王道感と、王道ではない展開もあるところかなと思ったんです。それを掛け合わせて「主人公にとって素晴らしいであろう旅が終わり、1人になってもう1回新しい何かを始める」という設定から歌詞を膨らませることにしたんです。それで「encore bremen」というタイトルをつけて、曲作りをスタートさせました。

ササノマリイ

ササノマリイ

――ちなみにササノさんは、ご自身の楽曲を作るときと提供曲を作るときとでは、制作においてどんな違いがありますか?

ササノ やっぱり自分の曲を作るほうが大変ですね(苦笑)。というのも、自分自身を見つめるのが一番難しいなと感じるんです。でも人に曲を提供する、編曲する、歌詞を書くとなると、自分の殻や自分に関係する物事から解き放たれるんですよね。だから「ササノマリイとして曲を作っている」というのは変わらないのに、自分の曲を書くよりも自由になるんです。自分だけで制作をするよりも、選択肢が広がる感覚があります。あと、提供する皆さんは歌がとにかくお上手なので、自分が歌うとなると練習を頑張らないといけない部分をすでにクリアなさっているんですよね。

――作詞面でも作曲面でも、かなり広がりが生まれると。

ササノ これまで発表なさっている曲を聴いて、「こういうメロディを綺麗に歌える人だ」と思うときに、自分はこういうメロディにしようというアイデアが出てくるんです。だから自分で歌う曲を作るときとは違う制約になるんですよね。

――Myukさんは「encore bremen」を聴いたとき、どのような感想を抱きましたか?

Myuk “物語の最後尾”という歌詞でアルバムの1曲目が始まるのがすごく素敵だなと思っていて。あと個人的にこの曲は「諦め」を意識して歌わせていただいてるんです。

――諦め、ですか。

Myuk 「ブレーメンの音楽隊」は飼い主にいじめられていた年老いた動物たちが、音楽隊になるためにブレーメンへ行こうと旅を始めたけど、結局泥棒を追い出してその家で楽しく演奏しながら暮らすんですよね。みんな夢や希望を持ってブレーメンを目指したわけではないので、物語が「諦め」から始まっているような気がしたんです。だからサビの“諦観は 捨ててしまっていいの”という歌詞がすごく素敵だなと思って。

ササノ ああ、嬉しいです。

Myuk すごく共感したんですよね。諦めから始まる旅だからこそお気楽で淡々としていて、やるせなさとか寂しさもあるけど、また楽しみながら踏み出していくような遊び心を感じたんです。目的地は決めなくてもいいし、予想外の展開を楽しんでもいい――そう言ってくれている曲だなと思いました。あと“もう一回だけの旅をしようか”というフレーズも、「何度でも旅をしよう」ではないところが素敵だなって。「あと1回だけでいいから笑いながら旅がしたい」という、諦めているからこその強さもあるような気がしたんです。「目的地のない旅をしている」という淡々とした感覚を歌に閉じ込められたらと思いました。

ササノ もうほんと、完璧でございます。おっしゃっていただいた“諦観は 捨ててしまっていいの”と“もう一回だけの旅をしようか”は、個人的にも曲の中でピークとなるキーの部分なので、そう言っていただいて報われます。モチーフをいただいたうえでの曲作りでしたけど、「encore bremen」の歌詞には僕自身の人生観にも通ずるところがあるので、そのぶん筆圧が強いというか。僕が意味のわかりやすい歌詞を書くときって、大体自分の体重が乗ってるんですよね。

Myuk 私も音楽活動をしていると、悔しかったり上手くいかないこと、諦めなきゃいけないのかな……と思うことはあって。でも「諦め」はかっこいいものというか、必要なものでもあるかなと思うこともあるんです。だから“諦観は 捨ててしまっていいの”という言葉は救いにもなるというか、持っていてもいいし捨ててしまってもいいと言ってくれている感覚があるんです。

「部屋で1人で聴く曲」と「ライブで歌ってもらって自然に身体が動く曲」の良いとこ取り

――そのメッセージをこういったミドルテンポのダンスチューンに乗せることで、さらに言葉に説得力が出ると思います。こういったトラックになったのには、どういう経緯があったのでしょうか?

ササノ Myukさんの発表なさった楽曲を聴いて、まず「この声は自分が作る音と相性が良いことは間違いないよね」と思いました。それゆえにどんな曲にするべきなのか、ものすごく悩んだというか……。

――相性がいいぶん、選択肢がありすぎて。

ササノ そうです。でも自分が作る曲の中で一番Myukさんの声に合う曲にしたいし、可能ならばより多くの人に聴いてもらえるようにしたい。Myukさんの声と僕の曲でできるだけ相乗効果が作れるものにしたかったんです。僕が一番好きな曲調は静かめのものなんだけど、聴いてもらいやすい曲はそれよりもう少し元気なものという認識でいるので、そのバランスをどうにか取りたいと思いました。

――それゆえの試行錯誤というか。

ササノ こんなご縁で曲を作らせてもらうからには、どうにかMyukさんの人生に影響を与えられないだろうかとも思っていたので、結構挑戦しましたね。まずイヤホンをして部屋でうずくまって聴くタイプの曲にするか、ライブで歌ってもらえるようなみんなが盛り上がれる曲にするかを考えて。この2つは両極端なようでいて「楽しい」という共通項があると思ったんです。だから部屋で1人で聴くのと、ライブで歌ってもらって自然に身体が動くような曲を両立できないかな、どうしたら良いとこ取りできるかなと――提供させていただくタイミングで挑戦させていただくのは大変恐縮ではあるんですけど。

Myuk とんでもないです!そんなに真剣に考えていただけて光栄で……。ありがとうございます。

ササノ こちらこそありがとうございます。自分が作ってきた曲調を踏襲しようとしつつも、これまで自分が作ったどの曲にも当てはまりきらない感覚があって。新しい挑戦がMyukさんと一緒にできたのかなと思いました。安パイを取った制作ではなかったです。

Myuk 先ほど「部屋で1人で聴く音楽」という話がありましたが、私は「弾けないギターを片手に。」や「I MISS YOU」みたいな、寂しげでゆったりしたササノさんの曲も本当に大好きで。深夜3時に1人でちっちゃい部屋でササノさんの楽曲を聴いていたときに、寝静まった町と自分の眠気の相乗効果で、現実から遠ざかっていくような感覚があって……。だからリアリティとファンタジーが、終わりと始まりが合わさった歌詞の世界だけでなく、1人の時間に寄り添ってくれる部分とライブで楽しめる明るい部分が合わさった曲の世界もすごく腑に落ちたというか。その2つが合わさるからこそ「encore bremen」という曲になったんだろうなと思いました。

――Myukさんには「encore bremen」のようなグルーヴのダンスチューンは珍しいですよね。

Myuk だからレコーディングはすごく難しかったです(苦笑)。

ササノ ああ、申し訳ない……!

Myuk とんでもないです!元々スローバラードやミドルバラード、アコースティックな曲を軸に活動してきたので、ササノさんと同じく私にとっても挑戦でした。ビートがすごくかっこいい曲なので、ここにパチっと決まる「これだ!」っていうテイクがなかなか見つからなくて、スタッフさんと相談しながら試行錯誤しました。でも新しいことにトライできたので、楽しいレコーディングでした。咳き込んだテイクを入れてみるのも初めてだったので。

ササノ 難航したことを感じられないほど、完璧に自分のものにしていただいていると思います。僕はいつも提供曲を作る際に「こういう曲に仕上げたらこういうふうに歌ってくださるであろう」「こういうふうに歌っていただけるといいな」という想定をするんですけど……解釈の一致でしたね。Myukさんの歌で曲の魅力を引っ張り上げていただきました。ミドルテンポでのダンスビートで、横ノリも縦ノリもできる曲に挑戦した結果、Myukさんの歌に縦と横の揺らぎを作っていただけたと感じています。

――ササノさんはご自身が1曲目の制作を担当した『Arcana』というアルバムをどう見ていますか?

ササノ お話をいただいた際に、僕の担当する曲がアルバムの幕開けの立ち位置になるということはうかがっていて。『Arcana』は本当に魅力的な曲ばかりなので1曲目を請け負うのは恐縮すぎるんですけど、もちろんしっかり1曲目に見合う曲を決めたいとも思いました。これまでの素敵な曲の一員として「encore bremen」も楽しんでいただけたら本当に嬉しいですし、「こういうMyukさんもいいでしょう?」というギャップも提示もできたんじゃないかなと。ファンの方々も喜んでくれると思うし、新しい出会いを繋ぐ役割にもなれたら、こんなに嬉しいことはないですね。

―― 「encore bremen」は、Myukさんだけでなくササノさんのキャリアでも、新しい挑戦ができた、有意義な制作であることがわかるお話でした。

ササノ タイトルの通り、この曲をきっかけに僕自身もより広がっていこうと思えるきっかけになりましたね。この先のことはどうなるかわからないけれど、それでもこの曲の制作を通して可能性をものすごく感じられたので、今後の制作にも多大な影響を与えそうだなと思っています。Myukさんのおかげで今まであまりやってこなかったタイプの曲作りができましたし、Myukさんもこの曲を歌ったことで何か1つ広がることができたなら、そして『Arcana』というアルバムやMyukさんに何か1つ添えられるものができていたらいいなと思っています。

Myuk この対談でササノさんがたくさん色んなことを考えて、工夫していただいたことを知って、素敵な言葉をたくさんいただけて本当に感無量で。私自身も歌うのが難しかったからこそ向き合えた部分もたくさんあって、さらに自分の歌に向き合えました。本当に広がりを与えてもらったなと思っています。開いていなかった自分の引き出しを、ササノさんの世界観とサウンドに引き出していただきました。今後、何度も私が歌い続けることで“諦観は 捨ててしまっていいの”や“覚えてる体温が 生きた証になっていく”というフレーズの強度も上がっていくのかなと思うんです。今後の自分にとっても救いになってくれる1曲だと思うので、これからも大事に歌わせていただきます。

次ページ:「Myukの人生」が物語に昇華された『Arcana』というアルバムと表題曲

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