南條愛乃がおよそ1年ぶりにリリースしたニューアルバム『The Fantasic Garden』。本作は全曲にわたって、彼女が声優と音楽それぞれの活動において縁の深い音楽クリエイター集団・Elements Gardenとのコラボレーションによって生み出された。2つの世界が出会って生まれるファンタジックな作品を、今回は全曲レビューという形式で紹介していこう。
TEXT BY 澄川龍一
2023年の南條愛乃は、前年に自身のアーティスト活動10周年を記念したアルバム『ジャーニーズ・トランク』を伴うツアーを4月から行い、アルバムを軸にしながら彼女の音楽の過去から現在を巡り、同時に長らく途絶えていたファンの歓声とともにその喜びを分かち合う、まさにアニバーサリーを祝福するようなステージを見せた。アニバーサリーライブとしては、2023年末に行われる“南條愛乃 10th Anniversary Live -FUN! & Memories-”がまだ残っているが、南條愛乃の現状としては『ジャーニーズ・トランク』のその次へともう足を踏み入れている。そんな彼女のネクストステージをうらなうのが、2023年後半にリリースされたニューシングル「閃 -Sen-」であり、同曲を含む本作『The Fantasic Garden』である。そして本アルバムはこれまでと趣きが異なり、全編にわたってElements Gardenとのコラボレーションするという一枚になった。
音楽制作集団・Elements Gardenとは、2000年代以降のアニメ音楽シーンを牽引し続けてきた、言わずと知れた現代アニソンのトップランナーである。これまで数々のアニメ/ゲーム作品にて名曲を輩出してきた彼らだが、南條のソロワークのキャリアにおいては、2012年にリリースした彼女のデビューミニアルバム『カタルモア』収録の「iD*」でElements Gardenの菊田大介が作編曲で参加している(作詞は南條)。以降も南條の音楽キャリアと切っても切り離せない『グリザイア』シリーズでも、「あなたの愛した世界」以降すべての楽曲に藤間 仁が作編曲で参加。ほかにも2020年リリースの「藪の中のジンテーゼ」(作編曲:藤間)、2021年リリースのアルバム『A Tiny Winter Story』収録の「物語よ始まれと願う空に」(作曲:上松範康)と、Elements Gardenの名は南條のソロ作品にたびたびクレジットされてきた。他方で、Elements Garden代表の上松が原作に名を連ね、これもまた10年以上のロングシリーズとなったアニメ『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズにて、南條は2013年放送の『戦姫絶唱シンフォギアG』より月読 調役で参加し、Elements Gardenの楽曲にそのボーカルを乗せてきた。
このように、南條愛乃とElements Gardenには、この10年間でアルバム1枚を作り上げるには十分すぎるほどの深まった関係性が見られてきた。そんな双方がコラボレーションという形でクロスした本作『The Fantasic Garden』では、2組それぞれが持つ世界観が融合して拡大した、刺激的なケミストリーを聴くことができる。本作より先行してリリースされた「閃 -Sen-」で、南條はアグレッシブな世界観で力強い歌声を聴かせ、自身の作詞でもヒロイックな世界を生み出した。これまで以上の熱量を持って届けられたパフォーマンスは実に刺激的だったし、彼女の音楽キャリアのネクストステップを強く感じさせるものだった。そうした新たな刺激から生まれる南條の歌唱、作詞それぞれにおける新たな一面というものが、この『The Fantasic Garden』には詰まっている。
一方でElements Gardenにとっても、来年には結成20周年を迎えるなかで、上松、藤間、藤田淳平、菊田大介という古くから活躍する中心クリエイターに加えて、近年様々なフィールドで目覚ましい活躍を見せる藤永龍太郎や、「閃 -Sen-」を手がけた日高勇輝ら新たな才能が本作には多く参加し、フレッシュなサウンドアプローチを南條に提供している。
南條愛乃がElements Gardenという庭に足を踏み入れ、新たな景色を見せてくれた刺激的なアルバム『The Fantasic Garden』。そこには様々なアニバーサリーを含んだ彼女の歴史を感じさせる一方で、その歴史の先に見えるまだ見ぬ世界というものも、この邂逅からは強く感じられた。歴史的なコラボレーションという記念碑はどこを切っても懐かしくも新しい、南條愛乃とElements Gardenという2組にしか成し得ない空間が広がっている……と書いてみたが、まずはその庭に足を踏み入れ、心ゆくまで堪能してもらいたい。そこには一度入れば抜け出すことのできない、楽しく刺激的な音楽で溢れているのだから。
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