INTERVIEW
2023.11.22
今夏にアーティストデビュー10周年イヤーを無事に締め括り、11年目に突入した小倉 唯が、新たな刺激に満ちたニューシングル「Empty//Princess.」を届けてくれた。“小悪魔系”あるいは“地雷系”ファッションを彷彿とさせるビジュアルイメージも話題となっている本作は、これまであらゆるスタイルの“かわいい”を音楽活動で表現してきた彼女にとっても新しい挑戦になったわけだが、そこはやはり小倉 唯。どんな衣装であれ、楽曲であれ、見事に着こなしてしまう彼女にかかれば、最高にキュートで病みつきなナンバーになるのは必然だった。
最新トレンドも意識して作り上げられたウェルメイドな今回のシングル、そして12月13日にリリースされるライブ映像作品「小倉 唯 Memorial LIVE 2023~10th Anniversary Assemble!!~」について、そのこだわりをたっぷりと語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――改めて、アーティストデビュー10周年イヤーを駆け抜けた感想をお聞かせください。
小倉 唯 本当にホッとしたと言いますか、完走できて良かった!のひと言に尽きます(笑)。でも、それは私だけでなく、周りのスタッフさんやファンの方も一緒だったから成し遂げられたことだと感じていて。(10周年イヤーの最後の日には)久しぶりにワンマンライブ(“小倉 唯 Memorial LIVE 2023~10th Anniversary Assemble!!~”)を開催することもできて、やっとライブの現場が戻ってきたという感覚もありました。
――今夏はアニサマ(“Animelo Summer Live 2023-AXEL-”)にも出演されましたしね。そしてデビュー11年目、これまでの10年の経験を経て、ファンの方にどんなものを届けたい気持ちがありますか?
小倉 11年目だからこその変化というのは特別に意識していないのですが、皆さんの希望に応えたいという気持ちは昔も今も変わらずあるので、「みんなはきっとこういう私を見たいんじゃないかな?」という感覚は、デビュー当時よりも磨かれているように感じます。そういった意味では今回のシングルにも繋がってくるのですが、今の自分の年齢らしい等身大の表現を磨いていきながら、新しい伸びしろや可能性を見せていければいいなと思っています。
――ということは、今回のニューシングル「Empty//Princess.」も、ファンの皆さんが小倉さんに期待しているであろうものを踏まえて制作されたわけですか?
小倉 もちろんそういう部分もありました。さっきお話した10周年のアニバーサリーライブで、カップリング曲の人気投票の上位5曲をメドレー形式で歌う企画を行ったのですが、そこで1位と2位に選ばれたのが小悪魔的なダンスナンバーだったんです(1位は「ドキドキラビリンス」、2位は「ガーリッシュエイジ」)。実は私も以前から、そういうタイプの楽曲をシングルの表題曲で表現してみたいと思っていたので、今回はノンタイアップのシングルということもあってチャレンジしてみました。
――今回はビジュアル面も含めて小悪魔っぽい雰囲気が特徴になっていますが、それは小倉さん自身が挑戦してみたいテイストだったんですね。
小倉 そうなんですよ。ファンの方からも、ライブでのパフォーマンスを観て「こんな感じの表現をもっとしてほしい!」という声をいただいていたので、私も「きっと求められている部分があるんだろうな」というのは以前から感じていて。そういう方向性のMVも作ったことがなかったので、デビュー11年目にしてやっと実現することができました(笑)。
――今作のアーティスト写真が公開されたとき、今までにない感じだったのでびっくりしました。
小倉 実際、反響がすごく大きくて、既存のファンの方だけでなく、私のことを何となく知っている方たちからもたくさんの反応をいただいた感覚がありました。今回はノンタイアップのシングルということで、ビジュアルもちょっと冒険してインパクトのあるものにしたくて、楽曲の方向性にも合わせて、いわゆる“地雷み”のある女の子像にあえて挑戦してみたんです。これまでも雑誌の企画とかで、こういうメイクやファッションにチャレンジしたことはあったのですが、作品のコンセプトとしてここまではっきりと表現するのは初めてのことで。でも、実際にやってみたら、自分でも不思議と「意外としっくりくるかも?」と思えるフィット感があって、新しい自分に出会えた感じがして、個人的にもすごくお気に入りです。
――自分もめちゃくちゃ似合っていてかわいいと思います。楽曲自体も“小悪魔チック”をテーマに制作されたのでしょうか?
小倉 そうですね。サウンド的には、一度聴いたら病みつきになるような中毒性のあるメロディラインとダンスが映えるテンポ感、歌詞の方向性は少しトゲのある女の子像をベースに制作を進めました。楽曲はコンペでセレクトしたのですが、イントロの遊び心のあるアレンジも魅力的でしたし、楽曲の展開も今どき感があって、テンポは速いけどダンスも入れ込めると思ったので、あまり迷うことなくこの曲に決めました。
――楽曲の展開が今っぽいというお話もありましたが、この曲、1番と2番で展開がガラッと変わりますよね。
小倉 そうなんですよ。これまで自分の楽曲は王道の楽曲構成が多かったので、最初はどう表現するか悩んだ部分もあったのですが、最近はこういう楽曲が流行でもあるので、せっかくチャレンジするのであれば、振り切ってもいいんじゃないかと思って、新しい一歩として挑戦してみました。
――少し話が逸れますが、小倉さんは流行の音楽を意識してチェックしているのでしょうか。
小倉 私自身は、音楽のトレンドにすごく敏感というわけではないのですが、まさにこの楽曲と出会ったときに、「自分もちゃんと勉強しなくちゃ!」と思って、最近はどんな楽曲が流行っているのかを色々聴いてみたんです。そうしたら、この楽曲も今流行りの音楽の手法や作り方を押さえたものになっていることに気づいて。例えば、2番からメロディラインがガラッと変わるところもそうですし、2サビがなくて急に落ちサビにいく構成、途中でテンポが急に落ちるアレンジ、最後にいきなりそれまでになかったメロディが出てくるところは、自分にとっては斬新だったのですが、それも今の流行を踏まえた作りだったんですね。そういう今の時代を感じさせる楽曲に、自分も乗っていかなくちゃと思いました(笑)。
――作曲を手がけているYASUHIRO(康寛)さんとアオワイファイさんは、ボカロPとしても活躍されていて、今を感じさせるクリエイターさんですしね。でも、小倉さんもTikTokで流行りの楽曲に合わせて踊る動画をよくアップされているので、そういう経験も活かされているのでは?
小倉 確かに、今回の楽曲も振付はTikTokで踊りやすそうなものを意識して付けていただいたので、そういう意味では今回の楽曲に反映された部分もあるかもしれないです。今はTikTokがトレンドの主軸になっていますものね。
――歌詞は小倉さんとアオワイファイさんの共作ですが、どんな部分にこだわりましたか?
小倉 さっきお話した、トゲのある女の子像がベースにありつつ、どこか心に穴が開いていたり、虚しさや寂しさを抱えているけど、本当は愛されたいと思っている、ちょっと不器用な女の子、というイメージで制作していきました。タイトルの「Empty//Princess.」は私から提案させていただいたものなのですが、そこから想像が広がって、普段はプリンセスみたいにかわいく着飾っているけど、実は内面では悩みや苦しみを抱えている女の子の物語になっていきました。
――タイトルに入っているダブルスラッシュ(//)とピリオド(.)にはどんなこだわりがあるのでしょうか。
小倉 ダブルスラッシュは“エンプティ(Empty)”の部分をイメージしていて、心が空虚で空間や隙間が開いていることを見た目でも表現してみました。ピリオドに大きな意味はなくて、単純にバランスが良かったからですね(笑)。
――先ほど“地雷み”というワードも出てきましたが、パッと見は煌びやかだけど心に寂しさを抱えている女の子像というのは、いわゆる“地雷系”のトレンドにも繋がる印象があります。
小倉 そこは私もイメージしていました。それこそTikTokでも、こういう気持ちや世界観を描いた楽曲を最近よく見かけるので、私もちょっと挑戦してみたいなと思って。
――レコーディングではそういう女の子を意識して歌われたわけですか?
小倉 自分の心の中に“エンプティプリンセス”を呼んで、「私は空っぽのお姫さま」という気持ちで歌いました(笑)。その意味では声優としての経験も活かすことができたかもしれません。性別を問わず、きっと誰もが心のどこかに虚しさや寂しさを抱えていると思うんです。この歌詞で描かれている女の子は疑心暗鬼なところがあるので、私もそういう部分を自分の中で増大させて、この世界観に合う形で歌いあげました。
――小倉さん自身にも、この曲で描かれている女の子像に共感できる部分はあるのでしょうか?
小倉 ありますね。私は性格的に結構慎重派なので、その意味では人をすぐ信頼できるタイプではなくて。なので、役作りというのも変ですけど、この曲は表現しやすかったです。これはお芝居に関してもそうなのですが、個人的には楽観的な方向よりも、こういう性格のほうが作りやすくて。楽観的な方向の表現というのは、そういう素質がないと難しいということを、大人になるたびに感じます。
――そうなんですね。その他にも歌唱面でこだわったポイントがあれば教えてください。
小倉 この楽曲には“心の叫び”のような感じが終始あるので、そういう情動を上手く表現できればと思い、歌い方も丁寧というよりは、悲痛とまではいかないまでも心の叫びが感じられるように意識しました。この楽曲の女の子のちょっと斜に構えたところも、きっとデビューしたての自分では表現するのが難しかったと思っていて。そこは私自身が年齢を重ねてきたからこそ出せたニュアンスだと思います。
――2番のAメロではラップ風の歌唱になっていたりと、歌自体もかなり変化に富んでいて。
小倉 結構情緒が変わっていく雰囲気もあるので、そういうコロコロ変わるところも歌で見せられればいいなと思いました。特にラップの部分は見せ方が難しくて、色んなパターンを録って試したうえで、それを重ねてディテールを表現した部分もあります。久々の“おぐラップ”でもあったので、テイクを重ねてこだわりました。
――MVはどんなコンセプトで撮影されたのでしょうか。
小倉 衣装としては3パターンあって、まずアーティスト写真にもなっている衣装が1つ。この子は部屋の中で日々ネットや配信をしているという設定です。それとプリンセス要素をイメージしてかわいくドレスアップした衣装と、かっこいい系のルックでリップシンクとダンスをしているシーンを撮らせていただきました。どのシチュエーションもテイストは違いますけど、とてもかっこよく、かわいく撮影していただいて。サビの振付はいずれTikTokにもアップしたいなと思っているので、ぜひマネして一緒に踊ってもらえたら嬉しいです。
――カップリング曲のうち、「アステリア」はどんなテーマで制作した楽曲になりますか?
小倉 バラードを歌いたくて制作した楽曲になります。コンペで色んなタイプのバラード曲を集めていただいたなかで、この楽曲のテイストが私の好みということで選ばせていただきました。歌詞は鶴﨑輝一さんと共作で書かせていただいたのですが、鶴﨑さんからいただいた“星座”や“星”を連想させる「アステリア」というタイトルのアイデアが素敵だったので、そこから自分らしいワードや言葉のニュアンスをご提案させていただいて制作しました。大切なものとの別れを経験して、寂しさもあるけれど、そういった想いを噛み締めながら少しずつ前を向いていく、という楽曲になっていて。歌詞で描かれている人物を明言していないからこそ、別れや寂しい気持ちを感じている色んな人の救いになるような楽曲になればいいなと思います。
――歌詞の中で小倉さんのアイデアが活かされているフレーズは?
小倉 サビは自分のアイデアをかなり取り入れていただきました。寂しすぎる曲にはしたくなかったので、空を見上げながら、少しずつ前向きになっていくニュアンスを大事に、情景を浮かべながら書いてみました。楽曲のテンポ感を含めて、すぐに切り替えて前を向くのではなくて、じんわりと前を向いていく感じが表現できたんじゃないかなと思っています。
――小倉さん自身も、歌いながら別れの寂しさを思い出すことはありましたか?
小倉 そうですね。ペットとの別れもそうですし、家族を含めて、人は生きている限り別れを経験するものだと思うので、そういうときに寄り添える楽曲になればいいなと思っていて。自分の歌声で背中を押してあげたり、優しく包まれるような感覚になってもらえたらいいなと思いながら歌ったので。
――この楽曲の歌詞にある“溢れ出す きみの言葉はずっとね 私の宝物”というフレーズにかけて、小倉さんが“私の宝物”だと感じる思い出の“言葉”があれば教えてください。
小倉 えー!? たくさんありますけど、最近だと、それこそ10周年イヤーのときにファンのみんなからたくさんいただいた名言の数々が心に残っています。「気が早いですが、この先、20周年、30周年も付いていきます!」とか。その中でも一番響いたのが「唯ちゃんと同じ時代を一緒に過ごすことができて嬉しいです」というニュアンスの言葉を、複数のファンの方から言っていただいたことで。「なんて素敵な考えを持っているんだろう!」と思ってすごく嬉しかったのを覚えています。「自分がこの時代にこういう活動ができているのは1つの奇跡なのかもしれない」ということに気づかされて、すごく感動したし元気をもらいました。
――もう1曲の「トキメキWeekend!」は、小倉さんらしいキャッチ―なかわいらしさが詰まったポップチューンですね。
小倉 ライブ映えするような、アップテンポでかわいい楽曲をイメージして制作しました。歌詞の方向性は、これもTikTokとかの流行を意識しているのですが、いわゆる“推し”に会いに行く週末のドキドキワクワク感を、現代的なワードを使いながら描いた、遊び心のあるかわいい楽曲になっています。
――これは余談ですが、「Empty//Princess.」を小倉さん視点の楽曲として考えた場合、もしかしたら「推し変しないで!」というメッセージも込めているのかなと思ったのですが。
小倉 それは特に考えてなかったです。確かに“推し変”はしてほしくないですね(笑)。
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