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INTERVIEW

2023.09.18

TVアニメ『デッドマウント・デスプレイ』第2クールOPテーマ+くらりちゃんテーマソング+WWWシリーズ新作をコンパイル!水瀬いのり、ニューシングル「スクラップアート」は充実の1枚に。

TVアニメ『デッドマウント・デスプレイ』第2クールOPテーマ+くらりちゃんテーマソング+WWWシリーズ新作をコンパイル!水瀬いのり、ニューシングル「スクラップアート」は充実の1枚に。

水瀬いのり、通算12枚目のシングル「スクラップアート」は、アーティスト活動8年目を迎えてなお進化し続ける彼女の、また新しい一面を知ることのできる1枚となった。表題曲は、自身もヒロインの崎宮ミサキ役として出演するTVアニメ『デッドマウント・デスプレイ』第2クールのOPテーマ。作品のダークな世界観と水瀬自身が歌を通じて表現したいことを、栁舘周平が楽曲に落とし込んだ刺激的なナンバーだ。そして水瀬発案の公式キャラクター“くらりちゃん”のことを水瀬自身の作詞で描いた「くらりのうた」、表題曲と同じく栁舘が提供した“WWW”シリーズの第3弾「While We Walk」と、カップリングも充実。ツアーに向けての気合いも十分の彼女に、話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

「スクラップアート(=廃材芸術)」に込められた“愛”と“優しさ”の歌

――今回のニューシングル「スクラップアート」はTVアニメ『デッドマウント・デスプレイ』第2クールのOPテーマ。第1クールのEDテーマだった前作「アイオライト」とはまた違った趣きの楽曲になりましたね。

水瀬いのり 過去にTVアニメ『現実主義勇者の王国再建記』という作品で2期連続OPテーマを担当させていただいたことがあったのですが(「HELLO HORIZON」と「REAL-EYES」)、今回はEDテーマとOPテーマということで、作品に対する役割が違うのかなと個人的に思っています。「アイオライト」は、アニメ本編の混沌とした物語が終わった後のエンドロールとして、その30分の中で起きた目まぐるしいことをゆっくり消化させてくれるような、一旦深呼吸して余韻を楽しんでもらうようなテンポの楽曲だったのですが、今回は第2クールのOPテーマということで、今までよりも衝撃的な展開が増えて物語の核心に迫ることを表現できる楽曲、疾走感や強度があって、観ている人の気持ちを盛り上げられるような楽曲を目指して制作に向き合いました。

――まさにイントロからラストまで衝撃的な展開の続く、フューチャーコア的な要素を取り入れた楽曲になりました。今回は、これまでにも水瀬さんに多くの楽曲を提供している栁舘周平さんが作詞・作曲・編曲を手がけていますが、どのような経緯でお願いしたのでしょうか。前作「アイオライト」はコンペで決めたというお話でしたが。

水瀬 今回は栁舘さんに指名でお願いしました。栁舘さんとは元々ご一緒する機会が多くて、以前にも「アークナイツ」のイメージソング「クリスタライズ」を作っていただいたことはあったのですが、アニメのタイアップ曲ではまだ一度もご一緒したことがなかったんです。ただ、私の人間性を含めて、チームの表現したいことをとても理解してくださっていて、シンクロしている部分が多いので、いつかアニメのタイアップでもご一緒したいとチーム内でも話していて。栁舘さんは作品や物語を読み解く力に長けていて、なおかつ作品に寄り添うだけでなく、独自の視点やアイデアを楽曲に入れ込んでくださる方なので、きっと今回の『デッドマウント・デスプレイ』という作品にもマッチすると思いましたし、栁舘さんにしか見えていない世界観も表現していただきたかったので、基本的にこちらから具体的なオーダーはせず、自由に書いていただきました。デモの時点から素敵な楽曲だったのですが、そのときはメロディだけでシンプルだったのが、アレンジ案をいただく度に「これはまとまるのかな?」という感じになっていって(笑)。でも、最終的にきっちりまとめるのがすごいなあと思いました。

――これまでの信頼関係があってこそですね。そのデモの時点で歌詞も付いていたのですか?

水瀬 全然出来上がっていなくて、すごいラフな感じというか、ボーカロイドみたいな機械の歌声が「お寿司食べたい」みたいなことを歌っている仮歌が付いていました(笑)。最初は空耳かな?と思ったんですけど、どう聴いてもサーモンとかトロとかネタのことを歌っていて。そのときの栁舘さんの気持ちだったのか、追い詰められていたのかはわからないですけど、それでも良い曲だということはわかったので、すごいなあと思いました。

――そのバージョンもぜひ聴いてみたいですけどね(笑)。そのような制作過程を経て完成した楽曲を聴いたときの印象はいかがでしたか?

水瀬 とても衝撃的でした!栁舘さんの楽曲にはいつも深いものがあるのですが、3分弱という短い時間の中に受け止められないほどの物語を感じて、一時停止をする余裕もなかったですし、“聴いた”というよりも“浴びた”という感覚でした。一度聴いただけでは聞き逃してしまうメッセージがたくさん含まれていて、本当に何回も繰り返し聴いたのですが、そうするとだんだん“愛”や“優しさ”が潜んでいるのが見えてくるんですよね。栁舘さんはそういう“わかる人にはわかるポイント”を隠して入れるのが上手で、ファン心理をくすぐるなあと思いながら聴いていました(笑)。

――タイアップ作品との寄り添いという意味では、どんなところにそのポイントを感じますか?

水瀬 やっぱり“制裁か 救済か”というフレーズは一番印象的だと思います。主人公のポルカくんが行っていることが“制裁”なのか“救済”なのかは難しいところで、彼にしてみると優しさからくる選択ではあるのですが、そこは観る人側に委ねている部分があって。それと1Aの歌詞にある“遠くの雷鳴が幽かに響く”は、耳で聴くと“微か”という意味なのかと思いきや、歌詞を読むと“幽か”と表記されているところや、“魂―こころーに触れて”というフレーズも、『デッドマウント・デスプレイ』らしいなと思いました。“目に見えないもの”の表し方が作品に沿っていると思いますし、それはポルカくんにしか見えないものだけど、そんな彼だからこそ救えるものがあるということが、表現されているように思いました。

――プラスして水瀬さんの楽曲という意味でのメッセージ性も含まれているように感じられました。

水瀬 私もそう感じました。私は去年にリリースした4枚目のアルバム『glow』で“ありのままの自分を大切にしよう”というコンセプトを掲げていたのですが、前作の「アイオライト」と今回の「スクラップアート」は、ビジュアルや表現の仕方は『glow』と全然異なるんですけど、発信しているメッセージには通じている部分があると思うんです。「スクラップアート」の歌詞に“君がどんなに錆び付いて 未来を歪めようとも 正しさの逃げ場所を世界が奪うなら ⼿を離さないよ”とあるのですが、そこは姿形に捉われず心を見ている感じがして、ハードな楽曲なんですけど、ちゃんとそこに“愛”や“優しさ”を感じることができて。そこは私が自分の中でブレずに歌っていきたいことでもありますし、今回歌っていてもジーンときました。

――「スクラップアート」というタイトルもその表れですよね。“スクラップ”は一般的に不要なものとみなされますが、見方によってはそれが“アート”にもなり得るっていう。

水瀬 そうなんです。歌詞に“汚れが混ざって光ったよ”というフレーズがあるのですが、自分が生きてきた時間や経験の中で生じた傷や汚れ、錆びみたいなものが、誰かにとっては光になるかもしれないし、それって他の人にはマネできないものじゃないですか。人工物ではなくて、自分が今まで生きてきたからこそ出来上がった一点ものというか。そういうところが素敵だなと思って、心がすごく温かくなりました。

――確かに、他人から外圧的に押し付けられたのではない、自分だけの価値観を信じる心持ちが、この楽曲からは感じられます。

水瀬 本当にそうだと思いますし、誰かにとって不要で手放されたものであっても、また輝くことができるというのは、すごく救いでもあると思うんです。『デッドマウント・デスプレイ』の登場人物たちも、ちょっと普通ではない境遇のはみ出し者が多いですけど、社会からはぐれてそのまま終わるのではなくて、そんな人たちが集まってそれぞれの役割を見出すことで、その人にしかできないことをやっていて。まさに「スクラップアート」だなと感じています。

――レコーディングではどんなことを意識して歌いましたか?

水瀬 今回はものすごく生命力に溢れた感じで歌うというよりも、「届く人に届いたらいいな」くらいの気持ちで歌いました。もちろんもっとかっこよく歌ったり、ニュアンスをたくさん散りばめて圧の強い感じに歌うこともできたのですが、栁舘さんがディレクションしてくださるなかで、「スクラップアート」は“廃材芸術”ということもあって、今回はそういう味や雰囲気を出すために、自分の感情や気持ち、言葉の持っている意味を優先して歌うように心がけました。

――確かに楽曲としてはアップテンポで派手な印象ですが、歌い口はあくまでクールかつ優雅さが感じられて、そのギャップ感もこの楽曲の魅力の1つだと思います。

水瀬 ありがとうございます。“どうしてここにいるの”というフレーズがたくさん出てくるのですが、そこは本線のキャラクターとはまた違うキャラクター、自分の中のもう1人の自分が心の中に問いかけてきて、自分の居場所を見つけていく、というストーリーを頭の中で考えながら歌っていて。最後のフレーズに近づくにつれて熱さが感じられるように変化を付けるようにしていました。それとサビは高い音が続くのですが、今おっしゃってくださったように、優雅というか余裕のある感じで歌えたので、そこは自分でも歌っていて気持ち良かったですし、高いところから手を差し伸べるような、概念的な存在を歌声でも表現できたような気がしていて。今までの私の歌は「一緒に隣にいる」という感じが強かったのが、今回はそういった人間味ではなく、ミステリアスな感じも含めて何かを超越した感じをサビの辺りで表現できた気がしています。その得体のしれない感じも、この楽曲らしさになったと思います。

――それとこの楽曲、歌だけでなく、水瀬さんの声の素材も色々入っていますよね。

水瀬 そうなんです。レコーディング当日、本線の歌を録り終わって、ハモリやコーラスを歌う前に、栁舘さんから「ちょっと声の素材を録らせてください」と言われて、2番のAメロ前のところに入っている咳払いとか、2ヵ所くらいで使われている走っているときの「ハッ、ハッ」みたいな息とかを収録しました。栁舘さんの楽曲ではセリフとかを録ることが多いので、その意味では慣れっこではあったのですが、これがこの楽曲にどうハマるのか全然想像がつかなかったし、結構恥ずかしい思いをして録ったので、「これ、ボツになったら怒りますよ」って言いました(笑)。でも、ちゃんとかっこよくなっていました。

――MVの撮影エピソードも聞きたいのですが、今回は楽曲の世界観にマッチしたかっこいい映像に仕上がっていますね。

水瀬 レーザーやCGを駆使した映像で、撮影も今までにないものになりました。機械的な表現が多いので、温かさよりも冷たさが感じられるなか、“アイを識る”という意味で前向きな表情もたくさん撮っていただいて。特に印象的なのは廃車の前で歌うシーンで、とにかくたくさんのレーザーが飛び交っているのですが、あれは合成ではなくて実際にレーザーの機械を使って撮影したんです。撮影のときは私も把握しきれていなかったので、出来上がった映像を観て「こんなにレーザーがあったの!?」ってびっくりしました(笑)。

――水瀬さんのスタイリングも、黒い衣装と青系の衣装の2パターンあって、どちらも新鮮でした。

水瀬 今回は「スクラップアート」にちなんで、素材の異なるパーツのレイヤーを色々と重ねた衣装をスタイリストさんが考案してくださって。1着目の黒色の衣装も、ベストは切りっぱなしのつぎはぎっぽい感じなんですけど、足元は普通のブーツだったりして、上下でのテンション感の違いも含めて、「スクラップアート」を表現できたと思います。それとヘアスタイルも、前髪を流して分けるのは、MVやジャケットの撮影では今回が初めてで、改めてかっこよさや強さをビジュアル面でも表現できたのかなと思って、すごく気に入っています。

公式キャラクター・くらりちゃんの歌から見える、水瀬いのりの意外な内面?

――シングルのカップリング曲についてもお聞かせください。まず「くらりのうた」は、水瀬さんが考案したオリジナルキャラクター・くらりちゃんのイメージソング的な楽曲です。

水瀬 くらりの曲を作ることになったのは、プロデューサーさんの提案だったのですが、私はくらりがここまで皆さんにかわいがってもらえるキャラクターになるとは思っていなかったので、「えっ?くらりの歌?」と思って(笑)。キャラクターとしては皆さんに浸透しているのですが、そもそもしゃべったこともないから、まだ声もないですし、そんなに設定も考えていなかったので、意外とすっからかんだったんです(笑)。でも、自分が生み出したキャラクターなので、歌詞は自分で書くのがいいだろうなと思って頑張りました。

――自分で作詞するのは2020年の「Starlight Museum」以来なので、結構久々ですよね。

水瀬 そうなんです。作詞は出来上がったら楽しいけど、やっぱり産みの苦しみみたいなものは毎回感じていて、心に余裕があるときや自分から「書きたい」と思えるときに向き合いたいと思っていたので、今回のように突然書くことが決まるパターンは初めてだったんです。でも、くらりの設定を全然決めていなかったことが逆に良くて、どっちの方面にも振ることができるし、可能性も無限大の状態だったので、思っていたよりもスラスラと書くことができて、1日で完成しました。自分の気持ちを書くのは苦手なのに、キャラソンだったらめっちゃ書きやすい!みたいな(笑)。自分でも驚きましたけど、すごく楽しかったです。

――くらりちゃんがどんなキャラクターなのかが伝わる内容になっていますよね。海で気ままに浮かんでいたりして。

水瀬 そうですね。私の理想のくらり像を書いていて。意外と冗談を言う子で、ちょっとお茶目なところがあったり、夢見がちで1人語りが好きそうな……まあ、ほぼほぼ私なんですけど(笑)。私が普段なかなか出せない私の内面みたいなものを、くらりにはこれから背負ってもらおうと思っていて。なのでちょっとロマンチストというか、物思いにふけるような感じもありつつ、とてもかわいくできたかなと思います。

――それは結果的に、くらりを通して自分自身のことも書くことができたということじゃないですか。

水瀬 確かに。くらりを借りて内面を映してしまった部分もあるかもしれません(笑)。

――曲調的にはまったりした雰囲気で、メルヘンチックな音色がふんだんに使われていますが、この楽曲はコンペで選んだというお話ですよね。

水瀬 そうなんです。テーマが「くらりの歌」ということで、「何を言っているんだろう?」という人もきっと多かったと思うのですが(笑)、皆さんが少ないヒントの中から、くらりがどういうキャラクターなのかをたくさん考えて楽曲に落とし込んでくださって。我が子のテーマソングのためにプロの人たちが全力で楽曲を書いてくださったことを本当に感謝しながら、皆さんが思う“くらりソング”をたくさん聴かせていただきました。

――その中で、水瀬さんとは今回が初顔合わせとなる⾦⼭秀⼠さんの作られた楽曲を選んだ決め手はどこにあったのでしょうか?

水瀬 もうイントロから、くらりの能天気さが垣間見えましたし、他の楽曲も含めて海らしさを表現した楽曲がたくさんあったなかで、これがいい意味で1番アホかわいかったんですよね(笑)。すごく抜けてて、周りをまったく見ていない感じと言いますか。「くらりはくらり」という確固たる意思を持ちながら、波に任せて海をさまよっている感じ。そういう“軽さ”を感じて、「これじゃん!」ってなりました。

――歌うときは、くらりをイメージして歌ったのでしょうか?

水瀬 それが結構難しくて。自分名義の歌になりますし、“くらりのキャラクターソング”といってもくらりにはまだ声がないので、“私が歌うくらりのイメージソング”というイメージで歌いました。でも、いつもよりもかわいらしく、ウィスパーに合うような歌い方にはしました。泡の弾けるような音のコーラスも入れたりして、すごくかわいい楽曲になったなと思います。ライブで披露するときは、光るくらりのグッズを身に着けて歌おうと思っていて。どんな景色を見られるのか、楽しみです。

次ページ:栁舘周平との“WWW”シリーズが描く出会いの神秘、そしてツアーの挑戦に向けて

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