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INTERVIEW

2023.08.25

TVアニメ『ライザのアトリエ』EDテーマ「アロー」が貫く“始まりの景色”と“果て”への意識――Awkmiuが初アニメタイアップにかけた想いに迫る

TVアニメ『ライザのアトリエ』EDテーマ「アロー」が貫く“始まりの景色”と“果て”への意識――Awkmiuが初アニメタイアップにかけた想いに迫る

25周年を迎えた「アトリエ」シリーズの看板作品をTVアニメ化した『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』。そのEDテーマ「アロー」を担当する新進気鋭の4ピースバンド・Awkmiu(オークミュー)が、初のCD作品となるEP『アロー』をリリースした。アニメタイアップは今回が初めてながらも、爽快感のあるバンドサウンドと心に真っ直ぐ届く歌声で『ライザ』の世界観を見事に表現した本楽曲は、バンドにとっての「始まりの曲」というイメージもあったという。4人での新しい一歩を踏み出したばかりのシキ(vo)、Aki(key)、カヤケンコウ(b)、関根米哉(ds)に、本作に込めた想いを聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

4人が出会ってAwkmiuというバンドになるまで

――今回のタイアップで初めて皆さんのことを知った方が多いと思うので、まず、Awkmiuがどんなバンドなのかを教えていただきたいです。

シキ ……2時間くらい考えてから答えたいですね(笑)。今の体制になってから1年弱、バンド名を変えたのが半年前なんですけど、「(バンドの)キャッチコピーみたいなのが欲しいよね」と言いつつ、まだはっきりしたものがないんですよね。でも、邦楽の王道ど真ん中を軸足に置きつつ、相反する概念というのも大事にしていて。暗いけど明るかったり、新しいけどどこか懐かしい。どんな楽曲をやっても「Awkmiuっぽいよね」と言われる地点を探している最中です。

――楽曲クレジットを見ると、作詞はシキさん、作曲はシキさんとバンドのダブルネームになっていますが、楽曲はどのような行程で制作するのですか?

シキ 最初のデモは自分が作って、そのイメージをみんなに共有してからは、みんなで考えていく感じですね。最近はその作業、みんなの行き先が一致するまでのスピードが速くなってきた気がしていて。

関根米哉 そこで(楽曲に)ギャップが加わる感じですね。アンサンブルで裏切ってみるとか、シキちゃんのデモからさらに演出を強調していくイメージというか。そういうやり方を経て、だんだんバンドの空気感が統一されてきたように思います。

――先ほどこの体制になって1年弱というお話がありましたが、関根さんとAkiさんはそのタイミングでバンドに正式加入したんですよね。

関根 はい。彼(Aki)は前身バンドの頃からスタッフ兼サポートメンバーだったんですけど、僕はレコーディングエンジニアとして関わっていたんですよ。で、前のドラマーが辞めたときに、「一緒にやろうよ」と言ってバンドに加わったんです。なのでお互い視点が違うんですけど、それによって今のギャップの要素が出来上がったんですよね。なので俺たちが新しく加わったことで、まず1つのゼロイチが行われたイメージで。そこから常に進化を目指してやっているので、今はまだバンドの特徴をひと言では説明しにくいんですよね。

――関根さんはこれまでにも色んなバンドに参加してきたなか、このバンドに加わったのは、何か惹かれるものがあったからなのでしょうか。

関根 シンプルにぶっちゃけると、レコーディングで関わっていた頃から、めちゃくちゃいいバンドだと思っていたし、俺がドラマーとして加わったら絶対にもっと良くなると思っていたんですよ。要は「もう一回バンドやりたいな」と思わせてくれたんですよね。

シキ 褒めタイムだ(笑)。でも、経験がものをいうことってたくさんあるし、バンドが新しくなった感じがしたので、本当に入ってくれて良かったです。

――この間、シキさんがラジオ番組「Awkmiuシキのオールナイトニッポン0(ZERO)」でメンバーについて語っていましたが、そもそもはカヤさんがシキさんに声をかけてバンドを始めたんですよね。

カヤケンコウ はい。僕は元々、高校のときにバンドをやっていて、大勢の人たちの前で演奏したい気持ちがあったんですね。で、大学に進学してまたバンドやりたいなと思ったときに、すごいボーカルがいるっていう噂を耳にして。で、サークルでたまたま一緒にコピーバンドを組む機会があったときに、本気でバンドをやりたいなと思ったので誘ったのが5年前のことでした。青春って感じでしたね(笑)。

シキ その当時、私の中ではバンドを組むという発想がなかったので、カヤくんが誘ってくれなかったら絶対やってなかった。

――で、Akiさんは最初、マネージャー的な立ち位置で関わっていらっしゃったとか。

Aki カヤがサークルの後輩だったんですけど、バンドのマネージャーを募集しているっていう話だったので、すごく軽い気持ちで引き受けたのが、2019年頃のことで。そうしたらいつの間にかどっぷり浸かってしまって4年が経ちました(笑)。途中から「キーボード弾けるなら弾いてよ」「じゃあメンバーになってよ」ってズルズルと引き込まれ……。

シキ でも、かたくなに「メンバーにはならない」って言っていた時期が長くて。分単位で言うと米哉さんのほうが先に入ったんです。

関根 そう。俺が入るときに「やりなよ」って言ったら「じゃあ」って。

Aki 流されがちなタイプなので。

シキ いやいや、3年もかかったよ!(笑)。

Aki でも、やるからにはちゃんと成功したい気持ちがあったし、この人たちと一緒にやれば成功する自信もあったので、時間はかかりつつも一緒にやっていく決断ができました。

“未来を貫くほど強い理由”――『ライザ』とバンドの共鳴が生んだ「アロー」

――今回のEPの表題曲「アロー」は、TVアニメ『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』のEDテーマ。楽曲を書くにあたって作品のどんな部分に寄り添おうと考えましたか?

シキ (原作の)ゲームとアニメのシナリオに触れたうえで曲を作り始めたんですけど、楽曲に直結する部分が2つあって。1つはゲームの舞台になっている島(クーケン島)の景色。すごく自然に溢れた場所だけど、ただ海や森があるだけではない独特の雰囲気、透明度の高い夏みたいな感じが印象的だったので、それがイントロから伝わる感じにしたかったし、楽曲全体を通してその景色が見えるように意識しました。

――もう1つは?

シキ とにかくライザ(ライザリン・シュタウト)がポジティブで、あんなに毒のない主人公の作品ってあまりないなと思っていて。だからEDテーマを聴いた人が前向きにその先を感じられるようなものにしたくて。あと、ゲームの最後はライザたちが旅を終えて、一旦バラバラの道を進む展開になるんですけど、多分、彼女たちはどこにいっても一緒に過ごした景色を忘れることはないと思ったんですね。それはバンドをやっている自分たちにも重なるから、離れたとしても同じ方向を向いていることを感じられる締めになればと思いました。これが自分たちにとっての「始まりの曲」というイメージもあったし。

――カヤさんも原作ゲームをプレイしたと、SNSでつぶやかれていましたね。

カヤ タイアップのお話をいただいてから、最初は楽曲のイメージを掴もうと思ってやり始めたんですけど、めちゃくちゃ面白くて、4日間くらいぶっ続けで睡眠時間を2~3時間まで削ってやり続けてしまいました(笑)。やり込み要素があるんですけど、カンストするまで素材を集めて錬金しまくって。

シキ こっちは鬼の形相で曲を作ってたのに、めっちゃ楽しんでたから「こいつ……!」って思った(笑)。

カヤ しかもアニメは、ゲームで見た景色がそのまま再現されているのが良くて。錬金のシーンがあるんですけど、そこはゲームから追加されている部分が多いのもいいし、ライザが「できた!」っていうシーンがゲームの画面とそっくりなんですよ。それを観た瞬間、「うわーっ!」って感動して。

シキ 今日イチでテンション高いね(笑)。

――楽曲のアレンジに関しては、どんなことにこだわりましたか?

Aki 風景の美しさや瑞々しさを感じたので、それを楽曲に反映しつつ、それだけでは物足りないので、そこにワクワクさを足すように意識してアレンジしました。

関根 あとは前に進む感じが欲しいけど、とはいえエンディング然としたテンポ感にする必要もあったので、その工夫がバンドのレベルアップに繋がったと思います。僕のこだわりは、Bメロにフルートを入れたことですね。(シキは)いいBメロを書く人なんですよ。ちゃんと王道に落とし込む人なので、憂いのある作曲ができるタイプなんですけど、そのBメロの部分でフルートが入ることで、楽曲の世界観に引っ張られる感じになればいいなと思って。

シキ ちなみに「オールナイトニッポン0」で米津玄師さんのコード進行がいいっていう話をしたんですけど、この曲のBメロは、あれと同じ転調の仕方なんですよ。

関根 あとは最後のDメロの合唱になる部分ですよね。あれもシキちゃんらしさが出ているところで。ああいう明るいだけではない広がりを表現できるのがすごいし、みんなが遠くに離れたとしても、見ているところは一緒ということが体現されているなって思います。

――あのDメロが最後にあることで、アニメのエンディング自体も希望のある終わり方をしますよね。

関根 それで言うと、この曲のMVは佐渡島で撮影したんですけど、シキちゃんが1人で映るシーンが多かったので、その間に、残りのメンバーで最後の演奏シーンのセッティングをしたんですね。で、日暮れギリギリのときにシキちゃんが合流して、そのときにすごくテンションが上がったんですよね。

シキ あのとき、すごく嬉しかったよね。

関根 そう。感動しちゃって。元々は(シキとカヤの)2人がバンドをやっていたなかに、俺たち(関根・Aki)が入ってきたけど、MVでは逆に俺たち(カヤ・関根・Aki)が待っているところにシキちゃんが加わって、最後にあのDメロがあるっていう。ライザたちは別々の道を行くけど、俺たちはここからっていう意味にもなるし、そこは作品との接続点にもなったと思うんですよね。まさか、あんなにもエンディングの映像とリンクしたものになるとは思わなかったし。

シキ エンディングの映像を観たら「MVと同じじゃん!」と思って。

――ちなみに曲名の「アロー」にはどんな意味を込めたのでしょうか?

シキ これは1サビの“未来を貫くほど強い理由”というフレーズと、ライザの仲間になるクラウディア(・バレンツ)の武器が弓矢なので、そこからのイメージもあります。このEP全体のテーマでもあるんですけど、始まりがあって、今があって、未来があるし、それはいつでも一直線にあるものだと思っていて。「始まりの景色」って何回も思い出すものじゃないですか。それこそ私たちも、バンドを組んだときのこととか、この楽曲を作ったときのことをこれから何回も思い出すだろうし、先に進んで見える景色が増えるほど、そういう始まりの景色はすごく懐かしくてキラキラしたものになるイメージがあるんですね。ライザたちも、錬金術と出会ったり、それぞれの大事なものを見つけたときのことを何度も思い出すだろうし、それが大事だからこそ“未来を貫くほど強い理由”になるんじゃないかなって。どの楽曲の場合も、自分が見ている景色で書いているんですけど、今回はライザと同じ場所にいて書いているイメージが強かったですね。

前身バンド時代の楽曲のリアレンジから見えてくる“Awkmiuらしさ”

――今回のEPには全5曲を収録していますが、個人的には他の楽曲も「アロー」と同じように、自分なりの理由を信じて前に進むことを歌った曲が多いように感じたんですよね。例えば、「1089」は“噓吐き”と呼ばれたとしても自分の“ユートピア”を目指す歌ですし、「Mr.Crier」では絶望や不安を抱きつつも“大丈夫、まだまだ飛べるから”と歌っていて。

シキ このEPに入っている5曲に限らず、歌詞を書くときは、ただ暗いだけで終わるのではなく、聴いた人に希望が残ることを意識しているんですけど、最近、曲を書いていて思うのは、自分の根底にある希望って相当真っ直ぐなんですよね。例えば、噓偽りない心で人と向き合うとか。「Mr.Crier」は3年前に書いた曲なので、今歌詞を読むと「何言ってるんだ?」って思うんですけど(笑)、昔から希望を書こうとすると、自然とひねくれない希望になって。本当はもうちょっと遊べるようになったほうがいいと思うんですけど。

――でも、それがシキさんの個性とも言えるわけじゃないですか。

シキ もちろん違う言葉で言っているけど着地点が一緒なのは悪いことではないし、一貫していていいと思うんですけど、もうちょっと上手く扱えると、もっと幅の広いものの言い方ができるはずなので。そこは今の課題ですね。ただ、そうやって一貫していることを感じてもらったのは、実際にそうだからだと思います。自分が今置かれている状況的に、後ろを振り返っている暇はないし、そういう精神性が楽曲にも出ていると思うんですよ。今は歌詞を書いていてもガッツに溢れすぎているなって思います(笑)。

――ちなみに「Mr.Crier」「1089」「そこから」は前身バンドの時代からの持ち曲ですが、改めて今回のEPに収録しようと思ったのは?

シキ 周りの方たちが褒めてくれたからです(笑)。

関根 さらに言うと、「1089」は僕が入った後の初めてのワンマンでやったんですけど、それまでライブでやったことがなかったらしいんですよ。で、ライブでやってみたら見え方が変わって、色が付いたんですよね。きっとこの曲がAwkmiuぽかったんだと思います。

シキ うんうん。前のバージョンはあまり引っ掛かりがなかったんですけど、今はギターのサポートが入ってくれたことで、いい意味で引っ掛かりのあるアレンジになって。こういう4つ打ちの曲もあまりなかったし。リアレンジされずに眠っている曲がたくさんあるんですけど、今回のEPに収録した3曲は、透明度があるし、今のバンドの鋭さみたいなものをちゃんと反映できる曲っていう感じがして。リアレンジすることによって、今の感性でより良くなる幅が大きかったっていうか。

カヤ これから感性が進んでいくなかで他の楽曲のリアレンジもやっていくかもしれないけど、今出したいのはこれかなっていう感じです。

Aki さらに言うと、「ライブでやりたい曲」という観点で再録する曲を選んだ節もありますね。

シキ だからまだ模索中っていう感じなんですよね。今回のEPも、Awkmiuとして書いたのは「アロー」と「dice」の2曲だけで。このEPの前に3曲発表しているんですけど、そのうちの1曲(「color」)も前からある曲なので、まだ見えきっていないのが正直なところですね。

カヤ ただ、米哉さんが入ってから楽曲が洗練され始めていて。

関根 いやいや、そんなことないですよ~。

カヤ いや、これはちょっと言わせてほしい(笑)。これはベースとドラムで近い位置にいるというのもあると思うんですけど、ベースにしてもノリ方とか技術的な部分が整理されてきた感じがしていて。今回再録した曲も、骨組みを見直したりしたことで、レベルアップというか新しくなった感覚があるし。

シキ 私はゼロイチの人なんですけど、米哉さんは「1」を「100」にする人なんですよね。しかも自分に対しての理解度が高いから、「1」を「350」くらいにしてくれるんですよ(笑)。だからこそ自分はゼロイチの作業に集中できるし、「1」を「100」にすることに関しては、みんなに投げて一緒にやったほうが絶対にいいものになる。

関根 それも才能の問題で、今は全部やりたい人が多いじゃないですか。そんななかで、「みんなでやった方が楽しくね?」っていうボーカリストはマジでバンドマンにとっては最高ですよね。Awkmiuになって何が変わったかというと、めちゃくちゃバンドになったんです。だからAwkmiuをひと言で説明するとしたら「バンドです!」って言いたいけど、それは許されないので(笑)。

シキ わかってるわ!っていう(笑)。

バンドの転機となった楽曲「dice」に込められた“果て”への意識

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