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INTERVIEW

2023.08.09

ニノミヤユイが“ヒロイン”として輝く舞台とは――“脇役(モブ)”を描いたコンセプトミニアルバム『本壊』に込められた複雑な愛と感情に迫る

ニノミヤユイが“ヒロイン”として輝く舞台とは――“脇役(モブ)”を描いたコンセプトミニアルバム『本壊』に込められた複雑な愛と感情に迫る

反骨精神に満ちたロック、“病みカワ”をイメージしたふわふわソング

――2曲目「運命論」のコンセプトは“日の目を見ないヒーロー”。どんな思いを込めて制作しましたか?

ニノミヤ 「“じゃない”方」というコンセプトで何があるかを考えたときに、パッと浮かんだのがヒーローものだったんです。戦隊ものの赤色みたいに圧倒的主役がいるということは、それになれなかったヒーローもいっぱいいるということで、圧倒的主役がいる物語にも「“じゃない”方」の物語がたくさんあると思うんです。なのでヒーローだけど赤色になれなかった人、主人公属性を羨むような気持ちを、ロックな楽曲で真っ直ぐに表現しました。

――作曲は本多友紀(Arte Refact)さんですね。

ニノミヤ この曲も実はコンペで選んだのですが、作った方がどなたかわからない状態で「絶対にこれがいい!」と思って選んだら、本多さんでびっくりしました。思わぬところでご一緒できて嬉しかったです。この曲はすでにリリースイベントでも歌っているのですが、ライブバージョンの反響がすごくいいんです。自分でも歌ってみて、ライブ映えすることを感じましたし、作っていく中でも、最初の状態と完成版を比べたときに、ギターとベースのギュインギュイン具合いが倍増していて(笑)。疾走感のある強めのロックをやりたかったので、結果的にライブ映えする曲になって良かったです。

――この曲も歌詞はニノミヤさんがご自身で書かれています。

ニノミヤ ゴリゴリのロックだったので、逆に歌詞を乗せやすかったですし、日本語で貫き通したかったので、硬めの漢字をたくさん使うようにしました。この曲も語感が良くて、単語が立つようなメロディがたくさんあったので、そこに言葉をハメていくのが楽しかったです。

――歌詞の内容に目を向けると、この楽曲も“日の目を見ないヒーロー”と言いつつ、まだ諦めていないところがありますよね。

ニノミヤ 今回、「Another」と「運命論」の2曲は反骨精神が剥き出しなんですよね。ヒーローになりたい人というのは、基本、意志が強い人が多いと思うのですが、だからこそ、主人公属性の人に対して羨む気持ちや悔しさを感じると思ったので、この曲も強気でいきたいイメージがあって。私が書いたこのヒーローは真っ直ぐではないかもしれないけど、強い想いがあるからこそ頑張ろうと思うのが、私の中のヒーロー像でもあるし、「頑張っている姿がかっこいい」というのが裏テーマとしてあったので、がむしゃらなイメージで書きました。

――「運命論」というタイトルですが、この曲の主人公は最終的に自分の“運命”を塗り替えようとしているのがいいですよね。

ニノミヤ そう。やっぱり自分の手で変えていくことが大切だと思うんですね。私はロックが好きなのですが、ロックは自分自身で切り開いていく、既存のものを壊していくメッセージ性がかっこいいところだと思っていて。ここまでかっこいい曲をいただいたからには、締めはかっこよく終わりたい、ロックで終わりたいと思って……これが私のロックです(笑)。

――歌うときもロックスピリッツを意識して?

ニノミヤ そうですね。ちょっとやさぐれた感じにして、きれいに歌いすぎないことを気を付けました。

――そんなロックな楽曲から一転、“友達の友達”をコンセプトにした3曲目「主役のあの娘は友達」は、かわいらしい雰囲気の楽曲ですね。

ニノミヤ キラキラした曲調は自分のイメージに遠いということで、ニノミヤユイでは避けてきたのですが、今回はコンセプトが一貫してあるからこそ、そういう曲調でもニノミヤユイの世界観をちゃんと構築できるのではないか、という実験的な意味合いが強い楽曲で。なので、この曲は自分でも異色という認識を持ちながら作りました(笑)。

――作詞・作曲・編曲は、ボカロ・UTAU系クリエイターの青谷さんが担当されています。

ニノミヤ 青谷さんに直接お声がけさせていただいて、最近よく言われる“病みカワ”的なイメージをテーマに作っていただきました。青谷さんとは最初にビデオ通話で自分のイメージをたくさんお伝えしたのですが、そのときは「なるほど」と考える感じだったので、「あ、色々言いすぎてしまったかも……」と思ったんですけど(苦笑)、後日、送っていただいたラフがイメージ通りだったのですごいと思って。普段はボカロPとして活動されている方なので、語感も独特で、サビも同じ言葉が繰り返されていて、そのキャッチーさも相まってかわいいなと思いました。

――青谷さんの音楽には以前から触れていたのですか?

ニノミヤ 元々ボカロ好きなので何曲かは聴いたことがあったのですが、今回、お願いするにあたって全曲を一気に聴かせていただいて。キャッチーだけど不思議なメロディを書かれる、不可思議な雰囲気を出すのが上手な方という印象がありました。その雰囲気が、この曲でやりたかった、ちょっと浮世離れしている女の子のイメージに合うと思ったので、ご一緒できて良かったです。

――確かにどこか浮世離れした感じで、歌のアプローチもふわふわ可憐な印象です。

ニノミヤ 私は普段、強く真っ直ぐ歌うことが好きなので、声を張って歌うことがほとんどなのですが、この曲はほぼ真逆のことをしていて。か細くふわっと浮いているイメージで歌ったので、今までやったことのない感じすぎて、「これで大丈夫なのかな?」という気持ちもありました(笑)。それとこの曲、音が高いところがあったり、息継ぎも難しくて、単純に歌うのが大変なんです。でも新鮮で楽しかったです。

――これは個人的な解釈ですが、自分の中で自問自答しているような雰囲気も感じました。

ニノミヤ まさに。仮歌詞をいただいたときに、ほぼ直すことはなかったのですが、私から「歌詞の毒の部分が外側に向かないでほしい」とお願いしたんです。毒が外側に向くと攻撃性が強くなりすぎると思ったので、自分に向ける感じ、内省的な感じにしてほしくて。まさに自分の中の世界という感じです。

――そういった内省的な女の子のイメージは、どのような発想から生まれたのでしょうか。

ニノミヤ これは私自身もそうなりがちなのでわかるんですけど、最近、同世代の子や年下の子とお話していると、すごく気遣いができて優しいけど、自分の優しくない部分が自分の内側に向いている子がすごく多いなと思うんです。自分に厳しい子とか、必要以上に色々考えてしまう子、外側はふわふわして優しい感じがありつつ、内側ではすごく葛藤している子が多いし、TikTokとかを見ていても、最近は自分攻撃型の音楽が増えていて。そういう悩みを抱えている子に向けて、「わかるよ」と言うのはおこがましいかもしれないですけど、曲調を含めて表現してみたい気持ちがありました。

――確かに、今の若い子は繊細で、人当たりはいいけど自分の中に何かを抱えてしまっている人が増えた気はします。

ニノミヤ それこそSNSで「これはしちゃいけない」とか「これをやると叩かれる」とかを考えている子も多いと思いますし、社会全体として規則を守る意識がすごく高くなっているイメージがあって。私は今21歳なのですが、私よりだいぶ上の世代の人とお話していると、昔は全然違ったことを実感することが多いんですね。「昔はみんな普通に制服でお酒を買ってた」とか「そういうのが許された時代だからね」みたいな話を聞いたりして(笑)。今は違反している人がネットを通じてすぐに目に見えてしまう時代なので、警戒心が強くなって、正しくあらねばならないという意識が高くなっていますけど、人間はそこまで変わらないと思うし、私はみんな悪意と善意はほぼ同じ割合で持っていると思うんです。どんな人でもプラスの部分だけでなくマイナスの部分が絶対にあると思うんですね。そのマイナスの部分を封じ込めて外側に出さないようにした結果、内側に向く子が多いのかな、というのが今のイメージです。

――その意味で言うと、ニノミヤさんはアーティスト活動で自分の気持ちを吐き出す場があるので、それはご自身にとってかなり大切なものになっていそうです。

ニノミヤ それはすごく感じます。私、自分のソロライブではお客さんにあまり気を遣わないところがあって(笑)。声優として役を背負ってステージに立つときは、役を守らなくてはならないので色んなことに気を付けますし、丁寧にしたい想いがあるのですが、ニノミヤユイでライブをやっているときは、多少自分本位でもいいと思っているところがあって。そこはつり合いが取れる時間だと思います。

――自分の中に溜めこんだままだと、いつそれが爆発するかわからないですからね。

ニノミヤ そうなんですよね。

次ページ:ニノミヤユイが“愛”を叫ぶ理由、誰かにとっての“ヒロイン”であるために

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