INTERVIEW
2023.06.23
現在絶賛開催中の『劇場版アイドリッシュセブンLIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』。16人のアイドルたちが星空の元、大樹に集う姿が印象的なメインビジュアルに象徴される全員で歌う主題歌「Pieces of The World」は、“森羅万象”をテーマに制作された1曲だ。そんな「Pieces of The World」の作曲・編曲を担当した伊藤 賢と作詞を担当した真崎エリカの対談から、『アイドリッシュセブン』の訴求力について聞くと共にまだまだ快進撃を続ける劇場ライブの魅力についても紐解く。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――2015年8月にアプリがリリースされた『アイドリッシュセブン』、「MONSTER GENERATiON」が生まれて8年以上が経過しています。多くの人を惹きつけて止まないこの『アイドリッシュセブン』というコンテンツについて、今、どのような印象をお持ちですか?
伊藤 賢 真崎さんはたくさんの楽曲の作詞をご担当されていますよね。
真崎エリカ そうですね。最初に書いたのは「MONSTER GENERATiON」でしたが、この楽曲は今もなお想像を超えていく感じがすごくあります。ただ、当時から多くの人に届くだろうな、という“ただ者ではない”コンテンツ感はあったんですね。種村有菜先生のビジュアルを拝見したときもそうですし、「MONSTER GENERATiON」を書かせていただくときにシナリオの大枠を拝読したときにも「面白い!」と思ったのですが、まさかここまでの人気になるとは想像もしていませんでした。
伊藤 僕が最初に参加させていただいたのは2016年くらいだったんです。そこからちょこちょことやらせてもらってきました。
真崎 アプリだったり、アニメだったり……。
伊藤 そうですね。友達の妹や奥さんに「あの曲をやっているよね」と言われる機会が増えました。普段から色々なコンテンツでお仕事をさせてもらっていますが、そんなふうに手がけている曲について感想を聞かせてもらうことはあまりないんですよ。
真崎 たしかに、わたしも友達に言われたのは初めてのことだったかもしれないです。
伊藤 なので、すごく人気のある作品なんだという印象ですね。
――このコンテンツに関わられてから、最も印象的だった出来事を教えてください
真崎 スマートフォン向けアプリ発のコンテンツだったので、TVアニメの初放送のときには「新しいステージがまた始まったんだな」という感覚があり、感慨深かったです。あとは、やはりライブです。1stライブも思い入れは深いですし、メットライフドーム(現:ベルーナドーム)の熱い熱気も覚えているのですが、去年1月にさいたまスーパーアリーナで開催された「IDOLiSH7 LIVE BEYOND “Op.7”」は特に印象深いですね。緊急事態宣言が明けて初めてのライブだったので、救いのような世界がそこには広がっていて。後ろの方から拝見していたのですが、ファンの皆さんの無言の熱気がすごく伝わってきました。ライブは色々と拝見していますが、そのなかでもすごく印象に残る風景で。コンテンツを象徴するようなライブだな、という気持ちにさせてもらったライブでした。
伊藤 僕は、今回の「Pieces of The World」を作らせてもらったときが一番印象に残っています。最初に“森羅万象”という大きなテーマとキーワードをたくさんいただいて、文章と画像などの資料も手元にあったんです。打ち合わせでは、まさにメインビジュアルになっている大きな樹をイメージしているので「このような曲をお願いします」ということでした。自分的にも得意な感じの世界観でしたし、楽曲のイメージも出てきたので「作れるかも!」とすぐに考えていましたね。
真崎 16人で歌う曲ってなかなかないですしね。
伊藤 そうそう。僕に任せていただいていいんですか?という気持ちもありましたけど(笑)。でも「できるかも」と思えたし、「やってやろう!」という気持ちで取り組めたかなと思います。
真崎 本当に素晴らしい楽曲でした!
――お二人が『アイドリッシュセブン』でタッグを組まれたのはIDOLiSH7の「Perfection Gimmick」でしたが、お互いのクリエイションに対してはどのような印象がありますか?
真崎 変幻自在ですよね。初めの「Perfection Gimmick」はすごくスタイリッシュな印象で。そのあとにご一緒させてもらった「THE POLiCY」はTVアニメ3期第1クールのオープニングで、それこそさいたまスーパーアリーナで拝見したライブで印象的だった曲がこの「THE POLiCY」だったんですが、非常にライブ映えする曲だなと感じました。最近だと「Incomplete Ruler」や「Pieces of The World」で。どれも色が違って、多彩だなぁ、と思っています。
伊藤 真崎さんの歌詞は本当に素晴らしいなと思っていますし、「Pieces of The World」も本当にドンピシャの歌詞を当ててもらったなと感じています。この曲のコンセプトの深さや壮大さを歌詞として出していかないと、世界観は作れないと思うんです。音楽的にそれをやるのが僕の仕事ですが、歌詞でまさに僕がやりたかったことを実現してくれているという印象ですね。今回の曲が使われている劇場ライブの本予告を拝見させてもらったのですが、イントロのところからサビに飛んで、その始まりが“世界で”。その3文字で世界観がパッと想像できる。そこがまったく違う歌詞だったら、曲の世界は広がらないというのを真崎さんはわかっている。
真崎 “世界”にしておいて良かった(笑)。
伊藤 そういう意味で、常に100点を取ってくるという印象です。
真崎 嬉しい、ありがとうございます。
――そんなお二人ですが、劇場ライブを制作すると聞いたときにはどのような感想がありましたか?
真崎 ライブをやると聞いて、想像つきましたか?
伊藤 いや、全然。こういうコンテンツのアニメーションでのライブを一度も観たことがなくて、劇場でそういう作品を上映することもそうですし、ペンライトを持って入場できる作品に関わったこともなければ観たこともなかったので、どんな感じになるのだろうか、とイメージはできてはいなかったです。
真崎 たしかに舞台裏も交えての物語なのかと思いきや、本当にライブを見せるというのは、わたしもあまり想像がついていなかったですね。色々と詳細の説明を受けて「そういうことなのか」という驚きが最初にありました。
――今回のライブはゲームの第6部の先にあるものです。そのライブのために制作された「Pieces of The World」、楽曲の制作にあたって印象に残るオーダーはありましたか?
伊藤 先ほどもお話したように事前資料をいただき世界観が見えたので、イントロから重めのパーカッションを入れて、弦を入れながら作り始めました。広い世界を表現しながら、劇場ライブの象徴となる曲にするためには良いサビがないとダメだと思ったんです。パーカッションを鳴らしながら、ピアノを弾きながら、「うーん……」とサビを考えていたのですが、普段から僕自身はあまり歌って作ることはないのに、この曲は歌いながら作れたんです。
真崎 素敵なお話!
伊藤 一発OKではないですが、「良いものが出来たな」と自分でも思ったんです。そんな瞬間は3年に1回くらいしかないんですけど(笑)。「このサビメロ、めちゃめちゃ良い!」と思えたメロディでした。それを16人のメンバーがドーンと歌ったら絶対に良いじゃん!と確信できた曲です。
――例えば、会場であるレインボーアリーナのスケール感で響くことを意識されたりはしたのでしょうか。
伊藤 ライブ会場であるドームのデカいステージで、光がドン!と当たってサビがガーンといくことはもちろんイメージをして作っていたのですが、やることは「良いメロを出す」というところなので、それを特に意識していました。ただ作曲とアレンジを両方やることは決まっていたので、楽曲の大きな存在感は意識してアレンジをしました。編曲は得意なので、アレンジを先に作りながらメロを乗せていった作り方ではありました。
―― 一番こだわられたのはどんなところですか?
伊藤 サウンド感としては、ストリングスだけや一般的なドラムではこの世界観は出ないと思ったので、もっと大きな世界観を出すためにシネマティック系のパーカッションや、シネマティックで使うブラスのバーッと広がる音やエフェクティヴな弦の音にしたりしました。一般的な作り方というよりも、現代的な技術を使ってさらに大きくしました。最近のハリウッドの楽曲みたいな方向性で作りたいということは最初の段階から浮かんでいたので、その手法で作りましたね。
――エレクトロ味ではなく生感のある音ですよね。
伊藤 エレクトロといえばシンセサイザーの音になるかと思いますが、そうではなく生楽器を加工してより印象深い音にしました。ブラスも普通に吹けばプーですが、それをブワァア!と歪ませて広げていくのが最近のハリウッドのサウンドだと思うので、それを取り入れて生感はあるけれど現代的になるようにしたんです。
――ハリウッド音楽は非常に大きなスケール感でのレコーディングが特徴的かと思いますが、伊藤さんのサウンドではどのようにされたのでしょおうか。
伊藤 弦はもちろん生で、こちらも大きな編成で録らせていただいて、ハリウッド感を持ってこられたかなと思います。
真崎 良い音していますよね。
――そうなんですよね。音が非常に奥行あって素晴らしくて……。
伊藤 バンダイナムコミュージックライブさんのお力です。
真崎 素晴らしい音をありがとうございます!
――歌詞はいかがでしたか?
真崎 それこそ聴いた瞬間から世界観の見える楽曲だったので、わたしも悩むことなく書かせていただきました。先ほどサビの最初に“世界”という言葉がくる、というお話がありましたが、曲を聴いた時にBメロで上がっていって、一度音がパン!と消えたあとにサビがくるけれど、そのサビがちょっと俯瞰したような感じに聴こえたんですよね。だからそこを逆手に取って、Bメロ後半の強拍のところに出来るだけ「あ行」と「濁音」を持ってきてスケールを広げた上で(“足掻いているから こんなにも日々は鮮やか”)、小節の最後を「あ」の母音で終わらせて(“鮮やか”)からサビの最初を“世界で”にして母音を「え」にすることで少し後ろに下がるようにしたんです。
伊藤 へぇ!そんな技があるなんて初めて知った!
真崎 そうなんです。16人で歌っているし、Bメロに非常に勢いがあるので、その勢いを出すためにアクセントのところに母音の「あ」と「濁音」にしました。ボーカリストさんそれぞれ得意な音は違うと思うんですけど、総括して一番出しやすいのは母音の「あ」と濁音かなと思っていて。一番開ける音をBメロに持ってきて、かつ、いただいたデモの仮歌で作られたリズム感が最高だったのでそのリズムを崩さないように歌詞を全とっかえで書かせていただきました。ちなみに1番で“世界で”として母音の「え」にしたところは、最後にもっと開けた感じにしたかったので“此処にあった”で母音を「あ」にしました。持っていきたい感情の昂ぶりを、そういった言葉の響きで調整するというギミックを使いました。
伊藤 歌いやすい音って大事ですよね。
真崎 特に今回はAメロで細かくリズムを刻んでいて、そこにそれぞれが生きている感が伝わってくるのでそのリズムも崩したくないなって思って……上手くはまるように譜割を腐心した曲です。
――譜割やリズムを意識しながらも、メッセージをしっかりと届けるのはさすがです。
真崎 メッセージに関しては培ってきたものというか。創造神こと都志見文太先生の描かれた世界があるので、わたしは書くだけなんですよね。そこに何を綴るかを悩むことはそれほどないです。あとは歌詞でいえば“深層のマグマ”とか“灰の下の文明”とか、そのワードだけで情景が浮かぶような、物語のあるワードを美術でいう借景みたいな感じで持ってきて、その力も借りてワールドワイドな広さや奥行を出すことをしました。
伊藤 短いワードで世界観を作るような感じ?
真崎 はい。
伊藤 なるほどなるほど。
真崎 とにかく曲の世界観を崩さずにできる限り伝えたい、という想いはあったので。この曲はメロディが物語だからこそ、その辺りをすごく考えていました。応援上映のときに劇場に伺ったのですが、皆さんの反応を見ながら「これで良かったんだ」と胸をなでおろしました。
――お二人の「ここは会心の出来!」というところを教えてください。
伊藤 やっぱりサビメロです。
真崎 なかなかないメロだなって思います。本当に。
伊藤 僕はすぐ上の高い音を使いがちなのですが、そこまで高くなく、上下しないメロでしっかりまとまった感じが個人的に良かったなと思っています。
真崎 わたしはタイトルを決めてからどんどん後ろへと書き進めていったので、“それが出会った意味になるように”というフレーズが出たことでちゃんとフィックスできたことですかね。あのワードが出てこなかったら永遠に彷徨い続けていたように思います。
伊藤 上から順に作っていったんですか?
真崎 そうなんです。基本的に上から順に作っていくタイプなので。
伊藤 タイトルから?
真崎 はい。だから「Pieces of The World」からです。
――タイトルの文字数が16文字だ、とマネージャーの皆さんの間でも話題ですが……。
真崎 それは偶然なんです(笑)。歌詞を提出するタイミングくらいで16文字であることに気づいて「アイドリッシュセブン、怖っ!」って(笑)。やっぱりなにか持っているなと思いました。
――歌詞を書いていくなかで「こういうメッセージにしよう」と意識されたのはどのようなことだったのでしょうか。
真崎 それこそ曲に力があったので、Aメロではそれぞれの原子の粒みたいなざわめきの印象を歌詞にしていって、Bメロはそれが少しずつ集まり始めたことで巻き起こる現象や世界観を訴求していると解釈して書きました。そうして『アイドリッシュセブン』に登場する4つのグループがサビで集まったときにどういうメッセージを発するんだろう、と……大きなテーマは当然頭にありましたが、基本的に曲から起草されたものを、そのまま歌詞に落とし込みました。
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