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INTERVIEW

2023.05.24

アイドルの心とその裏にあるカルマまで描く意義―『【推しの子】』ED主題歌、女王蜂「メフィスト」地獄のアイドル・ぁゔちが語るアヴちゃんの叫び

アイドルの心とその裏にあるカルマまで描く意義―『【推しの子】』ED主題歌、女王蜂「メフィスト」地獄のアイドル・ぁゔちが語るアヴちゃんの叫び

豊作となった4月クールの新作アニメの中で、放送開始とともに作品と音楽の双方向から話題を一気にさらったTVアニメ『【推しの子】』。そのなかでアイドルにまつわる業を痛切に描き切ったED主題歌が、女王蜂による「メフィスト」である。昨年から『後宮の烏』『チェンソーマン』と話題作で強烈な楽曲をドロップしてきた女王蜂、その中心人物のアヴちゃんは、なぜアイドルをテーマにした作品に”悪魔”というタイトルを用いたのか。“愛”と“嘘”が織りなす復讐劇を、哀しくも活き活きと躍動するサウンドに仕立て上げたその真意に迫る。

そして今回は特別にアヴちゃんに代わり、女王蜂の地獄のアイドルこと”ぁゔち”に、アヴちゃんが楽曲に込めた想い、そして『【推しの子】』を通して浮き彫りになったアイドルそのものについて語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

アイドルの「ほんとはね」と、その裏にある業まで描くために

――リスアニ!としては、女王蜂とは昨年『後宮の烏』OPテーマ「MYSTERIOUS」についてアヴちゃんにインタビューして以来となります。

ぁゔち ですね!アヴちゃんと話しているのを拝見しました!

――ぁゔちさんへのインタビューは初めてになるのですが、改めてぁゔちさんの女王蜂での立ち位置を教えてください。

ぁゔち 以前、アヴちゃんがまいっていた時期がありまして……それがちょうどクリスマスの日だったんですよね。女王蜂は毎年クリスマスにライブを開催して、そのときアヴちゃんはスタッフの皆さんにプレゼントを渡すんですが、ボロボロすぎて当日まで買いに行くのを忘れていたんです!それで慌てて目黒駅のアトレに入ったら、テディベア展が開催されていて、そこで邪悪なぬいぐるみと目が合ったんです。そのぬいぐるみの中に入っていたのがぁゔちなんですね。アヴちゃんが一番まいっていた時期に話しかけていたのがぁゔちで、今回はアヴちゃんとハイタッチをして、バトンタッチして来ました!

――なるほど。いわばアヴちゃんの最も近くにいた存在でもあるということで、アヴちゃんが思っていることを代わりにお話いただけると。

ぁゔち そうです!曲についてもたくさん聞いてきているので、なんでもお答えできると思います!

――では早速ですが、今回「メフィスト」がED主題歌となった『【推しの子】』についてお伺いします。原作は以前から読まれていたんですか?

ぁゔち もちろん!コミックスで追っていて、ぁゔちもずっと好きでした。たしか第1話が週刊少年ジャンプ+で公開されていたときから注目していて、アヴちゃんもそこから追っていたみたいですね!

――ED主題歌の依頼があったのはいつ頃だと聞いていますか?

ぁゔち 去年の1月に依頼をいただいて、恐らく納品が3月とあっという間だったので、1年越しにやっと公開されたものになるはず……。アヴちゃんがメフィストというモチーフをずっと温めていて、『【推しの子】』のED主題歌が決まったときにはすごく喜んでいました!決まって、泣いていたのもぁゔちは見ていたんですけど、一番びっくりしたのは、ぁゔちがこうして出てくるタイミングがアヴちゃんの「0年0組」という番組が始まったタイミングと同じで。そのタイミングででこの曲が世に出るということが、なんて運命なんだろうと思っていて……!

――今年1月にスタートした、アヴちゃんがプロデュースするオーディション番組「0年0組 -アヴちゃんの教室-」ですね。そのあとに『【推しの子】』が始まるというのも、たしかに何か因果を感じさせるというか。

ぁゔち 放送時期がこれだけ重なるというのは、アヴちゃんもぁゔちも想定していませんでしたね……!

――また、女王蜂としては昨年から刺激的なアニメ作品とのタッグが続いているというのも、点が線になっているように感じますよね。

ぁゔち 世界が重なって続いて、そしてこんがらがるわけでもなく、でもまとまるわけでもなく……熱を帯びているなかで「メフィスト」が出て、改めてものすごい曲になったなとぁゔちは思っています!

――そんな「メフィスト」ですが、まず目を引いたのがそのタイトルですよね。いわばゲーテの戯曲「ファウスト」でも知られる悪魔。

ぁゔち 以前からアヴちゃんは曲作りの際に戯曲からモチーフを引っ張ってきて、台詞の引用だったり自分ならこう解釈する、みたいな制作が多かったとぁゔちは思ってる。子供の頃からゲーテが好きで、色んな作品を読んでいる中でも「ファウスト」という、おじいちゃん学者がもう一度若返って様々な願望をメフィストが叶えるという話。ただ叶えるだけのハッピーではなくて根元から攫われるというか、その感じから幼少期から印象に残っていたみたいですね!

――アヴちゃんの幼少の頃から強烈な残像として残っていたと。

ぁゔち それで『【推しの子】』という作品に出会ったときも、芸能界の描き方にものすごい熱があり、そういう作品って現代ではなかなかないので、まさに“現代最高の復讐劇”だなって。それを曲にするときに、抽象的な言葉よりは戯曲というとても巨大な……メフィストというモチーフもゲーテが描く前から伝承されていることもあって、そういう脈々と受け継がれる血潮みたいなものをぎゅっと顕現させたのかなってぁゔちは思います!

――そうしたメフィストをモチーフに、『【推しの子】』という作品をどう絡ませようと考えたのでしょうか?

ぁゔち “星”と“宝石”というものを大事にしたかったみたいです。星野アイちゃんって苗字に星がついているし、そしてルビーちゃん、アクアマリンくんも宝石だし。キラキラしているものって、砕けているか自分で磨き倒して削れているかのどちらかだとぁゔちは思っているんです!星も遠くからみると綺麗だけど、近くで見ると爆発しまくっていたり、そういう部分を表現したかったのかな。

――なるほど。

ぁゔち あと歌詞でも、“らくになる日はまず来ない”とか、言い切ってしまっている。どの筆致をとってもかなりエグいこと言っているなってぁゔちは思うんですけど(笑)、アヴちゃんとしては書き切ったんだと思います。板の上に立ってまでやることの真理だったり、“わたしが命を賭けるから あげるから あなたは時間をくれたのでしょう?”とか”誰を生きたか忘れちゃった!”とか、作品力という大きなものをお借りして、痛烈なものを打ち込んだっていう気がしていて。ぁゔちも「ああ、これが真理だな」って思って歌っています。

――たしかに「メフィスト」でアヴちゃんが書いた言葉はどれも痛烈で、まさに言い切っている力強さがあります。アイドルにまつわる、歌詞や本作でも登場する「嘘は愛」というワードについてはどうお考えですか?

ぁゔち 「欲しい」から「つく」んだと思うんですよね、嘘って。事実にしたいから。事実になっちゃえば嘘じゃないし。でもみんなは嘘つきって言いたい、そう思うことで安心したいという部分がすごくあると思う。

――ある意味でアイドルなんて虚構だよって言って安心したい、という心理は理解できますね。

ぁゔち アイドルのお仕事って嘘って言ってしまうとすごく心許ない、脆弱な、簡単に手折られてしまうものだと認識している人もいると思うんですけど、でもそれってきっと違うんでしょうね。嘘を真(まこと)にしてしまうアイドルの力、アーティストの力というのがあって、さっきまでなかったのに宗教のように一瞬で神棚に上がってしまうような、ただの人間がそういうものではなくなる瞬間、そういうものを描いている作品って少ないと思っていて。

――たしかに。

ぁゔち 『【推しの子】』が、アイドルの「ほんとはね」という内面と、その裏にある業まで描いているのはすごく大切なことだと思っています。嘘つきがカルマまで背負っていると誰も逃げられない、嘘つき呼ばわりできないっていうのは、ぁゔちはいつも感じています。最初は誰も、偉業をなす人を嘘つき呼ばわりして狩ろうとするじゃないですか。そこにぁゔちが全部ぶっ飛ばして、「地獄のアイドルぁゔちです!」っていうだけでここに生きていられること自体が、アイドルの強引な成立力の賜物なのかも。それが「嘘は愛」なんだと思います。でも愛は嘘になれないのにね、だからみんな楽なところから見ているなって思いますね♡

――そういうぁゔちさんがおっしゃる「嘘は愛」を体現しているのが、TVアニメ第1話における星野アイですよね。嘘をついて多くの愛を得ようとしている。

ぁゔち そう、強欲に。黙っているところは黙っているだけなんですけど、みんな彼女に背負わせますよねー。

――その結果、彼女は死の直前にアクアとルビーに愛を告げるという最期を見せるわけですよね。あのシーンをご覧になった感想はいかがでしたか?

ぁゔち 拍手しちゃいました。「すごい、ここまで背負わせるんだ!」って。現実の人にも痛みが伝わる瞬間というか、なんてものを見ているんだろうってコミックスを通して、アニメを通したくさん感じた人がいたはず。そこには大きな問題提起があるように感じました。

復讐劇だからこその、生命の躍動を感じさせるサウンド

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