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INTERVIEW

2023.05.10

“あてもなさ”と共に歩んだ10年、そしてこれから――。Aimer、アニメ『王様ランキング 勇気の宝箱』エンディング・テーマ「あてもなく」リリースインタビュー

“あてもなさ”と共に歩んだ10年、そしてこれから――。Aimer、アニメ『王様ランキング 勇気の宝箱』エンディング・テーマ「あてもなく」リリースインタビュー

Aimerのニューシングル「あてもなく」の表題曲は、アニメ『王様ランキング 勇気の宝箱』エンディング・テーマ。主人公の“ボッジ”に寄り添いながら、リスナーを包み込み、肯定してくれる力を持ったミディアムバラードだ。

INTERVIEW & TEXT BY 森 朋之

大切なのは、「今、この瞬間、笑っていること」

――新曲「あてもなく」はアニメ『王様ランキング 勇気の宝箱』のエンディング・テーマ。優しさ、温かさが伝わってくる楽曲ですが、制作にあたってはどんなイメージがあったんでしょうか?

Aimer 『王様ランキング』のアニメサイドからは、“優しい曲”というリクエストをいただいて。今回のシーズンは1話完結で、色んな物語が描かれるんですけど、すべてを包み込むような余韻のある曲というお話もありました。デモ音源を聴いたときは、シンプルに「素敵な曲だな」という印象がありました。聴いてくださる方の夜に寄り添える曲はこれまでにもたくさん作ってきたのですが、想像力をかき立てられるようなメロディでした。

――歌詞のテーマについては?

Aimer 「あてもなく」というタイトルは、以前から曲の中で使いたいと思っていた言葉なんです。「人生とは、生きていくとは、あてもない旅みたいなのものだな」と思っていましたし、この言葉を使った曲を音楽人生のどこかで作りたくて。今回『王様ランキング』のお話をいただいて、作品にとっても自分にとっても、私の音楽を聴いてくれている方にとっても、一番いいテーマじゃないかなと。

――「あてもなく」という言葉にそこまで惹かれていたのは、どうしてなんですか?

Aimer デビュー当時の自分だったら違ったかもしれないですが、あれから10年以上経って、色んな出来事や経験を重ねてきて、「人生って、あてもないな」という思いが強まってきたんです。あと、今の世の中を見ていると、真剣に考えなくちゃいけない問題だったり、生きることを複雑にしてしまうような出来事がすごく多いという印象があって。眉間にしわを寄せて難しい問題を考えたり、答えを求めることも大切ですが、「今、この瞬間、笑っている」ということがおろそかになっている気もするんです。

――深刻な側面だけに意識を向け過ぎないというか。

Aimer そうですね。ツアーを回ってくれているメンバーはみんなすごく明るいんです。楽屋の笑い声がうるさいくらいなんですけど(笑)、自分の現場に笑い声が溢れていることは私の救いになっていますし、私自身も笑顔でいられるのはすごく大切なことだなって。そういったことも含めて、「あてもなく」という曲が出来るきっかけになっているんだと思います。毎日、笑顔でいられるか?と言えば難しいときもありますが、多分、私の楽曲を好んで聴いてくれてる方もそういう方が多いような気がしていて。なので「笑っていて」という言葉を入れたかったんです。

――Aimerさんは音楽家としてのキャリアを着実に重ねているイメージがありますが、ご自身としては「あてもなく」という感じなんですか?

Aimer 今も「あてもないな」と思っています。着実に歩んでいる印象を持っていただけるのは嬉しいし光栄なことですが、私自身は「あてもない旅だな」としみじみ感じていて。「生きていくうえで、確かなものは何もない」というのは、どんな人も同じだと思うんです。だからこそ確かなものを探したくなるし、答えを見つけたくなるというか。私もその1人ですし、1人の人間としても、音楽家としても、あてもなさをいつも感じています。

――あてもなさに伴う不安、寄る辺のなさも受け入れている?

Aimer それも難しい問題なんですよね。「確かなもの、納得できる答えはない」というのはあると思うんですけど、それは受け入れがたいことでもあって。だからこそ、一番大事なのは「笑う」ということなのかなって。起こるか起こらないか先の問題に頭を悩ますよりも、笑っていようっていう。「笑っていて」って、笑顔の人には言わないじゃないですか。ありきたりな言葉かもしれないけれど、たくさんの想いが込められているし、今、歌いたいことだなって。

――なるほど。「あてもなく」は、言葉の響きやグルーヴもすごく気持ちいいですね。

Aimer 嬉しいです。言葉の響きは個人的にも一番大事にしたくて。もちろん意味も大事ですが、言葉の響きがしっかりハマると曲がさらに輝くので。もちろん曲によって違うし、色んな兼ね合いがあるんですけど、(言葉の意味と響きの)バランスは取りたいなと思っています。

――アニメ『王様ランキング』に対しては、どんなイメージを持っていますか?

Aimer まず印象的なのは、主人公のボッジくんの健気さですね。辛い境遇だったり、降りかかってくる悲しい出来事を一身に受け止めて、それをしっかり乗り越えて。すごく強くけど弱い、弱いけど強いというキャラクターだけど、私の中に一番残っているのは、やっぱり彼の笑顔なんですよ。多分ボッジくんは周りの人にも笑顔でいてほしいと願っているし、それが優しい世界が広がっていく。それを「あてもなく」の歌詞や音楽性に落とし込んだという感じもあります。私、『王様ランキング』がヒットしていることがすごく嬉しくて。この作品に共鳴している方々はきっと、ボッジくんや周りのキャラクターと同じように、優しい気持ちを持っている人じゃないかなって。そう思わせてくれる力がある作品ですよね。エンディングの映像も、「あてもなく」に込めた想い――「笑っていて」というフレーズをすごく汲んでいただいて。ボッチの目線に立った描写もすごく素敵だなと思いました。

(C)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」製作委員会

――MVは女性2人のストーリーが描かれていますね。

Aimer 楽曲からストーリーを膨らませていただいて、素晴らしい映像にしてもらって。CDプレイヤーが映っていたり、ちょっと褪せた映像を交えながら、主人公の女の子の過去を一緒に辿っているような感覚になれますよね。

10周年を迎えたからこそ、新しいことにチャレンジできた

――カップリング曲についても聞かせてください。2曲目の「空噪wired」はジャズのテイストを色濃く反映した楽曲。

Aimer サウンド的には「残響散歌」が1つのきっかけになっています。「残響散歌」でジャズの要素を取り入れたのですが、それを踏まえて「空噪wired」 では「シングルのカップリングじゃないとできないことをやろう」ということも話していました。ジャズは以前から好きで。家ではジャズばっかり流れているし、ここ数年、アナログレコードも集めているんですよ。

――そうなんですね!「空噪wired」の歌詞はどんなイメージで書かれたんですか?

Aimer 簡潔に言えば“イヤホン”のことを歌っていて。最近は多くの方がワイヤレスを使っていらっしゃいますが、私はどうしても「電池が切れちゃったらどうしよう?」みたいな心配があって、ワイヤード(有線)のイヤホンもずっと持っているんですよ。有線のイヤホンは線で繋がっているんだけれど、必ずLとRに分かれていて、それぞれの役割があって。それってすごく素敵だなって思うんですけど、カバンに入れておくとすごく絡まるじゃないですか(笑)。「なんでイヤホンって絡まるの?」っていう歌詞です。

――面白い発想ですね(笑)。

Aimer ある意味“しょうもない”というか(笑)、すごく個人的なところから始まっている歌詞ですね。「空噪wired」は音楽性、歌詞のテーマ、言葉のチョイスも含めて、聴いてくださる皆さんと一緒に戯れられる曲にしたくて。「あてもなく」で私を知ってくださった方が「空噪wired」を聴いて、「何これ?」って思われてしまうリスクもないわけではないですが(笑)、この先の活動を考えたときに、新しいことをやっていくことはとても大切だと思っていて。10年活動してきたからこそ、実験的というか、思い切ったことにもチャレンジしてみようと思えたんじゃないかなと。

――今だから形にできた、と。

Aimer そうですね。Aimerはどういう人で、どういう音楽をやっているかに関して、ずっと聴いてくださっている方と信頼関係のようなものが出来ている手ごたえを感じていて。だからこそ、同じところに留まっているのではなくて、新しいものを生み出さないという気持ちがあるんですよね。チャレンジすることはしんどいし、同じことを続けたほうが楽で居心地がいいんですが、新たな表現を追求することで、1人でも多くの人に自分の音楽を好きになってもらいたいので。

――リスナーとの信頼関係があるからこそ、思いきったことに挑戦できるという側面もあるのでは?

Aimer 本当にそうで、どちらもあるんですよね。ファンの皆さんとの信頼関係によって、“そこに甘えちゃいけない”と“受け止めてもらえるはず”という両方の気持ちがあるので。

――3曲目の「Life is a song」からは、Aimerさんの歌に対する思いがしっかり伝わってきました。

Aimer 「Life is a song」はテーマ的に「あてもなく」と通じているところがあって。「人生とは、生きていくとは、1つの歌のようなもの」というか。「あてもなく」は色んな世代の方に届けたいと思って作ったんですけど、「Life is a song」は、音楽が好きな、私自身に近いような方々と共有できたらいいなと。

――リスナーの皆さんとの直接的な繋がりを感じさせる歌詞ですよね。サウンドやメロディも個性的。ジャンル的な説明が難しいです(笑)。

Aimer そうですよね(笑)。普通のメロディラインではないというか。「空噪wired」と「Life is a song」はライブを想定して作ったところもあるんです。みんなで一緒に歌えるフレーズもあるので、ライブで披露するのが楽しみですね。

次ページ:アリーナツアーで得られた確かな手ごたえ

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