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INTERVIEW

2023.03.11

VALSHE、新作ミニアルバム『SAGAS』はファンタジックな7つの世界――二重三重の仕掛けを味わう作品に

VALSHE、新作ミニアルバム『SAGAS』はファンタジックな7つの世界――二重三重の仕掛けを味わう作品に

VALSHEが1年ぶりのミニアルバム『SAGAS』をリリースした。中東的なサウンドのリードトラックをはじめとした7曲それぞれに、テーマ性を持たせた物語をセットし、そこに生きるキャラクターを描き歌っている。インタビューでは各曲を深く味わううえでのサブテキストとなるよう、物語の主題と制作の狙いを語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

アニバーサリーイヤーを超えたVALSHEが作るコンセプトアルバムとは?

――2022年は数多くのライブのほか、舞台などにも多数出演された充実の12周年イヤーでした。振り返って、クリエイティブ面でどんな刺激を受けましたか?

VALSHE 昨年は音楽活動に留まらず、色んな場所や方法でアウトプットに落とし込むことが叶った1年でした。普段のフィールドでは吸収できないことをインプットできる場所に行けたことで、自分の音楽活動に還元できるだろうという手応えも同時に感じていて。そうしたなかでの、今回の7thミニアルバム『SAGAS』の制作でした。13年目に届けるコンセプトアルバムということで、ファンの方に「10周年のアニバーサリーを終えたVALSHEが次にどんなものを出してくるか」という期待をいただいたなか、その想像を3段も4段も超えていきたいという気持ちを持って作ったアルバムです。

――『SAGAS』のコンセプトは?

VALSHE 13年目のVALSHEとして、コンセプチュアルな物語性のあるアルバムを腰を据えて作ってみたいなと思ったことがきっかけとしてありました。そのなかで「冒険譚」という言葉がワードとして出てきて、1曲ごとにテーマを決めたうえで、それぞれの物語を作っています。リードトラック「KARASQADAR」は「強欲」というテーマになっていて、それに基づく物語を歌詞の中で展開しています。この物語は、「強欲な者は強欲によって落とされる」という顛末を迎えるお話なのですが、人から奪ったり、人を貶めたりすることによって、結果自分自身もまた「強欲」を向けられる。それを歌詞やMVで表現しています。

――「KARASQADAR」は中東的なサウンドが印象的です。VALSHEさんはアラアンな音楽は以前から関心が?

VALSHE そうですね。元々アラビアンなサウンド感や中東系で使われている楽器、代表的なところでいうとシタールとかブッカといった楽器の音色やビジュアルを好んでいました。いわゆるオリエンタルスケールで展開される楽曲が好きなのですが、意外とこれまでアラビアンに振り切ったサウンド感の曲を作ってこなかったんですよね。アラビアンのテイストの持っている元々の世界観が強いぶん、リードナンバーに持ってくることで『SAGAS』というアルバムの入り口としてとてもふさわしいと感じました。イブリースという強欲の悪魔が象徴として出てきたり、アラビアンな言葉選びが随所に散りばめられていたり、色んなところで世界観のカラーを感じていただけるようになっています。

――サビのところはあまり耳馴染みのない言葉で歌われていますが、これはアラビア語でしょうか?

VALSHE そうです。メロディに合わせて文節の切る部分を変えていたり、少し発声を変えたりして、言葉遊びの要素を多く取り入れています。

――オリエンタルスケールで歌うときに意識されたことがあれば教えてください。

VALSHE スケールによって意識する、ということはないのですが、サウンド感的にはメロディ運びもとても細かいですし、サビの部分もトリッキーな動き方をしているので、 気持ち良く歌うために自分自身もさらに歌詞に寄り添ったマインドを作ってレコーディングに臨みました。

――2曲目「MORAL LICENCING」はどのようなテーマでしょうか?

VALSHE 「憎悪」をテーマに制作した楽曲になります。サウンド的には単に疾走感という括りではなく、焦燥感を感じるように意識しました。ゲームや映像作品でハラハラするシーンにかかってるようなイメージですね。アレンジの部分の制作は歌詞と並行して進んでいたのですが、歌詞の中で攻撃的でダークな言葉が並んでいるところを、編曲のG’n-さんはそこにあえて綺麗めのストリングス音源を入れることでギャップを出してくれたりと、アレンジにこだわっていただきました。

――歌ううえではどのようなところがポイントになりましか?

VALSHE これはすべての楽曲において共通しているのですが、アルバム作品としては1つ1つにそれぞれの物語があって主人公がいます。その生い立ちや生き方に自分の身を委ねてその環境にマインドセットすることを今回の『SAGAS』のレコーディングでは一貫して大事にしていました。

――ということは、例えばVALSHEさんが「強欲」や「憎悪」といった感情を思い出して歌うというやり方ではなかったんですね。

VALSHE そういうことです。1曲1曲ごとの主人公になって歌っているような感覚ですね。例えば、自分自身の中に自分の人生を台無しにしてまで貫けるほどの「憎悪」という感情はありません。それを誰かに向けるなんて、あくまでフィクションの世界で。そういう自分の中に無い感情や生き方が物語それぞれの主人公にはあって、そこにVALSHEという人間を重ねていくような形ですね。

――続いての「John Doe」は音楽ジャンル的にはブルースでしょうか?

VALSHE ブルースファンクですね(ブルースの感情的な歌唱とファンクのリズミカルな演奏を組み合わせた音楽)。この楽曲はずいぶん前から温めていた楽曲だったんです。この曲のテーマを「マイナスの勇気」としてサウンド感を話し合っていたときにこの曲が真っ先に浮かんで、元々のサウンドにさらにアレンジを加えてテーマに寄せていった形になります。この物語は7曲の中でも特にファンタジックな世界観に振り切った楽曲で、イメージ的にはロンドンの裏街のような情景が浮かぶサウンド感になっています。

――「John Doe」は「名無し」という意味だそうですが、そこからテーマの「マイナスの勇気」とはどのように展開を?

VALSHE 自分自身の暮らし、名前すらもその日に決めているような奔放な主人公が振るう勇気の向け先を誤って落ちていく、というストーリーがこの歌詞の中で描かれています。やってみる勇気、 取り組んでみる勇気って、必ずしもポジティブに使われるとは限らないと思うんです。例えば、普通ならやらないような悪いことに手を染めてしまうことも、勇気といえば勇気。そうしたマイナス方向に振った勇気で生きている主人公の人生観がこの楽曲の中では描かれています。

――このジャンルでの歌の表現のポイントは?

VALSHE 自分では絶対にない生き方をしている主人公なので、主人公に寄せたマインドセットという点で、とても楽しかったです。ボーカルとしては気だるげな感じ、人生を斜に構えて見ていてそんな世界に絶望もしている。でも野心家で自信家でもあるキャラクター性が、ブルースファンクの曲調にマッチしていて、レコーディングでは色んな積み重ねが上手くいった状態で取り組めた感じがありましたね。

物語を描きキャラクターを置くことで作り出せる楽曲

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