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INTERVIEW

2023.03.15

新しい扉を開き、“声優アーティスト”としての第一歩を踏み出した1枚――前田佳織里、1st EP「未完成STAR」リリースインタビュー

新しい扉を開き、“声優アーティスト”としての第一歩を踏み出した1枚――前田佳織里、1st EP「未完成STAR」リリースインタビュー

声優・前田佳織里が3月15日に1st EP「未完成STAR」をリリース!TVアニメ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』のOP主題歌に起用された「光ったコインが示す方」をはじめ、それぞれまったく表情の異なる“声優アーティスト・前田佳織里”を感じられる4曲を収録した作品だ。EP自体についてはもちろん、アーティスト活動のなかで大事にしたいこと、そして今後の目標など様々な話題について語ってくれた。

INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次

“過去の私”をすくい上げた、“今の私”で歌ったリード曲

――ソロデビューおめでとうございます!前田さんは元々、こういった個人での音楽活動をしてみたいと思われていたんですか?

前田佳織里 はい。元々高校生のときにガールズバンドを組んでいまして、それをきっかけに人前で表現する仕事に就きたいと思うようになったので、歌はむしろ自分の原点でもあるんです。そんななかで、色んなものになれて色んな表現ができる声優というお仕事にすごく興味を惹かれて、今もやらせていただいているんですけど……事務所に入るときからマルチな活動を目標だと言っていたとはいえ、まさか実際に自分が歌を届ける立場になれるだなんて、いまだにちょっとびっくりしています。

――デビューするにあたって、やってみたい楽曲ジャンルなどは決まっていた?

前田 「こういう曲じゃないとダメなんだ!」みたいなこだわりは全然ありませんでした。ただ、最初に“前田佳織里”のアーティスト像を、スタッフさんとキーワードを出し合いながら、共有していく会議はさせていただいきました。

――どんなキーワードが出てきたんですか?

前田 自分が大切にしたいものについて話したり、自己分析をするなかで……「原点回帰」や「存在証明」、あとは「ステージ」というワードが出てきました。なかでも「ステージ」は、バンドを組んでいたときのように自分の原点でもある大好きな場所であり、声優として様々なライブに出演させていただいた、1つ1つの思い出がある場所でもあって。なおかつ次の一歩を踏み出す新たな場所、という意味合いもある言葉なんです。それに私、ライブじゃないと表現できなかったり届けられないことってあると思っているので、そういうところを大切にしたいとお伝えして作っていただいたのが、今回の4曲です。

――ちなみにデビューの発表はサプライズで行なわれたので、その時点では驚きのほうが大きかったとは思うのですが、喜びが湧いてきたのはいつ頃でしたか?

前田 家に帰ってしばらくしてからじわじわと喜びが出てきたのですが……同時にプレッシャーもすごく感じまして(笑)。「“自分の歌”ってそもそも何?」とか「今の私、何が足りてない?」みたいな気持ちの波が一気にきたんです。でも、そこからはむしろ「ここまで表現力を上げたいから、まずやるべきことはこれかもしれない」みたいなことを考えるようになりまして。

――気持ちを前向きに切り替えられた。

前田 はい。曲をいただく前からボイストレーニングに通い出したり、自分にないものも取り入れられるように、好きで聴いていた音楽以外も聴くようにしていたりしてはいました。あとはデビューを皆さんに発表したときも、みんなが予想の何十倍も喜んでくれたのを見て嬉しさを実感しましたね。発表前日にはみんなの反応が気になって、夜中に何回も起きてしまうくらい緊張していたんですけど(笑)。

――そんな準備を経て臨まれた「未完成STAR」、前田さんはどんな1枚になったと思われていますか?

前田 総じて、自分が表現したいことがちゃんと詰まったものになったと思います。曲ごとのジャンルは違いますが、どれも聴く人が背中を押されて元気が出るようなものになっているので、「未完成STAR」という言葉も含めて、聴いてくれる人が「今の自分のままでもいいよね」と自己肯定できるような1枚になっているんじゃないでしょうか。

――では続いて、楽曲についてお聞きしていきます。まずTVアニメ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』(以下、『ろうきん』)のOP主題歌になっている「光ったコインが示す方」です。

前田 前向きで、困難なことがあっても1回冷静になってちゃんと答え合わせをしながら前に進む、主人公のミツハにピッタリな曲ですよね。あとは冒頭のはじまり感などアニメソングならではの明るさもありながら、私らしいアップテンポさや疾走感もすごく持っているんですよ。レコーディングでは「夢を叶えたいんだ!」という気持ちを全力でぶつける箇所もすごく頑張りましたし、そういう“前進力”みたいなものって『ろうきん』にもピッタリなんですよ。

――まさに、楽曲からも前田さんの歌声からもまっしぐらさを強く感じます。

前田 私自身「熱量が中途半端だと、説得力のない歌になってしまいそうだな」と考えたので、レコーディングでは言葉の力を伝えられるように、前向きさや熱量は常に自分が思う何倍も乗せていきました。それこそ、レコーディングが終わったらもうヘロヘロになっちゃうくらい(笑)。ただ、本当に最初のレコーディング曲というのもあってか、プリプロのときにはまだどこか殻に閉じこもっている表現をしてしまっていたんですよ。そのときのアドバイスのおかげで、本レコーディングでは全然そんなことなかったのですが。

――「殻に閉じこもっている」とは?

前田 どこか「きれいに歌わなければならない」みたいなところがあったんです。少し話が逸れてしまうのですが……私、初めてキャラクターソングを歌ったときにぶち当たった壁のことをよく覚えていまして。ガールズバンドでの独学の歌い方が染み付きすぎていて、役になりきれていなかったんです。なのでそのとき、自分の癖を1回全部取っ払いまして。それからは役に100%なりきって表現することを突き詰めてきたんです。そうやって役や言葉の丁寧さを大切にしてきたからこそ、逆に自分として気持ちをぶつけるということが、最初は思うようにできていなかったのかもしれません。

――ただ、それも本レコーディングまでには解消されて。

前田 はい。そのなかで、声優として活動している今の自分と1回取っ払った昔の自分がいい具合に混ざりあって、新しい自分の歌ができたんです!そうやって、一度否定しちゃった自分の歌をすくい上げるような表現を見つけられたことは、本当に嬉しい出来事でした。

――そういった出来事を経て、特にサビなどでの力強く突き抜ける歌声に辿り着けたわけですね。

前田 ただ、そのサビのロングトーンのところは最初、本当に苦戦しまして!(笑)。急に音がバン!って上がる箇所というのもあって、技術的にも難しかったんです。でも、レコーディング中に1回突き抜けるようなロングトーンがバーン!と出たとき、コントロールルームが「えぇぇー!」みたいにざわついたのが見えて(笑)。

――「わっ、前田さんが掴んだぞ!」と。

前田 まさに!しかもそれが、その1回だけじゃなくてどんどん更新されていって……そんな経験、初めてだったんですよ!それは本当に新しい扉を開いた瞬間でしたし、「まだまだ成長できるんだ」とも思えた、自分のことを信じるきっかけになった瞬間でもありました。

――そしてこの曲は、MVも既に公開されています。

前田 「ハウスキーパー・前田佳織里が夢を叶えるシンデレラストーリー」というコンセプトです。ただ、人と対立する関係が描かれがちな童話のシンデレラストーリーと違って、このMVでは家族のみんなが私を応援してくれている……という心温まるストーリーがすごく素敵なんですよ。私自身も色んな人に応援されて、たくさんの人との出会いや導きや支えがあって今この位置にあるということを大切にしているので、そういった部分は特に印象に残っています。

――そのほかにも、前田さんのルーツに重なるような部分もたくさんありますよね。例えば、ほうきを使ったエアギターとか……。

前田 たしかに……あのエアギター、スタッフさんの間で好評だったなぁ(笑)。あとはドライヤーで熱唱しているところも、ライブ前に何かをマイクに見立てて鏡の前でパフォーマンスの練習をしていた、バンド時代の自分を見ているような気持ちになりました(笑)。

次ページ:バラエティ豊かな楽曲を通じて、聴く人の日常に寄り添える存在に

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