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INTERVIEW

2022.11.09

入野自由、アーティストデビューから10数年を経た今も挑み続ける姿勢――ミニアルバム『NO CONCEPT』へ込めたこだわりを語る

入野自由、アーティストデビューから10数年を経た今も挑み続ける姿勢――ミニアルバム『NO CONCEPT』へ込めたこだわりを語る

ミニアルバム『NO CONCEPT』を完成させた入野自由。オリジナル曲が6曲収録されている本作は、“ミニアルバム”であるものの、豪華盤には入野自身がずっとやりたかったというカバー6曲を収録したDISC2(特典CD)も付属しており、新たに収録された楽曲は全12曲というボリュームに。「12曲全部、カバー曲でも良かった」と笑顔を見せた本人が語る今作への想いを余すことなくお届けしたい。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

模索して見つけた今の“入野自由”――それは『NO CONCEPT』。

――前作のアルバム『Life is…』の制作、ライブを通して、ご自身の音楽を出し切った感がある、と当時話されていました。そこから“次の表現”を探してこられたかと思いますが、今回のミニアルバムに至るまでの道で、どのように音楽に触れ、どんな刺激を受け、影響されたか。印象的だった出来事をお聞かせください。

入野自由 基本的には大きな何かがあったというわけではないのですが、今回のミニアルバムにも参加してくれているsooogood!のシミズ(コウヘイ)さんや佐伯(youthK)さんだったり、そういう人たちとの普段の交流の中で新しい音楽を聴いたり、最近ではサブスクで音楽をかけっぱなしにしているときに「ああ、この曲良いな」と思うものに出会ったりとか。そういうところでの音楽の刺激は多くて。ただ『Life is…』を作ったあとに次にどんなものを作ったらいいのかがわからなくなっていたところで、舞台出演が続いていたんです。そのなかでもCDを作りたいよねっていう話は出ていたものの、なかなか自分の中でスイッチが切り替わらなくて。「カバーをやってみたい」ということはずっと言っていたので、それが本当に実現するのか、どういう形でやるのかというのを1年ちょっとくらいの時間をかけて徐々に、じっくりと進めていった感じです。

――普段からご自身の中にある音楽、そして舞台で触れる音楽。まったく違うものかとも思います。

入野 はい。全然違いますね。

――そこでの刺激はありますか?

入野 全然違うとは言いつつも、その間にあったミュージカル「ボディーガード」はホイットニー・ヒューストンの楽曲がメインになっている作品でしたから、ホイットニーの歌い方の部分など完全に真似ることはできないものの、ニュアンスとして触れている音楽としてのポップスもいいなぁ、と感じていました。次に出演したミュージカルはまた全然違いますが、そういった舞台での音楽と自分で作る音楽の両方にふり幅を持って触れることができることは自分にとっての強みでもありますし、色々と刺激を受けながら、自分の音楽に向き合えていると思います。

――今回のアルバムのテーマはタイトル『NO CONCEPT』の通り、ノーコンセプトだということですが、どのようにその境地に至ったのかを教えてください。

入野 実はオリジナルよりもカバーをやりたい、というところからスタートしていたんです。ただ、カバーを主体にするのはちょっと違うかな、やりたい曲もあるし。なので、オリジナル曲もオーダーしつつ、というレコーディングが進んでいきました。そろそろタイトルをつけなければいけない段階で「タイトルかぁ…」と。今までも事前にコンセプトを決めて作ってきたわけではなかったので、いつもタイトル決めには苦労をするんですけど、今回は特にコンセプトと言われるものがなかったので「タイトル、どうしよう、コンセプトがない…コンセプトがない…、そうだ、“コンセプトがない”だ!」って(笑)。本当にそんなシンプルな考えでした。『NO CONCEPT』。コンセプトがない、というのもアリだなって思ったんです。以前の作品もそうだったんですけど、いつもクリエイティブな刺激をくれるアメリカ人の友達と話しているときに「“コンセプトがない”っていうのもいいんじゃない?」っていう会話があって。それはいいなと思ったのと、+αの意味づけとして、僕はストレートの舞台やミュージカル、ドラマや声優と色んな活動をしている。シングル「FREEDOM」のボーダレスというテーマとも共通するんですけど、自分の中での土台になっている部分である、ノーコンセプトで仕事をしていく、生きていくことがコンセプトというのはいいなぁと思って、今回の『NO CONCEPT』に至りました。ちなみにその友達は今回収録されている「Just give me the love」の歌詞のチェックや発音の部分も協力してくれました。

リード曲「Atarimae」で改めて気づいた“当たり前”という奇跡

――「何を作るか」を模索しながらの制作だったということですが、そんななかで「Atarimae」をリード曲に選ばれた理由や楽曲の印象を教えてください。

入野 オリジナル楽曲の中では最後に出来た曲でした。迷いながらの制作だったので、リード曲をどうしようか、と出来上がった曲を聴いていきながら決めていく感じだったんです。楽曲提供してくださったSean Oshimaさんはディレクターからの「こんな素敵な人がいますよ」という紹介で。言葉選びやサウンドも含めてSeanさんの曲を歌ってみたいという想いもあり、お願いをしました。それで出来上がった曲を聴かせていただいて「これはリード曲に」と。前回とも雰囲気を変えて、リード曲はポップな曲にしたいとも思っていたので、聴いた瞬間に決まりました。

――レコーディングの様子もお聞かせください。

入野 実際にSeanさんも来てくださったんです。聴いていると心地良かったり楽しいんですけど、歌ってみると結構難しくて……リズムの取り方も、「オンじゃなくてもっと後ろに」というディレクションに、ギリギリを狙っていくのがすごく難しかったですね。元々僕はリズムを速く取ってしまうほうなので、ものすごく後ろにリズムを取るのは自分の中で結構チャレンジングな曲だなと思いながら歌っていました。

――MVを拝見しました。コロナ禍で人と会うことが億劫になったり躊躇したりするような昨今に、とても人々が親密なMVには癒されますし、希望を感じます。入野さんの今回のMVへの想いをお聞かせください。

入野 いつもMVは監督にお任せというか。監督に曲を聴いてもらって、出していただいた案の中から「これは入れて」「ここはこんな感じじゃないほうがいい」とお話をするんですけど、大まかな部分は監督のアイデアの中で出来ていて。僕のMVにこんなに人が出てくることも最近ではなかったので、すごく楽しかったですし、人と触れ合う部分での温かみを感じられるMVになったと思います。撮影はすごく多国籍な雰囲気で面白かったです。、カメルーン、ロンドン、アメリカ、香川からとか色んな出身の方たちがいて。実は最初は、僕も緊張していたんです。舞台だと、最初はぎこちなくても稽古を重ねていくうちに仲良くなっていって、芝居をしていくなかでどんどん絆を深めていくんですけど、MVは数時間の間にやらなきゃいけないことなのでドキドキしました。でもみんなすごくフレンドリーで、楽しい撮影になりました。

――この曲に共感するのはどんな部分ですか?

入野 歌詞の、どの言葉も刺さる感覚があります。ベタだけど、大事なものを見失う前に、そこに当たり前にあることに気づけるかどうかは大きいと思っています。ライブをやります、舞台に出ますとなったときに、そこにはお客さんがいることが前提なんですよね。でもそれが当たり前ではなくなった世界線があって、今もそれが続いていることを感じている。その当たり前は、コロナ禍だけではなくて……先日、舞台の愛知公演があったときに台風がきて、東京から愛知の劇場まで5時間半くらいかけて行き、そのまま乗り打ちで公演をしたんです。お客さんは2時間くらいお待たせしてしまったんですけど、それでも拍手で迎えてくれて。改めてお客さんが来てくれないと成立しないということや、足を運んでくださることへの感謝など気づくものがあったので、なおさらこの「Atarimae」に描かれていることが通じるなと思いました。

アルバムに収録された楽曲たちを共に制作をしたクリエイターとの思い出

――ほかの収録曲についても伺いたいのですが、クリエイターの皆さんには入野さんからオーダーをされたのでしょうか。

入野 そういう曲もあります。Seanさんに関しては、彼の楽曲で好きな曲があったので、「こういうポップで明るくて、聴いたときにシンプルに日常の鬱憤が晴れるような曲にして欲しい」とだけお伝えして、あとはSeanさんの音で、と。sooogood!さんは元々交流もあり、よく連絡も取り合う仲でいつも新しい音楽を僕に与えてくれる存在なんです。自分の中で完成形が想像できないけどやってみよう!と作っていきました。Mega(Shinnosuke)さんは、連絡していたときに「またいつでも曲を書きます!」って言ってくれたのでお願いしました(笑)。前回のシングル以降で言うと久しくバンドサウンドを歌っていなかったですし、青春サウンドをやりたい、と話をしたんです。MegaさんもジャンルレスにバンドサウンドやEDM系もやっていたりもするので、信頼してお願いをしました。きなみうみさんは「こういう方がいます」とディレクターからデモを何曲か聴かせていただいたんですが、どの曲も洋楽ライクですごく好きだったんです。そういうところに惹かれて、「この中でも僕に合うのはどれですか?」とディレクターと話をしながらお願いをして。元々の歌詞もきなみさんが書いていて、そこから大きく外れないような感じでお任せをしました。yonkeyさんはsooogood!さんの紹介でだいぶ前に知り合った方で、実際には会ったことはないのですがオンラインではお話をしていて。彼の曲が好きですし、“新しい学校のリーダーズ”というグループのプロデュースもしていて、その楽曲もすごく好きなので、いつかご一緒できたらと思っていましたし、新しい出会いということでお願いをしました。自分から出る音としての声をサンプリングしたらどうだろうとか、色々とアイデア出しを僕もしながら、あとはyonkeyさんにお任せをしました。佐伯さんはsooogood!さん同様にいつも連絡を取っているので、「ゴスペルチックとかやりたいよね」と話をしていて。お互いにシルク・ソニックがすごく好きで、こういう感じの曲をやりたいよね、それならこうしてみようか、とキャッチボールするなかで出来上がった6曲です。

――歌詞の面に関しては「こういう内容で」というオーダーはあったのでしょうか。

入野 歌詞は全部お任せでした。そのなかでも、佐伯さんの「Just give me the love」は常々ずっと思っていることで。“愛”は自分の中でもすごく大切なんです。それは“恋”とか“恋愛”ではなくて、作品“愛”とか、もちろん友情や家族愛もそうですが、すべてのものにおいて愛は大事だなと思っているんです。聴いてくれている人や、舞台に立っていても困難な状況の中でも観劇に来てくださる人たちを見て、その人たちへの感謝とか、みんなからの愛をすごく感じるんです。特にこのコロナ禍の中では強く感じる瞬間もあって。なにも言えないけれど、愛で繋がりたい。「舞台を見に行きたい」という愛とか、そんな愛をみんなに与えてもらっていたし、それが続いていくことで次の作品を作ることにも繋がる。この世界で生きていくってそういうことだよね、ということを佐伯くんと話していて。それが彼自身の遊び心がありつつも芯のある言葉選びで出ていて、今回のアルバムのラストを飾る曲に相応しいのかなと思いました。

――レコーディングでの印象的なことや苦戦された曲など、レコーディング秘話をお聞かせください。

入野 「Super Candy Funk」は、リズム感と物理的な部分がすごく難しくて。先ほども言いましたが、完成形が自分の中で見えなかったんです。コーラスも入れて、生で録っている部分もあったんですが、soooogood!さんの中ではイメージがあるものの、それがレコーディングでは打ち込みの音だったので、どうなるのかがわからない状態でのチャレンジで……そういう意味での難しさがありました。自分の声だけだと物足りなく聴こえて「これで大丈夫?」と。実際にコーラスが入ると、たしかにこういうことがやりたかったんだなと納得できました。「FUN!!!」はMegaさんがスタジオに来てくれて、「きれいに歌わないところを意識してほしい」とか「少年感を出して歌ってください」というこだわりのディレクションがあったんです。それこそ声の印象だったり、歌を深いところではなく浅いところで歌ってみたりもして。それがMegaさんの言う“少年感”に合うのかどうかを最初はすり合わせながらやっていた部分はあります。「Party」はブラックミュージックっぽい曲でもあるので、あまり日本語っぽくは歌わずにルーズに歌う部分を意識しました。でもルーズすぎて響かないように、というバランスが難しかったです。あと物理的にも最後に高いキーで伸ばさなきゃいけないところが大変で。「ライフダンサー」もラップ調の中でも雰囲気が違ったので、yonkeyさん自身が歌っていたデモをトレースして表現した感じでした。「Just give me the love」は英語なので、タイトルの助言も受けたアメリカ人の友人に聴いてもらって「ここはどうだろう」と発音を確認したり……どの曲も本当に大変でした(笑)。

――その「Just give me the love」はゴスペルっぽさもありますが、入野さんの中で特に強くリクエストされたことはあったんですか?

入野 僕と佐伯さんの中ではシルク・ソニックっぽい曲というのがテーマとしてあって。そのなかでゴスペルっぽくて人数感のある曲がいいよねって話をしていたんです。でもゴスペルに振りすぎても、そのフィールドの出身ではないし自分では表現しきれないだろうということで、ポップさについては佐伯さんの持っているものとのミックスでのリクエストもしました。実際にコーラス隊も豪華なメンバーに参加してもらいましたし、かなり人数がいる感じに聴こえて。いつもやっている楽曲に比べて生の部分も多いですし、ベースはゲスの極み乙女の休日課長さんが弾いてくれているんです。元々以前から交流があって、きのこ帝国の佐藤千亜妃さんも彼に紹介してもらって前回「グッドバイ」っていう曲を書いていただきました。交流が広がっていくなかで、一緒に仕事をしたことはないから、いつか何かできたらいいよねという話をしていたので、今回お願いをしました。実際にミックスの部分でもベースの下の部分も聴こえるようにしてもらっているので、わかる人には「課長のベースだ!」って思ってもらえるかもしれないですね。佐伯くんが作ったベースライン+課長も考えたベースラインで弾いてくれているので、ぜひ聴いてもらいたいです。

次ページ:ずっとやりたかったというカバー曲に臨んだ今の気持ち

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