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2022.11.05

10年分の想いを込めて――天才が魅せた圧巻のステージングと涙、「ZAQ 10th ANNIVERSARY LIVE “ZAQPOT”」を振り返る

10年分の想いを込めて――天才が魅せた圧巻のステージングと涙、「ZAQ 10th ANNIVERSARY LIVE “ZAQPOT”」を振り返る

“天才”ZAQが3年ぶりにワンマンライブを行った。本人もライブ内のMCで話したように、この日は都内各所でアニメ系のライブ・コンサートが多く催されていた。コロナによる第7波が到来してはいたものの、感染防止の対処法のノウハウなどが蓄積されてきた結果だろう。ZAQが宴を催す会場として選んだのは、東京は恵比寿にあるザ・ガーデンホール。客席からの距離感、ホールの雰囲気、様々な面で久々のZAQ降臨に申し分ない場であり、唯一無二の夜が生まれる結果にも繋がった。この10月でアーティストデビュー10周年を迎え、記念すべき2022年は、9ヵ月連続配信シングルおよび初のベストアルバム『ZAQPOT』リリース、11月には音楽劇「ジェイド・バトン」で「ペルソナ3」以来となる2度目の舞台出演、そして数多くのアーティストへの楽曲提供、と濃密に濃密を重ねた日々を駆け抜けるZAQ。改めて天才が天才たる所以を各所で見せつけた当日の様子を振り返ってみたい。

TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

暗闇の中で流れてきたのは、9ヵ月連続シングルリリースの第3弾「ANTHEM」のイントロ。高揚感があり、「凱旋行進曲」(「アイーダ」より)を思い出させる雰囲気を持ち、あるいはそのイントロの「Wow Wow」という雄叫びは声を出せないフロアの代弁者かと思わせる、そんな始まりだった。まだ暗いなかだが、幕開けが近いと知ったフロアは手を打ち鳴らし、ブルーの照明に照らされながらバンドメンバーのシルエットが各自の持ち場へと向かっていく。最後に現れたZAQがセンターに。すると美しいピアノの旋律が流れ、「Sparkling Daydream」(2012年10月24日リリース)が躍動した。いきなりの代表曲中の代表曲登場にオーディエンスは一気に感情を爆発させ、赤いサイリウムを振り回し、サビでは大きなジャンプを見せる。この10月に10歳の誕生日を迎える曲に対して、誰もが全身でお祝いを表現していた。

一方のZAQも、“瞳が夜 忘れない”後の静寂明けではとても楽しげな煽りを見せ、最初から会場と楽しむ気持ち満々であることが伝わってきた。続いては、ライブ10日前にリリースしたばかりの『ZAQPOT』より新曲の「狂騒」。聴き込まれた日数は少ないはずだが、「狂い咲け!」とのZAQの命令を受け、また「これが皆のイメージするZAQでしょ?」と言わんばかりに「らしさ」満開の楽曲ということで、フロアで聴く者たちは自然と鼓動が速められていく。デビュー曲と最新曲を並べ、まさにZAQの10年を10分足らずに押し込めた流れということもあり、ファンも高ぶる気持ちを抑えられない。さらに「ソラノネ」をたたみ掛ける。「JOURNEY」と共に、「Sparkling Daydream」の呪縛を断ち切ったと感じさせた名曲だ。原曲はビッグバンドスタイルだったが、この夜は選ばれしバンドメンバーと一緒に歌ってみせた。

冒頭1ターン目の3曲で、膝の屈伸を使って身体を前後に揺らし、キュートな二つ結びを振り回しながら頭を前方に叩き付け、手足の指先までリズムが染み込んでいるかのような、そんなZAQの動きに良い意味で翻弄されていく。こちらも自然と身体が動き、観る者をグルーヴの天国に引きずり込んでいた。衣装替えやセットチェンジがあるわけでもダンサーが追従するわけでもなく、ステージ演出は皆無。というよりも、ZAQのパフォーマンスが唯一のステージングという状態。もちろん、時折ピースを片目に重ねたり広げた掌を高く掲げたり、ファンに向けても視線を送ったり指を差したり、客席に向けてのアクションも多いが、基本的には誰よりも音楽に没頭した姿を見せつける。だからこそその場にいる者の視線がくぎ付けになり、操られるかのようにZAQと共にただただ楽曲に耽溺してしまう。MC後の2ターン目でも、ZAQ曲にしてはBPM遅めの「OVERDRIVER」(2014年)でファンの四肢を揺らし、9ヵ月連続リリースのトップを飾った「ZIGZAG」でストレートなバンドサウンドで跳ね回らせ、そして多彩な展開とメロディワークスでZAQの才能をさらに知らしめた中期代表曲「カーストルーム」(2017年)で空気を弾けさせた。「天才」と自称するだけのことはある、圧巻のライブ時間が続く。

天才に関しては、この夜のZAQを支えたバンド「ZAQPOT JAPAN」(g. 馬場一人、key. 野崎洋一、ds. かどしゅんたろう、b. 黒須克彦)メンバーのお墨付きもある。2度目のMCでバンメン紹介で口々にZAQに対する称賛が出ていたが、特に黒須はZAQを長く見続けた身としてこの10年における変化を例に挙げてみせた。黒須によると、10年間で変わらないところは「天才である」ことらしい。「身近に天才いますか?」と聞かれたらZAQと答える、と明言してみせた。一方、変わったところは「ボーカリストになった」ことだとか。黒須の持論では、シンガー=歌う人だが、ボーカリストは「自分を表現し」「ライブでバンドを従え」表現でみんなを感動させる人らしいが、ZAQは最初のライブではみんなに支えてもらっていたものの「今は引っ張っている」と絶賛のうえで説明した(「10年前は殺すとか言わなかった」とも付け加えていたが)。

天才っぷりに関してはZAQ自身、この日のライブMCでも「ZAQの曲は良い曲だなあ」「世界一かっこいい」と自画自賛する場面も。当然ライブ用の発言であるにしても、ライブではZAQ楽曲の素晴らしさを一層感じるのは事実だ。なぜならば、スピーカーからの音は割れ、客席の位置によって反響は異なり、フロアに立つ互いの存在が良くも悪くも熱の渦を巻き起こすライブでは、ボーカリストの歌が圧倒的に空間を支配する。主題歌として制作され、CDにパッケージされた音源は研ぎ澄まされるように作り込まれ、楽曲構成や楽器それぞれにも役割が与えられ、聴く者はどれとも対峙することになる。特にZAQの楽曲では、そのアグレッシブな展開と複雑に絡み合った楽器やコードに耳を奪われる。だが、洗練さよりも豪気が、細やかさではなく勢いが聴く者を魅了するライブではむしろ、メロディの素晴らしさが際立つ。ZAQのライブでは、BPMの速さとリズムの気持ち良さと同時に、圧倒的なボーカルから生み出される歌が耳に次々に流れ込み、CDやオンエアで聴いたときよりもメロディメーカーとしての実力に気付かされる。別の言い方をすれば、アカペラやバラードにアレンジし直しても確固たる存在感を示すと確信させる歌ばかりだ。自分が作ると歌謡曲っぽくなるとはZAQからよく出てくる弁だが、それはまごうことなき長所で、耳に馴染みやすく、歌いたくなる旋律であるとも言える。

特に10年間を散りばめたセットリストの中で、デビュー時に近いほど荒々しい魅力に溢れ、近年になるほど名曲感の高い曲が多いと感じていた。「カーストルーム」まで駆け抜けたあとに歌った「のんのん日和」も、ZAQの才を感じさせる1曲だ。この曲は、ライブ開催前にTwitterで募ったアンケート(『のんのんびより』シリーズにZAQが提供したED主題歌のうち、一番人気だった曲をセットリストに追加)結果から選ばれたが、と同時にセルフカバーという意味では、ZAQの強い決意を見せた1曲でもあった。というのも、毎年3月9日は「ZAQの日」と称してライブを開催してきたが、2020年はセルフカバーオンリーライブとして実施する予定だったにも関わらず中止に。そのリベンジ、そしてセルフカバーアルバムの実現はZAQにとって、何よりもファンにとって「切望」にほかならない。そのうえで、非常にハートウォーミングな楽曲を、ファン同様、緑色を点灯させたペンライトを自身も振りながら、とびっきりキュートに歌ってみせたことは、作家としてもボーカリストとしても振り幅が大きいことを証明する時間だった。「作家としてのZAQも応援してほしい」とMCでも言っていたが、激しく難解で特異な楽曲を作り、歌うだけではない、ZAQが持つ二面性の自己紹介でもあった。

激しく、BPMの速い楽曲が揃うZAQライブで感じる二面性としてはもう1つ。MCでの二面性である。自身の曲に「世界一執着」し、「一番輝く場であるライブで一番輝かせたい」とMCでZAQは話したが、同時に繰り返し口にするのが、「ライブは答え合わせの場所」という言葉。ライブは、ファンが楽曲に対する感想を「顔で伝えてくれる」場、ZAQが「この曲を生み出して本当に良かった」と思える場でもあるが、と同時に「曲をみんなで一緒に育てていける」場とも話した。手がけた楽曲は自身の子供であり、「親元を離れて色々な人の耳に届いて、色々な感情を持たれて、育つ」という意識があるZAQにとって、子供たちと再会する場所が、ベストアルバムであり、ライブだ。その意味でファンは、ZAQにとって里親なのだろうか。つまりライブは、生みの親と育ての親が共に成長を祝い、愛でる場ということだ。だから「楽しんでってください」と素直にZAQは微笑む。自信に満ち溢れたファンを引っ張る存在でありながら、実は楽曲とファンへの愛にも満ち溢れている。この二面性もZAQの魅力であり、ライブはそれがよくわかる。

快感を覚えるほど、スピードと激しさに満ちた演奏部分に目を向ければ、今回のセットリストには2つのメドレーが組み込まれていた。1つ目は、拳を振り上げたくなる「激情論」から始まり、次の「Philosophy of Dear World」では歌始まりをスキップしてAメロに直繋ぎし、続いては、キャッチーなサビ始まりの「Alteration」という激走な流れ。しかもメドレー後には間髪入れず、コロナ禍でバンドと歌う機会が失われ続けてきた「イノチノアカシ」をフルで聴かせるというハイテンションな接続。これだけでも血沸き肉躍るが、MCや「カタラレズトモ」、インタールードを挟むと、そこはもう2つ目のメドレー。しかも、「Seven Doors」を1番まで歌い上げると耳に残るホイッスルが。そう「Last Proof」である。今度はこちらの1番を歌い上げると、また「Seven Doors」のラスサビに繋げるという変則構成。黒須のものというこのアイデアによって楽曲もフロアのハートも縦横無尽に跳ね回った。まさに「ゼッコロゾーン」(ZAQライブ名物の、激しい曲が連続する「絶対殺すゾーン」の略)の名にふさわしい内容だった。次なる「Serendipity」「Dance In The Game」「ASEED」「BRAVER」とぶっ飛ばしてくラストターンにしても、そもそもすべてがアニメOPテーマという1つのメドレー。どこを切ってもOPテーマが登場してくる内容に、ZAQが10年変わらずトップランナーとして走り続けてきた偉大さを痛感させる。

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