【ライブレポート】初のライブツアー“Tomori Kusunoki Zepp TOUR 2022『SINK⇄FLOAT』”東京公演で見せた 、“表現者”楠木ともりの世界――。

声優・シンガーソングライター/アーティストとして幅広く活躍する楠木ともり、初のライブツアー“Tomori Kusunoki Zepp TOUR 2022『SINK⇄FLOAT』”。その東京公演、8月13日、Zepp DiverCityで行われたライブを観て、やはり彼女は卓越した表現者であることを確信した。自ら作詞・作曲を行い、自分の中にしっかりとしたサウンドのイメージを持っているからこそ実現できる、ライブならではの表現。音源とはまた別の角度から楽曲たちに光を当てた、その新たな世界に引き込まれる一夜となった。

楠木ともりがその“声”で誘う、めくるめく音楽の世界

この日のライブはしとやかに幕を開けた。暗転したステージに、まず浮かび上がったのは月の姿。ステージ前面に張られた紗幕いっぱいに月の神秘的な映像が映し出され、アンビエントなSEも相まって会場は厳かな雰囲気に包まれる。やがて映像は星空に変わり、紗幕の向こう側に立つ楠木にスポットライトが当たる。彼女が1曲目に選んだのは「sketchbook」。夜のしじまに溶け込む、繊細で儚い歌声。現実と非現実の狭間のような、幻想的な歌の世界に、オーディエンスを一気に引き込む。

「sketchbook」の終盤、温かな色をした照明が灯り、まるで朝焼けのように美しい光景のなか楽曲が締め括られると、紗幕が下りて、今度は一転して青空の世界へ。楠木は「ぜひ立ち上がって、自由に楽しんでください!」と呼びかけて、快活なギターポップチューン「僕の見る世界、君の見る世界」を歌う。サビでは楠木は手を、観客はタオルを振り、お互いの見ている世界をシンクロさせていく。

長袖シャツとパンツを合わせた柄物のセットアップという装いの楠木は、軽い挨拶を挿んで、ここから連続で楽曲を披露していく。変拍子が特徴的な「ロマンロン」では、紫色の照明演出が激情的な感情をドラマチックに演出。楠木の歌声も心の叫びのように激しくうねる。続く「クローバー」は現状、彼女がメジャーデビュー前にインディーズでリリースしたCDにしか収録されていない楽曲。三拍子の優雅なリズムに乗せて、切々とした気持ちを吐き出す。

明滅するライトとスモーク演出が、楽曲の鮮烈さを一層強調したのが「Forced Shutdown」。拒絶について歌われたこの楽曲の、ある種、二律背反とも取れる複雑な感情の機微を、楠木は声音を自在にコントロールしながら情熱的に表現していく。そこから急転回し、観客を深く繊細な雨の世界に誘ったのが「山荷葉」。イスに腰掛けた楠木は、ガラスに雨粒が落ちる映像をバックに、しっとりと楽曲を歌い紡ぐ。楽器の演奏や歌声にディレイをかけた音響処理が、まるで森の中の霧雨のように幻想的な効果を生み出していく。

そこからアコースティックギターの演奏をバックに、ブルージーな歌声を聴かせたのが「眺めの空」。夏の情景を描いた歌詞の内容は時期的にもピッタリで、楠木のやや気だるげな歌唱アプローチが、ノスタルジーな感傷をさらに増幅させる。2番以降、キーボードやベースといった楽器が持ち回りでバックを担当し、ラスサビではドラムも加わってバンド全員で演奏。そして最後は再びアコースティックギターのみをバックに締め括る構成も含め、実に趣き深いステージだった。

続く「よりみち」では横揺れ系の都会的なグルーヴに誘われて、オーディエンスもクラップしながら体を揺らせて楽曲を楽しむ。かと思えば「熾火」で観客に向けて「行くぞ東京!」と呼びかけ、ギアを一気に引き上げて力強い歌声を叩きつける楠木。この振れ幅の大きさもまた、彼女のアーティスト性を象徴する一面といえるだろう。さらに街の様子や喧騒が早回しで映された映像演出を挿み、最新EPの表題曲でもある「遣らずの雨」へ。プログレッシブかつカオティックとも形容したくなるバンドの演奏と、そのサウンドに激しく身を揺らしながら歌う楠木の姿は、鮮烈のひと言だ。

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