――そんな『IDEA』の楽曲についてお伺いします。まずは冒頭の「Axis」ですが、タイトルからして「おっ」となるような……。
あらき 「おっ」と思わせたいと見せかけて……深い意味はないですね(笑)。
――ないですか(笑)。
あらき なんというか、色々な意味が詰まった曲かなって。“Axis”は“軸”という意味があって、例えばグラフを書くときのx軸とy軸などの軸というニュアンスとして捉えています。今、自分の活動としてはボーカロイドのカバーをやるか、オリジナル曲をやるかという2つの軸が存在していて、こうしてボカロPさんにオリジナル曲を書いていただけるのも、ボカロのカバーとオリジナルの軸がちょうど交差するところにあると思うんですよね。最終的には色んな軸が交差していく活動になればいいなという意味合いを含んだアルバムになれば、という想いで1曲目に持ってきました。
――まさに自身のアイデンティティを証明するような歌詞であると。
あらき あと僕の脳内のイメージなんですけど、この曲の冒頭に“白煙”という歌詞が出てくるんですよ。去年の冬に“HETERODOX”というツアーが終わったんですけど、イメージとしてはそのステージ上でスモークが漂っているところでの、僕の回想が始まっている……みたいな感じで歌詞を書き始めて。
――なるほど、歌い出しが“思い出したよ たしか此処は まだ夢の最中”というのもそういう意図があるんですね。
あらき そう。本番が終わって、ステージ上にまだスモークが残っている状態での映像から書き始めているというか。
――そうした意味では前作から繋がっている、ドキュメンタリー的なイメージでもあると。
あらき 『UNKNOWN PARADOX』を引き連れたツアーが終わった、さてここから何をしようかっていうところから歌詞の書き出しになります。
――それもあってか、エレクトロニックな本作の中でもロックな残り香がある楽曲ですよね。そしてここから本格的に『IDEA』が始まるという。続いて、エレクトロニックな要素が強いミクスチャーナンバー「Evacuation」です。
あらき すごい曲ですよ。一番かっこいいんじゃないかなって、アルバムのかっこいい部門1位みたいな。
――宮田’レフティ’リョウさんらしい、海外のロックバンドをイメージさせるようなサウンドですね。
あらき レフティさんは直接の知り合いではないんですけど、海外でコライトしていくことが多い方なんですよね。そんな経験値を持った人物はなかなか周りにはいないので、良い機会だと思ってお願いしました。本場で培ってきたエッセンスをぜひ入れ込んでもらおうと思ったら、まさに澄川さんがおっしゃったような、どことなく海外のバンドのアプローチが多い曲に仕上がりました。
――ここで語られる内容もシリアスというか。
あらき “evacuation”は“避難”とかの意味があって、“escape”とはまた違うニュアンスなんですよね。自分は凛とした態度でいるけれど身にふりかかる災難を避けるというか、逃げ腰ではないという。
――そうした強い意志を示す「Evacuation」から「GOLD TOKIO」という、パリピ的なダンスナンバーへ続きます。
あらき パリピですかね?(笑)。タイトルがこれでよかったのか?とはいまだに思うんですけど(笑)。本当は「STAY GOLD」にするつもりでしたが、たくさんあるタイトルだし、捻っていったらこうなりました。
――ダンサブルなサウンドで、あらきさんの軽やかなフロウがハマった仕上がりですね。
あらき 自分は声質的に低い成分が多くはないんですよね。よくロック畑だと思われるんですけど、まさに軽やかにリリックがノりやすいという意味ではエレクトロな曲にも合う声だと思うんですよね。なので、こういう曲調でも上手いことまとまるというか。
――たしかにあらきさんの高音の抜けがよく聴こえる1曲ですね。
あらき 抜けが良いですよね。ただ、歌ってみて「GOLD TOKIO」が一番難しかったですね。一度録り直してもいるんですけど、kors kさんの曲だとDisc2に入っている「0 GAME」も撮り直しました。kors kさんの曲はちょっと難しいんですよ(笑)。
――そして先行配信された「A New Voice」ですね。
あらき お洒落!エレクトロスウィングというんですかね、自分はまったく触ってこなかったジャンルですね。
――ボカロ楽曲ではよく聴かれるスタイルですが、あらきさんにとっては新鮮なサウンドですね。
あらき 色気がある系の歌い方や声の人が歌うようなジャンルといいますか。そういうジャンルに触れてこなかったので、色気ではないアプローチで切り込んでいけたらなと思っていて、まさにFAKE TYPE.さんとならそういうのができるんじゃないか、と思い作りました。
――そしてアルバムはここから後半にかけて、様相が変わっていきます。
あらき ここからちょっとコアな感じになりますね。
――そうですね。続く「re:GENERATE」がまさに。
あらき はい。これも難しいですよね。基本的には全部難しいです(笑)。
――この曲は全編英詞となっていますが、日本語詞と比べていかがですか?
あらき 英語が得意なわけではないのですが、語尾を気をつけないといけないんですよね。例えば“I’m here to stay”の“stay”も、「ステーイ」というか一番最後の“y”、“イ”をしっかり発音しなくちゃいけない。実際「ステー」となりがちなんですけど、語尾のほうまで音符ではめ込んであげないとぼやっとしてしまう。
――一方でかっちり歌いすぎるとカタカナ英語になってしまう、そのバランスも考えつつのレコーディングなわけですね。
あらき 今だけ自分は外国人なんだ、という気持ちをもたないとついていけなかったですね。気持ちはもう(海外)在住っていう感じでっていうノリでレコーディングしました(笑)。
――歌詞も深くアイデンティティを問う内容になっています。
あらき 楽曲的には「A New Voice」と共鳴し合うような、もう1回頑張るぜっていう内容ですね。そこはアイデンティティ的なテーマを突き詰めた内容でして。ただ、さっきの「Evacuation」のほうでは“I don’t wanna stay”(ここにいたくない)って言ってるんですけど、「re:GENERATE」のほうは“I’m here to stay!!!”(ここにいたい)っていう内容なんですよ。“ここ”というのがどこを指しているのかは楽曲ごとに違うんですけど、そこは面白いかなって。
――続いては柊マグネタイトさんによる「リロード」です。
あらき マグネタイト先生は前作も参加していただいていますが、一際目立つ存在というか……特殊な立ち位置の楽曲でお願いしました。
――重たいベースが印象的な楽曲となっていますね。
あらき この曲すごく好きなんですよ。ライブでやると異常なまでの縦ノリになる曲だと思っていて、まさにイメージ通りかなって。
――そこからピノキオピーさんによる「九死一生」と続きます。
あらき いやあ、死ぬほど難しかったです(笑)。仮歌がピノさんのボーカルで届いたんですけど、どう塗り替えればいいのかなって。さっきの「リロード」も一緒ですけど、静かなる強さを感じる曲ですね。
――歌詞もまたシリアスというか。
あらき そうですね、哲学的なものを入れ込んでいただきました。ピノキオピーさんは面白い歌詞を書く人だなと思うんですけど、そこで『IDEA』的なものに触れていただいているかなと思います。
――ある種自問自答というか、深みのある歌詞ですよね。
あらき なんかね、歌っていてドキドキします。怖くなってくるというか(笑)。
――そして『IDEA』も終盤、あらきさん作詞の曲が続きます。まずは枯れたアコギのフレーズから始まる「Cherish」。
あらき これは、作曲編曲の鳴風さんと共作みたいな感じで、演奏から一緒にやってもらいました。最初のものからベースはあまり崩れていないんですけど、イントロを7拍子にしたり鳴風さんと一緒に進めていったら、ちょっと特殊な曲になりましたね。
――不思議な広がりのある曲で壮大なムードも感じられますが、歌詞についてはいかがですか?
あらき この曲はそんなに内容としては広がっていることはなく、サビの歌詞をリフレインして、「俺の心臓はまだ動いているんだ」っていうことだけを書いています。めちゃめちゃ筋肉痛だろうがガチ疲れて動けねえよってなってもまだ心臓は動いている、「まだ動けるだろ?」って。前作もそうなんですけど、自分で歌詞を書くと自分に向けた感じの歌詞になるんですよ。
――まさに自分自身に言い聞かせるというか。
あらき そうですね。心奮い立たせる系といいますか。
――そして最後にはあらきさん詞曲による「Secret Girl」ですが、これは……。
あらき ……これはあまりちょっと深掘りすると痛い目に遭うので、楽曲の内容はあまり(笑)。
――ほう(笑)。
あらき これだけテーマが違うというか、おふざけ曲になっているといいますか。この曲は昔よくあった、アルバムを一連で再生して、そこから10分か20分くらい経ったらひっそり流れてくるような、隠れトラックみたいなノリの曲なんですよ。
――昔のアルバムにはよくありましたよね。CDで最後まで聴いていると無音の状態が続いて、突如曲が鳴り出すという。
あらき これは楽曲の内容は聴いていくと伏せられているんですよね。シークレットなガールって?ってなるんですけど、それは一番最後まで伏せられていて。で、最後に……お前か~い!って(笑)。
――たしかに導入はシリアスなんですよね(笑)。
あらき えっ、ちょっとシリアスめな内容?「Secret Girl」って……お前かい!という(笑)。
――そこは実際に歌詞を確かめていただければと(笑)。
あらき それも『IDEA』なのかなと。
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