【コラム】chill out with girls, chill out with music――ジャズと声優、両者の新たな魅力に出会わせてくれるプロジェクト「swing,sing」の魅力に迫る

「swing,sing」の音楽を唯一無二にする、女性声優の特性

舞台は長野県の避暑地である軽井沢。その地を1人の少女が訪れた。彼女の名は八乙女 菫。音楽の才能に恵まれ音楽学校に在籍していたが、都会の喧騒から離れ、1人で下宿しながら普通の高校に通うことを決めてやってきた。だが、下宿先がカフェ「プリムローズ」を営んでいたことから、新たな音楽生活が始まる……。

「swing,sing」は、楽器やカフェ空間を通じて出会った少女たちが奏でる「青春」を描き出した群像劇だ。そして、少女たちを結ぶキーワードは「JAZZ」。しかも、「chill out with girls, chill out with music -青春も、音楽も、ゆっくり行こう!-」のキャッチコピーが指し示すように、ゆったりとしたカフェミュージックが基調となっている。これまでもアニメ/マンガとジャズは何度か触れ合い、人気作・話題作が生まれたこともあったが、決して深い関係であったとは言えない。だが、日本はアジアの中でも、世界的に見てもジャズという土壌が育まれてきた文化圏で、現在はギターロックを中心にバンドロック全盛の時代ではあるものの、スウィングなリズム感とメランコリックな音楽性は日本人の特質と親和性が高いはずだ。

公式サイト上ではすでにコミックが連載開始され、2022年5月29日には招待者限定の1stイベント“What A Wonderful Music World”を開催、少しずつその潜在能力を明かし始めているが、やはり真価を発揮するのはオリジナル楽曲が世に放たれたときだろう。そのファーストコンタクトの機会が“コミックマーケット100”(東京ビッグサイト/2022年8月13・14日)にある。全国流通も予定されているが、1stミニアルバム『Kind of Harmony』は、コミケでの最速先行発売が決定している。収録されるのは、主要キャラクターがメインボーカルを務める5曲。

一足早く楽曲を紹介するならば、まずは、ビバップ風だがソプラノサックスの代わりにキャスト陣5人の歌声が主役を張る「Harmony」。リラックス&カフェミュージックの神髄ともいうべき楽曲で、主人公・八乙女 菫(CV:二ノ宮ゆい)がタイトル通りにリスナーを癒しへと誘う「夢の中へ」。シンバルがレガートを刻み、スロウながら小気味良いジャズに、廣瀬千夏(百瀬百々役)の声が圧倒的なコケティッシュさを与えている「アロマ」。超絶技巧ピアノとパーカッションというセッションに対して、歌唱力には定評のある田口華有(朝比奈日葵役)がパワフルなボーカルを響かせる「Sweet Butter」。ストリングスを従えたPOPなメロディラインをフュージョンと“融合”させ、ボーカリストである大橋彩香(天羽友梨役)がまばゆいばかりの表現力を示す「銀色メロディ」。そして、アコースティックギター&パーカッションというシンプルなユニットを背に、田所あずさ(風祭瑠璃役)が切々とブルージーに歌い上げる「廻り」。

駆け足の紹介を聴いてもわかるように、ビバップやフュージョン、ブルースといったジャズ百数十年の歴史の中で築き上げられたバラエティを楽しめるようになっている。ジャズやカフェミュージックを掲げてはいても聴く側がかしこまる必要はなく、コンテンツの中に共通する「スウィング」にその身を委ねればいい。なぜなら、全楽曲が生楽器によるレコーディングで非常に上質な音楽が生み出されているからだ。

一方で女性声優たちがボーカルを担うことで、ジャズにまた新しい息吹を与えている。声優だからこそ響かせられるクリアな発音や歌声は、即興音楽的であったり複雑なリズムやスケールを抱いたりというジャズとはベクトルを異にしているともいえるが、だからこそ新たなジャズ世界の扉を開いており、女性声優の特性とジャズの特徴を絡ませることで「swing,sing」の音楽を唯一無二にもしている。と同時に、ともすると低年齢化や透明感、清純さが求められがちな女性声優たちが内包している実力を発揮する場にもなっている。新しい種類のジャズであると同時に、参加する女性声優たちの新たな魅力に出会える場にもなっていると言えよう。

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