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INTERVIEW

2022.07.22

【インタビュー】立ち止まって見つめ直した「本当の自分」――水瀬いのり、約3年ぶりのニューアルバム『glow』に込めた想いを語る。

【インタビュー】立ち止まって見つめ直した「本当の自分」――水瀬いのり、約3年ぶりのニューアルバム『glow』に込めた想いを語る。

多彩な歌唱アプローチで想いを届ける新曲群

――4曲目の「風色Letter」は、温かな雰囲気のミディアムナンバー。作詞は磯谷佳江さん、作曲・編曲は新田目 駿さんです。

水瀬 少しフォークソングっぽい懐かしいサウンドで、私の好きなバラードすぎないミディアムテンポの曲になっています。この曲には優しさや懐かしさ、大人になったからこそ刺さるものがたくさん入っていて。小さくて身近にある幸せを噛みしめるという意味では、アルバムのテーマに沿った1曲だと思います。

――歌詞では、昔をふと懐かしむような心情が描かれていますね。

水瀬 私から歌詞のイメージをお伝えして書いていただきました。社会人になると自分の生活環境がガラッと変わりますが、昔の友達に会うと一瞬で心があのときに戻れることがあるじゃないですか。それって年齢を重ねるにつれて、(昔の自分から)離れていくわけですけど、それでも一瞬で戻れることがすごく素敵だなと感じていて。そんな仲の友達と今も同じ空で繋がっていることをふと思い出して、みんなも頑張っているから私も頑張ろうって思える、そんな歌をうたいたくてお願いしました。

――水瀬さん自身も昔の友人と連絡を取り合うことがある?

水瀬 そうですね。もちろん同じ世界の友達も、仕事の悩みなどで共感できる部分がたくさんあるので、プライベートでも助けてもらっていますが、学生時代の自分を知っている友達は、メディアを通して自分を伝えるなかでふと「私ってどんな人だったっけ?」と思ったときに正してくれたり、「自分らしさ」を思い出させてくれる象徴にもなっていて。プライベートを支えてくれている学生時代の友達にはすごく感謝しているので、ライブではきっとその友達を思い浮かべながら歌うんじゃないかなと思います。

――続く「Melty night」は、ややチルっぽい曲調のまったりしたナンバーで、今までの水瀬さんの作品にはなかったタイプの楽曲ですね。

水瀬 ちょっとジャズっぽさもあったりして。タイトルはかわいらしいですが、すごくお洒落でグルーヴ感のある楽曲になりました。私の楽曲では史上最高の「夢見る女の子」というか、「恋に恋する女の子」が出てくる曲になっていて(笑)。それをデビュー当時ではなく、今の私が歌うことに少しドキドキしたのですが、曲調はそこまで「かわいい」に全振りした感じではなかったので、流れるように歌いつつ、でもドキッとするバランスに仕上がったと思います。かわいらしい恋を歌う曲はこれまでにもありましたが、この曲では大人っぽいかわいらしさを表現することができました。特にラストのフェイクは新鮮な要素だと思うので、ぜひフルで聴いてほしいですね。

――余談ですが、胸がときめいて「眠れない」というテーマ的には、TVアニメ『魔王城でおやすみ』のスヤリス姫を思い出したりもしました。

水瀬 睡眠繋がり(笑)。この楽曲は自分のラジオ番組(「水瀬いのり MELODY FLAG」)のEDテーマになっていて。「おやすみなせ~」(ラジオ番組の締めの挨拶)な私にはぴったりな、皆さんにも聴き馴染みやすい甘い夜の楽曲になったと思います。

――そしてシングル曲「ココロソマリ」を挿み、8曲目「八月のスーベニア」は藤永龍太郎(Elements Garden)さん提供の青春感溢れるロックナンバーに。

水瀬 藤永さんにはいつも曲のサウンドイメージを事前にチーム内で決めたうえでお願いしているのですが、歌詞の世界観は藤永さんにお任せして書いていただきました。毎回、胸がキュンとなるような歌詞が届くのですが、この曲も夏の思い出や、暑さの中にある冷たさ、少し夏の終わりを感じるところがあって。「七月」ではなく「八月」というところにも、残暑を残す切なさが感じられて、さすが藤永さん!と思いました。

――歌のアプローチはほかの楽曲と比べて、低音の部分を効かせた歌い方になっていますね。

水瀬 特にローの成分が肝になっている曲だと思います。(音程的に)出せる音ではありますが、言葉をちゃんと伝えるには少しキーが低いかなと思いながらレコーディングの日を迎えて。でも、藤永さんから「音として歌うというよりもつぶやく感じ、胸の中のものがポロッと出てしまったようなニュアンスで」というディレクションをいただいたので、胸の中にしまっていたものがAメロ、Bメロ、サビと段階を踏むにつれてガッと出るようなイメージ、青春らしさを感じてもらえる構成を意識して歌いました。

――イントロとアウトロに水瀬さんのブレス音が入っているところも、聴いていてハッとするポイントだと思います。

水瀬 生々しさというか、人間味が感じられますよね。デモ音源には幻の藤永さんバージョンのブレスが入っていて。私はそのままでもいいんじゃないかと思ったのですが、そこは少し申し訳ないと思いつつ上書きさせていただきました(笑)。

様々な“輝き”が照らし出す、水瀬いのりの「自分らしさ」

――そこから「HELLO HORIZON」「REAL-EYES」と既発曲が続き、11曲目の「パレオトピア」はバンドサウンドやオーケストラ、激しい打ち込みビートが絡み合うドラマチックなナンバー。これまで「Winter Wonder Wander」「Well Wishing Word」「クリスタライズ」といった楽曲でご一緒してきた栁舘周平さんの提供曲です。

水瀬 栁舘さんも自分の世界を持ってらっしゃる方で、チームの中でも栁舘さんがどんな世界を形にしてくれるのかいつも期待しているところがあって。なので今回も全面的にお任せする形でお願いしたんですけど、唯一無二のサウンドと歌詞の表現で、アレンジにも癖になる要素をたくさん散りばめてくださって、すごく嬉しかったです。

――この曲では主人公である“僕”の心象風景と気持ちの変化が描かれているように感じたのですが、水瀬さん的にはどのように受け取って表現しましたか?

水瀬 栁舘さんの持っている世界観は、私の好む世界観とも非常に近いと思っていて、今回も「弱さを許す」というテーマがあるように感じました。自分の弱さを許す強さ、みたいな。甘えてしまえば何となくでも世界は回っていくけど、そうではない、自分の“鎧”を脱ぐ強さがこの曲では表現されていて、それは自分のアーティスト活動ともリンクしていると思うんです。もちろん色んな力を借りながら歌っていますが、結局は自分がどうありたいかが要になるところがあって。栁舘さんのネガティブをネガティブのままにしない表現には毎回共感しますし、この曲も自分が表現したい何かとシンクロする部分がある曲になりました。

――色んなサウンドが入り乱れる激しい曲展開も、自分の弱さを許すまでの葛藤、心の中の風景をそのまま形にしている印象があります。

水瀬 途中でワルツっぽくなったり、一気にビートが早くなったり、ジェットコースターみたいな感情を繰り返すなかで自分らしさを見つけていく。それで最後は何もかもがすっきりした空になったなかで“虹を見ているよ”と歌うところが、ものすごく自分を投影しながら歌うことができて。レコーディングもとても収穫のある時間でした。

――そして12曲目「心つかまえて」は、「harmony ribbon」や「My Graffiti」の多田慎也さんのペンによるミディアムバラード。

水瀬 これは多田さんがこれまでに書いてくれた楽曲とも共通するんですけど、それこそ弱い自分を愛してあげられるような、「今の自分でいいんだよ」って肯定してあげられるような楽曲という印象があって。「大切なものは意外と近くにあって、それに気づける人でありたい」というアルバムのテーマにも沿った曲になりました。私の気持ちやこのアルバムで表現したかったものがふんだんに投影されていて。アルバムの新曲の中で一番最初にレコーディングしたこともあって、リード曲の「glow」を支えてくれるような、アルバムの裏リーダーみたいな曲です。

――優しく寄り添うような気持ちが、歌詞だけでなく歌声からも感じられて。「大切なものはそばにある」という想いは、水瀬さん自身も日常の中でよく感じることなのでしょうか?

水瀬 そうですね。何気なく「行ってきます」と家を出て「ただいま」と帰ってこれること自体に奇跡を感じる瞬間もありますし、家族がいる環境というのは、毎日当たり前だと思って過ごしているけど、すごくかけがえのないコミュニケーションだと思うんです。この曲の歌詞に“いつか忘れていくことばかり”とありますけど、きっと大人になるにつれて忘れていったとしても、そういうコミュニケーションがあったからこそ今の自分になれていると思っていて。だから家族には、どんなときでも「ありがとう」と「ごめんね」を伝えられるような人でありたいし、側にあるものを大切にするこの曲はすごく胸に響きます。

――水瀬さんが作詞した「ココロソマリ」も家族愛をテーマにしたものでしたしね。そして既発曲の「僕らは今」を経て、アルバムの最後を飾るのが表題曲の「glow」。作詞は岩里祐穂さん、作曲は椿山日南子さんになります。

水瀬 こちらはコンペで選ばせていただいた楽曲で、オール女性作家さんでの楽曲制作になったので、レコーディングも終始柔らかい雰囲気で臨めました。椿山さんはディレクションも優雅で、ふわっとしながらもちゃんと芯を伝えてくれる方なんです。サウンドもとても完成度の高いものに仕上げてくださりました。岩里さんの歌詞も、実際に私のライブに足を運んでくださったり、お話をさせていただくなかで吸収してくださった、私の何気ない一部分を感じられる言葉がたくさん並んでいて。この曲でこの歌詞を歌える喜びが溢れた、すごく多幸感溢れるフィナーレになったと思います。

――特に共感できたフレーズはありますか?

水瀬 “願いというドア どれも似ていて いつかという夢 どれとも違う”や“じぶんという謎 持て余しては”のところです。私はこういった活動をしていながらも、将来的なビジョンや「なりたい自分」をまだ見つけられていなくて。別に迷っているわけではないんですけど、「私はどうなっていくんだろう?」って今でも思うし、いわゆるアーティストや声優として一生走りきるぞ!というイメージが沸かない部分も私の中にはあって。そういう気持ちを見透かされているような歌詞で、ドキッとしたんですよね。自分が正解を1つに絞っていないことを、まだ色んな可能性があって、そういう未来を見ていることを、岩里さんはわかったのかなって。でも、そういうことを自分で歌詞に書くのはまだ迷う部分があるので、こうして岩里さんに素敵な言葉で表現してもらって、私自身もまだ見ぬ自分を投影しながら歌うことができました。

――そういったまだ将来のビジョンがはっきりしていないことに対して、焦らなくていいというメッセージも、この歌詞からは感じられます。

水瀬 “私が歩いてる毎日”というフレーズがあるんですけど、自分が歩いてきた道を辿ったときに、あのときは気づけなかった忘れ物や落し物があったり、その道が未来に繋がっていたりして、自分がどんな表現をしたとしても、結局は自分の人生で1つの道を歩くんだな、ということを感じて。それはすごく励みになるし、これから先というものが、「どうしよう?」という迷いではなく、「どうなるんだろう?」っていう楽しみに変わる1曲になりました。その意味では、アーティストとしての私の歌でありつつ、どこか私本人を表している楽曲にも感じていて。アルバムを通して旅行した最後に、やっと辿り着いた「自分らしさ」の在りかみたいなものが、この曲にはあります。

――歌詞の締め括りは“未来に筋書きなんて何もいらない”ですからね。

水瀬 座右の銘にしようかと思うくらい素敵な言葉で。これをスローガンに掲げて生きていきたいくらいです(笑)。

――『glow』というタイトルが象徴する通り、ささやかだけど大切な輝きが詰まったアルバムになりましたね。

水瀬 本当に迷いなくいいアルバムが出来たと言える作品になりました。デビュー当時は自分らしさや自分の好きなものを模索しながら制作していたので、自分の迷いや不安が音楽活動に反映される場面も多々ありましたけど、今回はサウンド面でも自分らしさを追求しながら、歌い方や発声も色々と学ぶことができて。過去のアルバムは結構ガムシャラでちょっとスポ根的な制作だったんですけど、今回はとても落ち着いてそれぞれの楽曲に向き合うことができたので、このアルバムが私の今後のアーティスト活動の基盤や軸になってくれる気がします。

――そんなアルバムを携えて、9月・10月にはライブツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow”が開催されます。

水瀬 この3年間、ライブを行わせていただくことも当たり前ではないことを本当に痛感して。改めて、今年のツアーは皆さんに感謝を伝えるのはもちろんですけど、私自身が楽しむことを念頭に置いて、その楽しんでいる姿をみんなに見てほしいなと思っています。『glow』がより親しみやすさを感じられるアルバムになったぶん、私もライブで親しみやすさを感じてほしいですし、チームがまた揃う温かさみたいなものを表現できればと思うので、ぜひ皆さんもペンライトの光でいっぱい“輝き”を表現していただけたらと思います!

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)


●リリース情報
『glow』
発売中

■mora
通常/配信リンクはこちら

【初回限定盤 (CD+BD)】

品番:KICS-94059
価格:¥3,960(税込)
初回限定盤特典:特製BOX、別冊フォトブック
封入特典:特製トレカ

【通常盤 (CD)】

品番:KICS-4059
価格:¥3,300(税込)
初回封入特典:特製トレカ

<CD>
01. sunrise glow(overture)
作曲・編曲:eba
02. 僕らだけの鼓動
作詞・作曲:田淵智也 編曲:eba
03. We Are The Music
作詞・作曲・編曲:TAKU INOUE
04. 風色Letter
作詞:磯谷佳江 作曲・編曲:新田目 駿
05. Starlight Museum
作詞:櫻澤ヒカル・水瀬いのり 作曲・編曲:櫻澤ヒカル
06. Melty night
作詞:hAck-Ø. 作曲・編曲:KOUGA
07. ココロソマリ
作詞:水瀬いのり 作曲:櫻澤ヒカル 編曲:白戸佑輔
08. 八月のスーベニア
作詞・作曲・編曲:藤永龍太郎(Elements Garden)
09. HELLO HORIZON
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:白戸佑輔
10. REAL-EYES
作詞:RUCCA 作曲・編曲:藤間 仁(Elements Garden)
11. パレオトピア
作詞・作曲・編曲:栁舘周平
12. 心つかまえて
作詞・作曲:多田慎也 編曲:島田 尚
13. 僕らは今
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:藤永龍太郎(Elements Garden)
14. glow
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:椿山日南子

<BD>
MUSIC VIDEO
01. ココロソマリ
02. 僕らは今
03. Starlight Museum
04. HELLO HORIZON
05. REAL-EYES
06. glow

●ライブ情報
「Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow」
9月3日(土)【兵庫】神戸国際会館こくさいホール
9月10日(土)【愛知】名古屋国際会議場センチュリーホール
9月17日(土)【宮城】仙台サンプラザホール
9月24日(土)【福岡】福岡サンパレス ホテル&ホール
10月1日(土)【神奈川】横浜アリーナ

チケット料金
指定席 ¥8,800 (税込)
※チケット販売の詳細は公式サイトをご確認ください

関連リンク

水瀬いのりオフィシャルサイト
http://inoriminase.com/

水瀬いのりオフィシャルTwitter
https://twitter.com/inoriminase

水瀬いのりオフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYBwKaLwCGY7k3auR_FLanA

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