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INTERVIEW

2022.07.21

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 第2回:音楽プロデューサー・山内真治×伊藤 翼×青木征洋(ViViX)×菊池亮太×氏原ワタル(DOES)

【連載】アニソン制作の実情を語る!『くノ一ツバキの胸の内』EDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』スペシャル座談会 第2回:音楽プロデューサー・山内真治×伊藤 翼×青木征洋(ViViX)×菊池亮太×氏原ワタル(DOES)

欅坂46「世界には愛しかない」をはじめ、数々のヒット曲で知られる作曲家・白戸佑輔がゼネラルエグゼクティブクリエイティブプロデューサー(GECP=音楽制作総指揮)を務め、日本の音楽シーンの第一線で活躍中のクリエイターたちが集まった『くノ一ツバキの胸の内』のEDテーマプロジェクト『くノ一ツバキの音合わせ』。そのビッグプロジェクトの裏側に迫る企画連載シリーズの第2回目に集ってもらった、第5話~第8話の参加クリエイターは、プレイヤーとしての一面を持つ人が多数。前回とはまた違った視点から、アレンジの奥深さに迫る!

■第1回はこちら
音楽・白戸佑輔×音楽プロデューサー・山内真治、西田圭稀×鈴木Daichi秀行×椿山日南子×ha-j

90秒に込められた“らしさ全開”のアレンジ

――ではまず、第5話から第8話まで順番にそれぞれの楽曲について掘り下げさせてください。第5話は伊藤 翼さんの担当回ですね。

青木征洋(ViViX) 色んな楽器が鳴ってるアレンジなんですけど、全部いっぺんに鳴ると、当然ごちゃっとしてどの楽器の個性も活きなかったりするんです。でも伊藤さんはすごく隙間作りが上手くて、ちゃんと1個1個の音がクリアに聴こえる。そんなアレンジの上手さが90秒に押し寄せてくる感じのアレンジだったなと感じてます。

伊藤 翼 恐縮です。音数を多く使うのが自分の編曲のカラーなんですけど、結構ミックスのエンジニアさんからも「割と何もしなくてもお互いの音がちゃんと聴こえてくるアレンジだね」と褒められることが多いんですよ(笑)。

菊池亮太 良い意味で変態的なアレンジですよね。本当に、細かいギミックが聴けば聴くほど散りばめられていることに気づく。一聴して「やっぱりすごいな」と。Aメロのあのトリッキーな感じのメロディだったり、アレンジ。そこからBメロに落ち着いたときの安心感。トリッキーな入りであるがゆえに際立つ感じがして、その展開に全然違和感がない。その緻密さ、とにかく素晴らしいなと思いました。正直なところ、もう何がどうなってるのか、細かくはわからなかったですよ(笑)。

伊藤 yamazoさんにも、白戸(佑輔)さんにも言われたんですよね。「イントロの拍子の取り方がわからない」って。

青木 あー、そうだね。たしかにわからない。

伊藤 でも僕としては、「絶対これでしかない」と感じながらやってたアレンジなんです。

――伊藤さんとしてはナチュラルな感覚だったと。

伊藤 そうですね(笑)。変な拍子は好きなので。

氏原ワタル(DOES) 俺はもう率直に、ぱっと聴いた瞬間に「かわいいな!」って思いましたね。俺には絶対できねえアレンジだな、みたいな。丑班の子たちのかわいらしさを、音楽として自分の持ち味で作り上げてらっしゃるな……みたいな感じで聴きました。

――今日お集まりいただいた4人の中だと、一番「かわいい」感じをガツンと表現されているのは伊藤さんのアレンジですよね。ほかの皆さんは良い意味で若干変化球を投げているというか、かっこいいアレンジで。氏原さんのお話を受けて、今気づきました。

伊藤 たしかにそうですね。やっぱり僕もかわいい女の子が出てくるアニメが昔から好きで、その音楽を書きたくてアニソン作家になったところがあるので(笑)。

氏原 すごくファンタジーで「良いな!」って思います。

伊藤 ありがとうございます。やっぱり丑班のキャラクター的にも、なるべくキャラクターを甘やかしたい気持ちもありまして。

伊藤 翼

伊藤 翼

――丑班はアジサイをシオン、スズランの2人が甘やかしている班ですものね。ほかに伊藤さんがこだわられた点は?

伊藤 セクションごとにジャンルがころころ変わるのがこのアレンジの持ち味かなと思っています。あと、AメロとBメロには最近流行りのフューチャーベース的な要素が入っていたりするんです。トラップ系のトラックに、かわいい系のシンセが入ってる。そこの部分のに入ってる鼓の効果音は、最初は人の声だったんですよね。フューチャーベースでよく使われるような、ちょっとフォルマントの効いた、(『キテレツ大百科』の)コロ助みたいな声を入れていました(笑)。でも白戸さん、山内(真治)さんとやり取りをしていて、ちょっとどうかな……と感じまして。和風な音……鼓か拍子木の二択で、どちらかを入れようかと考え、お二人にも聴いてもらって、最終的に鼓になりました。

――ちなみに山内さんからのそもそものオーダーはどんな感じだったんですか?

山内真治(アニプレックス・音楽プロデューサー) 「かわいい感じでお願いします」と、皆さんへ共通の「らしさ全開でお願いします」というオーダーをしましたね。特に翼さんには、細かにあれこれ言うよりも、「らしさ全開でお願いします」が一番伝わるんだろうなと思ったんです。白戸さんも、「翼くんはそれでいんじゃないですか?」みたいな感じ(笑)。

伊藤 「自由にやらせたほうがいいぜ」みたいな感じで見てもらえたってことですね。嬉しいです。

山内 もしくは「あれこれ言っても言うことを聞かない」と思ってるかのどっちか(笑)。

伊藤 あはははは!「こいつは、やれることしかやれないぞ」と。

山内 うん。でもその発注に対して、120%の力でちゃんと打ち返してきてくれたうえで、鼓がいいのか、拍子木がいいのか、細かく確認が入る。ざっくりとした感じでやるところと、きめ細かなやり取りをするところ、両方の意味ですごく良いコミュニケーションができた結果、良いアレンジをしていただけたのかなと思います。

伊藤 嬉しいお言葉!

ロックの良さとポップの良さの両方を併せ持ったアレンジ

――では第6話の青木さんに。立て続けになってしまって恐縮ですが、伊藤さん、青木さんのアレンジはどうでしたか?

伊藤 率直に言って、青木さんらしさ全開ですよね。普段から青木さんの活動をTwitterやYouTubeの動画などで拝見していたので、そのサウンドがアニメのエンディングとして流れることに興奮しました。

――あのGodspeedがアニメで流れるのか!と。

伊藤 まさにそうです。あのGodspeedが!ですよ。

青木 オンエアされるまで僕自身もずっと「本当に?」と疑問に思ってました(笑)。

伊藤 そして実際に流れているのを聴いたら、やっぱりかっこ良かったですね。

菊池 本当に、一言で表現するなら「かっこいい」ですよね。王道というか、ストレート。僕、ニコニコ動画世代なんですよ。どういうことかというと、自分が知っている曲がバンドアレンジされたときの感動みたいなものを、よく知っている世代。ギターがガーッ!と入って、原曲よりも派手な感じになったときのあの感動が蘇るような想いを、青木さんのアレンジを聴いて感じました。懐かしさだけじゃないんだけど、それも込みですごく感動しましたね。本当にギターという楽器のかっこ良さが際立っている。僕がピアニストなこともあって、自分にできないことをやっている、憧れるアレンジでした。

青木 多分、お互いにまったく同じ憧れを抱き合っているんじゃないですか。僕は「ピアノ弾ける人いいな~」って、菊池さんのアレンジを聴いて思いましたから。

菊池 いやー、でも、僕のほうが憧れは強いと思う。ギタリストに対して憧れる要素のすべてが詰まってるんですよ、青木さんのアレンジ。たまらないです。

青木 ありがとうございます(笑)。

――弦の人は鍵盤に憧れ、鍵盤の人は弦に憧れる。アレンジャーにはそういうところがあるんですね。

青木 ありますね。

菊池 特にギターとピアノは対照的な楽器なんですよね。

伊藤 どちらもコードを担当しているけど……。

菊池 それぞれに良さがある。

氏原 いや、でも本当に「ギターうめぇなー」って。

青木 ありがとうございます(笑)。

氏原 僕もギター主体のアレンジなんで、「やべー、かぶった」みたいな感じは思いましたね。聴いた瞬間に。そしてすぐ、「青木さんのほうがうめぇなー、どうしよう」みたいなね。

青木 いやいやいや!

氏原 何食ってたらこんなに上手く弾けるんだろうな?って。上手いギタリストは敵なんですよ(笑)。

青木 いやー、わかります、その感覚。

氏原 なんか悔しくなるよね。

――スタイル的には氏原さんはオルタナ寄り、青木さんはメタル寄りのプレイヤーですよね。

氏原 そうですね。青木さんはテクニックとして卓越なことができることをフルに活かした緻密なアレンジをしていて、でもそれでいて、突き抜けるようなかっこ良さは失っていない。ロックの良さとポップの良さの両方を併せ持った、アニメーションに合致するアレンジだなと思って聴いていました。

――では改めて青木さんご本人のコメントを伺いたいです。

青木 恐らく僕だけが、公衆の面前でリテイクをいただいてるんですよね(笑)。

山内 そうですね。

青木 制作期間中にTwitterのスペース機能を使って、作家のみんなで集まって座談会的なことをやったときに、「じゃあ、せっかくの機会だからここでリテイクを出してみましょう」みたいな流れになって、僕だけがリテイクをそこでいただいて。トップバッターだと思ったら、誰も続かなかったという……(笑)。

伊藤 そうでしたね(笑)。

青木 まあ、「これはおいしい展開だと思ったほうがいいな」みたいな感じだったんですけどね。実際、めちゃくちゃおいしかったですし。ともあれ、そこで言われたのが、「まだ足りない」だったんですよね。僕は普段BGMを作る仕事のほうが多くて、要はそれって、フックだったり、ギミックだったりを入れたら入れたぶんだけそこが目立ってしまい、NGを食らう仕事なんです。だから無意識的に、どうしても無難な丸いアレンジにしてしまおうとする。そこを見抜かれて、「もっとちゃんとアクセルを踏みなさい」とリテイクをいただいたので、「よし!」みたいな感じで、気持ちを切り替えた結果が、完成したものです。

――具体的にどの辺りを直されたんですか?

青木 主にサビの部分の、ずっと16分音符を後ろで弾いているところです。リテイクをいただけたおかげで生まれた、狂気のアレンジですね。ぜひサビの後ろでギターがずっと動いてるのを、注目して聴いてほしいです。

――あのめちゃくちゃインパクトあるアレンジは、リテイクの影響なんですね(笑)。

青木 はい。最初は大人しくパワーコードをかき鳴らしていたんですよ。そうしたら「遠慮しちゃダメだよ」と。

青木征洋(ViViX)

青木征洋(ViViX)

――リテイクはどなたから?

山内 僕です。スペースで、「初めまして」と言ってから1時間も経たないうちに、公開リテイクという無茶なことをしてしまいました。すみませんでした……。

青木 いやいや。

山内 でもあれですよ。「くノ一ツバキの音合わせ」に関して言うと、基本的にはアレンジとは引き算の妙、というのを上手く出すのがプロの技の見せどころかなと思っていたんです。でも、思い返してみれば、足し算を要求したプロジェクトだったなと。その第1弾が青木さんだったなと思います。やはりGodspeedという二つ名がある以上、十分に出していただきたかった。元のアレンジでも出てはいたんですけど、「もう鞘にしまっちゃうんですか?刀。」みたいな感じだったので、公衆の面前でなんでしたが、リテイクさせてもらいました。

――リテイクでも「抑えて」じゃなくて「やっちゃっていいよ」なら、やり直しでも嬉しかったんじゃないですか?

青木 燃えましたね。「よし、音を詰め込むぞ!」みたいな。「いつものやつで本当にいいんですね?」みたいな(笑)。

次ページ:計算のうえ構築されたこだわりの「仕掛け」

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